第15話 ボス誕生
第15話 ボス誕生
二十匹のグリフォンがずらりと並んで伏せをしている。
上目遣いにクロエを見ているのがちょっと可愛い。
(グリフォン……やっぱり犬っぽい……)
何も言わずに見下ろしていると、先ほどから懐いていたグリフォンが立ち上がってクロエに近づいた。褒めてほしい、という目で見ている。
「……仲間を紹介してくれるのかしら?」
「クゥ」
グリフォンが立ち上がり、うなずいた。
その光景を見た村人たちから「おおお」というどよめきが広がる。
ミーリアは隣にいる村長ポポの袖を引いた。
「グリフォンの生態ってこうなんですか?」
「群れのボスが代替わりするとき、グリフォンが勢揃いするのです。クロエさまが群れのボスとなるわけですな。人間のボスは初めてでございますぞ!」
村長はえらく興奮している。
その説明を聞いていたのか、クロエがグリフォンの頭を撫でた。
「私が群れのボスに……なるのかしら?」
「クゥ」
「あなたよりも強いから?」
「クゥ。クゥ」
グリフォンが二度うなずき、クロエの腰に顔をすりつける。その光景をじっと見ているグリフォンたちはひれ伏したままだ。
「な、なんと……。クロエさまは歴代最強グリフォンであるヒポヌスよりもお強いと?」
村長が今にも五体投地しそうな勢いで戦慄している。
どうやらクロエに懐いているグリフォンは群れで最強の個体らしく、名前はヒポヌスと言うようだ。
クロエが苦笑いして首を振った。
「ミーリア男爵にかけてもらった防護魔法のおかげですわ。私自身は何の力もない小娘でございます」
「そ、そうなのですか! 魔法使い領主様はそんな素晴らしいこともおできになるのですな!」
「ええ、ええ。我が妹ミーリアは可愛くて愛らしくて魔法も天才的で歴史に残る最強最高の魔法使いにして領主になるに違いありませんので崇め奉るのがよろしいかと思いますわ。村の中央に大きなミーリアの像を彫るのがよろしいかと。あとで木の選定をしてくださいませ」
「お姉ちゃん、変にハードルを上げないで……」
クロエの身内自慢に小っ恥ずかしくなるミーリア。
村長は感心しながらも、クロエにべったりしているヒポヌスを見て腕を組む。
「ふむ。クロエさまに魔力がないことをヒポヌスもわかっているでしょう。ですが、魔法使いであるミーリアさまを従えていると思い込んでいるようですな。さらには、クロエさまの風格を認め、群れのボスにふさわしいと第六感で感じている……そう解釈するのが妥当か……」
禿げた額をぴしゃぴしゃたたきながら、熟考を始める村長。
(なでなでが気持ちいいからにしか見えない件……)
一方、ミーリアの目には、くるくると鳴いてクロエに撫でられているヒポヌスが、クロエプロの“なでなで”に屈服しているようにしか見えなかった。
クロエは持ち前の洞察力から気持ちいいポイントを見抜き、ヒポヌスの額を撫で、首を撫で、翼の付け根を撫でと、変幻自在に手を動かしている。しかも当たり前のように、自然に手が動いていた。涼しいお顔である。
「クゥ」
クロエが撫でるのをやめると、ヒポヌスがしゅんと顔を伏せる。
やはり大型犬にしか見えなかった。
(撫でただけで群れを制圧するお姉ちゃん……強い)
ひれ伏していたグリフォンがいつの間にか列を作っていた。
クロエが撫でると、気持ちよさそうに鳴いて次の個体へと場所を譲る。場はクロエプロの握手会の様相を呈している。
とりあえず村長が勘違いしているのは訂正しないでおいた。説明が面倒くさい。
○
その後、村長と博識な村人と村を回って、グリフォンの生態を実際に見ることにした。
グリフォンは魔法で土を操り、家を作るらしく、半球のドームが村のはずれにいくつか点在していた。清潔好きであるようで、村人が掃除をすると喜ぶらしい。
基本的にはプライドが高く、人間を背中に乗せることはほとんどないそうだ。
子どもなど、無垢な存在には身体を触らせることがあるらしい。
知能は相当高いようで、人間の言葉を勝手に理解し、はちみつを要求してくる量もその土地の取れ高を考慮して打診してくるようだ。
(ほぼ人間じゃん……。てかさ、はちみつを増産してそっちも特産品にすれば一石二鳥じゃない? なんなら防衛力として家の近くに住んでもらうのがいいかも。クロエお姉ちゃんとかジャスミン姉さまの安全を考えたらそれがいいよね)
グリフォンはヒポヌスを入れて成体が三十体。
幼体が六体ほどいる。
(言葉が通じるなら、輸送便を手伝うお礼として美味しいお菓子をあげる契約をすればいいじゃん。うん)
先ほど、魔法袋からクッキーを出したら秒でかっさらわれた。
グリフォンはかなりの甘味好きである。
(飼育というか、環境を整えたらもっと増えないかな?)
ミーリアの脳内にはグリフォンに乗ったクロエが、配達を指揮する光景が浮かぶ。
グリフォン移住計画。
いいアイデアに思えてきた。
姉のためとなると行動が早いミーリアである。
早速、前を歩いてクロエに色々と解説をしている村長の袖を引いた。
「村長。村ごと移転するのはどうですか?」
「どういうことですかな?」
村長が足を止めて振り返った。
クロエはグリフォンの住処を見て、村人の女性と何かを話し込んでいるため背を向けている。
「ハンセン男爵から逃げてるなら、全員でアトウッド領の中心部に引っ越ししましょうよ。めちゃくちゃ遠いので変態も手が出せませんよ。あ、ここからずっと北にあります」
「……ご提案はありがたいのですが……慣れ親しんだ家もありますし……、増やしたミツバチなどを輸送するのは一苦労です。それに魔の森を抜けるのは危険でございます」
「魔法でどうにかしますよ」
「そう言われましても……」
あっけらかんとしているミーリアを見て、村長が言葉に詰まる。
飄々としている小さな魔法使いに、そんな力があるのか信じられない。胸についている 龍撃章 ( ドラゴンスレイヤー ) は本物であろうが、ミーリアの姿と魔法がいまいち結びつかなかった。
「村長の家、収納してみましょうか?」
「は、はい? どういうことでしょうか?」
「今って家に誰かいます?」
「皆、集会所で宴の準備をして出払っておりますけれども……」
「じゃあ、ちょっと見ててください」
実演したほうが説得も早いだろうと、ミーリアは村長を連れて家に戻り、両目に魔力を込めた。
(魔力循環――透視魔法――ふむふむ、家の下を一メートルくらい切り離せばいけるかな)
「ちょっと家を浮かせますね」
「ミーリアさま……?」
よくわからず困惑する村長。
ミーリアは透視魔法をオンにしたまま魔力をさらに練り、重力魔法を家から一メートル下の地面を狙って放つ。
イメージで言うと、重力魔法で地面ごと家を引っ剥がす形だ。
(重力魔法……あ、こんなに魔力いらないか……もうちょい弱めで……)
ミーリアが右手を家にかざし、ぐっと上へ持ち上げる仕草をした。
――ボゴォン!
巨大な岩が落ちて地面にぶつかったような音が響き、村長の家が地面ごと浮いた。
ぱらぱらと砂が落ちる。
「なっ……家が……う、う、浮いてる……」
村長ポポは開いた口が塞がらない。
村で一番大きな自分の家がおもちゃのごとく宙に浮いていた。マイハウス浮遊事件である。村長は夢じゃないかと袖で目をこすった。
「魔法袋ちゃーん」
ミーリアがお気楽な調子で言うと、村長の家が魔法袋へと吸い込まれて一瞬で消えた。
物理現象を完全に無視した光景に今度は顎が外れそうになった。
「……消えた……」
「こんな感じで家を全部収納しますよ。建てるのも大変ですからね。あ、村人さんたちは魔法で送りますから危険はないですよ」
「…………」
村長はにかりと笑うミーリアを見てとんでもない魔法使いが領主になったと思い、絶対怒らせてはいけないと、村人に言いつけることを心に誓った。