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第18話 ジャスミンとお茶

転生七女ではじめる異世界ライフ 〜万能魔力があれば貴族社会も余裕で生きられると聞いたのですが?!〜 — kakuyomu.jp · All chapters

第18話 ジャスミンとお茶

ミーリアはダレリアス家の客間に通された。

ジャスミンが楽しそうにお茶の準備をしている。

(目が良くなって、ホント幸せそうだよ。治ってよかった)

「今日も良い天気ね。白い雲が青天に浮いているのがとても美しいわ。見て、あの雲、ちょっとミーリアみたい」

うふふと笑い、窓の外をジャスミンが見る。

深窓の令嬢と言う表現がしっくり来るジャスミンが幸せそうに笑うと、胸があたたかくなった。

「そうだねぇ〜。私にはまんじゅうに見えるよぉ〜」

デレデレと相好を崩し、ミーリアが言う。

「やだミーリアったら。食いしん坊さんなんだから」

「そうなんです。私、食いしん坊さんなんです」

でへでへ笑いつつ胸を張ると、ジャスミンがくすくすと笑った。

細くて白い手が伸び、音を立てずにジャスミンが紅茶の入ったカップをミーリアの前に置いた。

ほんのりと湯気が上がる。

ジャスミンが自分の分の紅茶も入れ、向かいのソファに座った。

ミーリアを見てにこりと笑う。

ジャスミンはクロエと違い、目はそこまで大きくないが、優しげに垂れているので、笑顔がよく似合う。

「そういえば、メイドさんはいないの?」

ジャスミンが給仕をしているので少し気になった。

「ミーリアの新領地開拓に参加すると発表してから、お客様がたくさん来るの」

「へえ。儲け話に食いついてる感じかな」

「忙しいけれど、皆さん嬉しそうだわ。私がミーリアにお茶を淹れてあげたかったから、ちょうどよかったかも」

「私が来たのは内緒にしておいて。申し訳ないからさ」

ミーリアが来たと言えば、ダレリアス家の人間はすべてを放り出して、ミーリアを接待したがる。

「そう言うと思って、誰にも言っていないわよ」

ジャスミンがのほほんと紅茶を飲む。

ミーリアもカップを取り、紅茶をすすった。

(美味しい。フルーティーな香りがする。マスカットが入ってるのかな?)

さすがは数々の料理人を排出する、料理が得意なダレリアス家である。

紅茶一つにしても手が込んでいた。

「ミーリア、よかったら試作品を食べてみる?」

「え? え? 試作品?」

「カカオという実が発見されてね、料理を習いながら、私なりに食べやすくしてみたんだけど……」

そう言いながら、ジャスミンが茶色くて丸い物体を皿に乗せ、出した。

(これはァッ!? チョッコレーツッッッ!!!!!)

「ちょちょちょ、チョコじゃん! チョコ! チョコ!」

王都の菓子屋でも見つけることのできなかったまぼろしの甘味、チョコである。

早くもチョコの甘さを脳内で再現し、よだれが口の中で出てくるミーリア。

「チョコ? ミーリアは知っているの?」

「あ〜、うん。ちょこっと知ってます。あ、ギャグじゃないです」

「ミーリアは物知りなのね。じゃあこのチョコ、ちょこっと食べてみてくれない?」

頬を赤くして、ジャスミンが恥ずかしそうに言う。

「ジャスミン姉さまぁ、姉さまぁ」

(清楚系女子のオヤジギャグ……米三杯食べれますわ)

ミーリアがオヤジくさく、肘でつつくような仕草をすると、向かいに座るジャスミンがさらに頬を赤くした。

「私もミーリアみたいにユーモアがほしいと思って……」

「いいと思いまぁす!」

「そ、そう? これから頑張ってみようかしら」

「最初は私に言ってね? ね?」

「わかったわ」

ジャスミンが小さくうなずいたのを見て、ミーリアはチョコを口に運んだ。

(甘さひかえめビターな味……ああ、チョコ……いい……チョコ……いい……)

若干、トリップ状態になるミーリア。

ジャスミンが嬉しそうに笑う。

その後、カカオの実がどこに群生しているのかを聞き出し、ダレリアス家とアトウッド家の共同で量産できたらいいな、という話をした。

ジャスミンが婚約者に伝えてくれるそうだ。

(チョコ、ちょこっとじゃなくて大量に食べたい)

己の欲望のままに行動しているが、ミーリアはこのせいでさらなる雇用が生まれ、領地に移住してくる人間が増えることに気づいていない。

しばらく世間話をし、ついでに防護のためにアンチマジックバーストをジャスミンにかけ、本題の米の話に移った。

「ゴンゾーさんは今どの辺にいるかな?」

ゴンゾーとは、ダレリアス家の料理人だ。

ゴヌドゥという名前なのだが、呼びにくいのでミーリアが勝手にあだ名をつけた次第である。

「王家直轄領を抜けたところだと思うわ。道すがら商談をすると言っていたから。昨日、執事さんが話していたの」

「じゃあ――」

ミーリアは魔法袋から地図を取り出し、スキャン魔法を使い、空中に地図を投影した。

ジャスミンが驚いている。

「この辺かな?」

ミーリアが立ち上がり、投影された地図を拡大する。

(近くまで転移して飛べばすぐかな)

場所に目星をつけて、記憶し、地図の映像を切った。

「じゃあ私、ゴンゾーさんのところに行ってくるね」

「魔法で行くの?」

「うん」

「ミーリアは魔法が使えて本当にすごいわねぇ。気をつけてね」

爽やかな笑みを向けてくれるジャスミン。

「はぁい!」

良い返事をしてソファから立ち上がり、客間から出ようとする。

そこで、ふと思い出した。

「あ、カカオに詳しい人って雇えないか聞いておいてくれないかな? 金貨置いておくね」

ミーリアは魔法袋から金貨百枚――日本円換算で一千万円をぽんと出してテーブルに置いた。

「ミーリア、お金はこれ以上受け取れないわ」

「じゃあジャスミンお姉ちゃんの婚約祝いということで」

「あ、ミーリア!」

逃げるように部屋を出て、そのままミーリアは転移魔法を使った。

○

王都上空に転移し、コンパス魔法で方角を確認する。

目指すは米を探す料理人ゴンゾーだ。

(街道沿いに飛べば見つけられるかな?)

高度を落とし、自動操縦に切り替え、遠見魔法で街道を拡大して見ながら進んでいく。

王都から北に伸びる大街道はまっすぐに続いている。

行き交う多くは商品を積んだ荷馬車で、ガラガラという音が上空にもかすかに聞こえてくる。

徒歩で王都に向かう行商人。

走っている飛脚なんかもいた。

お目当ては馬に乗った旅人である。

(それっぽい人たちは……)

三十分ほど進むと、ダレリアス家の家紋つきのカバンを持った二人組を発見した。

(発見! 着陸!)

一気に高度を落とし、彼らの前に着地する。

二人があわてて馬を止め、何事かと警戒態勢を取り、ミーリアだとわかって肩の力を抜いた。

「ミーリア男爵ではありませんか。驚きましたぞ」

渋みのある声でゴンゾーがつぶやいた。

白髪まじりで短髪、四十代の男だ。仕事は必ず遂行するといった雰囲気を持つ、いぶし銀な中年である。ねじりはちまきが似合いそうであった。

「どうもどうもゴンゾーさん! 心配になって様子を見にきました!」

ミーリアが馬に近づくと、ゴンゾーと付き人が馬から下りて、深く一礼した。

「お忙しいところ感謝いたします」

「いえいえ! 頭を上げてください。私が勝手に来ただけですから」

「コメ捜索のご依頼、必ずや成し遂げてみせます」

ゴンゾーが渋みのある声でさらに一礼する。

ミーリアは困って頭をかいた。

「私はただ魔法が使える小娘ですよ。顔を上げてください。本当に」

「では失礼して」

ゴンゾーが顔を上げる。

立ち話もなんだからということで、街道のわきにそれ、魔法袋からテーブルと椅子を出して、マテという実から抽出したお茶を提供した。

ゴンゾーと付き人がありがたそうに飲んだ。

旅の途中であたたかい飲料を飲むのは、結構手間がかかる。

「あ、和風醤油味そぼろサンド食べます?」

ミーリアがいつもの調子で、そぼろの入ったサンドウィッチを出した。

料理人のゴンゾーがしげしげと和風醤油味そぼろサンドを眺める。

「ダボラのお肉で作ってるので美味しいですよ」

その言葉にゴンゾーがぎょっとした。

「怪鳥ダボラの肉ですか?」

「はい。空を飛んでるといちいち攻撃してくるので面倒なんですよ」

「逃げるのが大変なのですな」

「退治するのが面倒ですね。大して強くはないです」

「そ、そうですか……」

ゴンゾーは娘よりも小さいミーリアを見て、魔法使いの実力に年齢は関係ないという誰かの言葉を思い出した。

ミーリアはゴンゾーたちに和風醤油味そぼろサンドを振る舞ったあと、気になっていたことを聞くことにした。

「どれくらいで米は見つかりそうですか?」

つい声が大きくなってしまう。

(おにぎり、寿司、親子丼……米があれば世界は無限大だよ)

しかし、ゴンゾーの言葉を聞いて愕然としてしまった。

「故郷の村までは二週間ほどかかります。そこから記憶をたどって、コメを栽培していた村を探すので……最低でも一ヶ月半はかかるかと思います」

「そんなにかかるんですか?」

これにはショックを受けるミーリア。

「わかりました。では、早く村にたどり着けるように、ブーストをかけておきます」

「ぶーすと?」

ゴンゾーの疑問をよそに、ミーリアは馬に魔法をかけた。

(身体強化――継続走行能力向上――風圧保護――座面クッション――落馬防止――)

ビカビカと馬が光り輝き、ひひんと鳴く。

光が収まると、若干イケメンな顔つきになった馬が登場した。

いつでもいけるぜ、という目をゴンゾーたちに向けている。

「これで結構早く走れるようになりました。あとは――」

魔法袋から魔石を取り出し、軽く爆裂火炎魔法をこめておく。

「ゴンゾーさん、手を出してください」

「承知いたしました」

驚愕しつつも、どうにかゴンゾーが手を差し出す。

「投げて“起爆”と叫ぶと爆発する魔石です。盗賊とか魔物が出たら使ってください」

「……こんな高価なもの、いいのですか?」

「米が何よりも大事です」

「わかりました。では、護身用として大切に携帯いたします」

「一個じゃ不安ですね……」

ミーリアはそう言って、もう三つほど爆裂火炎魔法を込めた魔石を渡した。

「ミーリア男爵、威力はどれほどでしょうか?」

「大きな岩が吹っ飛ぶぐらいですね」

ゴンゾーが小さな魔石を見て、ごくりとツバを飲み込んだ。

魔石はあやしく紅蓮色に鈍い光を放っている。

「では、また様子を見に来ますね。頑張ってください!」

これで大丈夫だろうとミーリアは立ち上がり、椅子とテーブルを回収した。

ゴンゾーに礼を言われて、空へと飛び上がる。

(本当は私が二人を運びたいんだけど、クロエお姉ちゃんにあまり干渉しすぎるのもよくないって言われたからなぁ……。まあ、ダレリアス家の体裁もあるよね)

念のため、ゴンゾーの持っているカバンにGPS魔法をくっつけておく。

(これでいつでも居場所がわかるね)

ゴンゾーたちが馬に乗り、こちらに手を振った。

「気をつけて〜!」

手を振り返すと、眼下にいるゴンゾーたちが、馬を走らせた。

すると、とんでもない速さで街道の奥へと消えていった。

「あああああぁぁあああぁぁぁっ、速すぎるぅぅぅうぅぅぅうぅぅ!」

という声が聞こえた気がした。

(……うん……止まろうと思えば止まれるから大丈夫……落馬防止もつけたし!)

ドライアドの魔力を取り込んでから、いまいち魔法の威力に加減がつけられなくなっている。だが、済んでしまったことは仕方がない。

ミーリアはゴンゾー氏にエールを送り、ティターニアの家へと転移した。