第22話 ミーリアです……今、あなたの心に直接……
第22話 ミーリアです……今、あなたの心に直接……
ミーリアはクロエを重力魔法で浮かせたまま、千里眼を使い、眼下にあるアトウッド家の窓を覗き込んだ。
(えーっと、確かボニー姉さまの部屋は、二階の右から二番目だっけ)
夕食が終わってから一時間ほど経っており、就寝の準備をしているのか、部屋には誰もいない。ろうそくは高価なため、部屋は薄暗くて何も見えない。
「ミーリア、ボニー姉さまはいる?」
クロエに聞かれて、ミーリアは首を振った。
「今はいないみたい」
「この時間はお風呂場で身体を拭いているかもしれないわね」
薪は貴重なので、アトウッド家では特別な日以外は風呂に入れない。夏場は行水、寒い時期はお湯で身体を拭くだけだ。ちなみにミーリアは一度もお湯をもらえなかった。
「ちょっと待とうか。空飛ぶ絨毯を出すね」
(空飛ぶ絨毯って言っても浮かせてるの私だけどね)
「ええ」
ミーリアは魔法袋から絨毯を出し、重力魔法で浮かせて自分たちの足元へ移動させる。
クロエをゆっくりと絨毯の上に下ろして、落ちないよう防護魔法もかけ、しばらく様子を見ながらボニーが部屋に来るのを待つことにした。クロエも映像が見えるように、千里眼魔法をモニターの要領で空中に出力してみると、うまくいった。
(これなら千里眼をドローンみたいに飛ばしながら、モニターで見ることもできそうだね。みんなで見るときはいいかもしれない)
膨大な魔力と想像力があれば、大体のことは実現可能だ。
「ミーリア……これは他の人に見せちゃだめな魔法よ。どこでも覗けて他の人にも見せれるなんて、危険人物認定されてしまうわ。特に王族には絶対見せないほうがいいわね」
クロエが心配そうに言う。
確かにそうかもしれないとミーリアも思い、「わかったよ!」とうなずいた。
気を取り直して魔法袋からぶどうゼリーを出し、クロエにもあげて、監視カメラ感覚でモニターを見ながらボニーの到着を待った。
三十分ほどすると、ボニーと婿養子アレックスの寝室の扉が開いた。
「お姉ちゃん、ホシが入ってきたよ」
「ホシ?」
「あっ、アレックスも一緒だ。どうしよう……」
空中に出力した映像には、アレックスとボニーが映っている。
ボニーの手には、獣油で作られたロウソクが乗った、取っ手付きの焼き物があり、ロウソクには小さな火が灯っていた。暗かった部屋がぼんやりと明るくなる。
(あのロウソク、結構臭いんだよね)
ボニーもミーリアと同じことを思っているのか、窓を開けた。
映像越しに目が合ってどきりとしたが、向こうはこちらが見えていないので、心を落ち着けるためにふうと一つ息を吐いた。
「あの男の顔、久々に見たわ」
クロエが赤毛でそばかす顔のアレックスを見て、顔をしかめる。
「あー……キモいよね」
「そうね」
二人は何度かセクハラ被害にあっているので、互いに顔を見合わせて身を寄せ合った。クロエがミーリアの腰に手を回し、ぎゅっと強く引き寄せてくれる。クロエのぬくもりを感じて肩に入っていた力が抜けた。
「何を話しているのかしら?」
「ちょっと待ってね。よっと」
音声魔法を飛ばして入力にすると、二人の声が映像から聞こえてきた。
『最近、お義母さまが口うるさくてしょうがない。おまえが小麦を育てるなんて余計なこと言ったからだろ』
アレックスが偉そうな態度でベッドに寝転がり、口を尖らす。
普段のへらへらした顔とは違い、妙に尊大な印象を受けた。
(あれがあいつの素なのかな?)
『ロビン姉さまが借金を作ったせいでしょう』
ボニーが硬い声で言いながら、ロウソクを窓際のテーブルに置き、クロエと似た黒髪に櫛を通し始めた。ボニーの黒髪は背中まで伸び、途中から緩やかにウエーブしている。
『あなたも何か考えてちょうだい。このままでは借金返済できずにアトウッド家は取り潰しよ』
『学院を卒業したらミーリアちゃんが戻ってくるだろ。おまえが説得して金を出してもらえばいい。というか、ミーリアちゃんがロビンに無理やり借金を背負わせたんだから、あの子が金を出すのが道理だ』
『あの子が家にお金を出すはずがないわ』
こいつ正気か、という目をボニーがアレックスに向ける。
『うまいことやって、ミーリアちゃんを家に留めておけよ』
アレックスが薄気味悪い笑みを浮かべ、ミーリアはぞわっと背筋が震えた。
『ミーリアちゃん、いつ戻ってくるかな』
『……あなたが期待することは起きない。あの子は優秀な魔法使いなんだから』
『じゃあ強引に手篭めにするればいい。ボニー、いい加減俺に協力しろよ。なりふりかまってられないんだろ? 何年も同じことを言わせるなよ』
ボニーが櫛を動かす手を止め、射抜くような視線をアレックスへ向けた。
『ふざけないで。妹をあなたに差し出すくらいなら死んだほうがマシだわ』
『へえ……言い返すなんて生意気だな?』
アレックスがベッドから起き上がり、櫛を持っているボニーの手をつかんだ。
勢いでがたりとテーブルが音を立て、ロウソクの火が揺れた。
『こんな家に婿として来てやったんだ。いつもみたいに土下座して感謝しろよ』
小さなロウソクの火に映るアレックスの顔が、何かに取り憑かれた不気味な笑い顔で、映像を見ていたミーリアは思わず息を飲んだ。クロエもぴくりと身体を震わせる。
『……痛い……離して』
かなり強く握られているのか、ボニーが手から櫛を落とした。
『…………つまらない女だ』
アレックスは興味を失ったのか、手を乱暴に離し、またベッドに倒れ込んだ。そのまま靴を脱いで布団をかぶると、ボニーに背を向けて目を閉じた。どうやらこれ以上話すつもりはないらしい。
ボニーは落ちた櫛を拾い上げ、握られていた手首をさする。
『……あの子たちが外に出れてよかった……間違いが起きる前で……』
小さくつぶやき、ボニーが櫛を髪へ通す。
彼女の頬に涙がつたっているのは、見間違いではなかった。
「ミーリア……、お姉さまと話をしましょう」
クロエが奥歯を噛むようにして声を出した。
ミーリアの腰に回している手に力が入っている。
「うん」
ミーリアは飛ばした音声魔法をボニーの耳元に移動させ、入力から出力へと切り替えた。スピーカーの要領だ。何度かリーフと試したので問題ない。
音量を最小限にして、自分の声だけを拾うように調整する。
「ボニー姉さま……ボニー姉さま……聞こえますか……」
櫛を動かしていたボニーがぴたりと手を止め、部屋を見回した。幽霊が出たかのように、顔がこわばっている。
ベッドで寝ているアレックスに声は聞こえていないようだ。
(よし、音量はこのままで……)
「ミーリアです……。七女ミーリアです……。今、あなたの心に直接……じゃなくて……魔法で話しかけています。聞こえるなら、櫛をテーブルに置いてください」
ミーリアが囁くように言うと、ボニーがクロエと似た大きな瞳を何度か開閉させ、あわてて目元の涙を拭いたあとに、櫛をテーブルへ置いた。
どこかにミーリアがいるのかと、視線を左右に走らせている。
(物分りがいいね。さすがクロエお姉ちゃんのお姉ちゃん)
自分の姉でもあるのだが、どうにも他人な気がしてならないため、こんな感想になってしまう。
「アレックスが眠ったら、ラベンダー小屋まで来てください。了承ならうなずいてください」
ミーリアの言葉に、ボニーがゆっくり大きくうなずいた。
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〇告知です。
なんとなんと、転生七女のコミカライズ2巻が本日4/27発売です…!
1巻同様、ミーリアとクロエが最高に可愛い素敵ングな一冊になっております。
魔法も使えるようになって、読み応えたっぷり!
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告知失礼いたしました。
引き続き本作をよろしくお願い申し上げます!
作者