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第39話 椅子でころころ事件

転生七女ではじめる異世界ライフ 〜万能魔力があれば貴族社会も余裕で生きられると聞いたのですが?!〜 — kakuyomu.jp · All chapters

第39話 椅子でころころ事件

ラベンダー町の広場に降り立ったミーリアは広場の中央へ視線を向けた。

町民が取り囲むようにして、椅子にくくりつけられたアーロンを不安げに見つめており、ミーリアの姿を見ると「ミーリア男爵が来てくださった!」と安堵のため息を漏らした。

ミーリアのやや後ろに、クロエ、ヒポヌス、駆けつけた長女ボニーが並んだ。

(まーた脳筋がなんか言ってるよ…)

ミーリアがうろんげな目になると、元父親アーロンがツバを飛ばしながら叫んだ。

「ぼんやり娘のくせに俺様の領地をよくも奪ったな! いずれ貴様には罰が下る! アトウッド領は終わりだ! 全員死ぬんだ! ワハハハハッ!」

山賊の親玉のような見た目をしたアーロンが狂ったように笑う。

ミーリアはアーロンと何を話しても無駄になりそうだったので、幸薄系美人の長女ボニーへ顔を向けた。

「ボニー姉さま、これ、どういう状況かな?」

ミーリアが聞くと、ボニーが眉根を下げて困ったように口を開いた。

「お父さま……失礼。アーロンが今朝からずっとこの調子で町民を困らせているのよ。この間もクロエを人質に取ろうとしてグリフォンたちに追い回されていたし……。グリフォンにお尻を何度もつつかれておかしくなってしまったのかしら?」

「お尻をつつかれたぐらいじゃおかしくならないよ。グリフォンは魔法を使ってないでしょ?」

「……それもそうよね」

ボニーはグリフォンが魔法を使った可能性を考えていたらしい。

アーロンはグリフォンたちに嫌われているらしく、歩いているだけで尻をつつかれているようだ。

クロエにぴたりとくっついているヒポヌスが「ビックボスに手を出す奴は敵だ」と、低く鳴いている。

すると、クロエがミーリアの肩に手を置いた。

「ミーリア、例の予知が始まったんじゃないの? 古代魔法が刻まれた石を投げて隕石を呼ぶという、あれよ」

クロエが大きな瞳をすがめてアーロンを見ながら言う。

アーロンはまだ何かを叫んでいた。

「ああ、最近忙しくてすっかり忘れてたよ。それじゃあ、身体検査は念のためしたほうがいいかな」

ミーリアはそう言うと、アーロンに右手を向けた。

喚き散らしていたアーロンがぴたりと動きを止め、焦ったようにミーリアを見つめた。

「おい、何をするつもりだ。俺に魔法を使おうっていうのか?! ま、まさか、攻撃するつもりじゃないだろうな!」

(うーん、透視魔法は開発したけど、見たくない物も見えそうだしどうしようかな……。あ、そうだ。あれがいいかも。空港にあるカバンとかをスケスケにする検査魔法!)

ミーリアは前世の電気屋のテレビコーナーで見た空港の映画を思い出した。

X線で荷物を検査する税関にある機械だ。

(レントゲンのような感じで……魔道具を感知するようにして……)

ミーリアの周囲から魔力が漏れ、ふわふわとラベンダー色の髪が揺れる。

町民が「ミーリア男爵が魔法を使うぞ!」「アーロンめ、ついに地獄行きか!」とざわつき始める。

それにつられてアーロンが冷や汗を流し、逃げ出そうと椅子の上でじたばたもがき出した。

両手を縛られ、両足も椅子の脚にロープで固定されているためうまく動くことができず、アーロンは椅子ごとひっくり返った。

町民は両手を叩いて喜んでいる。

(いや、アーロンどんだけ人望がなかったの……)

「ミーリア、何をするつもり?」

クロエが心配した顔で聞いてくる。

アーロンの心配というより、また突飛な魔法で周囲が爆発したりしないかを懸念しているようだ。

「危険物を所持してないか調べるだけだよ」

ミーリアはイメージを膨らませ、魔力を循環する。

脳内でカチリとピースがはまったような感覚になり、新しい魔法が完成した。

「――魔導X線、発動ッ!」

「やめろおおぉぉぉ!」

ミーリアが魔法を使うと同時に、椅子ごと地面を転げ回っているアーロンが叫ぶ。

魔導X線魔法が発動し、アーロンの身体に光が照射された。

光が当たった部分だけがレントゲン写真のように、骨や内臓が浮き彫りになる。

見ている全員が驚いて「アーロンが骨だけになった!」と叫んだ。

アーロンは必死に光を避けようとする。

「あー、この魔法は危険物を持ってないか見るだけの魔法ですよ〜……」

あまりに周囲がうるさいので、ミーリアが忠告する。

アーロンには聞こえていないのか、右へ左へと、椅子と一緒にころころ転がっている。

転がってくれたおかげで全身をくまなくチェックできた。

(うーん……あまり気分のいい魔法じゃないなぁ。特に魔道具は持ってないか。いちおう持ってたら光るようにしたけど)

ミーリアが魔力を切って魔法を止めた。

「便利な魔法ね。いずれできる街の入り口に設置したいわ……。ミーリア、アーロンは何も持っていないみたいよ」

冷静なクロエも観察してくれていたのか、教えてくれる。

「そうだね。今は安全なのかな? 結界魔法でアーロンとロビンはラベンダー町から出られないしね。どこで古代魔法の石を手に入れるんだろ?」

「予知が入手方法まで見せてくれたらよかったのだけれど……仕方ないわね。アーロンのよくいる狩猟小屋と寝室はグリフォンたちに定期的に調べてもらっているわ」

「あ、そうなんだ。ありがとう。私がしたほうがよかったのに……ごめんね。抜けてた」

「いいのよいいのよ。ミーリアは忙しいのだから、補助はお姉ちゃんにまかせればいいのよ」

「うん!」

クロエの笑顔にミーリアは元気よくうなずく。

予知の情報を先回りして調べているクロエはさすがであった。

ただ残念なことに、アーロンはすでに石を手に入れており、どこかに隠していた。

「アーロンは釈放して、消音魔法をかけておくよ」

ミーリアがクロエ、ボニー、町民たちに聞こえるように言い、風の刃でロープを切断し、アーロンの身体をコーティングするように消音魔法をかけた。

「ぼんやり娘が! 俺を驚かせて笑おうってんならそうはいかんぞ! いいかよく聞け! このアトウッド領は――! ――――ッ! ――――ッ!」

起き上がったアーロンが何かを喚いているが、無声映画のように声が聞こえなかった。

町民たちは安堵して、ミーリアに感謝を述べる。

困っていたボニーが笑顔になり、集まっていた町民に優しく声をかけた。

「ミーリア男爵のおかげで日常が戻ったわね。アーロンはほうっておいて、仕事に戻ってちょうだい。悪さをしたらグリフォンを呼ぶように!」

皆が良い返事をし、三々五々散っていく。

「アーロンも持ち場に戻りなさい。ラベンダー畑の管理があなたの仕事でしょう?」

ボニーが厳しい口調で言うが、アーロンは無視してまだ何かを叫んでいる。

(改心するとかそういうつもり、一ミリもないね)

ミーリアは呆れてものが言えない。

消音魔法は一日ほど効果があるが、それが終わるとまたあることないことを叫びそうなので、魔法袋から魔石を取り出し、五個ほど消音魔法を込めた。

「ボニー姉さま。また騒ぎ出したらこれをアーロンに投げつけて“うっせえですわ”と言ってね。消音魔法が起動するよ」

「え……魔道具? こんな高価な物、受け取れないわ」

「大丈夫大丈夫。ボニー姉さまにはアーロンとロビンの管理もお願いして、迷惑をかけているから。あ、そうだ」

(ボニー姉さまに危害が及ぶと大変だ。私って肝心なところが抜けてるよな〜)

ミーリアは気合いを入れて魔力を循環させる。

――常時発動のカウンター“アンチマジックバースト”

――物理攻撃をガードする“対物特化防護魔法”

――精神魔法を防ぐ“メンタルガーディアン”

防護三点セットを長女ボニーに付与した。

虹色の魔力がほとばしり、ボニーへと吸い込まれていく。

「え?! 何?! 魔法?!」

ボニーが目を白黒させる。

美人がびっくりしてるのって可愛いよな〜、とミーリアは的外れなことを思う。

膨大な魔力を放出したせいで遠くの森から野鳥がギャアギャアと飛び立った。

「ふう。これでよし」

「ミーリア、何をしたの?」

ボニーが自分の手足を確認しながら聞いてくる。

「常時発動のカウンター“アンチマジックバースト”。物理攻撃をガードする“対物特化防護魔法”。精神魔法を防ぐ“メンタルガーディアン”を付与したよ。しばらく保つと思うから安心してね」

「えっと……どういうこと?」

「ちなみに対物特化防護魔法はほぼ猫型防衛魔法陣と一緒で、完全に物理攻撃を防御してオート反撃するよ。私の常時かけているやつは魔法と物理を反射するから、名前を変えてるんだ。これで魔法、物理、精神を防護してる感じだね」

説明不足なミーリアを補足するように、クロエが遠い目をし、乾いた笑顔をボニーへ向けた。

「姉さまにミーリアの防護魔法が付与されました。騎士一個大隊を一撃で消し炭にする威力です。お気を確かに」

「消し炭……」

「大丈夫です。魔法を撃ち込まれない限り安全です。万が一、誰かに魔法を撃たれたらとんでもない反撃をするとだけ覚えておいてくださいませ」

「そうなのね……」

ボニーは説明についていけず、生返事をしている。

「あと、誰かに殴られたりしても、まったく痛くありません。あっ――」

ずっと無視され続けて怒り散らしているアーロンがボニーを殴ろうとしていた。

三人とも、無音で気づけなかった。

ボニーが小さな悲鳴を上げるが、ガン、という金属がぶつかるような音が響く。

アーロンの拳がボニーにぶつかる前に淡い緑色をした魔法陣が浮き上がり、小さな白猫が登場。

「にゃん」

ネコパンチがアーロンの右拳をはたき落とした。

白猫はぺろっと手を舐めてから消える。

「――ッ、――ッ」

アーロンが無音状態で右拳を押さえ、泣きそうな顔で跳び回っている。

「ネコちゃんパンチ! だよ」

ミーリアがこともなげに言って笑う。

ボニーは拳を痛めて転がっている元父親をちらりと見て、七女の妹はやはり規格外の魔法使いだと思った。

◯

アーロン喚き散らし&椅子でころころ事件から早いもので二週間半が経過した。

あれからアーロンは何度か叫んでいたが、長女ボニーが少し頬を染めながらお上品に「うっせえですわ」と魔石を投げ、消音魔法を使ったので、ラベンダー町は平和そのものだ。

ロビンもラベンダー町を徘徊しているが、悪さはしていない。町民の若い男と、ラベンダー町に用事があるグリフォン村の男性から「地雷女の視線が怖い」とのクレームが入っているくらいだ。

変態アレックスは相変わらず教会で叱られ、白髪赤眼のジョセフィーヌから“懺悔”を受け、馬車馬のように働かされている。

クロエはグリフォンたちと古代魔法が付与された石の捜索も進めていたが、ついに見つからなかった。

ミーリアは「予知は未然に防がれたのでは?」と楽観視している。

防御結界のターニアクリスタルが街全体を覆うようにガードしているので、防衛面も心配はない。

一方、アトウッド領への移民第一陣である約二千人が最果ての街道を進んでおり、あと一日の距離まで来ていた。