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第41話 その場のノリで才能鑑定魔法を作る人

転生七女ではじめる異世界ライフ 〜万能魔力があれば貴族社会も余裕で生きられると聞いたのですが?!〜 — kakuyomu.jp · All chapters

第41話 その場のノリで才能鑑定魔法を作る人

銀色のプレートアーマーを輝かせたグリフィス公爵家の騎士団を先頭に、移民の一団が到着した。

移民の総数は二千五百人。

独り身から大家族までおり、各々が運ぶ荷車で砂塵が上がっている。

移民の行列はずっと奥まで続いていた。

(うっわ〜……とんでもない大渋滞だよ。というか、みんな私のこと見て指差すのやめてくれないかな……。蛮族の長じゃないよ、私は)

魔物をはべらせたミーリアの姿に、移民たちは旅の疲れも吹き飛んだのか、驚愕の声を上げている。

クロエがヒポヌスに指示したのか、グリフォンもこのときばかりは全員が広場に集結してミーリアの座る壇上の左右に控えていた。

五体ほどが空を飛んで周囲を警戒している。

グリフォンが飛んでいる様子にも、移民たちは度肝を抜かれて「見ろ! グリフォンだ!」とか、「ドラゴンスレイヤー様がグリフォンを従えているんだ!」と叫ぶ。

伝説に名を残すドラゴンスレイヤーの領地に自分たちは来たんだ。

そんな興奮の波は最後列まで伝播していった。

「ミーリア・ド・ラ・アトウッド男爵、拝謁感謝申し上げます。我が主から移民移送の命を受け、アトウッド領に馳せ参じました、グリフィス家騎士団副団長キンベートでございます」

白馬に乗った顔に傷のあるキンベート副団長がひらりと馬から降り、軍人らしいキビキビとした動きで一礼した。

「キンベート様、今回はご協力本当にありがとうございました。グリフィス公爵様、セリス様、アリア嬢には感謝してもしきれません。もう安全ですので、どうぞ旅の疲れを癒やしてくださいね」

ミーリアは心から感謝してにっこりと笑った。

(二ヶ月以上かけてここまで移民を連れてきてくれたんだよね。苦労も多かっただろうな)

指の先から浄化魔法を飛ばして、キンベート副団長の服についた汚れを綺麗にしてあげる。

水で清めていたとはいえ、長旅でアーマーはくすんでいた。

それが一瞬で小一時間磨いたかのように、ピカピカになった。

「なんと……恐れ多くも、感謝申し上げます」

キンベート副団長が驚き、輝きが戻ったアーマープレートを見て深々と一礼した。

「おお!」「見たか? 魔法だ!」「凄いぞ!」「ドラゴンスレイヤーの魔法は万能なのか?!」

わああああ、となぜか移民から拍手が起き、今度はミーリアが驚いた。

(え〜〜、そんなに驚くことかな? あ……そういえば、魔法ってめずらしいものだったね。魔力を持って生まれるのも千人に一人とか、そんなんだったっけ?)

ミーリアは完全に自分がどう見えるかを忘れていた。

移民たちからすると、両側に凶悪な面構えをした魔物を死骸をはべらせ、グリフォンたちを従え、綺羅びやかなドレスを着た、稀代の魔法使いになると噂されているドラゴンスレイヤーの天才少女なのだ。

移民たちには、到底手の届かない遠い存在に見えていた。

そんな少女が息をするように魔法を使い、一瞬で副団長の装備を新品同然に変えてしまった。

まさに魔法――。

天才でありお優しいお方――。

皆がそんな面持ちでミーリアを見ている。

「皆さま、長旅ご苦労さまでございました」

ミーリアの隣で静かに立っていたクロエが一歩前へ出た。

「ミーリア男爵の魔法で拡声しております。最後列までは聞こえないかもしれませんが、都度案内するのでご安心ください」

先ほど、拡声魔法をかけてほしいと言われて、クロエには声が遠くまで聞こえる魔法を付与している。

クロエの一言でざわめきがぴたりとやんだ。

「申し遅れました。わたくしはクロエ・ド・ラ・アトウッド準男爵。アドラスヘルム女学院商業科三年生首席にして、ミーリア男爵の姉でございます。実務に関して全面的にミーリア男爵の補佐をしております。お見知りおきくださいませ」

クロエのよどみない自己紹介に、拍手が起きる。

「それでは、今から住民帳簿を作成いたします。今日、帳簿に記録した名前は永久に変更できないのでご注意くださいませ。くれぐれも間違えのないように」

間違えるなという指摘に、緊張が走る。

「また、犯罪歴のある人間はミーリア男爵の慧眼から逃れることはできません。騎士団の皆さまにも調査されたかと思いますが、思い当たる節がある人は素直に名乗り出てくださいませ。すべてはミーリア男爵のお心で扱いが決まります」

(私の慧眼って……濁ったガラス玉みたいなもんだけどね、私なんて。焼き肉焼き肉焼き肉ぅ〜! としか考えてないよ。あ〜、そういえばお米を探しにいったゴンゾーさんは無事だろうか)

ミーリアはどうでもいいことを考えながら、口角だけをにんまりと上げた。

これも打ち合わせ通りだ。

もっとも、犯罪歴のある者は移民団に入れない。

この領地は安全ですよ、というパフォーマンスの一貫であった。

クロエの注意事項が進み、十分ほどで住民帳簿の作成が始まった。

独り身の男、家族らしき一団、村ごと移転してきたという一団まで、様々な人間が受付所のテーブルへ向かい、名前を記入して、証明書をもらっている。

住む場所も、とりあえずという流れで自動割り振りされていた。

ミーリアが王都で不要になった建物を買い取って、魔法袋に放り込み、臨時の住居として提供する予定だ。

移民たちはもう家があることに驚いていた。

当分は野宿するつもりで、徐々に家を建てていくと思っていたらしい。

(魔法って何でもありだよね。あ〜、それにしてもヒマだなぁ〜。領主ってヒマなのかな)

ミーリアは豪奢な椅子に座り、手続きをする移民たちを見下ろしている。

子どもに手を振られれば振り返し、大人からは一礼されるので、なるべく鷹揚に見えるようにうなずいていた。

あまりぺこぺこしないようにとクロエからは釘をさされている。

(数が多いから三十の窓口じゃまったく足りないね。受付業務ができる学力を持ってる人が少ないってのも問題だよねこれ。ああ、そういえば、みんなどんな職業につくつもりなんだろう? 何かやりたいこととかあるのかな?)

ミーリアは暇すぎてそんなことを考える。

皆が、やりたいことがあって移民に参加したのかな、と思ったのだ。

そのほとんどが今よりも豊かな生活がしたいと願っているだけなので、職業にこだわりがない。ミーリアはそんな世界の事情などに気づかず、才能の原石がいるのでは、と移民たちを違う目で見始めた。

(我が領地に必要不可欠なのは、大工だと思うんだよね。金貨二十万枚を投資する大神殿の事業もあるし。なんか、そういう才能のある人が全然違う仕事をやるのはちょっと損だよね)

損だなと思うと、途端にむずむずしてくるのがミーリアだ。

ミーリアは即座に才能鑑定魔法の作成に入った。

(大工の才能を持つ人間を色別に分ける――魔力循環――才能鑑定……才能ってなんだろ? 脳みその脳波とかでいいのかな? 違うか……その人の未来の姿……未来予測か……よし……)

ミーリアが膨大な魔力を練り始め、頭上のアホ毛がポンという音を立ててクローバーの形をしたドライアドの葉へと変化した。

森からは鳥が飛び立ち、静かに座っていたグリフォンたちが一斉にミーリアを見つめる。

ドライアドのリーフが何事かとミーリアの横に転移してきた。

「お姉ちゃん、何してる?」

「ちょっと待って――」

ミーリアは魔力を練り続ける。

移民たちもドラゴンスレイヤーの様子がおかしいことに気づき、全員が手続きの手を止めてミーリアに注目した。

(できた――新魔法――才能鑑定――発動!!!)

ミーリアが立ち上がると、両目が虹色に輝いた。

「ミーリア、どうしたの?!」

クロエが驚いて駆け寄ってくる。

(いるいる! 大工の才能ある人、結構いるよ!)

ミーリアの視界には才能ある者が赤く映っていた。

嬉しくなって誰の声も聞かずに宙に飛び上がり、うつむいて順番を待つ若い男性の前に降り立った。

気の弱そうな彼はいきなり目の前にやってきたミーリアに驚き、立ちすくんだ。

「……領主様、僕……私に何か……?」

「あなたは将来何になりたいですか?」

ミーリアは虹色の瞳で彼を見つめる。

豪奢なラベンダー色のドレスにティアラをつけたミーリアにじっと見つめられ、気の弱い若者はあまりの眼力と迫力にたじろぎ、一歩下がった。

それでも答えなければ移民拒否されかねないと思い、彼は「特に何も……。ここに来て、心機一転して人生を変えたいと思いました」と答えた。

「そうですか。それはよかったです。あなたは今日から大工です」

「大工?」

「ん? 大工って言い方、ないんですか? それなら建築職人ですかね?」

「家を建てたりする職人ですか?」

「ええ。お兄さんに向いてる職業ですよ。考えておいてください。じゃ、また」

「え? あ、あの、ちょっと!」

ミーリアは言いたいことを言って、列を待つ人たちのところへ飛び、次々に才能ある人間に声をかけていった。

五十人ほどに声をかけ、定位置の蛮族椅子に着席して魔法を切った。

虹色の瞳がいつもの濃い紫色へ戻る。

ドライアドの葉も、いつものアホ毛へ戻った。

「ミーリア、何をしたの?」

クロエが聞いてくる。

様子を見ていたドライアドのリーフも事情を聞きたそうに顔を近づけてきた。

「才能を見分ける魔法を作ったんだよ。久々に大量の魔力を使った〜」

「便利すぎる魔法だわ……。あとで有効活用しましょう。才能の有無がわかるのは人材確保において有用ね」

クロエが何かをメモし始め、リーフは自分にはあまり必要ない魔法だと思ったのか、サーベルタイガーの頭に腰をかけて、足をぶらぶらさせて光合成をし始めた。

「はっ! 大変だ! 料理の才能がある人も選別しないと!」

ミーリアはもう一度魔法を使い、料理人の才能がある人たちにも声をかけていく。

数十年後、ドラゴンスレイヤーに声をかけられた人たちが全員有名な職人になり、逸話となることを現時点でミーリアは知らない。

(よくわからないけど、移民から拍手されてる。パフォーマンスじゃないんだけどね)

領主に直接声をかけられるなど、この世界ではめったにないことだ。

神の啓示にも等しい。

移民たちはミーリアの行動に感激していた。

旧アトウッド家の領民であるラベンダー町民たちは「アーロン様とは全然違う」

「優秀だ!」「七女様がこの世にお生まれになってよかった!」「アーロンの功績は七女様をこの世に誕生させたことだけ」と口々に言っている。

アーロンの所業がひどすぎて、何をしてもミーリアが輝いて見えてしまう町民たち。

そうこうしているうちに移民の住民票作成が三分の一ほどが済んだ。

すでに三時間が経過している。

そろそろお腹がすいてきたので、三時のおやつにでもしようかなとミーリアが魔法袋へ手を伸ばしたそのときだった。

「この領地は終わりだぁぁ! 全員死ぬんだ!」

突如としてアーロンが会場に駆け込んできた。

山賊のような粗暴な顔を憤怒に歪め、太い腕の先に握られた大きな石を頭上へかかげた。

「この石を投げれば全員が死ぬ!」

(は? 急に何? あ……あれって予知で見た)

ミーリアは既視感を覚える。

王都の大聖堂で見た予知の映像とまったく同じ光景が目の前に広がっていた。

「どこに石を隠していたの?! ヒポヌス! あの男を止めて!」

クロエがとっさに指示を出してヒポヌスが壇上から飛びかかるが、間に合わない。

「死ね! 俺様の領地を奪ったミーリアは死ねぇぇぇ!」

アーロンが振りかぶって召喚石を空中へと投擲した。