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第47話 ちょっと何言ってるかわかんないデス

転生七女ではじめる異世界ライフ 〜万能魔力があれば貴族社会も余裕で生きられると聞いたのですが?!〜 — kakuyomu.jp · All chapters

第47話 ちょっと何言ってるかわかんないデス

前回のあらすじ

カルビ食べた。

姉に帰ろうと言われた。

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ミーリアは魔力が枯渇しているリーフの手を引き、ヒポヌスに乗った姉のクロエとともに空を飛んで広場へと戻った。

恨めしそうな顔つきで事切れて首だけになった魔古龍メテオライトがふわふわとミーリアの後をついてくる。

(焼き肉のタレよりも優先すべきは……米だな)

世界の命運を決めるような顔つきでミーリアは思う。

圧倒的な美味であったメテオカルビは塩を振るだけでも旨い。

その肉自体が濃厚な旨味を秘めていたので、ミーリアはタレよりも米を欲したのだ。

焼き肉を嗜む者としての抗えない欲求。

白米。

肉オンザライス。

(メテオカルビと白米が合体したら……感動でむせび泣いてこの星を割るよ)

意味不明な決意をするミーリア。

クロエがこの心の声を聞いたら、いつか本当にやりそうだからやめてくれと言うに違いなかった。

◯

一方、アトウッド家の広場に集まっている移民、領民たちは空を見上げていた。

魔古龍メテオライトとの戦闘で見せたミーリアの魔法が彼らの心に未知の衝撃を与えており、半ば放心状態で口々に魔法について話している。

戦闘で放たれた隕石の瓦礫は球体状に出現した防護魔法を滑り落ちたため、広場の外側に降り積もって大きく綺麗な円を描いていた。

移民を護衛してきたグリフィス家騎士団、副団長キンベートはその精悍な顔つきを引き締め、移民たちに声をかけて回っている。

「ミーリア・アトウッド男爵は無事である! 妙な騒ぎを起こさず手続きを進めよ!」

彼がそこまで働く義理はないのだが、あの魔法を見てしまったら動かざるを得ない。

稀代の魔法使いからの心象を少しでも良くしておきたいのだ。

ミーリアはグリフィス公爵家にとって超重要人物であると、副団長キンベートは完全に認識した。

そして何より、武術を使う一人間として、ミーリアの力量に痺れ、憧れを抱いてしまう。

騎士団全員がミーリアの活躍に心を躍らせていた。

だが、彼は知らない。

稀代の魔法使いが魔古龍をカルビを扱いし、米が食いてえとそのことばかり考え、移民のことをほぼ忘れていることを――。

落ち着かない空気のまま移民の入領手続きが行われている中、一人、何かに取り憑かれたような顔をしている男がいた。

男はラベンダー畑の隅で呆然と立ち尽くしていた。

「ミーリアは死んだ……俺は準男爵になるんだ……」

山賊の親玉のような風貌をしたアーロンが何度もつぶやいている。

「あなた……本当に貴族に戻れるのよね?! 大丈夫なのよね?!」

母親エラがヒステリックに叫ぶ。

アーロンの袖を何度も引っ張り、あまりの力にアーロンのシャツが破れた。

それでもアーロンは気にせずにじっと空を見上げている。

「俺が準男爵だ……ミーリアの魔法は俺のものだ……なぜあいつは領地のために働かない……」

「そうよ! あの穀潰しで恩知らずめ! 私たちを平民にしておいて!」

もはや元領主とその妻を見る村人はいない。

村人は口々に「ミーリア様万歳!」「新アトウッド領万歳」と歓声を上げている。

二人が不毛な願いを虚空に吐き出していると、ひときわ大きな歓声が中央広場付近から上がった。

思わずアーロン、エラが動きを止める。

彼らはその歓声の方向を眺めた。

すると、空中に浮かぶ小さな物体が見えてきた。

「バカな……そんなはずは……!」

アーロンはシャツをつかんでいるエラを突き飛ばし、弾かれるようにして走り出した。

ラベンダー畑に足を取られて転び、口の中に土が入るがそんなことは気にせずに全力疾走をする。

空中に小さく見えていた物体が徐々に大きくなり輪郭を帯びてきた。

アーロンは信じたくなかった。

その光景は、あまりに現実味がなかったからだ。

「ミーリア様が龍を討伐なされた!」

「首だ! 龍の首だぁ!!」

ふわふわと浮いている魔古龍メテオライトの首は領民、移民に衝撃を与えた。

一人の少女がこの世のものとは思えない魔法合戦に勝利し、龍の首を落として戦利品として持ち帰ってくる。

現実味のない光景に人々が感銘を受け、得も知れぬ感情が湧き上がり、口々に「ミーリア様!」「ありがとう領主様!」「小さな英雄に万歳!」「ドラゴンスレイヤー!」と叫ぶ。

人は衝撃を受けると叫びたくなるようであった。

アーロンは称賛が自分ではなく、ぼんやり七女のミーリアに向いていることが信じられず、腹の奥がカッと熱くなった。

あのバケモノ龍を討伐して持ち帰ってくるなど誰が信じられるのか。

「そうだ。これは仕込みだ。俺は騙されたんだ」

アーロンは歓声を上げる領民、移民を突き飛ばし、先ほどまでミーリアが座っていた蛮族仕様の壇上に駆け上がった。

一斉にアーロンへと視線が向かう。

「俺を騙したなぁぁぁ! 召喚石はすべて仕込み! ロドリゲスとグルだったんだな?! 下りてこいこのぼんやり娘がぁぁぁぁぁ!」

口から肺が飛び出さんばかりの勢いでアーロンが叫び、空を飛ぶミーリアを指差す。

「貴様のせいだ! すべて貴様のせいだぁぁぁぁ!」

もはや人間なのか疑わしい形相でアーロンが叫ぶ。

突然現れた闖入者に広場にいる全員が異物を見るような視線を送る。

アーロンは叫び続ける。

「元領主……あれが?」「あいつ、まだ言ってるよ」「ミーリアさまの親じゃなかったらオラが森に追放してるよ」「たしかに」「あれ人間なのか?」

村人たちが口々につぶやく。

己の過ちを認められない他責思考を極めると、人ならざるモノとして認識されるらしい。

だが、ミーリアが近づいてきて、アーロンは次第に言葉を失った。

ミーリアが魔法で浮かせている魔古龍メテオライトの首は最後の断末魔とも言える魔力弾を放った顔つきのまま絶命しており、目は見開かれ、ずらりと並んだ牙が耳の付近まで裂けている。

人がどうにかできる存在ではなかった。

まさに化物。龍こそが生物の頂点と思わせるには簡単な、強者の様相であった。

そんな恐ろしい龍を気楽な調子で運んでくるミーリアに、アーロンは初めて恐怖を抱いたのだ。

やがてミーリアが蛮族仕様の壇上に戻ってきて、魔古龍メテオライトをアーロンの前に置いた。

「ひい……!」

アーロンは後ずさりをし、踏み外して壇上から転げ落ちた。

その様子をクロエが軽蔑の目で見下ろしながら、ヒポヌスと着地する。

ミーリアに手を握られていたリーフは当然と言わんばかりに、魔古龍メテオライトの頭に腰を下ろした。

ミーリアはリーフの隣に立ち、アーロンを見下ろした。

(カルビでアーロンの存在すっかり忘れてたけど……メテオライトの騒ぎはこのダメ親父が元凶だったね)

転げ落ちたアーロンは顔を上げると、無表情に自分を見下ろすミーリアを見つけて「くっ……」と声にならない苦悶を漏らしてさらに後ずさった。

龍の首に乗る少女と、地べたに尻を擦り付けて恐怖する男。どちから上位存在なのか、子どもでもわかる光景だった。

「おまえのせいだ……」

アーロンが絞り出すようにつぶやき、自分の放った声に鼓舞されたのか、一気呵成に喚いた。

「おまえが俺を騙していたからこんなことになった! 俺のために働き、領地のために死んでいくのがおまえの義務だ! 今まで食わせてやった恩を忘れて王都に行き、ドラゴンスレイヤーになって戻ってくるだと?! しかも俺の領地を奪いやがった! 女王に媚びを売るのがうまかっただけだろう!」

成り行きを見守っていた領民、移民の表情が困惑から嫌悪に変わっていく。

クロエ、町長を任されている長女ボニーもアーロンの醜さに顔をしかめた。

「その龍だってそうだ! おまえが倒したんじゃない! すでに死んでいた! そういう魔法なんだろう?! 公爵家の配下であるロドリゲスと結託して俺をハメるつもりだったんだ! 俺が優秀で、村を乗っ取られることを恐れていたからだぁぁぁ! 俺が領主だ! アトウッド家の領主で準男爵なんだ!」

ミーリアはアーロンが何を言っているのかさっぱり理解できず、ぼんやりした顔で彼の言い分を聞いていた。

「返せぇぇぇぇぇ! 俺の領地と爵位を返せぇぇぇぇぇぇッ!」

整合性を欠いた妄想にすぎないその叫びは、ただの音となってミーリアの耳を通過していく。

ミーリアは眼下でまだ何かを喚き散らす元父親を見て、無意識にお口にチャック魔法を行使した。

ジィィ、と音がしてアーロンの口が塞がれる。

「んんん! んむ! んふむむむ!」

ミーリアはアーロンを見下ろし、心から思ったことを口に出した。

「ちょっと何言ってるかわかんないデス」