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第34話 ミーリアの試験

転生七女ではじめる異世界ライフ 〜万能魔力があれば貴族社会も余裕で生きられると聞いたのですが?!〜 — kakuyomu.jp · All chapters

第34話 ミーリアの試験

領主アーロン、婿養子アレックス、母親エラ、長女ボニー、次女ロビン、四女ジャスミンは突然の訪問客に唖然とした。

ミーリアも、なぜこのタイミングで試験官のアムネシアが現れたのかわからなかった。

(二年ぶりだけど、前よりも美人になってる気がする……素敵な人だなぁ)

全然違うことを考えているミーリア。

伯爵令嬢であり、女騎士であるアムネシアは、凛とした佇まいで優雅に直立していた。

立っているだけで気品がある。

豪奢なドレスアーマーが質素なアトウッド家リビングには不釣り合いであった。

「アムネシア様、このような田舎領地にようこそおいでくださいました。何用でございましょう? ささ、お座りくださいませ」

母親エラが何度も頭を下げて椅子をすすめる。

アムネシアは硬い表情のまま、首を振った。

「いえ、結構」

「そ……そうですか」

椅子を持ったまま、固まる母親エラ。

(あれ? なんか前来たときより、当たりが厳しいような……)

「まずは食事中の非礼をお詫びいたします」

アムネシアが胸に手を当てて一礼した。

「かまわん。で、なんの用でアトウッド領まで来たんだ?」

脳筋アーロンがじろりとアムネシアを見やった。

格上の令嬢という意識など抜け落ちている。これがもし王都の騎士爵家であれば、下にも置かない対応をするであろう。

アムネシアは気にした様子もなく、一つうなずいた。

「神父から推薦を受け、アトウッド家七女、ミーリア・ド・ラ・アトウッド嬢の、アドラスヘルム王国女学院選抜試験を行いに参りました」

リビングが静まり返った。

家族はアムネシアの言葉を理解できなかったのか、彼女とミーリアを交互に見た。

「…………はぁ?」

「……この……チビの?」

領主アーロン、次女ロビンがうめき声を漏らした。

他の家族は開いた口が塞がらない。

あの、ぼんやりで、みそっかすで、何の仕事もできない七女が、今をときめく王国最高峰の学院の試験を受ける。言葉では理解できても、腑に落ちない。

沈黙を破ったのは椅子を持っている母親エラだった。

「あの、お言葉ですが、何かの間違いではないでしょうか? うちの娘……七女のミーリアは、村でも有名なぼんやり女でございます。何をしても失敗する。何も覚えられない。何も考えていない。そういう子どもでございます」

「奥様、ミーリア嬢を判断するのは我々の仕事です。あなたの評価、村の評判などは興味がありません」

「……そ……それは失礼を……でも……なぜ……いったい誰がこんなことを……」

母親エラは世間体を気にしていた。

アトウッド家の評判をさらに落とすための陰謀だと思っているようだ。

「本人の意思です」

きっぱりとアムネシアが言い切った。

そこで、次女ロビンがバンと机を叩いて立ち上がった。

「ああっ、あああっ、なんて可笑しいんでしょう! ミーリア! あなた本気で試験を受けるつもりだったのねぇ?! 能無しのくせに? あんたは黙ってハンセン男爵に嫁げばいいのよ!? これ以上私をイラつかせないでちょうだい!」

席が近かったらビンタが飛んでいる剣幕だ。

「どこで銅貨二百枚を手に入れたの?!」

「……」

「胡椒岩塩を神父に売ったんでしょう! 私によこせとあれほど言っているのがまだわからないの?! あまっている金があったら私に渡しなさいッ!」

(Oh……鬼女で守銭奴だよ……元父親より厄介だよ……!)

ミーリアはあまりの暴虐ぶりに前の父親の顔と、ロビンの顔をダブらせた。

アムネシアがガチャリと帯剣を揺らし、怪訝な表情を作った。

「失礼、あなたはどなたですか?」

「わたくし? わたくしはアトウッド家次女、ロビン・ド・ラ・アトウッドですわ!」

「そうでしたか。へえ……あなたが噂の出戻り次女ですか……」

「……なんですってぇ……」

アムネシアはロビンを記憶していたが、わざと名前を聞いてつぶやいた。

底冷えした声を出すロビン。

(おっかないよ……次女が人間を超越している気が……)

ミーリアは表情を崩して、頬を引きつらせた。

「あなたも試験を受けますか? 銅貨二百枚と神父の推薦があれば――あら、失礼いたしました。年齢がダメですね」

アムネシアは完全にロビンを煽っていた。

(ひいいぃぃぃっ! これ以上機嫌悪くなったら何されるかわかんないよ! アムネシアさんストォォップ!)

ミーリアの心の叫びもむなしく、ロビンは顔を真っ赤にし、眉間にしわ寄せ、歯ぎしりした。

泣く子も気絶する顔つきだ。

「お、お、おだまりぃっ! 伯爵の娘だか知らないけど調子に乗るんじゃないわよ! さっさとそこのチビを不合格にして出ておいきぃ! このアバズレがッ!」

ロビンはダン、とテーブルを拳で叩いた。

この言い方には領主アーロン、母親エラが顔面を青くした。

さすがに言いすぎだ。伯爵家の娘に暴言を吐いてタダで済むはずがない。

あと、アバズレは完全にブーメランである。

「……あら……クロエ嬢から聞いたとおりですね」

アムネシアが剣に手をかけ、柄を軽く引いた。

「……ッ! アムネシア様、申し訳ございません! 不出来な娘でございます! どうか、どうかご容赦くださいませ! 何卒、何卒、この通りでございますぅ!」

母親エラが飛び出して、額を地面にこすりつけた。

これにはロビンも黙り込むしかなかった。

(見事なまでのジャンピング土下座……!)

どこまでも能天気なミーリア。

アムネシアは息を吐いて、姿勢を元に戻した。

「今は伯爵令嬢ではなく、王国女学院の試験官としてこの地に来ております。ミーリア嬢の今後もあります。目をつぶりましょう」

キン、と剣を収め、碧眼を鋭くロビンに向けた。

「ふん……」

ロビンは苦い表情で顔をそむけた。

母親エラが射殺さんばかりの視線をロビンに送っている。溜まりに溜まった鬱憤が爆発寸前であった。

「ミーリア嬢、こちらに来て」

「え? あ、はい」

素が出そうになり、あわててぼんやりした顔つきを作って立ち上がった。

アムネシアの身長は百七十cmだ。

ミーリアが横に立って見上げると、アムネシアが優しい目を向け、背中を撫でてくれた。

(……きっとクロエお姉ちゃんがアムネシアさんに取り計らってくれたんだね……ありがとうお姉ちゃん……ありがとう、アムネシアさん)

ミーリアが涙目でアムネシアの瞳を覗き込んだ。

アムネシアは動きを止めてパチパチとまばたきをすると、軽く咳払いをして、領主アーロンに向き直った。

「それでは、これから試験を行います。ミーリア嬢は我々が教会にて預かりますのでご安心を」

「おう。終わったら返してくれ。そいつはハンセン男爵に嫁がせるからな」

アーロンも失礼極まりなかった。

アムネシアは「行きましょう」とミーリアを促した。

(なんで一ヶ月早く来てくれたのかわからないけど……たぶん……私……もうこの家に帰らなくていいんだ……)

アムネシアのぬくもりを背中に感じ、転生してからの記憶が浮かんでは消えていく。

老朽化した床、手垢で黒くなっている廊下の柱、無骨な玄関の扉……すべてがもうすぐ現実ではなく、記憶になる。

(クロエお姉ちゃん……師匠……)

リビングから出て、振り返ると、遠い目をした家族がいた。

次女ロビンがリビングの入り口まで追いかけてきた。

「チビ! 帰ってきたら銅貨二百枚を私によこしなさい! 隠している銅貨もすべて出すのよ! いいこと?!」

(あんたに渡す物なんて何もないよ。べー、だ)

心の中で舌を出すミーリア。

かなりひどいことを言われているのに、ベーで終わらすミーリアは、果たして器の大きい大物なのか、それとものんきなだけなのか……いずれわかることだろう。

外に出ると、少し肌寒かった。

満天の星が輝いている。

「ミーリア、突然お邪魔してごめんね。平気だった?」

アムネシアが腰まである長い金髪を手で払って、笑顔を向けてくれた。

「実はね、クロエから一番にあなたのところへ行ってくれと言われていてね、あなたが凄腕の魔法使いだから、私の利益にもなるでしょうって……。あの子が必死になるのはミーリアのことだけよ」

「やっぱり! 嬉しいなぁ」

「それに…………いえ、なんでもないわ」

アムネシアは首を振った。

「さ、行きましょう」

◯

教会に到着し、アムネシアはミーリアの選抜試験を行うことにした。

「魔法使いクラスの入学試験は、筆記試験、魔法試験、面接。この三つよ。でもね、筆記と面接はおまけなのよ。どれだけ魔法が使えるかが重要ね。わかった?」

「はぁい」

ミーリアが楽しげに手を挙げた。

本当に大丈夫なのだろうかと心配になる。ミーリアの周囲だけ、のほほんとした空気が流れていた。

この様子だと、光を起こしたり、火を出したりなど、使えるのは基礎的な魔法だろうとアムネシアは考察した。王国全体で魔法使いが枯渇している。基礎だけでも大歓迎だ。

「では、得意な魔法を使ってちょうだい」

「えーっと、得意な魔法かぁ……うーん……」

「どうしたの?」

腕を組んで、うんうん唸っているミーリアは可愛らしかった。

アムネシアはほっぺたをつつきたくなる気持ちを抑えて、返答を待った。

「いろいろできるので、どれを使えばいいのかわかりません!」

「へえ、そんなにできるのね?」

「はい! 火魔法、風魔法、水魔法、土魔法、光魔法、飛行魔法、千里眼魔法、転送魔法、あと金属抽出とか……よく考えたら、何でもできるかもしれないです……。あ、大豆の発酵とかもできますよ?」

「…………そんなに?」

アムネシアは何の冗談だろうと思った。

「得意というか、使ってみたいのは爆裂火炎魔法ですね」

「……できるできないにかかわらず、教会で使うのは危ないわね」

騎士の勘か、アムネシアは爆裂火炎魔法を回避した。

「他にない?」

「それだったら、光を起こす魔法にしましょうか?」

「そうね。いいと思うわ。光源魔法にしましょう」

「はぁい」

ミーリアが下唇を突き出して、集中している。

アムネシアに魔法の才能はない。

大量の魔力が循環していることに気づいていなかった。

「アムネシアさん、目をつぶっていたほうがいいかもです。かなり眩しいと思いますよ?」

「そう? 大丈夫よ?」

「鍛えてるんですね? 了解です。このままいきますね」

ミーリアが両手を広げて魔力を開放した。

「明るくなーれっ!」

カッ!!!!!!!!!

「――ッ?!?!」

アムネシアの瞳に、まばゆい光が突き刺さった。