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90. 間話 ティターニアの日常

転生七女ではじめる異世界ライフ 〜万能魔力があれば貴族社会も余裕で生きられると聞いたのですが?!〜 — kakuyomu.jp · All chapters

間話 ティターニアの日常

アドラスヘルム王国の最西端――アトウッド領。

貴族のみそっかす、辺境の地、最果ての領地。そんな不名誉な名前で呼ばれている領地は魔物領域に囲まれているめずらしい土地だ。

そんな領地の北側の森を進むと、ぽつりと一軒家が建っている。

小奇麗なログハウスには認識阻害の魔法がかけられ、存在が隠匿されていた。

一般人が家を見つけるのは不可能だ。

家主は誰も来ないことをいいことに、のんびりと一日を過ごしていた。

「ふあぁぁあぁぁぁぁっ……あっふ…………眠いわね」

エルフのティターニアがベッドから起き上がり、目をこすった。

美しい金髪には見事な寝癖がつき、シャツはだらしなくはだけている。

それでも絵になるのが彼女の美貌であった。

(朝ごはん――木の実でいいか)

ものぐさな彼女はあふあふとあくびをしながら家を出て、全身に浄化をかけてさっぱりすると、朝日の落ちる切り株に腰を下ろした。

日光浴をしながら、森のざわめきを聞くのがエルフにとって何よりの贅沢だ。

しばらくぼんやりとして太陽の光を楽しむと、魔法袋から木皿を取り出し、そこへ木の実を入れた。

くるみ、クコの実、今が旬の山いちごだ。

ティターニアは一つずつ口に運んで、ぽりぽりと食べる。

(午後はダボラの焼き鳥サラダにしましょう。お醤油を垂らして――)

醤油は弟子のミーリアと共同で開発した調味料だ。

有り体にいって風味が最高な調味料である。他のエルフ族に見つかったらまず争奪戦になりそうだった。

「まあこんな辺鄙な場所に誰も来ないけどねぇ……あっふ」

木の実を食べ終わり、あくびも徐々に収まってきた。

(風と――熱で――ドライヤー魔法)

次に髪を直すべく魔力を練って、頭上に向けた。

寝癖を熱風魔法で直すというドライヤー魔法も、弟子のミーリアが開発した魔法だ。

癖のないティターニアの髪質だと、すぐに直すことができる。これも重宝している魔法である。

ティターニアの金髪が風でさらさらと揺れ、髪がまっすぐになっていく。

ものの三分ほどで寝癖が消えた。

あとは魔法袋からシャツを取り出して着替え、今まで着ていたシャツを浄化してしまう。洗濯なしで済むのは簡単だ。

(さてと)

ティターニアは指をくるくる回してキッチンからティーカップとティーポットを魔法で浮かせて運び、ラベンダー風味の紅茶を入れた。熱湯は魔法で作っている。

茶葉は昔に北東の街で買った高級品だ。それに自作した乾燥ラベンダーを混ぜている。真空保管しているので劣化はない。

「……ちょっと蒸らしが足りなかったかしらね」

そんな感想を言いながら紅茶を飲み干し、ティーカップとティーポットを浄化してキッチンに戻して、ティターニアは立ち上がった。

「よし」

膨大な魔力を保有している弟子に遅れを取らないよう、習慣になっている訓練へと移る。

当面の訓練内容は転移魔法だ。

(飛距離を伸ばさないとね……ミーリアに負けるわけにはいかないわ)

そんなことを考えつつ、転移ポイントを思い浮かべ、家からアトウッド家の上空へと転移する。

すぐさま飛行魔法を使って浮遊し、転移ポイントを経由して南にあるハンセン男爵領へと転移した。

ティターニアは高高度からハマヌーレの街を見下ろし、小さく見える人々を眺めた。

(今日も働いてるわね〜。ご苦労なことよ。さて、一気に戻りましょうか――)

あまり家を空けておくわけにもいかない。ティターニアは集中して自宅を思い浮かべ、一気に転移しようとした。

「……」

魔力の調整がうまくいかず、失敗に終わった。

アトウッド領からハマヌーレの街まで馬車で一ヶ月かかる。

長距離を転移魔法でひとっ飛び、というわけにはいかなかった。転移魔法は繊細な魔法である。さらなる研鑽が必要らしい。

(ふん……それなら四分の一の距離でどうかしらね)

試行錯誤し、魔力を練り込みながら転移魔法をチャレンジする。

熟練度が高ければ高いほど転移魔法は遠くへ瞬間移動できる。飛距離が伸びていくのは成果が目に見えるため面白い。

ティターニアは六分の一の距離でようやく転移を成功させ、六回で自宅に戻ってこれた。

「ふう……まずまずといったところね」

休憩しながらこれを数回繰り返すと、昼の時間になっていた。

一度自宅に戻り、魔法袋から新鮮な野菜を更に盛り付けて、ダボラの焼き鳥をその上へ乗せた。醤油を垂らせばダボラサラダ醤油味の完成だ。飲み物は薬草茶を入れた。

ティターニアはのんびりと食べ始めた。

(さてさて、ミーリアはどうしてるかなっと――)

魔力を練り上げて、千里眼を発動させる。

ティターニアがもっとも得意な魔法だ。

魔力で視界が上空へと飛ぶ。魔力を糸のようにして東へ東へと飛ばしていくと、視界が雲を突き抜けて、王都へと到着した。千里眼は勝手知ったる様子で王都にあるアドラスヘルム王国女学院へと進み、食堂へと入っていった。

(ミーリアは……あ、いたいた……)

ティターニアの視界には年季の入った椅子に座ったミーリアが、一人で食事をしている姿が映った。

(あらら、また一人じゃないの)

ミーリアはぷにっとした頬を膨らませ、もりもりとパスタを食べながら、「うーん」と唸っている。ティターニアは集音魔法を飛ばして音声入力した。

『……パスタの味がもうちょっとこう、深みがほしいよね……焼き肉がご飯に出ないのは問題だよ』

ミーリアの言葉を聞いてティターニアはふふっ、と笑みをこぼした。

可愛い弟子はどこに行っても変わらないみたいだ。

ティターニアはミーリアの姿を見つつ、ダボラサラダを食べていく。視界にサラダが映っていないのに器用なものだ。動画を見ながらご飯を食べるダラけた社会人の休日そのものである。

「あの子よく食べるわねぇ……。あ、クロエが来たわ」

妹ラブな姉、黒髪のクロエが昼食を乗せた銀トレーを持ってミーリアに近づいていく。

クロエの存在に気づいたミーリアは顔をほころばせ、ぶんぶんと手を振った。

『ミーリア、遅くなったわね』

『ううん、大丈夫だよ。今日の授業はよく延長するんでしょ?』

『そうなのよ。あの教授、話が長くてね』

長いまつ毛をぱちぱちと開閉して、クロエが微笑み、ミーリアの向かいに腰を下ろした。

(クロエは成長したわねぇ……大人っぽくなったわ。特に胸が)

ティターニアは千里眼をクロエの横へと飛ばす。

制服の胸の部分が苦しそうに押し上げられており、 星 ( スター ) 徽章も誇らしげだ。

(肩がこりそうねぇ)

そんな感想を漏らしながら、千里眼を二人の上空へと滑らせた。

『デモンズマップはどう? 解読できそう?』

『どうだろう。アリアさんに手伝ってもらってるから、だいぶはかどってるよ』

『心配ね……もしいじめられたらすぐに言うのよ? お姉ちゃんがどうにかするから』

『アリアさんはそんな人じゃないよ〜。お姉ちゃんも仲良くできると思うよ? 真面目で優しい人だから』

『あのディアナ・ド・ラ・グリフィスの妹でしょう? 信用ならないわね』

そう言って眉を寄せ、クロエがサラダを口に運んだ。

『えーそうかなぁ?』

『ああ、ミーリア。あなたは純粋すぎるのよ。お姉ちゃん、いつかあなたがとんでもないことに巻き込まれる気がしてならないの』

『大丈夫。布団とか消化器のセールスなら断るから』

ミーリアがよくわからないことを言っている。

いつものことなので、クロエは自分の頭を左手で押さえた。

『ちょっとわからないけど、お姉ちゃん心配なの。だからくれぐれも注意してちょうだいね。グリフィス家は腐っても公爵家なのよ。そこを忘れないでちょうだい』

『はぁい』

ミーリアが快活に返事をして、デザートのグレープフルーツに似た果実を剥き始めた。

クロエは『本当に大丈夫かしらね……ローズマリアの子にあとで聞いてみましょう』とつぶやき、立ち上がって果実の汁が飛んでもいいように、ミーリアの胸元へハンカチを入れて広げた。

『ありがとうお姉ちゃん』

『いいのよ』

クロエはうなずいて、ミーリアの髪をさらりと撫でた。笑顔で席に戻る。

周囲にいた商業科の生徒からは『クロエお姉さまの笑顔が素敵』『あの子、私と場所を変わってくれませんこと?』など囁いている。クロエの人気は高い。

(二人は仲良しねぇ……ま、あのアトウッド家でお互い支え合ってきた絆があるものね)

ティターニアはサラダを食べながら、二人の会話を聞いていた。

他人の生活の覗きながら食べる食事はなかなかに楽しい。最近ハマっていることの一つだ。

二人の食事が終わるまで千里眼で見守り、ミーリアとクロエが立ち上がったところで千里眼を切った。視界が自宅のログハウスへと戻ってくる。

「んんん……」

ティターニアは大きく伸びをして、皿に残っているサラダを綺麗に食べきった。

その後、昼寝をして夕方に少し魔法訓練をし、夕ご飯を食べ、ミーリアと作った風呂に入る。

これがティターニアの基本的なルーティンだった。

「風呂はいいわね。心洗われるわ〜」

一日の締めに入る風呂が最近ハマっている日課のもう一つだ。

森の中に湯気が上がる。

水と熱の魔法で入れたちょうどいい温度のお湯が気持ちいい。

「ミーリアは天才ね。やっぱり先祖がえりね、あの子」

そう言って、ふんふんふーんとエルフに伝わる世界樹の歌を口ずさむ。

ばしゃりと足を伸ばしてお湯から出した。

「ふふふーん♪ 世界樹っの〜、母なる大地を〜」

ティターニアは長風呂だ。

千里眼を飛ばしたり、お湯を水球にして浮かせたりして遊ぶ。たまに潜ったりもする。

そんなこんなで四十分ほど経つと、決まって彼女はこう言うのだ。

「ふああぁぁああぁっ……眠いわ。出ましょう」

こうしてティターニアは平和な一日を過ごし、ベッドにもぐり込んで気持ちよく就寝するのだった。