第1話 状況把握します!
第1話 状況把握します!
お待たせいたしました。
ゆるゆると更新する予定です・・・!
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ミーリアは請求書に記された次女ロビンの名前を見て頭を抱えた。
自分が座っている執務机の前にはアリアとクロエがいる。
(なぜ地雷女が王都に……ど田舎アトウッド家からどうやって来たっていうのさ……)
事実を信じたくないミーリアは、自分が持っている束の請求書が間違いではないかと、再度目を凝らした。
請求書はミーリア・ド・ラ・アトウッド宛になっており、購入者はロビン・ド・ラ・アトウッドと記載されている。何度見ても自分の勘違いとか、似た名前――ミーリア・ド・ラ・ヤキウッドとか、そういった人違いはない。
(ご丁寧に私の名前の隣に“アドラスヘルム王国女学院魔法科一年生”って書いてるし! しかも下のほうにめちゃめちゃ小さい字で、払えない場合はクロエ・ド・ラ・アトウッドへ請求するように、とか書かれてるしぃぃっ! ……あの地雷女ふざけてるよっ!)
男爵芋――もとい、ミーリアが女王陛下から男爵の称号を賜り、叙勲パーティーの準備をしている真っ最中に届けられた請求書である。この忙しいときに特大の爆弾を抱えた気分だ。
(ドレス代、貴金属代、飲食代、宿代……どんだけ浪費してんねん……)
ミーリアは小さな手でぺらぺらと分厚い請求書をめくっていく。
この使いっぷり、空気の読めなさ。
あの女だという証左に思えてならない。
ミーリアが眉間にしわを寄せて唇を思い切り突き出すと、ぽんと肩に手を置かれた。
「ミーリアさん。その……ロビンという方は以前お話になっていたあの……?」
グリフィス公爵家三女のアリア・ド・ラ・リュゼ・グリフィスが心配そうな表情でミーリアを見つめた。
デモンズマップの一件で、ミーリアにできた初めての友達だ。
アリアはミーリアにリアル魔法美少女と心の中で名づけられるほど、美しくて気品があり、魔法が使える同級生である。
(銀髪にツインテール。あとフローラルないい香り。アリアさん美人だなぁ)
神が作ったのではないかと思えるアリアの美しい相貌を見ていたら、軽く意識が飛んだ。
いかんいかんと、すぐに我に返るミーリア。
「そうです。あの、地雷女です。出戻り次女ですよ!」
「まあ……でも、どのようにアトウッド領地から王都まで来たのでしょうか? アトウッド領地から王都まで、二か月はかかると聞き及んでおります。魔物領域を通過するので、護衛もつけないといけませんし……」
「それがわからないから恐ろしいんですよ」
ミーリアは執務机に突っ伏した。ほっぺたがむにっとつぶれる。
すると、驚きのあまり三歩下がって放心していたミーリアの姉、クロエが意識を取り戻した。
クロエはふうと一息吐いて冷静になり、黒髪をかき上げ、ミーリアの持っている請求書を手に取った。
「どんな方法を使ったのか調べる必要があるわ」
冷静沈着なクロエが底冷えするような声色で言った。
クロエのアトウッド家嫌いはミーリアより遥かに深い。
父である脳筋領主は領地経営の改善策を打ち出そうともせず、母は事なかれ主義。婿養子は自分たちの身体を狙うロリコン。次女ロビンは浮気出戻りでアトウッド家の状況を地の底まで落とした。
誰も、何もしない。
現状維持をしているだけ。
ゆっくりと衰退していることに気づいていない。
天才と言って差し支えない頭脳を持っているクロエから見たアトウッド家は、死んでいるも同然であった。
王都にいる今でも、ラベンダーに囲まれた監獄のような実家をたまに思い出して、背筋がひやりとすることがある。
二度と戻りたくないし、できることならあの家族たちと関わりたくなかった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
ミーリアが険しい顔をしているクロエを見上げた。
「……ええ、大丈夫。ちょっとあの村を思い出していただけよ」
クロエが請求書を机に置き、腕を組んで、人差し指をとんとんと叩いた。
彼女の頭脳が目まぐるしく動き始める。
まさかあの次女ロビンが王都にやってくるとは少しも思っておらず、自分とミーリアが王国女学院へ入学したことにより、つながりはほぼなくなったと考えていた。
クロエがすっかり安心していたのには理由がある。
すべての学院生は卒業までの四年間、クシャナ女王の家臣という扱いになり、親が勝手に婚姻を決めたり、卒業後の進路を指定したりすることはできない。親の干渉から逃げられるのだ。
なぜこのようなルールがあるかというと、才能ある少女を使いつぶす親が後を絶たず、不遇な境遇から才能を発揮できない子が王国には多く存在しているからだ。そんな優秀な子を国中から拾い上げ、有益な人材に育成する施設がアドラスヘルム王国女学院である。未だ男の発言権が大きいこの世界で、人材を確保するための画期的な政策だった。
「……あの方法か、あれか……。ロビン姉さまが考えそうなこと……」
ひとしきり考えると、クロエはアリアとミーリアを見て、請求書へと視線を落とした。
「情報が少ないわ……。あの人のことだから、何かとんでもないことをしでかしているはずよ。悪知恵だけは働くからね」
クロエは大きな瞳を何度も開閉した。
脳裏にはラベンダー畑と、その後ろで卑屈に笑っているロビンの顔が映っている。
「だろうね……嫌な予感がビンビンするよ……」
ミーリアは机から顔を上げ、クロエを見つめた。
深紫の瞳が交錯する。
(お姉ちゃん、たぶん私と同じこと考えてるよね……)
ミーリアはふんす、と鼻息を漏らした。
クロエがゆっくりとうなずく。
アリアは二人からただならぬ空気を感じ、緊張した面持ちになった。
「めんどくさいことになった!」
ミーリアがぺしりと請求書を叩いた。
「ええ。あの人が王都にいるなんてとんでもないわ……!」
クロエが手で額を押さえ、何度も首を振る。
「私を見れば叩く。私の物を奪う。お金はすべて自分の物だと言い張る。村人を奴隷扱いしてこき使う――」
「しかも自分が一番でないと気が済まない。誰よりも美人だと勘違いしている。誰よりも自分が賢いと思い込んでいる。自分がアトウッド領地にいるのは間違いだと常に言っている――」
ミーリア、クロエが確認するように言い合った。
「……なんというか……過激な方なのですね」
お嬢さまのアリアには想像もつかない人間性であった。
公爵家の力が弱まっているせいで多少の嫌がらせは受けたことがあるが、ネコ型ロボットが出てくる漫画のガキ大将的な、おまえの物は私の物よ、オホホッ、みたいな女性はついぞ聞いたことがない。比較に出したガキ大将にも申し訳ないと謝罪したくなる地雷っぷりである。
首を振っていたクロエが大きなため息をついて、ミーリアを見つめた。
「とにかく、請求書を発行した店に行ってみましょう。料金の支払いはしないといけないでしょうね」
「え? 払わなきゃいけないの?」
(クロエお姉ちゃんのためならいくらでも払うけど、地雷女には銅貨一枚もあげたくない)
ミーリアがむむむと頬に力を込める。
「ミーリアは男爵の位を賜ってから間もないわ。ここで変に請求を踏み倒した場合、ミーリアと知己になりたい貴族が立て替える、とか言い出しかねないわね……」
「知らない貴族が立て替えてくれるの?」
「みんな、ドラゴンスレイヤーと知り合いになりたいのよ。借りを作れるチャンスは逃さないでしょうね。貴族だから」
「貴族すごっ……」
開いた口が塞がらないミーリア。
会ったこともない人の支払いを立て替えるなど、自分なら絶対しない。
「他の貴族に変な借りを作る可能性を考えると、支払ったほうがいいでしょうね……ものすごく癇に障るけれど」
クールビューティーなクロエが冷ややかな目をして言った。周囲の温度が数度下がった気がする。
「ええ~。やだな~」
「私も嫌よ。ミーリアが命がけで稼いだ大切なお金ですもの。でも、今後の貴族関係を考え、必要な投資と思うしかないわね……ものすごく癇に障るけれど」
大事なことなので二回言ったクロエ。
本当にロビンのことが嫌いらしい。
「お姉ちゃんがそこまで言うなら、わかったよ。でも、一度物を買ったお店に行ってみようよ。本当にロビン姉さまかも確認しないといけないし」
ミーリアはまだロビンは王都に来ていない、という薄い可能性に期待している。
クロエがゆっくりとうなずいた。
「そうね。行きましょうか」
「私もご一緒いたします。いくつか公爵家とつながりのある商家があるようですので、お役に立てるかもしれませんわ」
机に置いてあった請求書の束を手に取り、ぱらぱらとめくりながらアリアが言った。
ミーリアへの恩義を人一倍感じている彼女のことだ。
どんなことがあっても協力すると言うだろう。
(どうか地雷女じゃなくて別人でありますように……ラーメン……!)
ミーリアは胸の前で十字を切って、ついでにラーメン食べたいと祈りながら、クロエ、アリアと王都城下町へ足を向けた。