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第4話 請求書について

転生七女ではじめる異世界ライフ 〜万能魔力があれば貴族社会も余裕で生きられると聞いたのですが?!〜 — kakuyomu.jp · All chapters

第4話 請求書について

四女ジャスミンは視力が低く、家でいつも編み物などの手作業をしていた、影の薄い姉だ。話しかければ会話はしてくれるが、あまりおしゃべりな人ではない。

アトウッド家の家族構成と立場を一度整理しておく必要がある。

当主 アーロン・ド・ラ・アトウッド 63歳・騎士爵

妻  エラ   53歳

長女 ボニー  26歳 婿養子 アレックス・モルガン(子なし)

次女 ロビン  23歳 嫁ぎ先 出戻り中

三女 クララ  19歳 嫁ぎ先 クルティス家

四女 ジャスミン17歳 嫁ぎ先 未定

五女 ペネロペ 16歳 嫁ぎ先 クルティス家

六女 クロエ  14歳 女学院商業科在籍中・準男爵

七女 ミーリア 12歳 女学院魔法科在籍中・男爵

ミーリアとクロエが爵位持ちになったのは数日前なので、家族は知らないだろう。

二人は完全に独立したことになるので、区別して考えるのであれば、

当主 アーロン・ド・ラ・アトウッド 63歳・騎士爵

妻  エラ   53歳

長女 ボニー  26歳 婿養子 アレックス・モルガン(子なし)

次女 ロビン  23歳 嫁ぎ先 出戻り中

三女 クララ  19歳 嫁ぎ先 クルティス家

四女 ジャスミン17歳 嫁ぎ先 未定

五女 ペネロペ 16歳 嫁ぎ先 クルティス家

――――――――――――――――――――

当主 クロエ・ド・ラ・アトウッド  14歳 女学院商業科・準男爵

――――――――――――――――――――

当主 ミーリア・ド・ラ・アトウッド 12歳 女学院魔法科・男爵

このような表記になる。

ただ、ミーリアは男爵になった実感がまったくない。

それよりも支配人が言った、四女ジャスミン結婚報告が衝撃すぎた。

(脳筋が手紙を送りまくって、色んな家に結婚を断られていた気がするんだけど……。それにジャスミン姉さまが王都に来るって、かなり大変じゃない?)

あと、会話に出てきたダレリアス家とか聞いたことがない。

(ダレよダレリアス家!)

おっさんギャグも出てしまうというものだ。

一方、クロエは隣で目を見開いて、情報を整理している。

「お話中に申し訳ありません……。ジャスミン嬢のお名前をお聞きして、一つ、貴族の間で噂になったことを思い出しました。お話してもよろしいでしょうか?」

アリアが鈴の鳴るような声で言ったので、ミーリア、クロエ、支配人が彼女に視線を向けた。

彼女はボレロ付き白ワンピースの裾を持って座り直すと、一つうなずいた。

「ミーリアさんがドラゴンスレイヤーの称号を得てから、アトウッド家のジャスミン嬢に婚約依頼が殺到していると聞き及んでおります。ミーリアさんと親戚となってつながりたい、騎士爵、準男爵、男爵あたりの位の方々が依頼していると――そんなことをディアナお姉さまが言っておられました」

「へ? そんなことが起きてたの……?」

驚きを隠せないミーリア。

(私がドラゴンスレイヤーになって、すぐに婚約依頼を送れば、時間的に間に合う計算だね……)

ミーリアが学院に来てから二ヶ月以上が経過している。

婚約希望を希望する貴族が書状を持たせた部隊をアトウッド家へ派遣し、ロビンがその部隊に便乗すれば、アトウッド家から王都まで強行軍で一か月強だ。不可能ではない。

「じゃあ私がドラゴンスレイヤーになったから、ジャスミン姉さまは大人気レディに変身したってことですか?」

「はい。そういうことになります」

「そんなのってありますかね?」

「貴族とはそういうものです。生き残るためには手段を選びません」

アリアが静かに言った。

(露骨な政略結婚だね……)

貴族の現金さに呆れてしまう。

「ジャスミン姉さまと結婚したとしても、私がその家を魔法で助けるかはわからないですけど……」

「それでも親戚関係になるのは大きなメリットがあります。妻の妹がドラゴンスレイヤーである――これだけで同格の貴族からは頭一つ抜き出る存在になれるでしょう」

アリアの説明に、クロエと支配人ゲーデルがうなずいている。

「また、金銭面の援助も大いに期待しているかと思います。ミーリアさんは百年に一人の逸材と噂されておりますから、いずれ大金持ちになるだろうと……これは世間一般の常識と言っていいです。魔法使いは一般人に比べてはるかに稼げますから」

「そっか……そうですよね」

「はい。それと、こういう言い方は恐縮なのですが、次女に浮気出戻り女がいるというアトウッド家の悪評は、ミーリアさんのおかげで上方修正されましたわ」

「なるほど。それもあってジャスミン姉さまに婚約依頼が殺到したわけですね?」

「そういうことですわ。ただ、残念なことに、次女ロビンさまに婚約依頼はきていないと思います。貴族がもっとも嫌がるのが醜聞ですからね……さすがにご本人を娶りたいという方は……」

それを聞いて、ミーリアは怒り狂うロビンの姿が目に浮かんだ。

(ジャスミン姉さまばかりが人気になって、ロビンは般若みたいな顔しただろうなぁ……“なんで私に手紙が来ないのよ!”とか叫んでるよね……ハハハ……)

遠い目をするミーリア。

どこか遠くへ行きたい気分である。

「私がもっと早く気付くべきでした。噂は二か月前に聞いていたので……。魔法にかかりきりで、貴族政治の反射神経が鈍っているみたいですわ」

アリアが申し訳なさそうに、眉根を下げた。

するとクロエが、アリアへ顔を向けた。

「いいのよアリア。教えてくれてありがとう」

「クロエお姉さま……」

黒髪と銀髪の美少女が笑みを交わす。

(可愛いは正義ですな)

どうにも心の中がおっさんくさいミーリア。

クロエが、アリアから支配人へと視線をずらした。

「もう少し詳しくお話をお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか? もちろん、支払いはいたしますわ。そちらはご安心くださいませ」

クロエが落ち着いた声で言った。

「承知いたしました。順を追って説明いたします。まず、六日前の午後、ロビン嬢が婚約書状と、ダレリアス家の花押入の書状を持って来られました。二時間ほど滞在され、ネックレスとピアスをご購入し、お帰りになられました。その間に、我々でミーリア嬢宛の請求書払いで問題がないか、ダレリアス家に確認を取っております」

「相手は了承したのですね?」

「はい。ドラゴンスレイヤー殿であれば問題ないだろうと、そういった判断かと思われます」

「確かに……結婚相手の親戚がドラゴンスレイヤーで、王国女学院在籍中であれば、安心するでしょう」

「はい。相手方の親族の支払いに口を挟む貴族さまはほとんどいらっしゃいません」

(貴族ってそういうものなの? 証文とかサインとかもらってないのかなぁ?)

「あの、私が支払わなかった場合なんですけど、どうなるんですか?」

ミーリアが手を上げて発言した。

「その際は、ダレリアス家とアトウッド家が支払う形になります」

支配人はソファから立ち上がり、失礼しますと丁寧に一礼して、別室から一枚の羊皮紙を持ってきた。

「こちらが今回の購入証明書でございます」

(ふむふむ……金貨十五枚……百五十万円の買い物……)

買い物金額をあらためて見て、ミーリアは苦笑いした。

人様の金で散財するとはどういう了見なのだろうか。一度、頭の中を覗いてみたいと思う。

(てかあの人、私が払わないとか思わないのかな……?)

「日付、金額、商品、ダレリアス家のサイン、ロビン嬢のサインもいただいております」

「えっと、私のサインはいらないんですか? 私の支払いなのに」

「はい。ご親族が来られているので、問題ございません。婚約相手さまも了承しておられます。滅多なことで問題は起きませんよ」

「貴族すごっ」

自分も貴族なのだが、驚きを隠せないミーリア。

横にいたクロエがミーリアの頭をさらりと撫でた。

「結婚前に問題を起こしたら恥さらしよ。貴族はメンツが大事なの。だから、こういった買い方もできるのよ」

めでたい結婚前に親戚の間で、おまえが払え、私は払わない、などと揉めたら他の貴族に嘲笑されるのは必然だ。

「私たちが爵位を賜った日もタイミングが悪かったわね……」

「どういうこと?」

「ロビン姉さまが六日前にここに来て、私たちが爵位を賜ったのが五日前よ」

「あ……つまりは私たちの叙勲が後だったんだね?」

「そうよ。私たちが爵位持ちであれば、独立したことになる。支配人さまも今少し慎重になったのではありませんか?」

クロエが支配人を見た。

支配人はゆっくりとうなずいた。

「いかにも。ミーリア嬢が学院生であり、騎士爵の娘であったので、安心したのは確かにございます。言い方は悪くなりますが、未払いの場合、回収する手続きが貴族さまよりも楽でございます故」

(ってことはアレかな? いい感じに偶然が重なって、地雷女が王都に来て好き放題してるってこと? なんか悔しいんだけど……)

ミーリアはクロエへ視線を向けた。

「……ロビン姉さまって、代理で買う仕組みを知ってたのかな」

「あの人のことだから、完全には理解していないでしょう」

「私が払わなかったらどうするんだろう?」

「ミーリアが言うことをきくとでも思ってるんでしょう……嫌な人だわ」

クロエがすっと目を細めた。

すると、支配人が何かに気づいたのか、はたと視線を宙へとさまよわせ、ミーリアを見つめた。