閑章四 絶海の孤島 02
閑章四 絶海の孤島 02
家に飛び込んできた若者が、ゲッコーに向かってまくしたてる。相当焦っているようで、フランのことも目に入っていないようだ。
「お客人の前だぞ! 静かにせい!」
「え? あ! も、申し訳ありません」
「それで? ゲンバが入れ替え戦を受けたというのは本当か? チヨとサユリがいない間は、上位同士の入れ替え戦は禁止しておったはずだが?」
「オウリの挑発を受けて、我慢できなかったらしい……」
「あのくそジジイめ! どれだけ歳くってもガキのままじゃ!」
入れ替え戦? 雰囲気からするに、ただの模擬戦じゃないようだ。
すぐにでも駆けつけたいのだろうが、ゲッコーの表情には迷いがある。レンギルやフランをどうするか悩んでいるんだろう。
『止めに行った方がいいんじゃないか?』
「しかし、大事なお客人を放っては……」
『なら、フランは一緒に行くよ。修練場ってところに興味もあるし。な?』
「ん」
「私は荷の積み下ろしに戻りますので、お構いなく」
こちらの気遣いを理解したのか、ゲッコーが深々と頭を下げて立ち上がった。
「では、修練場へ向かいましょう。先に行くぞ?」
「は、はい!」
駆けこんできた青年が、キラキラとした目でフランを見ている。ランクS冒険者が来るという話は知っていたようだし、すぐにこちらの正体を見破ったのだろう。
ただ、青年の姿はすぐに見えなくなってしまった。彼はあまり強くないらしく、ゲッコーの走る速さには全くついてこれなかったのだ。
やっぱゲッコーって、ただの文官じゃないよな? 地球だったらダッシュジジイ的な都市伝説になってもおかしくない速さだぞ?
まあ、フランにとってはジョギングに毛が生えたようなものだが。
「ねえ、入れ替え戦って、何?」
「ふむ。この島に武芸者が多いというのは知っておりますかな?」
「ん」
「上位者には1位から100位まで、序列が付けられておるのですよ。そして、下位の者が上位者に挑み、序列を奪い取るための戦いを入れ替え戦と呼んでおります」
序列なんてものがあるんだな。武芸者なんてどちらが強いか競うのが習性みたいなものだし、そういうシステムが生まれるのは当然なのかもしれない。
「まあ、序列が上の者が偉いというわけではありませんが」
「そうなの?」
「あくまでも強さを測る目安ですからなぁ。模擬戦では日々勝ち負けが逆転しますし……。上位者には武芸以外がからっきしという者も多く、そいつらに権力を持たせたところで島の政治が混乱するだけなのですじゃ」
そりゃそうだ。戦闘狂の脳筋武芸者が権力者になったら、確実にまともな統治は見込めないだろう。
「奴らも、修行の時間を削ってまで権力者ごっこなんぞしたくはないでしょう。それ故序列の恩恵というのは、せいぜいが他の武芸者に大きな顔ができるということくらいですなぁ。武芸者にとっては、それが重要なわけですが」
「ふーん。ゲッコーはその入れ替え戦が起きて、なんで困ってる? よくあることじゃない?」
「それが、癒し手の中でも最上位の2人が現在ダンジョンに潜っておりまして。大怪我を負った際に完全に治癒ができるかどうかわからんのです」
「ダンジョンあるの?」
「ええ。練磨洞と呼ばれる、ゴーレム主体のダンジョンがございますのじゃ」
武芸者の島ってことは近接戦闘職が多いのだろう。そんな場所でゴーレム主体ダンジョンとは、なかなか難易度が高そうだ。
「そこ、私が入ってもいい?」
「別に秘匿しておるわけではございませんので、コアを破壊せんのであれば構いませんぞ」
「攻略はダメ?」
「はい。ダンジョンマスターとの盟約がございますので。我々はダンジョンを攻略せず、あちらはスタンピードを起こさない。そういう約束になっております」
ここのダンジョンはウルムットと同じように、持ちつ持たれつの関係であるようだ。しかし、すぐにゲッコーの顔に苦笑いが浮かぶ。
「まあ、約定なんぞなくとも、我らでは完全攻略できませぬが」
なんと、最深部に到達した者が過去に1人しかおらず、その人間がダンジョンマスターと盟約を結んだらしい。
現在では最深部である50階どころか、45階に到達することさえできていないという。
「今回は階層更新を狙っているわけではなく、交易に必要な魔法金属を手に入れるために潜っているだけですがな。オリハルコンゴーレムは上位陣であっても油断ならぬので、癒し手も上位の者たちを同行させておるのです」
入れ替え戦は模擬戦とは違って、命がけの立ち合いなのだろう。だからこそ、上位の治癒術士がいないとまずいのだ。
「私、治癒魔術使える」
「なんと! 失礼ですが、その効果のほどは? 切り落とされた腕を接ぐことも?」
『魔力を使えば、欠損を生やすことだってできるぜ?』
「おお! さすがですな! では、万が一の時はお願いしても?」
「ん」
『任せとけ』
そんな話をしながら森を走り抜けると、大きな建物が見えてくる。木で作られたコロッセオって感じだ。その先に、そこそこ大きな村があった。いや、地味な建物ばかりだから村っぽいけど、規模的には町と言っていいかもな。
木造なうえに無駄な装飾がないから、マジで地味なんだよな。
「あそこ?」
「そうですじゃ。あの練武場の中央にある広間を、修練場と呼んでおります、模擬戦などを行う場所ですな」
建物に入ってさらに進むと、修練場の入り口前に大勢の武芸者が集まっているのが見えた。
修練場の入り口前に屯っている彼らは、一見すると村人だ。しかし、筋肉の付き方が明らかに戦士だし、全員が武器を持っていた。
「通せ! どくのだ!」
「ゲッコー爺様!」
「もう入れ替え戦が始まっちまった!」
「分かっておる!」
彼らが言う通り、この先の広場で激しい戦闘が行われているのが分かった。武器同士がぶつかり合う、甲高い金属音が響き渡っている。
ゲッコーと共に武芸者の間を通り抜けて、修練場へと飛び込むフラン。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!」
「すでに見切っておるわ!」
そこでは、青年と老人が互いの武器を叩きつけ合う光景が繰り広げられていた。
10月から転剣のアニメが各局で放映開始です。
転剣のスピンオフ漫画、「転生したら剣でした My Dish」も連載が始まっております。
描いてくださっているのは、4コマなども担当してくださっていた不二丘いつき先生。
かなりのほのぼのテイストな内容となっておりますので、こちらもよろしくお願いいたします。