閑章四 絶海の孤島 04
閑章四 絶海の孤島 04
オウカ流刀術。
この島に来る前に出会った鍛冶師兼刀術士のオウナも使っていた流派だ。あの婆さん、もしかしてこの島出身か? 武芸者って感じだったし。
数百年前にオウカという人物が作り上げ、世界にスキルとして認められた武術であるらしい。
なんと、流派の開祖たるオウカはこのハガネ領国で半生を過ごし、その血族が今でも島に残っているそうだ。先ほどのオウリ青年もその1人で、オウカ流の後継者として腕を磨いているという。
やはりオウナもその血筋なんだろう。尋ねてみたい気もするが、彼女のことを吹聴するなって言われているしな。どこまで話していいのか分からんし、ここは黙っておこう。
「とは言え、伝説の後継ですからのう。儂らには理解できん重圧があるのでしょう」
伝説的な人物の後を継ぐ者として、同門の人間や門弟たちなど、周りからのプレッシャーは凄まじいんだろうな。
デミトリス流のヒルトと同じだ。彼女も色々と大変そうだったし、流派の後継者って言うのも楽な立場ではないんだろう。
まあ、ヒルトの場合、存命であるデミトリス直々の指名だし、流派内での人気も高かった。それに、デミトリスのぶっ飛び具合のせいで、常識人である彼女は内外から歓迎されていたのだ。
その点、開祖が故人であるオウリの場合はまた違う苦労があるだろう。亡くなっていることで伝説化してしまっている相手を超えるのは、生半可な強さや功績では無理だ。デミトリス以上に、高い壁なんじゃないかね?
それに、普段から偉人の幻影と比べ続けられるのも、精神的に来るものがあるだろう。言ってしまえば、どれだけ修業を積んでも超えることができない相手に挑み続けねばならないようなものだからな。
「そんなことより、黒雷姫殿をこんな場所に立たせたままでいいのか?」
「む? 確かにそうじゃな。申し訳ありませぬ。こちらへどうぞ。この建物内には応接室もございますゆえ」
「ん」
「俺も一緒でいいか?」
「……好きにせい」
指示を破って入れ替え戦をしたゲンバだが、特にペナルティとかはないのか? そう思ったら、やはりお咎めなしとはいかないらしい。
「序列上位者が好き勝手やっていては模範が示せん。来月のノルマを増やすからの?」
「けっ。好きにしろ」
なんでも、武芸者には素材や食材の収集が義務付けられており、ノルマがあるらしい。それを増やすのがゲンバへの罰なのだろう。
少し歩くと、修練場を見下ろすことが可能な、大きな部屋に通された。貴賓室とかそういう感じの場所だ。いや、実際にここは貴賓室であった。
他国の貴族や重要人物がやってきた場合、ここで武芸者同士の戦いを観戦させつつもてなすのだそうだ。
見世物的な扱いでいいのかと思ったら、むしろ晴れの舞台ということで希望者が殺到するんだとか。ストイックなタイプもいるようだが、お祭り好きな者も多いのだろう。
「ゲンバ、茶を出せ」
「うむ。特製のやつをお出しするぞ」
ゲッコーの言葉に頷いたゲンバが、なにもない場所からスッと湯呑を取り出した。収納系のスキルを持っているんだろうが、前兆をほとんど感じ取れなかった。
殺気や悪意がないというのもあるが、魔力の動きが全くなかったのだ。魔力隠蔽能力が相当高いんだろう。
収納系のスキルでこれだけ魔力の動きを見破れなかったのは、獣人メイドのクイナ以来なのだ。
「いい匂い」
「自身で育てた茶の若葉を丁寧に蒸し、手ずから揉んだ後に乾燥させた、最高の茶葉だ。抽出も調薬用の器具を使っているし、水にもこだわっている。普段は他人に飲ませんが、あんたは特別だ」
栽培から全部自分で行っているらしい。地球でもお茶やコーヒーに拘っている人はいたが、一から全部って人はなかなかいないだろう。
「ズズ……美味しい!」
お茶を飲んだフランが、いい笑顔でゲンバを見た。よほど美味しいんだろう。ゲンバも得意げに笑っている。
「ふふふ。そうだろう」
「お主の茶狂いが役に立ったのう」
「俺の茶の良さを分からんお前の舌がお粗末なのだ」
「言っておれ。それでは、改めて儂らからの依頼を受けて下さり、ありがとうございます」
「私も楽しみだから」
「はははは! 我らと気が合いそうな姫様じゃねぇか!」
ゲンバが、ギラギラとした獲物を狙う目を隠そうともせず、楽しげに笑う。まあ、フランも同じ顔だけど。さっきの戦いを見て、ゲンバに興味が湧いたのだろう。
「うむ。模擬戦も、50人まで挑ませてもらえることとなった」
「それはそれは! ありがとうございますってな! でも、いいのかい? 1日2日じゃ終わらんが」
「ん。へいき」
コクリと頷くフランに、ゲンバが嬉しそうに笑う。
「いつから始めましょうか? 長旅でお疲れなようでしたら、休養日を数日設けさせていただきますが……」
「別に疲れてない。今からでもだいじょぶ」
「い、今からですか? 申し訳ないのですが、こちらの準備が整っておらんのです」
「はははは! 俺たちよりもやる気とはな! さすがだ!」
「ふふふん」
フランはドヤ顔だけど、褒められてないから! いや、ゲンバにとっては誉め言葉なんだろうが、戦闘狂の自分たちを超える凄い戦闘狂ですねって言われただけだからね?
その後、俺たちは模擬戦についてゲッコーたちと話し合い、明日以降の予定を決めていった。まあ、1日10人までで、場所はこの修練場。開始は昼からってだけだが。
序列が下の者から順番に戦う形になるそうだ。そもそも、序列上位者たちは明日までダンジョンに仕入れに行っているしね。彼らの想定よりも、ルシール商会が早く辿り着いたってことなんだろう。
嵐や魔獣、風向きなどで1月くらい余裕で旅程が変わるこの世界だ。まさか、予定通りに到着するとは思わなかったらしい。
普段も5日くらいは遅れるのが当たり前で、予定通りに到着したことなんて1度もないという。
「何か聞いておきたいことなどはございませぬか?」
「ある。この島のダンジョンって、どんな敵出る? ゴーレムだけ?」
「その通りですのう」
「深く潜れば潜るほど、硬いゴーレムが出てくんのさ」
ウッドから始まり、クレイ、ストーン、ブロンズ、アイアン、クリスタル、ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロガネ、アダマンが5階層ごとに切り替わるらしい。
同じ素材のゴーレムでも階層によってレベルが変わり、戦闘力も相当違うようだった。武術を使う個体まで出るというのだから、まじで修行に特化したダンジョンなのだろう。
「模擬戦が終わったら潜ってみたらどうだい? ぜひ自分の目で確かめてくれや」
「ん! 楽しみ」
「はははは! ダンジョンを楽しみとは、本当にうちの島向きの人材だな!」
その後、島の名物料理なんかも尋ねてみたが、教えてもらうことはできなかった。特産と言えるほどの特殊な食べ物もないし、人が少ないため屋台などもほとんどないというのだ。観光客もいないしな。
まあ、海産物は美味いようなので、それを楽しみにしておこう。