閑章四 絶海の孤島 06
閑章四 絶海の孤島 06
連日模擬戦が繰り返され、この3日間で序列50位から11位までとは戦い終えた。
だが、フランが苦戦するような相手とは、まだ戦えていない。珍しい戦い方、変な戦い方はあるんだが、ちょっと驚く止まりなのだ。
一応、25位くらいからはランクB上位くらいの実力者たちだったんだが、今のフランからすれば苦戦するほどではない。多少本気を出せたので、フランは満足しているけどな。
俺の所感では、13位からはランクA相当の実力はあったと思う。実際、近接距離ではフランと正面から戦えていたのだ。
ただ、魔術による遠距離攻撃には不慣れだったようで、近遠を出入りしながら戦うフランが最終的には削り勝っていた。
そして、今日からは遂に序列10位以内の最上位者たちとの戦いである。
「じゃあ、いい戦いしようぜ? 黒雷姫殿!」
「ん」
序列10位は軽装の女性であった。オリハルコン製の棍を使う鬼人の戦士だ。審判役の武芸者が、彼女の名前を告げる。
「挑戦者! 序列10位! 金剛力のメノアメアノ!」
因みに、全員に二つ名があるけど、殆どが自称だった。模擬戦の時などに二つ名があるとカッコいいってことで、皆が自分で考えているらしい。
中には自然と呼ばれ始める二つ名もあるらしいが、今は僅かな者以外、自称の者ばかりだそうだ。
「ランクS冒険者、フラン」
「おおおお! いくぜぇ!」
メノアメアノはこの島の武芸者らしく、小技を使わずに一気に突っ込んできた。まずは一発強いのをぶち込んで、相手の強さを測ろうというのだろう。
メノアメアノは加速によって生まれた力を棍に乗せ、超高速の胴打ちを繰り出した。
水平に薙ぎ払われたオリハルコン製の棍が、空気を砕く音とともにフランに襲い掛かる。
だが、フランはあえて前に出ると、頭を屈めて棍の真下スレスレを通り抜けてみせた。アマンダの鞭すら回避して見せるフランにとっては、難しいことではないのだ。
「あっさりと……!」
「ふん」
メノアメアノのがら空きの腹筋に、フランの蹴りがめり込む。
「ぐぼぁ! やっべぇな!」
顔を歪め、胃液を撒き散らしながら後退するメノアメアノ。とは言え、さすがは鬼人。棍を手放すことも、蹴りで勝負が決まることもなかった。結構本気の喧嘩キックだったんだが。
鬼人のその目は、野獣のように爛々と輝いている。
「さすがだねぇ! 力も技も、凄まじいじゃねぇか! 様子見なんざしてる暇はねぇな! こっからは全力全開だぁぁ! 目覚めな! あたしの中の剛鬼ぃぃ!」
さすが上位者! 当然のように変異を身に付けているか!
メノアメアノの叫び声に呼応して額の二本角がグンと伸び、全身の筋肉がメキリと音を立てて膨張する。全身に纏う青い魔力は、鎧のような密度を持っていた。
剛鬼は純粋な強化型の変異であるようだな。今まで見た鬼人族の変異の中で、一番らしい変異かもしれない。
「あんたなら、死なねぇだろ? 受け止めてくれよ!」
彼女が剛鬼に変異した時、周囲で見学している者たちが揃って息を呑んだので、気になっていたのだ。普段の模擬戦では相手を殺してしまう恐れがあるため、変異を使うことはないようだった。
だが、フラン相手なら問題ないと判断したのだろう。フランもメノアメアノを迎え撃つため、遂に本気の力を解禁する。
「覚醒」
「おお! それが噂の黒猫族の覚醒か! す、すげぇ圧だ!」
「くる」
「ははははは! 行くぜぇぇぇ!」
フランがチョイチョイと指でかかってこいと挑発すると、メノアメアノは楽しくて仕方がないといった表情で魔力を昂らせた。
「おおおぁぁぁぁぁ!」
メノアメアノが、その姿が消えるほどの加速で駆けた――いや、かっ飛んだ。そう言いたくなるほどの速度でありながら、その動きは直線的ではない。
メノアメアノは真正面からではなく、弧を描くようにフランの背後に回り込んでいる。
剛鬼となって得たパワーで地面がめり込むほどに踏み込み、そこを蹴ることで速度を維持したまま無理やり曲がったのだ。地面には、足で踏み抜いた穴がいくつも並んでいる。
「っっらぁぁぁ!」
メノアメアノはその勢いのままに、まるで背負い投げをするかのようなフォームで棍を振り切った。
凄まじい遠心力によって、オリハルコン製の棍が三日月のようにしなる。
速度も威力も十分。全てを叩き潰す必殺の一撃だ。直撃すれば竜種さえ倒せるだろう。
だが――。
「しっ!」
「まじかぁぁ!」
フランが軽くとさえ見える動作で振るった俺が、棍の軌道をあっさりとずらしていた。受け止めるのでもなく回避するのでもなく、受け流す。
さすがに耐久値の減り方がヤバいな! 受け止めようとしていたら、衝撃だけでフランが大ダメージを食らっていたかもしれん!
棍はフランの真横をかすめ、大地にズドンと突き刺さった。衝撃波が周囲を震わせ、フランの体が宙に舞う。いや、相手の技の衝撃を利用して、自分で跳んでいた。
対するメノアメアノは、全身全霊を込めた攻撃を往なされたことで、身動きができない。
多分だが、あの振り下ろしは連続で放てるはずだ。相手にガードされた際、棍の柔軟性を利用してわざと上に弾かれ、その勢いのままに上段構えに移行して再度振り下ろす。
威力は下がるが、彼女の膂力であればそれでも相手を倒すことが可能だろう。二段構えの超重量攻撃だったのである。それが、受け流されたことで重心を崩し、完全に死に体となっていた。
「悪くない攻撃だった」
「ああ、ありがとうよ」
そして、フランの斬撃がメノアメアノを袈裟斬りにする。ただの斬撃ではない。美しい、それこそ天断に通ずる剣王だけが可能とする斬撃だ。
殺すわけにはいかないので威力は抑えているが、それでもその刃はメノアメアノの魔力と筋肉を切り裂き、彼女の肉体に深い傷を刻んでいた。
「はは……きれいだな」
血が噴き上がり、鬼が地面に倒れ伏す。だが、その顔には心底満足したと分かる笑みが浮かんでいた。
「勝者! フラン殿!」
「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」」」
レビューをいただきました。
お忙しい中、2ヶ月かけて少しずつ読んでくださったとは!
完結してだいぶたつのに、未だに読んでレビューをくださる方がいるというのは、とても励みになります。
ありがとうございます!