閑章四 絶海の孤島 07
閑章四 絶海の孤島 07
模擬戦は続く。序列9位は、ひょろりとした背の高い男だった。2メートル近いんじゃないか? 蛇の獣人であるようだ。
「よろしく」
「ん。よろしく」
以前出会った蛇獣人もそうだったが、種族的に表情が動きづらいらしい。一見すると無感情にフランを見ているが、そうではないだろう。
頬は紅潮しているし、鼻息は荒いのだ。大分興奮しているらしい。男は静かに名を名乗った。
「序列9位『蛇蹴』のウオミ」
「冒険者のフラン」
ウオミが片足を大きく上げる、フラミンゴのような構えを見せる。
「蹴りはいい。本来足が無い蛇である俺たちに足が与えられているのは、蹴りを使えと言う神の啓示だ」
「?」
『ようは、蹴りが大好きってことだ』
「ん。わかった。その蹴り、見せて!」
「参る」
覚醒したウオミの格闘術は怖ろしいほどにトリッキーで、強力だった。
蛇族の柔軟な体を活かし、足を鞭のようにしならせて蹴りを放ってくる。出所は見えないし、蹴りを放てるとは到底思えない体勢からでも足が出るのだ。
しかも、履いているオリハルコン製の靴が、蹴りの威力を高めている。
関節を外した足をグインと伸ばして、フランに一撃入れたのは恐れ入ったのだ。しかも、体に毒を纏えるらしく、かすり傷を受けただけで魔毒に侵されてしまった。
解毒の術が使えなければ、一気に劣勢に追い込まれていたかもな。ウオミがメノアメアノよりも上位に位置しているのは、この毒がかなり強力であるからだろう。
ただ、それ以降はフランに動きを見切られ、最後は足を切り落とされて勝負ありであった。
「強いな! さすがだ!」
「ん」
ウオミは治癒師たちに足を繋げられながら、フランをほめちぎっている。そこに負の感情はなく、純粋な称賛しか感じられない。やはりこの島の武芸者たちは、気持ちがいいやつばかりなのだ。
その後フランは、序列8位のドワーフ、手斧二刀流で戦う『激斬』のベルガノフ。7位の鳥人、空中槍術を得意とする『万華鏡』のアルケードに勝利した。
ベルガノフはとにかくタフで、相打ち狙いで斧を振るってくる戦闘スタイルだ。暴風のような双斧の連撃はちょっとやそっとの攻撃では止まらず、対処を迷っている内に相手を巻き込んでボロボロにするだろう。
再生スキル持ちなうえ、自作のオリハルコンアーマーを着込んでいるのも始末に負えない。ランクC冒険者程度では、動きを鈍らせることすら至難であるはずだ。
まあ、どれだけ頑丈でも、天断を食らって無事でいられるはずもなかったがな。ベルガノフはまだまだ戦えそうだったが、審判に止められて試合終了だ。
アルケードは空中で変幻自在に動く、トリッキーなスタイルだった。翼を巧みに使うことで緩急をつけて飛び回り、的を絞らせない。
時にはわざと翼を畳んで地面すれすれに落ち、時には翼を羽ばたかせて頭上を取り、相手の意識の隙を縫って槍を突き入れるのだ。
アルケードの槍聖術はレベル7くらいはあり、その突きを食らえばフランでもただでは済まないだろう。実際、地面に深いクレーターが穿たれていたのである。
しかもその手に持つ槍は魔槍のようで、周辺に幻影を生み出す能力があった。風景を歪めて、遠近感を狂わせてくるのだ。ただ、覚醒状態のフランの超感覚を誤魔化すことはできず、カウンターで撃ち落とされていた。
どっちも強かった。ランクA級だろう。
そして、次の対戦相手がやってくる。
身長の高い人間の男だった。狐のような細い目に、黒いおかっぱ頭の中性的な顔立ちの人物である。審判によって、その名前が紹介されたんだが――。
「序列6位、『藪医者』のコクトー!」
「よろしくお願いしますね。くふ」
「? やぶいしゃ? おいしゃさんなの?」
や、藪医者って……。酷い二つ名だな! でも、今は自分で付けてるって話だから、こいつ自分で藪医者って名乗ってるの?
確かに白い着物で、医者っぽく見えるが。
だが、藪医者という二つ名は彼自身が名乗ったものではないようだった。
「いえいえ。違いますよ。手前は幼き頃から刀の道に邁進してきた脳筋故。切創に関しての手当ては嗜みとしてやれますが、お医者様を名乗るにはとてもとても……」
「? じゃあ、なんでやぶいしゃ?」
「それは。この刀の銘なのですよ」
コクトーがそう言って、腰の刀をスラリと抜き放つ。それは白っぽい刀身をした、妙に長い刀だった。強い魔力を感じさせる。明らかに魔剣妖刀の類だろう。
「妖刀・藪医者。この島に伝わる、七典八刀と呼ばれる魔刀の一振りです」
「しちてんばっとう?」
『へぇ? 八本あるってことか?』
「はい。ですが、うち二本は双刀となっているので、実際は七組の刀ということでございますねぇ」
「ほうほう」
開祖オウカが自ら鍛えた刀であり、それが島に残されているのだという。どうもオウカにとっては失敗作だったらしいが、島の武芸者たちが頼み込んで貰い受けたそうだ。
「先ほどあなたに敗れたアルケードの万華鏡も、その魔刀の一つですよ」
「刀じゃないのに?」
「まあ、半分以上が刀なので、そう呼ばれているだけですね」
神剣と同じだな。剣と呼ばれているが、剣じゃない物も混じっているのだ。そして、魔刀を持つものはその銘が二つ名となるらしい。
「序列が上の人が持ってる?」
「はい。序列上位者に、所有が認められるのですよ。まあ、自身の戦い方に合えば、ですが。ベルガノフ殿が刀を渡されても無意味でございましょ?」
『そりゃ確かにな』
「ですので、序列上位者から魔刀を使うかどうか選ぶ権利が与えられる、といったところでしょうか。現在は序列1位から7位に魔刀が与えられていますが、歴代では珍しいことらしいですよ」
つまり、これから先戦う序列上位者は、皆が魔刀の使い手ってことか。
「さて、それではそろそろヤリましょうか? くふふ」
「ん!」
コクトーがニヤリと笑いながら、藪医者を構えた。改めて見ると、非常に長い。普通の刀よりも30センチ以上長いだろう。
そんなバランスが悪そうな剣を、コクトーは軽々と片手で構えている。ただ強い刀を持つだけではなく、明らかに使いこなす技量を持っていた。
「では、胸を貸していただきます」
「ん。くる」
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