LNCrawler

819 進んだ侵蝕

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819 進んだ侵蝕

体調不良で昨日の内に書き上がりませんでした。すみません。

抗魔の群れを斬り裂いて抜けたその先では、さらに激しい戦闘が行われていた。

巻き込まれぬようにするためか、他の抗魔たちは遠巻きに周りを囲んでいるだけである。この場だけが円形に開け、まるでコロッセオのようだった。

そんな戦いの場で、凄絶な殺し合いが行われている。

中央にいるのは、抗魔の指揮官個体と思われる、騎士型に似た抗魔だ。その頭部からは、普通の騎士型に生えているものの3倍はありそうな、捻じれた太い角が天に向かって屹立している。

そして、その周りには親衛隊と思われる、全身が黒い騎士型がいた。

そんな抗魔たちと相対しているのは、半身を抗魔のように変貌させた、1人の女性である。

金喰剣・オーバーグロウスによる侵蝕が進んでしまったナディアであった。

彼女の視線が一瞬だけこちらを向く。

「フラン、なんで、きたっ!」

「おばちゃんを助けるため!」

ナディアの言葉には、明確な拒絶が込められていた。ただ、それは負の感情から出たものではないことも分かる。守りたいからこそ、きてほしくなかったのだ。

そんなナディアに対し、フランが叫び返す。拒絶されたことも気にせず、真っすぐにナディアを見つめていた。

どちらにも、言い分があるだろう。互いを想い合っているからこそ、両者の意見は交わらない。

本当は分かり合うまで話し合いをさせてやりたいんだが、そんな余裕は全くなかった。

「イイイィィィィィィ!」

「邪魔っ!」

『焦るなフラン! こいつは強い!』

「ぐぬ……」

立ち塞がった抗魔に対して、苛立ったように俺を叩きつけるフラン。しかし、注意が散漫な状態で倒せるほど、敵は甘くなかった。

盾のように発達した腕の装甲で俺を受けると、鋭く長い鉤爪を突き出してきたのだ。

赤い竜に比べて速度は遅いが、近接戦闘での凶悪さは上かもしれない。

その技量は、コルベルトを彷彿とさせるレベルだった。フランの攻撃を正面から受けられる膂力に、移動の際の速度を見るに、ステータスはコルベルトよりも遥か上だ。

単純比較は難しいが、この漆黒の騎士型は赤い竜よりは弱いだろう。だが、黒角や赤角と比べたら、圧倒的に強かった。

『俺が動きを止める!』

「ん!」

形態変形を発動し、飾り紐を変形させた糸で攻撃する。鉤爪で斬り払われてしまうが、こちらの物量の方が圧倒的に勝っていた。さすがに、赤い竜のような凶悪な攻撃は持っていないらしい。

必死に糸から逃れようとしていたが、5秒もせずにその体が絡めとられていた。直後、フランに全力の攻撃で一刀両断にされる。

瞬殺したように見えるが、俺もフランも今の一瞬の攻防で凄まじく魔力を消耗してしまった。むしろ、一気に仕掛けて瞬殺せねば、厄介な相手だったのである。

この鉤爪騎士が残り5体もいた。

こいつらに加え、異常な存在感を放つボスもいるのだ。持ちこたえているナディアもまた、常識を超えた力を持っているだろう。

斬り倒した鉤爪騎士には目もくれず、フランはナディアに駆け寄った。

「おばちゃんから、離れろ!」

「ギリィィ?」

突如現れたフランを脅威とみなしたのか、鉤爪騎士たちが散開する。近づいてみると、ナディアの変貌ぶりは凄まじかった。

「フラン……」

顔の左半分が黒と銀の甲殻に覆われ、目が光沢のある緑色の球に置き換わっている。

体もそうだ。着込んでいるゆったりとしたローブの上からでも、左半身が肥大化し、硬質化しているのが分かった。

体から立ち上る魔力も人間とは思えず、抗魔に近い物になってしまっている。

抗魔の力を得た人ではなく、人の姿と特徴を持った抗魔と言われた方がしっくりくるだろう。

怪我や傷は全くない。ここまでで無傷ということはあり得ないので、再生力もとんでもなく強化されているようだ。

金喰剣・オーバーグロウスの形状も、かなり変化したな。基本的な特徴は同じなんだが、刃が巨大化し、より抗魔の色味に近づいている。

オーバーグロウスが成長したことで、抗魔化が急激に進んだのだろう。

だが、その内側までは侵食されていなかった。

「なぜ……ここに」

「仲間が協力してくれた!」

「師匠!」

ナディアが俺を睨む。お前が止めなくてどうすると叱られた気がした。

『すまん。でも、100人集まっちまったんだよ。だったら、止められないだろ?』

「……なんてことだ。フランが戻る前に終わらせるつもりだったのに……」

抗魔たちを睨みつけながら、ナディアが嘆きの声を上げる。こんなに早くフランが戻ってきてしまうとは思っていなかったのだろう。

『今は嘆いている場合じゃないだろ! まずはここから逃げよう!』

ナディアの体が元に戻る可能性は低いかもしれないが、これ以上の侵蝕が危険なのは誰が見ても明らかだ。その心まで抗魔と化してしまう前に、ここから遠ざけなければならない。

しかし、ナディアが首を振った。

「無理だ!」

『転移を使えばなんとかなる!』

「そうじゃない! 奴らは一度獲物を見定めれば、どこまでも追ってくる! 逃げる先などないんだ!」

『まじかよ……』

一時的に引き離したとしても、追われ続けるそうだ。どれだけ離れたとしても、特殊個体の抗魔は獲物を見失わない。

なんせ、ここは抗魔の大元である深淵喰らいの中なのだ。監視され続けているようなものなのだろう。

下手に町などに逃げ込めばそこが襲われるし、そもそもナディアは町に入れない。結界からも出れないから、大陸から脱出することもできない。

「特殊個体に狙われた場合、勝つか負けるしかないんだよ。今ならまだあたしが獲物と認定されているはずだ。だから――」

「じゃあ、アレを倒せばいい」

ナディアが「だから、フランたちだけでも逃げろ」、そう続ける前に、フランはその言葉を遮っていた。その先は口に出させないとでも言うかのように。

「何を言ってる! あれは特殊個体の中でも、戦闘特化の個体だ! あたしも、あれほど強い抗魔は初めて見た!」

オーバーグロウスを片手に、この大陸で戦い続けてきたナディアが初見? それって、そうとうヤバい相手を引き当てちまったんじゃないか?

しかし、フランは笑う。

「だいじょぶ。私と師匠とおばちゃんがいれば、きっと勝てる」

その言葉の裏には、絶対に自分だけでは逃げないという決意が秘められているのが分かった。

ナディアの残った右眉が、軽くしかめられる、だが、すぐにその表情は苦笑に変わっていた。

「……その頑固そうな顔。フラメアにそっくりだね。仕方ない……」

「じゃあ!」

「ああ、話はこいつらをぶっ倒してからにするよ!」

「ん!」

風邪っぽいです。気を付けてたんですけどね……。

こんな時期なので、大事を取って次回更新は27日とさせてください。