119話 迷宮運営の楽しみ方
119話 迷宮運営の楽しみ方
ゴブタが帰って来た。
ミリムにみっちりと鍛えられたのか、ボロボロにやつれている。
強くなったと言うよりも、ただただ痛めつけられただけに見えるが、大丈夫なのだろうか?
「へへへ、自分、やったっすよ……。クリアしてやったっすよ!」
と、うわ言のように繰り返すゴブタ。
ミリムは大きく頷き、
「うむ。見事であった! ヘルモードをクリア出来るとは思わなかったぞ」
と、ゴブタを褒める。
ミリムが褒めるのだから、ゴブタは何かを成し遂げたのだろう。
後で元気になったゴブタに聞いてみた所、修行内容は主に実戦訓練ばかりだったのだそうだ。
自分と同等か若干上の能力の魔物相手に、ひたすら戦闘を繰り返したらしい。
「ミリム様に、
『お前は、どう頑張ってもそれ以上の 魔素量 ( エネルギー ) の増加は期待出来ない。
だが、ランガと同一化出来るなら、その問題は解決する。
ならば、後はその増加する大きな力を使いこなせばよい話だ!
魔素量の増加はランガに任せて、お前はひたすら感覚を磨くが良い!』
って言われたんす。それ以降、ずっと 戦闘感覚 ( バトルセンス ) を磨く特訓っすよ」
と、笑顔で言っていた。
エクストラスキル『賢者』も獲得し、思考加速も可能になったようだ。
大した奴だと思ったものだ。
さて、ミリムも遊びに来た事だし、かねてより準備していたアイテムを取り出す。
ヴェルドラ、ラミリス、そしてミリム。
三人が俺の手に持つアイテムに興味深げな視線を投げかける。
場所はヴェルドラの居室。
地下迷宮 ( ダンジョン ) の最下層だ。
「みんな、注目! ここに、ある特殊なアイテムがある。
以前より、俺が開発を進めていたもので、画期的な発明とも言える。
我々の生活に、新たな楽しみを提供してくれる事、間違いなしだろう」
そう言って、三人に一つづつ、そのアイテムを配っていく。
これは、サリオン皇帝やエラルド公爵の用いていた、 人造人間 ( ホムンクルス ) にアイデアを貰っている。
仮初の肉体を用意するなら、ちょっと面白そうな事が出来ると考えたのだ。
「なんだ、これは?」
「見た事ないんだけど? 食べ物?」
「ふむ、我が思うに、これは魂の器に似た構造をしておるな」
と、三人がそれぞれの感想を口にした。
ヴェルドラが正解に近い。それは、魂の器を擬似的に作ったもので、 人造人間 ( ホムンクルス ) に乗り移る根幹部分を俺なりに改造したものだ。
しかし、ラミリス……食べ物の訳がないだろ。
俺が用意するもの全てが食べ物だとでも思っているのか、コイツ……。
まあ、いい。
「ヴェルドラが正解に近いな。これは、魂の器になるもの。
魂そのものを用意するのは難しいので、魔物の核もどきを作ってみた。
これを持ち、思い思いに好きな形を想像してみて欲しい。
既存の魔物でもいいぞ」
「ってことは、ゴブリンやオーク?
一角兎 ( ホーンラビット ) や、 人食熊 ( オーガベア ) とかでもいいの?」
「ん? いいぞ。ただし、好きな魔物にしろよ。
後で、これは嫌いとか文句言うなよ?」
俺の言葉に納得したのか、それぞれが 宝珠 ( ギジコン ) を持ち念じ始める。
暫くすると、魔素が宝珠に纏わりつき、魔物が発生した。
それぞれの望む姿をとって。
先ず俺。
薄いふわふわと漂う人魂。 幽霊 ( ゴースト ) の元だ。
物理攻撃を捨てた、完全魔法主体。
ステータスは省くが、特殊能力として〈元素魔法〉〈物理無効〉を習得している。
幽霊なので、物理攻撃は効かないのだ。
次にヴェルドラ。
骸骨が立っている。
人骨戦士 ( スケルトン ) だ。魔法は使えないが、成長すれば習得可能。〈気闘法〉も習得出来るだろう。
でも、今はまだ使えない。
続いてミリム。
プヨプヨとした瑞々しい肉体。だが、手足は無い。色が真っ赤で目立つけど、スライムだった。
おい……。
「おい、何でスライムなんだよ。俺への嫌がらせか!?」
「いや、だって……。好きな魔物とか言ったからだ。文句ないだろ?」
逆切れされた。
まあいいや。本人は喜んでスライム! と目を輝かせているし。
だが、何で真っ赤なのかは問い詰めたいけど。
最後にラミリス。
騎士? いや、鎧なのか?
それは、 動く鎧 ( リビングアーマー ) だった。一応、 全身鎧 ( フルプレート ) なのだが、みすぼらしい。
しかし、俺達四人が生み出した魔物の中では、もっとも大柄である。
身長が低いのがコンプレックスだったから、大きな魔物を生み出した、恐らくそんな理由だろう。
中身が無いのはお察しである。
実にラミリスらしい魔物であるかも知れない。
皆、自分が生み出した魔物を興味深げに眺めている。
だが、驚くのはこれからだ。
「みんな、聞いてくれ。
これは生み出して終わりではないんだ。まずは椅子にでも座って、寛ぐ姿勢になってくれ。
それから、自分の魔物に向けて"憑依"と、唱えて欲しい」
俺の言葉に頷き、各々好きなように寛ぐ。
ヴェルドラの居室だが、各自クッションや椅子などを持ち込んでおり、好き勝手しているので困る事は無い。
そして、一斉に"憑依"と唱えた。
俺も、意識が一瞬暗転し、すぐに視界が切り替わる。
『魔力感知』の効果範囲が狭くなり、視界が一気に悪くなった感じだ。
擬似的な五感は備えているので、こちらに転生したばかりの頃よりも大分マシではある。
けれども、そういう体験の無い他の3名は結構大変だろう。
狭くなった視覚で周囲を見回せば、屈伸運動をするスケルトンや異常な速度で動きまわるスライムが見える。
そして、ぎこちなく動くブリキのようなリビングアーマー。
しばしそうして自分の新しい身体の具合を確かめた後、
『凄いな、これ!!』
と、口を揃えて言いだした。
うむ、自分でも思った以上に馴染むのを感じる。
まるで自分の身体。ただし、性能が一気に落ちるので、動きは悪い。
だが、一旦その動きを認識すれば、反応の予測は簡単である。思いのままに動かせるようになるのもすぐだった。
「うむ。どうやら成功だ。
では、この魔物に乗り移り何をすべきか。言わなくても判るな?」
「クックック。愚問だな。我は知っているぞ、これがゲームだな!」
「何だと? それは本当か、ヴェルドラ!?」
「師匠! では、我々はこの身体で敵を倒すのですね?
そして、この身体を成長させる……?」
流石ヴェルドラ。
俺のやりたい事を、一発で見抜いてくれた。
そう、擬似的VRMMOである。
いや、MMOというよりはMOか? まあ、それはどうでも良い話だ。
大事なのは、せっかく作った迷宮を自分達でも楽しみたい、と言う事なのだから。
「ふふふ、流石だヴェルドラ。簡単に俺の考えを見抜くとは、な。
ラミリス、敵を倒すのではないぞ。この迷宮を攻略するのだ。
そして、この身体をレベルアップさせ、進化させるのだよ!
あ、当然だけど、冒険者も敵だから間違うなよ?」
『おおお、なるほど!!』
全員が納得してはいないだろうが、おぼろげに楽しそうだと理解出来たようだ。
俺達も死んだらここで復活出来るように、ラミリス作"復活の腕輪"を装備する。これは、一回で壊れずに、何度でも使用可能なのだ。
それから重要なのが、
「さて、大事なのは装備だな。
ある程度動けるようになったら、クロベエの所に行って武器と防具を作って貰うぞ!」
「おお、なるほど! このままではただの骨だしな」
「ふふ、愚か者め。ワタシの身体は高速機動型特殊スライム! このままでも十分通用するぞ」
「ねえねえ、アタシ、鎧なんだけど……この上に更に鎧を装備出来るのかな?」
「さあ? なんとかなるんじゃね? まあ、行ってみようぜ。
ミリムは装備要らないなら、留守番頼むな」
「ば、馬鹿を言うな! このままでも通用するが、装備は要るのだ!」
我侭な奴だ。
俺も当然装備は欲しい。一旦元に戻り、出かける準備をする。
「元に戻るには、"憑依解除"と念じたらいい。それで戻れるぞ」
元に戻り、宝珠を懐にしまいながらそう教えてやる。
ところが、ヴェルドラとラミリスは元に戻ったが、ミリムはそのまま俺の懐に潜り込んで来た。
そして、
「このまま行く。さあ行くぞ!」
と言い出した。
余程お気に召したらしい。子供っぽいが……、まあ子供か。
子供に子供っぽいと言っても仕方ない。
諦めてさっさと行く事にした。
クロベエの鍛冶屋にて、俺達は専用の装備を作成して貰った。
俺の武器は、 死神の鎌 ( デスサイズ ) と 冥府の衣 ( ヘルクロース ) 。
幽霊なのに装備出来るのは、 魔法武具 ( マジックアイテム ) の特徴である。
ヴェルドラは、 死神の片手剣 ( デス・バスタード ) と、 冥府の全身鎧 ( ヘル・メイル ) 一式である。
更に、 獄門の大盾 ( ゲートシールド ) を装備し、完全武装であった。
ミリムのスライムは、簡単な装備しか出来ない。
死神の一撃 ( デスピックル ) と、 紅の羽衣 ( クリムゾンローブ ) をその場で装備した。
「アイテムは、装備しないと効果が出ないのだぞ!」
などと言いつつ、ご機嫌である。
本人が喜んでいるのだ、俺が言う事は何も無い。
そして、ラミリス。
重厚な全身鎧 ( ヘヴィフルプレート ) を用意して貰った。
ラミリスは不安そうに、 動く鎧 ( リビングアーマー ) に憑依してその鎧を受け取ろうとしたのだが……
何と、鎧が入れ替わったのだ。
ガラン、と音を立てて、ボロボロの鎧が地面に転がる。
そして、塵になって風に吹かれて消えてしまった。
ラミリスの 動く鎧 ( リビングアーマー ) は、 動く重鎧 ( リビングアーマー ) へと変化したのだ。
進化では無い。どうやら、装備ではなく入れ替わるようである。
「ちょ! 凄い動きやすくなった!」
ラミリスの言う通り、油の切れたようなぎこちない動きだったのが、スムーズに動くようになっている。
鎧の性能で、動きにも影響があるようだ。思わぬ発見であった。
喜ぶラミリスに、武器と盾を選ばせる。
「ふふん! アタシは盾なんて要らないさ!」
そう言って、両手用の大きな武器を選ぶラミリス。
死神の大斧 ( デスアックス ) である。威力だけなら最高の武器だが、扱いが難しい。
まあいいさ。普段、力不足で馬鹿にされるから、こういう所で大きな気分になってしまうのだろう。
面白いように性格が表れている。
俺は物理を捨てて、魔法と精神攻撃の特化型。
職業 ( クラス ) は 魔術師 ( ウィザード ) だ。一応、回復魔法も覚える予定である。
ヴェルドラは、万能型で、何でもこなす。その内、魔法も覚えるつもりだろう。
職業 ( クラス ) は 魔法戦士 ( マジックナイト ) と言えるかな。まだ魔法は使えないけど。
ミリムも速度特化で、一撃狙いの超特化型。あるいは、浪漫型とも呼べるだろう。
天井から不意打ちの一撃で、敵を仕留める作戦なのだそうだ。
嵌れば強いだろうが、通用しない敵はどうするのか? まあ、逃げるんだろうな。速度も早いし。
ある意味、スライムの理想系とも言えるだろう。
職業 ( クラス ) は 暗殺者 ( アサシン ) だ。ソウエイに師事するのもアリかも知れないが、遊びで迷惑をかけるのは禁止である。
ラミリスは攻撃特化型。ある程度防御力もあるので、安定するかも知れない。
職業 ( クラス ) は 凶戦士 ( バーサーカー ) だ。狂ってないけど、攻撃特化の危険な魔物。
慣れたらヴェルドラと双璧を為す、壁役になって貰いたいものである。
さて、皆新品の装備を貰ってご満悦である。
この装備、等級で言えば 特質級 ( ユニーク ) である。ただし、魔物でも装備出来るように専用装備に調整して貰ったので、そこまで強くは無い。
けれども、初心者にとっては最高装備と言えるだろう。
呪いの一種で、使用者制限も付いているので、盗まれる事も無いのだ。
準備は整った。
空腹など関係ない俺達は、食料の準備等必要無い。
気の向くままに、迷宮へ挑戦し、冒険者を血祭りに上げる事にしよう!
ちなみに、放置している本体だが、俺は意識の分割が出来る。なので、何かあっても対応可能なのだ。
遊んでばかりもいられないので、分身の一体は緊急連絡用として、 魔物の国 ( テンペスト ) の執務室にも座っているし。
抜かり無しであった。
俺達は早速迷宮に戻り、探索を開始する。
俺達の冒険は、始まったばかりなのだ!
こんな感じで、俺達は浮かれて楽しんでいた。
小さな失敗は幾つもあったが、計画は順調であり問題は無かったのだから。
だが、事態は常に動いている。
遊びながらも情報収集は行っていたのだが、俺の想像を超えた所で物語は動き出した。
魔王とは言え、神ならざる者である。知りえぬ事は予想も出来ないのだ。
楽しい時は、唐突に終わりを迎える事になる。
それは、真夏の夜の夢の如く、唐突に。
その情報が齎された時、楽しい時は終わりを迎えるのだ。
ほのぼの編は終了です。
まだ書きたい事は残ってましたが、そろそろ本編を再開いたします。
章の名前を変更しました。
また変更するかも知れませんが、一応はこれで。