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167話 時代の分岐点

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167話 時代の分岐点

帝都近郊の林道に潜むように、10万名に達する者達が集結していた。

それだけの人数が集まっているというのに、その一帯は水を打ったような静けさに包まれている。

一兵卒に至るまで、驚く程、錬度が高い事を証明していた。

黒騎士卿 ( ブラックナイト ) クロードはユウキへ"念話"にて状況を伝えると、静かにその場から一人離れた。

混成軍団の副司令には、ユウキへ連絡を行うと言って抜けて来ていた。その為、クロードが一人で動いても誰も怪しむ事は無い。

クロードはユウキの能力" 奪心掌 ( オーバーライト ) "により、一度はレオンへの忠誠を書き換えられた。しかし、クロエにより現在は元通りに治癒された身である。

だが、一度心を奪われて以降、クロードは常に自分の心というものについて悩みを持つようになっていた。

心とは何か?

果たして、簡単に能力などで他人に書き換えられるものなのか?

そして、そのような事を許しても良いのか?

レオンは偉大な男であり、幼少の頃より面倒を見て貰っていた。クロードの知る限り最強の男であり、崇拝する憧れの人物でもある。

そんなレオンを、一瞬とは言え裏切る事になった事実は、クロードにとって許しがたい汚点となっていたのだ。

しかし、現状はユウキへの忠誠を演じ続ける必要がある。疑われて、上書きされた心が元に戻っている事がばれるのは不味いからだ。

クロエに治癒を受けて以降、心を鍛える事に全力を尽くしてはいるのだが、鍛えられるものなのかどうかは自信が無かった。

次こそは耐えてみせようと誓うものの、確実に成功するかどうかは不明。恐らくは、再び心を上書きされる確率の方が高いだろう。

だからこそ、慎重に。

ユウキに疑われる事が無いように、細心の注意を払い行動して来たのだ。

集団から離れ、一息つく。

そのクロードに、気配もなく一人の人物が声をかけた。

「連絡は終わった?」

内心驚きはしたものの、声から相手の正体に気付き、納得する。

クロエ・オベール

黒色に銀色を混ぜたような不思議な色の髪を持つ、美少女。

その外見からは想像もつかない、恐るべき実力を持つ存在。

ユウキが一目おく、この世で"最強"とも言われる少女なのだ。

「クロエ殿、か。問題ない。ユウキには連絡した。

しかしヤツは、本当にクーデターを起こす気なのか?

余りメリットが多いようには感じられぬが……」

「うん。そうだね。

彼が何を考えているのかは理解出来ないし、考えても無駄だと思う」

「クロエ殿も何か頼まれたのか?」

「うん。私は保険なんだって。万が一に備えての」

「それはその、三つの命令を使用した事にはならないのか?」

クロードが兼ねてより疑問に思っていたのが、クロエを縛る三つの 命令 ( ねがい ) の範疇である。

クロエは結構ユウキの頼みごとを引き受けているのだが、それは 命令 ( ねがい ) にあたるのではないのか?

常々そう疑問に思うクロードであった。

なので疑問を口にしたのだが、

「うん。私が心の底から拒否したいと思わない限り、 命令 ( ねがい ) にはならないみたい。

最初の 命令 ( ねがい ) で、 彼 ( ユウキ ) に敵対しないように言われているから、余計にね」

と、複雑そうな苦笑を浮かべてクロエが答える。

それは御人好しが過ぎるのでは? とは思うものの、こればかりはクロードにはどうする事も出来ないのだ。

自分にしたように、時の巻き戻しによる"支配呪"の解除を試みれば良いのにと思うものの、それは不可能だと言うのである。

クロエ程の能力者が出来ないと言うのだから、それは不可能なのだろうと理解するクロード。

心を支配される、その事に嫌悪感を持つが、クロエは自我を持つだけマシなのだろう。

「ではクロエ殿はクーデターには参加しないのだな?」

「ええ。帝都転覆が目的では無いようだし、民衆への被害は出さないように副指令には伝言した。

私はこのまま闇に紛れます。

クロードさんはチャンスだと思うよ?」

「――チャンス?」

「うん。レオンお兄ちゃんの所へ戻るのは、今が絶好の 機会 ( チャンス ) だと思う」

成る程、とクロードは理解する。

この機に乗じて、戦死を演出するのは確かに良い機会であった。

この混乱状況なら、ユウキも部下一人が消えても深く調査する余裕は無い。

混乱が治まり、クロードの死が偽装であると気付いても、既にクロードはレオンの下へと脱出を終えているという寸法だ。

「了解だ。助言有難う。ワシはこのままレオン様の下へと離脱します」

そう言うなり、分身術"影騎士"を実行するクロード。

瓜二つの外見を持つ、偽装分身。それが、"影騎士"であった。

能力は30%程度で、12時間活動を継続可能である。意識に 繋がり ( リンク ) があるので、諜報活動向きの能力なのだが、この場面では丁度良かった。

"影騎士"が集団に戻るのを確認し、クロードはクロエに一礼する。

そして、レオンの下に向け、速やかに移動を開始したのだ。

その事が 黒騎士卿 ( ブラックナイト ) クロードの命を救う事になったのだが、本人がその事を知るのはもう少し後になってからの事である。

クロエもクロードが去ったのを見届けると、存在を抹消したように姿を消した。

彼女にはユウキに頼まれた依頼があり、それを拒否する事なく引き受けている。

だから戦場となる帝都を離れる事もなく、帝都の闇へと戻って行った。

そして、"紅蓮の粛清"と呼ばれる事になる、惨劇の幕が開いたのだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

そもそも。

"灼熱竜"ヴェルグリンドにとって、ギィとルドラのゲームになど興味は無いのだ。

直接戦い、どちらが上かを決めれば良い、そう考えていた。

もっとも、正直な感想を述べるならば、ルドラと自分のコンビがギィと姉――"白氷竜"ヴェルザード――のコンビに勝つのは難しいと考えている。

ギィは紛れも無く最強の魔王であり、姉は間違いなく自分と相性が良くない。

姉とヴェルグリンドが戦えば、下手をすれば対消滅、良くて共倒れ。

上手く行く可能性は低い。というか、皆無だ。

熱と氷という相反する性質。言い換えれば、加速と減速となる。

戦えば、どちらかが生き残るという事はなく、どちらもが倒れる。つまり、両者共に消えるか、戦闘不能になるか、そのどちらかなのだ。

自分と姉が互角であるならば、勝負はギィとルドラで決着となる。

そうなると、幾ら究極能力を持つとは言え、人間であるルドラが不利なのだ。

だからこそ、本音では直接戦闘を望みつつも、敗北が濃厚なので盤上のゲームにて決着を付ける事を了承していたのである。

(ああ、面倒臭い)

それが本音。

策を弄する事が嫌いなヴェルグリンドは、何百年もかけて準備するという緻密な行動が苦手だった。

だから全てをルドラに任せて、自分はただ従うのみだったのだ。

だが、それで面白い筈もなく、好きに暴れる事も出来ない現状に不満を持っている。

そんな中、好き勝手に暴れる弟――"暴風竜"ヴェルドラ――を羨ましく思い、よりストレスを溜める事になる。

(本当にあの子は好き勝手して……でも、今回は予想と違って出てこなかったみたいね)

先日、クリシュナから報告を受けた皇帝ルドラが言うには、帝国軍凡そ100万が全滅したそうである。

それは別にどうでも良いのだが、その原因としてヴェルドラが関与していないというのが不思議であった。

ヴェルグリンドの予想では、お祭り好きの弟が暴れる機会を逃すとはとても思えないのだ。

魔王リムルに協力していると聞いているが、言いなりになるような性格では無い。

だとすると、 弟 ( ヴェルドラ ) を言いなりに出来るだけの何かを、魔王リムルは用意出来たという事になるのではないか?

そんな事を考え、ヴェルドラを納得させた何かについて想像してみる。

だが、何も思いつかなかった。

(つまらないわ。今度、直接聞き出した方が良いかも知れないわね)

結局、考える事を放棄した。

そんな時、ヴェルグリンドに一つの依頼が来た。

皇帝ルドラが、

「ヴェルグリンド、お前も退屈であろう?

久々に暴れてみるか?」

と、問うてきたのだ。

二つ返事で引き受けた。

対象は、愚かにも皇帝に叛く帝国の将兵。

皇帝に対し、クーデターを画策した愚か者達だ。

そして、魔王リムル。

帝国軍を壊滅せしめた、新参の魔王。

強者が揃っている上に 弟 ( ヴェルドラ ) までいるのだから、さぞかし手ごたえがありそうである。

「ええ、いいわね。

貴方の手駒の敵討ちというつもりはないけど、魔王リムルを潰しに行くついでに片付けましょう」

肩慣らしとして愚者共を血祭りに上げ、その勢いのままリムルという名の新参の魔王を潰す。

自分が出て暴れた後に、皇帝ルドラが地均しすれば良い。

最初からそうしていれば、無駄な損耗を防げたのだが、しかしそれでは将兵の質の向上には繋がらない。

出来るだけ経験を積ませて、 近衛騎士 ( ロイヤルナイト ) クラスの強者を育てねば、今回のように蹂躙されて終わりになるだけなのだから。

魔王ギィ・クリムゾンを相手にするには、弱兵が何百万いた所で意味が無いのだ。

だが、せっかくそういう意図で送り出した軍団は、育つ間もなく刈り取られてしまったのだから面白くない。

前回のヴェルドラに滅ぼされた時の方がマシである。

何故ならば、前回は生き残った数名が、進化に成功していたのだから。

恨みと恐怖と絶望と。

しかし、その中で希望を失わなかった者のみが、人という殻を破りその先へと到達出来るのである。

それなのに、今回は状況が異なり、生存者は皆無だった。

報告をして来たクリシュナも、それ以降連絡が途絶えている。

絶望を味わい、この世の最強の力の一旦に触れて生存してこそ、人は進化の可能性を秘めている。

だと言うのに、今回は本当に無駄死にだったようだ。

クリシュナだけではなく、他に潜り込ませていた数名の 近衛騎士 ( ロイヤルナイト ) すら、全員消息を絶っている。

カリギュリオのように見所のある者ならば、極限状態に至った時、 神話級 ( ゴッズ ) 武具を使いこなし生存も可能だろうと予想していたのに。

期待外れも良い所であった。

一人の進化者も出なかった今回の遠征は、完全なる失敗であったのだ。

だからこそ、魔王リムルについて、ルドラに何らかの思惑があるようだ。

力を計る意味も込めて送り出した百万の将兵が全滅し、生存者が居ないという報告がなされた時、ルドラは一瞬今後の展開について迷いを見せた。

ヴェルグリンドが初めて見る、皇帝ルドラの迷った姿であった。

すぐにルドラは考えを纏め、

「先にルミナスを始末しようと思う。

魔王同士の繋がりが希薄な今、始末しておく方が良さそうだ。

ルミナスが究極能力に目覚めた以上、面倒だが潰しておかねばなるまい。

ルミナスを救う為にギィがヴェルザードを動かすとも思えないし、先に其方を頼めるか?」

方針を述べた。

ヴェルグリンドも直ぐに理解を示し、納得の表情を浮かべる。

長き付き合いであり、お互いの考えはすぐに伝わるのだ。

「というと、クーデターを起こした者を始末してから、ルミナスを殺せばいいのね?」

「ああ、今グラディムが向かっている。

飛空船には転移魔法陣も設置されているから、合流してくれ」

「あら? ルミナスを殺してしまってもいいの?

てっきり生け捕りにしろと言われるものだと思っていたけど?」

「ふふふ。"魂の練成システム"は良く出来ているからな。

人間を鍛えるのに戦争による実戦のみで育てていたが、脅威を与え養殖するとは思いつかなかった。

だが、聖騎士の育成方法は特殊だから、あの地を抑えられれば問題ない」

「了解。生き残りに養殖を続けさせるつもりなのね。

しかし、上手く隠れたものだわね。まさか神都に隠れ住んでいたとはね」

「確かに、な。

お陰で発見に時間が掛かってしまったよ。

空間偽装して亜空間に居城を移したものと思っていた。

それもこれも、 お前の弟 ( ヴェルドラ ) がルミナスの 夜薔薇宮 ( ナイト・ローズ ) を破壊して警戒させてしまったのが原因だ。

邪魔ばかりしてくれるな、ヤツは。

本当に忌々しい」

「うふふふふ。じゃあ、今度会ったら、私がお仕置きしておくわ」

笑って出て行こうとするヴェルグリンドに、

「そうそう、言い忘れていた。

余を裏切った馬鹿共は殺さずに苦しめるだけにしておいてくれ。

天使を降臨させた時、天使の受け皿として利用しようと思う。

天使も精神生命体だが、受肉した方が役立つかも知れないしな」

「ああ、成る程。ギィが悪魔を受肉させて使役しているのを真似るのね?

上手く行くと良いわね。

まあ、生かさず殺さず、逃げ出せないようにして放置しておきましょう」

「任せる」

邪悪な企みを告げる。

ヴェルグリンドは気軽に頷き、外の世界へと出て行った。

そして、数百年ぶりに己の全力を解放する事になる。

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ユウキとダムラダは、激しく拳を交差させ、戦闘を行っていた。

ダムラダを討とうとするユウキの部下達を制し、自身で戦うと宣言していた。

理由は幾つかある。

先ず、ダムラダの強さが異常だと気付いたから。

ユニークスキル『暗殺者』に目覚めていたアリオスは、ユウキの部下の中でも格段に強い。

軍団内での序列強奪戦では相手を殺す事が出来ないので、その力を封じて戦っていた。故に、近衛になれないというだけの話で、実力だけなら上位に位置するのである。

何名か 近衛騎士 ( ロイヤルナイト ) にも部下を潜入させているのだが、その者達より格上の実力者だったのだ。

それを一撃で殺すとは、ダムラダを侮るのは危険であった。

もう一つの理由。

能力に頼らず、肉体を鍛えろというダムラダの言葉、これに引っかかりを覚えた。

この言葉は、明らかに忠告である。だが、ダムラダは此方を殺す気できている。

殺すなら、忠告など与えずに殺る、ダムラダはそういう男だ。

その矛盾が気になったのである。

だからこそ、ダムラダなりの思いを感じ取り、自分が相手をしようという気になっていたのだ。

そう、もしかするとダムラダは……

二人の拳が交差する。

何度か繰り返された遣り取り。

人の動きの範疇を超え行われてはいるが、それは約束組手を見るかのように、洗練された武技の応酬であった。

躊躇なく顔面の急所を狙って放たれる裏拳を、手の平で受け流しつつ、そのまま手刀を放つユウキ。

その手刀を予想したかの如く、後方へ回転しつつ足で二連蹴を放ち遣り過すダムラダ。

そのままその場で沈み込み足払いを実行するが、ユウキはそれを察知して跳躍し、回転蹴りにてダムラダの頭を狙い打つ。

しかし、その蹴りは空を穿つのみで、ダムラダは既に距離を取り立ち上がっていた。

高度な達人同士の格闘戦であった。

ユウキの能力は奪う事に特化している。

だからこそ、拳を交えながらも、接触する度に相手からエネルギーを奪い取る。

魔力であったり、体力であったり、それは相手次第であるが、奪ったエネルギーは自分のものとして利用出来るのだ。

それが 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 強欲之王 ( マモン ) 』の特殊効果の一つであり、ユウキの有利な状況を生み出す根源である。

だが、ユウキは内心で、不満を感じていた。

強欲之王 ( マモン ) の能力の一つ、 奪心掌 ( オーバーライト ) が防がれたからだ。

対象の魂の情報を 上書き ( オーバーライト ) し、自分への忠誠心を書き込むだけで勝利出来ると考えていたのだが、その考えは甘かったようである。

自分の 究極能力 ( アルティメットスキル ) の効果範囲を警戒しつつ、遠距離から仕掛けて来ると思っていたのだが、ダムラダはあっさりと接近戦に応じた。

ユウキの能力で勝負が決まらないのならば、格闘術に秀で、"拳聖"とも称されるダムラダが有利となる。

相手の生命を奪い取る 奪命掌 ( スティールライフ ) は 奪心掌 ( オーバーライト ) よりは 抵抗 ( レジスト ) しにくい筈であったが、決定打とはならなかった。

微量のエネルギー吸収が精一杯だったのである。

究極能力 ( アルティメットスキル ) は、 究極能力 ( アルティメットスキル ) でしか防げない。

その原則から考えるならば、ダムラダは隠れた能力者であったという事になるだろう。

「やれやれ。まさかダムラダ、君が 究極能力 ( アルティメットスキル ) を獲得しているとは思わなかったよ。

最初から持っていたのかい?」

「借り物ですが、ね。当然、ユウキ様に出会った時から所有しておりましたよ」

「借り物? それはどういう意味だい?」

「言葉通りですな。人間では 究極能力 ( アルティメットスキル ) のエネルギーには耐えられない。

普通なら、覚醒する事は不可能でしょう。

それこそ、"異世界人"のように肉体の作り変えも行われていなければ、ね。

ですが、人は修行の末に"進化"します。種族そのものが、変化するのです。

つまり、人間から仙人、へと。

人と交わらねば生きられぬ人間ではなく、個でありつつも世界と繋がる仙人。

そして、仙人に覚醒進化した者は、皇帝陛下の選別に合格したと言えます。

皇帝ルドラ様は、配下を仙人へと目覚めさせる為に、何度も戦争を起こしておられるのです。

そして、仙人に進化した者に与えられるのが、 究極付与 ( アルティメットエンチャント ) 『 代行者 ( オルタナティブ ) 』なのですよ」

そう説明し、ダムラダはチラリと、ユウキと自分の戦闘を眺める者達を見回す。

「故に、君達もただ能力に頼るだけでは、真の強さには至れないのです」

そう言い放った。

何かを期待する、そんな思いを感じさせる視線とともに。

ユウキはそんなダムラダを見て、先程感じた疑問の答えに確信を得る。

ダムラダは依然としてユウキにも忠誠を誓っている、その事に。

つまりは、皇帝により施された能力付与により、皇帝を裏切る事は不可能なのだ。

自分の 奪心掌 ( オーバーライト ) が防がれたのも当然の話。

皇帝の 究極能力 ( アルティメットスキル ) の支配効果により、絶対的に 魂の保護 ( ソウルプロテクト ) が為されていたのだから。

そして今、これだけの情報を流すという事はユウキ達を生かすつもりが無い事を意味する。

それと同時に、ユウキが打っているであろう手段に気付いているのなら、この情報をユウキに漏らす行為そのものが、ダムラダのユウキへの忠誠心を証明しているのだ。

皇帝への忠誠を刻み込まれて尚、ダムラダはユウキを主と選んだ。そう思える。

ならば、 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 強欲之王 ( マモン ) 』の力で皇帝の能力を上回れば良い話なのだから。

ユウキはそう判断した。

「成る程、ね。疑問は解けたよ。ではそろそろ、決着をつけようか?」

頷くダムラダ。

そして再び両者は構えを取り、互いの攻撃に備える。

気を練るその一瞬の隙を狙いユウキが動こうとした瞬間、

「何を遊んでいる、ダムラダ。

さっさと異分子を始末せよという、陛下の御命令を忘れたか?」

冷たい声が聞こえ、ユウキは胸に激痛を感じた。

音もせず。

背中に空いた小さな孔から血が噴出してくる。

それは明らかな致命傷であった。一発で心臓を破壊されていたのだ。

「ぐ、貴様……」

「ユウキ様!!」

口から血を吐きつつ、後ろを振り向くユウキ。

そしてそのまま倒れ込む。

蹲っていたカガリが瞬時に駆け寄り、ユウキを受け止めた。

しかし、治癒魔法を発動させても意味が無い事に気付き愕然となる。

背中からユウキを撃ち抜いた弾丸は心臓を破壊し、そこで微小な魔術的爆発を起こす。その爆発に混ぜられた破壊因子が呪いとなり、血液を巡って全身を冒すのだ。

それは、小型拳銃に込められた特殊弾丸―― 呪壊弾 ( ネクロシス ) ――の効果である。

近藤は、初弾にて魔法結界や呪術的防御の類を破壊する弾丸―― 破界弾 ( リムーブ ) ――を放っていた。

防御効果を一瞬で破壊した後、本命の 呪壊弾 ( ネクロシス ) を撃ち込んだのだ。

この弾丸は、竜すら仕留める。不死属性のアンデットであっても、呪いの因子により魔力回路を破壊されると死滅するのだ。

命中すれば、精神生命体である 上位魔将 ( アークデーモン ) すら一発で仕留める事が可能であった。

抵抗 ( レジスト ) に失敗すれば、必ず死に至るのだから。

背後から撃たれたユウキは、 抵抗 ( レジスト ) さえも許されず死に至る事になった。

近藤中尉は手に持つ小型拳銃を仕舞いながら、悠然と歩み寄って来た。

今の一瞬に二発の弾丸を放った拳銃だが、火薬によって銃弾を撃ち出している訳ではないので取り扱いに注意する必要は無い。

慣れた動作で懐へと仕舞い込んでいた。

「これは……近藤中尉、お久しぶりですな。

しかし、せめて最後は私の手でユウキ様を葬って差し上げたかったのですが……」

「遊んでいる暇は無い。陛下がお待ちだ。さっさと残りを始末するぞ」

冷たく言い放ち、合図を送った。

その合図を受けて、300名近くが入っても尚十分な広さのあった広間に、数名の兵士が入って来た。

情報局所属の兵士達。

その正体は、帝国皇帝近衛騎士。No.06〜No.10の最強騎士上位5名である。

それに加えて、No.01で近衛騎士団長の近藤中尉とNo.02であり副官であるダムラダ。

ユウキ配下の上位300名近い精鋭であろうとも、皆殺しにするには十分過ぎる戦力であった。

ダムラダは何かを言いかけ、諦めたように口を噤む。

彼は皇帝陛下の忠実なる騎士であり、近藤中尉の行動は理に適っていたのだから。

戦いに正々堂々など存在せず、勝利すれば正義なのだ。

それを理解するダムラダに、文句を言う資格はない。

ダムラダは気持ちを切り替え、速やかに行動を開始した。

3分も掛からずに、部屋の中にいた反逆者全員が始末された。

ユウキの死で怒りに染まって向かってきたカガリなど、赤子の手を捻るよりも容易く始末されている。

近藤中尉の強さは、ダムラダの目から見ても異常なのだ。

ここに居る者は全員、皇帝陛下より 究極付与 ( アルティメットエンチャント ) 『 代行者 ( オルタナティブ ) 』を与えられた者達である。

故に、最初から警戒すべきはユウキ一人であったのだが……

序列強奪戦に参加して良い成績を残せるような強者達を一方的に蹂躙する様は、一種異様な凄みを感じさせた。

だが近藤は、当然の結果だとばかりに表情を変える事もなく、撤退を命じた。

「中尉、コイツどうします?」

近衛 No.06 ミナザがユウキを指し示す。

仮にも 究極能力 ( アルティメットスキル ) を自力で獲得するような"異世界人"だ。そのまま放置すれば何らかの問題が生じる可能性がある。そう考えたのであろう。

確かに近藤の 呪壊弾 ( ネクロシス ) は、全ての呪的効果や魔法効果を破壊する。能力の根幹を破壊され、魂へと破壊因子を撃ち込まれた以上、復活等有り得ないだろう。

しかし、それでも油断はするべきではないのではないか? それがミナザの考えであった。

近藤はその質問を聞くなり、早撃ちにて一発の弾丸をユウキに撃ち込んだ。

「行くぞ」

結果も見ずに歩き出す。

撃ち込まれた弾丸―― 消滅弾 ( イレーザー ) ――は、近藤の意思に従い効果を発揮した。

3秒かからずに、ユウキの肉体は崩壊し、消滅したのだ。

ミナザは納得し頷くと、近藤に続きその場を後にする。

他の騎士達も同様に。

ダムラダは一瞬立ち止まりユウキが居た場所に視線を向けたが、それ以上何もする事なく皆に続いて出て行った。

ユウキが死んだ以上、彼の主は皇帝陛下唯一人なのだから。

その日、真夜中であるにも関わらず、空が赤く染まり、血の色に染まったような真紅の雨が降り注いだ。

帝都の臣民達は怯えて噂話をし合ったが、それは全て正しくはない。

だが、そんな噂話をする余裕があったのはその日が最後であった。

時代は大きく動き出し、帝都もまた、激動の波に飲まれて行く事になったのだ。