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194話 天地鳴動

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194話 天地鳴動

その日、世界に住む全ての者に、宣戦布告が通告された。

上空に映し出された巨大な 映像 ( ビジョン ) 。

映し出された碧い瞳の少年が、重々しく口を開いた。

『ボクの名はヴェルダ。この世に破滅を齎す者だ。

今日、この日この時を以って、全世界の住人に対し、宣戦布告を行う。

生か、死か。

精一杯、抗ってみるといいよ。では、始めようか。 最終戦争 ( ハルマゲドン ) を!』

その言葉が、開始の合図となった。

突如空中に出現した巨大な門より、天使の軍勢が続々と湧き出て来る。

世界は混乱に包まれたのだ。

やれやれ、いきなり先制攻撃を受けた心境である。

悪徳の意志 ( アンラ・マンユ ) 改め、ヴェルダの宣誓により、 大戦 ( ゲーム ) は 勃発 ( かいし ) した。

しかし、ヴェルダ、か。

悪徳の意志 ( アンラ・マンユ ) に名前があったという事は、ユウキの裏人格というだけでは無かったようだ。

どういう関係かは知らないけど、使ってくる策がまるで違うのも納得であった。

「ヴェルダだか何だか知らないけど、ボクがギャフンと言わせてやる!」

「ええそうね。リムル様の手を煩わせるまでもありませんわ」

「ああ。さっさと出向いて来ない所を見ると、世界の破滅を望むにしてはお粗末だな」

ウル、テスタ、カレラが好き勝手に喋っている。

俺からすれば、ユウキより余程慎重で、やり難く感じているんだけど。

この3 柱 ( めい ) の自信は、一体何処から湧いてくるのやら。

作戦統合本部である管制室に設置した複数の大スクリーンには、俺の監視魔法にて各国の状況が映し出されている。

状況は良くは無いが、最悪でもない。事前に連絡し、この状況を各国の首脳部が予想出来ていたからだ。

少ない時間ではあったが、人々の避難誘導の手筈は整っていた。問題は、長期化すると食糧不足により、大混乱が発生するだろうという点である。

ヒナタ達も人々の誘導に協力し、昨日までに避難は完了しているのだが、半信半疑だった人々も今は大人しくなっているとの事。

だが、それもいつまで持つものやら。

恐怖で混乱する者や、不安から叫んだり暴れたりする者など。今は少数だが、時を重ねるとそういう者も増えていくだろう。

避難が完了している首都圏の者達は、一週間程度しか食糧がもたないだろうし。

農村部の者達まで手は回っていないので、警告を伝えただけである。後は、自治体の者の采配で、それぞれが各自対応しているのが現状なのだから。

現状の状態を維持するだけでも、かなりの労力を必要とすると思われた。

500年毎の大戦が生じていた為に、避難場所だけは用意されている。

各国の首都には、地下や近隣の山腹の洞窟などに、住民の避難場所が用意されていたのだ。

一応保存食も備蓄されてはいるが、万を超える住民全てを満足させるには心許ない。

今までの大戦の記録によれば、大体一週間程度で天使は引き上げたらしい。だが、今回はどうなるか不透明だった。

今までよりも多めに準備させてはいるのだが、大戦が長期化する場合、暴動が起きる事も予想される。

こればかりは状況次第だが、最悪の場合は、暴動鎮圧にも兵を割く必要があるかも知れないと考えるのは、憂鬱であった。

天使はどう動くのか? それが問題である。

今までと異なり、意思を持って行動する天使の軍勢は、果たして何を優先目標にしているのだろうか。

俺達対抗勢力に集中するのか、それとも俺達を呼び寄せるべく、人間の国家への攻撃を優先させるのか。

それを見極める為にも、監視魔法は効果的なのだ。

であるからこそ、重要な地点は全て監視が出来るようにと映し出していた。

天使達の動向を即座に把握出来るように、準備は整っていたのだ。

ギィの住まう、極寒の大陸にある"白氷宮"。

レオンの治める魔法都市、" 黄金郷 ( エル・ドラド ) "。

ルミナスの隠れ住まう、神聖法皇国ルベリオス。

ダグリュールの支配する巨人の王国の居城、天通閣。

西側諸国の各王都と主要都市。

東の帝国の首都と、要所に存在するそれぞれの大都市。

そして、ジュラの大森林以南に広がる広大な豊穣の大地の中央付近に、優雅に聳え建つミリムを崇拝する者達が築き上げた白亜の城こそが、" 破壊の暴君 ( デストロイ ) "ミリムの居城であった。

その全ての地点は、大スクリーンに明瞭に映し出されていた。

宣戦布告が為された直後、空中に出現した巨大な門より、天使の軍勢が湧き出て来ている。

しかし、それは大半は虚仮威しであった。

本命は、4箇所に集中していたのだ。

先ず、ギィにはクロエが差し向けられているので、除外されている。

この事からも、余分な戦力は流石に無いという事が伺える。

で、問題の4箇所はというと……

先ず、" 黄金郷 ( エル・ドラド ) "だ。規模と質が異なる天使軍20万が侵攻していた。

続いて、神聖法皇国ルベリオス。此処にも20万の軍勢が攻めている。

3箇所目が、ミリムの居城である白亜城だ。この場所にも20万の軍勢が出現していた。

そして最後の場所が、頭上である、迷宮の外。

つまりは、俺達の国、 魔物の国 ( テンペスト ) へと40万もの天使軍が攻めて来ていたのだった。

って、何で俺の所だけ倍なんだよ。

ダグリュールのおっさんの所にも、戦力を向けて欲しかった。そうすれば、速攻で各個撃破していけたのに。

そんな甘い事を考えていたのだが、状況は思わしくはないようである。

一箇所に全魔王を集中させて、各個撃破すればいいじゃん! と主張したのだが、全員から冷たい目で見られたのは記憶に新しい。

曰く、それは美学に反する! のだとか。

美学とかどうでもいいから、さっさと片を付けたいのだけどな……。

何とか、緊急時の応援だけは納得させたのである。

せっかく転移魔法陣を用意したのも、その作戦が脳裏にあったからなんだけど、説得には失敗した。

シエルとも相談し、これで余裕だと頷きあったのだが、残念な事にその案は却下となってしまったのである。

あの作戦を実行していれば、天使軍が分散した時点で、俺達が圧倒的に有利になったというのに……残念で仕方ない。

まあ、魔王達は俺の部下ではないし、信頼出来る仲間という訳でもない。

考え方もそれぞれだし、協力関係にあるのも奇跡みたいなものだ。なので、その事についてはまあ良いだろう。

で、戦況が思わしくないというのは、敵方が見事な迄に、此方に対応した戦力を投入しているのが見て取れたからだ。

ダグリュールへも戦力を割いてくれていれば、まだ互角の戦力になったのだろうけど。

若干づつ、天使軍が有利な状況で推移しているようである。まるで此方の戦力を読みきっているかのような……

《やはり、魔王の裏切りだと判断します 》

突如、シエルが俺に警告を発した。

前からシエルが指摘していたのだが、ディーノが正体を現したタイミングが気に食わないと言っていたのだ。

俺はディーノがそこまで考えていないだけだと、一笑に付していたのだが……

どうせなら戦争が始まってから隙を突く方が良かった筈なのにそうしないのが不自然だと、シエルが主張していたのである。

だが、決定的な証拠は無い上、どの魔王にも動機が無い。

クロエという切り札まで投入して、介入を封じたギィは論外。

レオンとルミナスも、クロエ繋がりで除外出来るだろう。

ラミリスとミリムは問題外だ。

となると、残りはダグリュールだが、武人としての高潔な性格は、裏切りには一番縁遠い。

ディーノと仲が良かったのは間違いないのだが、太古から天使と戦い続けているし、状況的には裏切るようには見えなかった。

三人の息子達も、俺の部下のシオンに扱かれて、鍛えている所である。裏切るつもりならば、息子達を敵方に預けるなどする筈が無い。

此方から提案した訳でも無く、向こうから頼んで来たくらいだし。

なので、流石にシエルの考え過ぎだと、俺がその意見を却下していたのだ。

だが、今のシエルの言葉は、断定的な警告だった。

つまりは、感情を排して考えるならば、ダグリュールの裏切りは間違いないという事か。

(ダグリュールが裏切っているのか?)

《可能性として最も高いのが、ダグリュールです。

ただし、ルミナスである可能性も捨てきれません。

ダグリュールが動けば、裏切りが確定します。

動かずに、ルミナスが助けを求めれば、ルミナスが裏切者です 》

ダグリュールでは無い可能性もあるらしい。

そうか、現状ルミナスに対し、天使軍は20万。それに加えてルミナスの手勢がいる。その場所に救援に向えば、間違いなく全滅させられてしまう訳か。

今の状況では、応援が無かったとしても、ルミナスは苦戦はするが確実に敗北するという訳でもない。

一進一退になるかもしれないが、一方的にやられはしないだろう。そんな中で、誇り高き吸血姫が、応援を求める筈がない。

それなのに、救助要請もなくダグリュールがルミナス救援に動いた場合は……

ダグリュールの軍勢までもが、ルミナスに牙を向く事になる。

成る程。

確かに、その場合は裏切り者が確定するだろう。

戦力分散した上で、此方に対し適切な戦力を割り当てつつ、各個に魔王を撃破するつもりなのだ。

各魔王に余力が無く、応援に駆けつける程の戦力が無い事を見越しているのだろう。

そして、念話だけで状況確認をするならば、どちらの言い分が正しいのかも不確かとなる。

仲間同士で疑心暗鬼になり、協力関係も崩れ去る。それを見越した上での、狡猾な作戦なのだ。

一度ディーノに裏切らせておいて、これ以上の裏切りは無いと油断させる。正直、シエル先生が居なければ、間違いなくその策に嵌っていた所であった。

だが、居なければ、の話であり、その策は見破った訳だ。

監視魔法により、敵軍の配置も完璧に把握出来ている。それが敵の誤算であり、此方の勝機となりそうだ。

せっかく造った転移魔法陣だが、あれは軍単位での移動は出来ない代物である。

なので、どちらが裏切っているにせよ、そこまで恐れる事もないだろう。魔法陣で迷宮内部に転移出来る訳でも無いしな。

裏切り者が確定した時点で、その勢力の転移を封じるように、各魔王に通達するだけであった。

(よし、引き続き状況を探るぞ!)

《はい、了解しました、 主様 ( マスター ) !》

裏切り者がいるという、嬉しくない状況からの開戦だ。

本当に、幸先が悪い戦いになりそうである。

そう憂鬱に思ったその時、更に不可思議な状況に我が目を疑った。

ミリムの軍勢が押されていたのだ。

馬鹿な! あそこには、カリオンにフレイという有能な元魔王が付いている、

それなのに……

その時、丁度ミリムの居城を映し出す画面に変化があった。居城の天守部分にて、爆発が生じたのだ。

どうやら、状況は俺が思っていた以上に悪いものとなりそうだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

天空に門が出現し天使達が湧き出して来た時も、ミリムは上機嫌で戦の前の準備運動をしていた。

有象無象の天使達など、ミリムの敵ではないのだ。

自身が鍛え上げた頼れる仲間であり、将軍職に就いているカリオンもいる。

「んじゃあ、ちょっくら行って来るわ」

軽く言って、カリオンが立ち上がる。

行くぞ、野郎ども!! 号令を発すると、カリオンはグリフォンに乗り、迎撃戦に出向いて行った。

その様子をワクワクしながらミリムも眺めていたのである。

だが、そんな状況が一変したのは、一人の男が出現した時だった。

「俺様は、四凶天将の一人、ヴェガ! 貴様等雑魚どもは、所詮は俺様のエサに過ぎん。

無駄な抵抗は止めて、さっさと俺様に喰われるがいい!」

大音声でそう叫び、カリオン配下の獣魔人達を屠り始めたのだ。

獣王国"ユーラザニア"時代からカリオンに従う直近の者達ですら、その凄まじい勢いに青褪める事になる。

ミリム配下の軍勢の総数は、この地帯の戦力を再編したお陰で数はそれなりに集まっていた。

カリオンを将軍の地位に就け、全軍の指揮を任せている。

その総数は、30万。

その中枢となるのが、飛獣騎士団3,000名であった。

" 天空女王 ( スカイクイーン ) "フレイの勢力である 飛翔魔獣 ( グリフォン ) 達3,000に、"獅子王"カリオンの部下の獣人族の精鋭が騎乗する。

たった3,000名ではあるが、一心同体の高速機動での空中戦も難なくこなす、Aランクを超える猛者達である。

この世界において、Aランクを超える者のみで成り立つ軍団としては、最大規模。

帝国の魔獣軍団ですら、"A-"ランクで構成されていたのだから、その戦力はかなりのものであると理解出来るだろう。

グリフォンは本来、"B+"程度のランクに相当する魔獣である。

だが、カリオンによる訓練の賜物で、単体でも"A-"ランク相当にまで実力を高められていた。

Aランクの獣人達が騎乗し操る事で、その能力はAランク相当のモノとなる。

飛獣騎士団とは名実共に、カリオンの鍛え上げた最強の部下達なのだった。

後は、魔人や傭兵や元クレイマンの配下達。様々な者達からなる混成部隊である。

普段は治安維持に携わる者達も、今回の戦に駆り出されていたのだ。

天使軍20万に対し、ミリム軍は30万。

数の上ではミリム軍が上回っていたのだが、その実力の質の平均では若干分が悪い。

しかしそれでも、カリオンの雄叫びによる能力上昇効果もあって、最初は優勢に戦闘を行っていたのだが……

四凶天将ヴェガと名乗る男の出現により、状況が一変した。

「フン! 無駄だ、無駄無駄! 貴様等雑魚に、俺様を傷付ける事すら出来ぬわ!」

そう叫び、手に持つ方天戟を振り回す。

それだけで、周囲に屍の山が出来上がっていくのだ。

チィ! カリオンは歯噛みし、忌々しげにヴェガを見やった。

一目見ただけで、他の天使共とは異質である事が見て取れた。自分が相手しなければ、虎の子である飛獣騎士団をぶつけたとしても敗北するだろう、と。

ミリムの傍には、フレイとその側近の"天翔衆"が控えている。

実働は自分達が任されているのだが、後の事をフレイに託す事になってしまうかも知れない。

「おい、俺はあの調子に乗ってるヴェガって野郎を相手する。

お前に全軍の指揮を預けるから、後は任せたぞ!」

副官たる、虎の獣人バームにそう告げた。

「カリオン様、そいつは……

先ずは俺がヤツの相手をして、少しでも弱点を見極めた方が良くないですか?」

バームの言葉に首を振るカリオン。

天使軍は統制も取れている訳ではなく、手当たり次第に攻撃してくるのみ。

であるならば、平均で劣るものの、数で上回り指揮統制されている自軍が有利である。

そんな中で、指揮官が居なくなるという愚は犯せないのだ。

バームが力を削ぎ、カリオンが止めを刺せるならば、その作戦も考慮の価値がある。だが、バームでは、残念な事に足止めにすらならないだろう。

自身の直感が、獣王としての戦闘経験が、ヴェガという男が只者ではないと告げていたのである。

「いやバーム、お前では、足止めにすらなるまい。指揮を取れる 者 ( ヤツ ) がいなくなる方が損失がでかい。

俺がアイツと一騎討ちしてる間に、天使共を蹴散らしてしまえ!」

カリオンの表情に、ヴェガと名乗る敵が、未曾有の強さを秘めているのだと悟るバーム。

楽天的で豪放な性格のカリオンが、以前ミリムと戦う前に見せたのと同様の、緊張した表情をしていたからだ。

「当然、カリオン様ならあのような口だけの者など、敵ではないでしょうな。

軍の指揮はお任せを! ただし、フレイ様へ仕事を残すような真似はお控え下さい」

「やべえな。フレイに借りを作ると、取立てが厳しいんだが、な」

軽口を叩きあい、副官と別れる。

フレイに仕事を残すな、つまりは、死なないでくれと言われたのだ。

最強の獣王であるカリオンを心配するなど、副官が決して行ってはならぬ事である。

その強さは絶対で、"獅子王"の名は伊達ではない。

最強の魔王たるミリムの、最強の片腕たる将軍として、カリオンは君臨し続けねば為らぬのだから。

(なんて事言いながら、 獅子覆面 ( ライオンマスク ) としては負けているんだがな)

魔物の国 ( テンペスト ) での武闘会にて、ディアブロに敗北した事を思い出すカリオン。

あそこの国は異常だった。

自分を負かしたディアブロも、決勝で敗北したのだから。

上には上がいる事を教えられて、自分の慢心は砕かれた。それから修行という名の扱きに耐え、魔王時代を上回る強さを手に入れたのだ。

苦戦はするだろうが、敗北するつもりなど毛頭無いのだ。

(そう言えば、アイツ……元気にしてるのかねえ――)

思い浮かんだのは、供に修行した友の顔。

種族を超えた異常な才能を持つ、カリオンも認めた天才を思い出し、愉快な気分になる。

(せいぜいアイツに笑われない程度には、俺も強くなったと証明しねーとな!)

カリオンは不敵な笑みを浮かべると、ヴェガへと向けて突撃して行く。

カリオンがヴェガと衝突し、激闘が始まった頃。

ミリムが出撃しようと暴れるのを、フレイが宥めて落ち着かせていた。

手加減の出来ないミリムが本気で暴れ出したら、城下町が消し飛ぶだけでなく、味方の軍勢にも死傷者が出てしまう。

現状、敵方に厄介な者が一名いるようだが、それはカリオンが対処すると考えていた。

万が一カリオンが敗北するようならば、その時こそミリムの出番となるだろう。だからこそ今、カリオンが戦う様を見させて、敵の能力を分析して貰った方が良いと判断していた。

カリオンの副官がそうしようとしたように、ミリムの為にカリオンに働かせようと考えたのだ。

フレイは冷徹にそう計算しているが、決してカリオンを信頼していない訳ではない。寧ろ、ミリムが出る幕が無く、カリオンでヴェガを倒しきれるだろうと考えていたからこそ、ミリムを止めていたのである。

何しろ、あの戦闘馬鹿が、名前を聞いた事もないような者に苦戦するなどとは、想像も出来ない事だから。

戦闘系に特化していないフレイには、ヴェガの恐ろしさの本質は見えてはいなかったのだ。

万が一カリオンが苦戦する事になったとしても、敵戦力を分析したミリムならば、苦労する事なく勝利出来ると考えていた。

だが、その考えは甘かったと、直ぐに気付く事になる。

大将であるミリムが無事に敵を倒せるなら、多少の犠牲は止むを得ない。

そう考え、ミリムに観戦を促そうとした、その時。

ミリムが険しい表情で振り向いた。

只事では無いその気配に、フレイは勿論、"天翔衆"も警戒態勢を取る。

フレイ以下、不審な気配など何も感じてはいないのだが、ミリムの勘に間違いがある筈がないのだ。

「何者だ、貴様?」

ミリムが問うと、空間が静かに色を変え、一人の女性が現れた。

ミリム同様の美しい銀髪。

ミリムを大人にしたような、絶世の美女。

白い肌に切れ長の眼差し。

息を飲むフレイ。その姿は余りにも美しく、自分が愛する主君を彷彿とさせる。

まるで、血の繋がりでもあるかの如く、似通った何かを感じさせる気配が漂っていたのだ。

その女性を守るように、純白の天使が4名、背後に跪いている。

その 気配 ( オーラ ) は圧倒的で、各々が覚醒魔王に相当する実力を有していると、フレイにも感じ取れる程だった。

「初めまして、ミリム・ナーヴァ様。

私は、"ルシア"の名を預かる者。

この度は、貴女様をお迎えに参上致しました。

貴女様のお父上がお待ちです。どうか、御同行下さい」

恭しく、ミリムに一礼し、ルシアと名乗った女性が挨拶する。

そして告げたのが、今のセリフであった。

衝撃が走った。

ミリムの父親と言えば、それは今は亡き"星王竜"ヴェルダナーヴァである。

先程、天空に出現した映像に映る者が、自身をヴェルダと名乗っていたが、まさか……

フレイがそう考えた時、

「戯けるな! 我が父上は既にいない。戯言を抜かすなら、その命、無いと思え!」

激昂するミリムの声が聞こえた。

当然だ。ミリムにとって、家族の話題は禁句なのだ。

「いいえ、本当の事ですよ。ミリム様」

直後、ルシアと名乗る女性の眼前で、轟音が響いた。

ルシアの顔面に向けて放たれたミリムの拳が、見えない壁に阻まれたかのように止められていたのだ。

寸止めで脅したのでは無く、全力で撃ち抜いたのだと、フレイにも理解出来た。

ミリムの全力を受けて、平然としているルシア。フレイの背筋に戦慄が走る。

仮に手加減していたとしても、" 破壊の暴君 ( デストロイ ) "の名は伊達ではない。

多重結界であったとしても、完全に防御する事など不可能なのだ。

何故ならば、相手を殺さぬ程度に力配分をして、ミリムが攻撃しているのだから。つまりミリムは、対象の結界を破り、且つ殺さぬ程度に計算された威力の攻撃を放っているのである。

それが平然としているという事は、ミリムの想定を上回っていたという事に他ならない。

そんな事は、フレイの知る限り在り得ない出来事であった。

何しろミリムは、ギィ・クリムゾンに並ぶ、最強の魔王なのだから――。

「無駄ですよ、ミリム様。私への攻撃は、一切通用致しません。

それよりも、お父上がお待ちです。

新しい世界で、供に生きよ! との事です。

私と一緒に来て頂きます」

美しいのだがどこか機械的に、ルシアは同じ言葉を繰り返す。

感情をまるで感じさせないその声は冷たく響き、フレイの心を不安で塗り潰す。

(カリオン、今すぐ戻って来て! ミリム様が危険かも知れない)

(何だと!? だが、スマン……。戻れそうにない――)

フレイの思惑と異なり、カリオンに敵対している男は想像以上の実力者だったらしい。

自信家であるカリオンの声に余裕は無く、逼迫した戦いであるのが伺えた。

不味い! フレイはそう思い、

「殲滅せよ!」

ミリムの了承も得ず、"天翔衆"へと命令を下した。

今此処でこの女の好きにさせる事は、ミリムにとって危険であると判断したのだ。

愛すべき自分達の主であるミリムは、致命的なまでに優しすぎるから。

相手を殺す気で戦えばどんな相手であろうと苦戦する事も無いだろうに、敵を殺さず制圧しようとするせいで本気で戦う事が無い。

フレイの知る限りミリムが本気で戦ったのは、フレイが生まれる遥か昔に、国を滅ぼしてギィと衝突した時のみである。

そんな優しい主だからこそ、なるべくなら危険から遠ざけておきたいと、フレイは願っていた。

「愚かな」

跪いていた天使の一人が立ち上がり、 大戦鎚 ( ウォーハンマー ) を具現化した。

そして、

「ミリム様に纏わり付くムシケラめ、身の程を知るがいい!

死ね! 天雷轟爆撃 ( ライトニングボンバー ) !!」

フレイ達に向けて、爆発的な暴威を振るう破壊の雷を叩きつけようと 大戦鎚 ( ウォーハンマー ) を振り下ろした。

大戦鎚 ( ウォーハンマー ) より放たれる、絶望的な破壊の放電を目の当たりにし、フレイは自分の死を覚悟した。

解き放たれたエネルギーが、フレイの身を蹂躙する。

同時にルシアへと攻撃を仕掛けた自分の子飼いの" 天翔衆 ( ハーピィー ) "達もまた、たった一撃により全滅していた。

フレイ達を襲ったのは絶死の攻撃だったが、どうやら辛うじて死を免れたらしい。

フレイは痛む身体と今にも途切れそうになる意識を振り絞り、その原因を確認した。

ミリムが左腕で、フレイ達に向けて振り下ろされた 大戦鎚 ( ウォーハンマー ) を受け止めていた。

そのお陰で、自分達は辛うじて生き残る事が出来たようである。

(ああ、優しいミリム。やはり貴女は、本当の殺し合いには向いていない)

そう思った。

と、同時に、ミリムの表情を見て凍りつく。

それは、激怒の表情。

仲間であるフレイ達を傷付けられて、ミリムが激怒していた。

「許さぬぞ。ワタシの友を傷付けるなど、絶対に許さないぞ!!」

叫ぶミリム。

そして、その身より光が放たれて、ミリムの身体を包み込む。

神話級 ( ゴッズ ) の武具を身に纏い、ミリムが 戦闘形態 ( バトルモード ) へと移行したのだ。

"竜種"の力をその身に宿し、絶対的な破壊の化身となったミリムがその 能力 ( チカラ ) を解き放つ。

天が震え、地が砕ける。

太古の魔王の怒りにて、天地は鳴動した。

フレイは瞠目し、敵の狙いを悟る。

ミリムが誘いに応じるなら良し。そうでない場合は……激怒させ、その理性を奪っていく。

そしてそのまま……

(ダメ! 駄目よ、ミリム!!)

声無き声で、ミリムを制止しようとするフレイ。しかし、その声はミリムには届かない。

世界は再び、究極の竜魔人の怒りに晒される事になる。

風邪が治らないどころか、どんどん酷くなってます。

皆さんも風邪にはお気をつけ下さい。