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211話 狂った計算

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211話 狂った計算

カザリームは、自分が地雷を踏み抜いた事に気付かない。

力を得て増長したカザリームは、目の前の魔人が自身を上回る存在である事に、最後まで気付く事は無かったのだ。

フットマンはベニマルに軽く殴られて、広間の端まで吹き飛ばされていった。

そして、ピクリとも動かなくなる。

「フットマン、遊びは止めだ。コイツ等を皆殺しにするわよ。

さっさと起きて、レオンの部下の雑魚共を殺しておしまいなさい!」

カザリームが命令するが、フットマンはそれでも動く気配が無かった。

「おい、フットマン。何を遊んでいる? さっさと――」

カザリームは苛立つようにフットマンを見て、そして言葉を失った。

フットマンは先程まで大暴れしていたのが嘘だったように、白目を剥いて鼻から血を流し仰向けに倒れていたのだ。

壁にぶつかり跳ね回った後で、首を不可解な角度に曲げたまま。

前歯は上下共に圧し折れていた。それが拳の形と同じだったのは、きっと偶然ではないのだろう。

局所的に空間を固定され、自己回復も受け付けない状態にされているのである。

視線をベニマルに向け、カザリームは腹立たしげに小さく舌打ちする。

一瞬にして沈黙に包まれた大広間にて、飄々とフットマンに近付く者が居た。

ラプラスである。

ラプラスは剣を構えて警戒するクロードとフランを無視するように歩き、フットマンの傍まで来て足を止める。

そして、

「姐さん、あきませんわ。フットマンのヤツ、今ので戦闘不能ですわ。

ま、辛うじて生きとるんは、そっちの兄さんが殺す気が無かったからでっしゃろうな」

軽く肩を竦めながら、やれやれという風にラプラスは告げた。

「なんですって? フットマンがたった一撃で!?」

驚いたように叫ぶ 涙目の道化 ( ティアドロップ ) のティア。

タフさでは自分を上回る仲間が、たったの一撃で沈むなど、到底現実味が無い話だったのだ。

「ティア、あかんわ。下がっとき。この兄さんら、洒落が通じんわ。

アッシの見立てでは、君では話んならん。会長とアッシ、二人でどうにかっちゅうとこやけど……

魔王レオンに別嬪な悪魔の嬢ちゃんが居るから、分が悪いわな。

どないします、姐さん?」

気楽な声で、ラプラスは現状分析をカザリームに確認した。

撤退するなら今でっせ? という意味を含めている。

カザリームは鼻で笑い、

「ラプラス、臆する事はないわ。

レオンは既にボロボロ。

ギィの腰巾着も、せいぜい魔王級の力しか持たぬ雑魚。

悪魔公 ( デーモンロード ) は確かに悪魔の中の上位存在だけれど、魔王級であるティアにすら劣るわね。

警戒すべきはたったの二人。

ワタクシと貴方で十分に相手出来るわよ」

と、傲岸不遜に言い放った。

その揺ぎ無い自信に、ラプラスもそれ以上言葉を続ける事をせず、肩を竦める。

魔王級であるフットマンが一撃の下に戦闘不能にされた事実を、完全に無視しているようなカザリーム。

カザリームにとって、警戒すべきは目の前のベニマルのみであり、それに劣るソウエイならばラプラスに任せれば良いと考えていた。

事実、

「確かにアッシ等は、まだ本気を出してはいませんが、ね……」

ラプラスはカザリームの言葉を肯定する。

レオンの配下を甚振るようにカザリームに命じられていたので、本気を出さずにジワジワと嬲っていたのは事実なのだ。

だが、それを考慮しても撤退すべきと考えるラプラス。

そう、ラプラスの勘が状況の変化を敏感に感じ取り、警鐘を鳴らしていたのであった。

そんなラプラスの勘が正しいと証明するように、ミザリーが平然と立ち上がる。

先程まで負っていたダメージが、一瞬にして再生されていた。

外傷は全て消え去り、服装も禍々しさを増して一新されている。

只事では無い気配へと変化し、その表情は先程と同様に無表情であるにも関わらず、威厳のようなものを感じさせるものとなっていた。

「――姐さん、その嬢ちゃんの存在値が跳ね上がりましたで。

覚醒魔王級ってヤツでっしゃろか? 姐さんよりは劣るものの、ティアでは話になりませんわ……」

そう、ラプラスの分析通り、ミザリーの 魔素量 ( エネルギー ) は覚醒魔王級に膨れ上がっている。

というよりも、いままで抑え込んでいた魔力を解放しただけ、という感じであった。

「はい。

私は、魔王リムル様の御力により、覚醒魔王級へと進化しております。

この力を使いこなすには実戦経験が一番だと浅慮し、カザリーム様に練習台となって頂きました。

もっとも、私が手を抜いていた事を、レオン様はお気付きだったようですけれど――」

そう言って、チラリとレオンに視線を向けるミザリー。

レオンは苦々しい顔で頷き、

「当然だろう。俺の攻撃に耐えうる結界を張れる者が、高々、 悪魔公 ( デーモンロード ) 如きである筈がない。

貴様が手を抜いて何かを企んでいるのには気付いていたさ。

まさかそれが、魔王リムルへの応援要請に頼るものだとは思わなかったが、な。

ギィは、本気でリムルを信じているのか? この戦を終わらせる鍵だと考えているというのか?」

「――そうですね。

ギィ様の思惑を私如きが 斟酌 ( しんしゃく ) する事は出来ませんが、私個人としましては、魔王リムル様を信じるのが正解であると判断致しました。

それが、 魔王達の宴 ( ワルプルギス ) での決定事項でもありますし」

レオンの問いに、ミザリーは一瞬だけ言葉を詰まらせた後、そう答えた。

その答えは事実であり、共闘すると言いつつリムルを信じきれていない自分を、責められたように感じるレオン。

と同時に、悪魔であるミザリーが、ギィ以外の魔王を信じるという言葉を口にした事に驚きを隠せないでいた。

永き時を絶対強者として君臨してきた、旧魔王達すらも上回る実力者であるミザリーの本質を知るが故に、余計に。

ミザリーは誰に対しても丁寧な口調を崩さないが、一度命令を受ければ冷酷な殺戮者へと変貌する。

ギィ配下の筆頭とも呼べる、大悪魔なのだから。

「で、雑魚が何匹増えた所で、虫けらが多少力を増したとしても、ワタクシの敵ではないのだけど?

そこのレオンが既に死に体なのは間違いないし、ミザリーの力が増したと言っても、所詮ワタクシの半分以下。何も問題はないわね」

不敵な笑みを浮かべ、カザリームはレオンとミザリーの会話を一蹴した。

カザリームにとっては、覚醒魔王と言えども既に格下であると見下しているのだ。

そんなカザリームを冷徹に眺めながら、

「後、追加で説明させて頂きます。

通常の魔王級[EP:200,000〜400,000]ですが、ピンキリとなります。

同様に、 悪魔公 ( デーモンロード ) [EP:200,000〜400,000]も下は男爵級から上は公爵級までと格があります。

確かに、レオン様の部下の皆様は進化し力を得ましたが、精々が子爵級[EP:250,000未満]と言った所。

カザリーム様のお仲間の方も、ラプラス様を除いて魔王級の上位[EP:400,000未満]と言った所でしょう。

魔王を超える力、と呼ぶには少々物足りない感じですね。

現魔王たる 八星魔王 ( オクタグラム ) の方々は、お一人を除いて全員が 覚醒魔王級 ( ミリオンクラス ) [EP:1,000,000〜]であらせられます。

その事から申しましても、魔王を超えるという表現は過剰であると言えましょう。

さて、この事を踏まえて考察致しますと、失礼とは思いましたが、レオン様の部下の皆様と中庸道化連の方々の戦いなど、お遊びのようなもの。

無視しても問題ないレベルである、と判断致しました。

私がギィ様より申し付かった命令は、勝利する事、です。

この結界を維持しつつ、魔王リムル様よりの援軍を待つ。

覚醒魔王級 ( ミリオンクラス ) 以外を無視した上での最善策として、カザリーム様を確実に仕留める為の最適行動を取らせて頂きました。

ですから、カザリーム様が私達に勝利する条件としては、応援が来る前に私達を始末する、これしか在り得ませんでした。

時間を稼ぎつつ分析させて頂きましたが、カザリーム様の能力は『自動反射』がメインのご様子。

受けた攻撃の二割増し程度の力で相手の攻撃を相殺し、相手にのみダメージを蓄積させる。

圧倒的な 存在値 ( エネルギー ) を有する者が取るならば、非常に有効な手段と言えるでしょう。

聖と魔、両方の性質を持つのも厄介でした。

そのエネルギーが勝っているなら、敗北はないと言えるでしょうから。

ですが、相殺を続けるには、無条件でエネルギーを消費する事を意味するようですね。

レオン様への攻撃も、力を抑えた私への攻撃も、等しい比率である二割増しという条件は同じでしたから。

援軍を待った理由ですが、カザリーム様が相殺しきれぬだけの力を集めるのが目的と言えばお分かりでしょうか?

私が全力で力を削いだ後、レオン様とベニマル様、ソウエイ様によりカザリーム様を始末可能となるでしょう。

カザリーム様、この勝負、我等の勝利です」

「おいおい、お嬢ちゃん。このアッシを除いて、って何でやねん?」

「――失礼ながら、貴方の 存在値 ( エネルギー ) を見通せませんでした。

つまり、私と同等かそれ以上、そう判断致します」

「買い被り過ぎやで」

薄く目を細め、飄々とした態度に似合わぬ鋭い視線を放つラプラス。

自身を過小評価する事のないミザリーを前に、やれやれという雰囲気を醸し出していた。

名乗らなかったのに正体をバラされたソウエイは苦い顔をしているが、文句を言う事は無かった。

切り捨てたと宣言された一同、クロード以下レオンの騎士達とティアは、目の前に立つミザリーの 覇気 ( オーラ ) を目の当たりにし、否定の言葉を飲み込んだ。

それが紛れもない事実であると悟ったのだ。

だがカザリームは、ミザリーの説明を聞きその 覇気 ( オーラ ) に接しても尚、その余裕の態度を崩さなかった。

「フフン。テメーが力を隠してた事なんざ、お見通しなんだよ!!

雑魚が、姑息な手段でしか戦えないような小物の分際で、偉そうな講釈を垂れるんじゃねーぞ!!

カス共が全員力を合わせても、この俺様には及ばない。

ワタクシに勝てる理由にはならねーーーんだよ!! 雑魚共に、絶望と恐怖を与えてやるわ!!!」

そう叫び、今までレオンを直ぐに殺さぬようにと抑えていたであろう力を、解き放った。

結界内に歪が生じそうな程の圧力が加わり、禍々しい妖気によりその場が支配される。

ミザリーの放つ 覇気 ( オーラ ) は、一瞬にして塗りつぶされたのだ。

それは正しく覚醒魔王すらも上回る、圧倒的なまでのエネルギー。

カザリームの言葉に嘘はなく、ミザリーの計算を遥かに上回る暴威が吹き荒れる。

「な!! まさか……これほど、とは――」

それは冷静なミザリーを動揺させるのに十分な効果を発揮し、ミザリーは顔色を変えた。

冷静さを保てぬ程に、それほどまでにカザリームは圧倒的だったのだ。

自分の 魔素量 ( エネルギー ) は 覚醒魔王級 ( ミリオンクラス ) へと至っている。レオンも同様だ。

それなのに、カザリームに圧倒されるのを感じていた。

先程レオンに告げた自身の本来の 魔素量 ( エネルギー ) の3倍相当だという予想は、まだまだ甘いものだったらしい。

「予想以上です。私の3倍以上と推定していましたが、これは――」

その言葉を遮るように、カザリームの一撃がミザリーの腹部にめり込んだ。

両腕をクロスさせて防御したその腕ごと、枯れ木を圧し折るように砕いた上で、カザリームの拳はミザリーを穿ったのだ。

「はっはぁーーーー! 殺さぬように手加減してやったから、勘違いしちゃったか?

甘いんだよ、雑魚がぁああ! このワタクシ、カザリーム様は、最強の力を手に入れたのだ!!!」

哄笑を放つカザリーム。

「姐さん、無茶苦茶でんな。いいでっしゃろ、アッシも覚悟を決めましょう」

そう言いつつ、懐から虹色の宝玉を取り出した。

それは、聖霊の宝玉。人間1万人分の魂に相当するエネルギーを秘めた宝玉だった。

ラプラスはその宝玉を砕き、エネルギーの補給を行う。

覚醒する訳ではないが、全力でカザリームの補助を行うつもりなのだ。

「小賢しく色々と考えたようだが、無駄だったな。所詮、力なき者の定めってヤツよ!」

高笑いするカザリーム。

ミザリーは悔しそうに、

「このままでは、任務の遂行が……

申し訳ありません、私の見立てが甘かったようです。

せめて、極魔対消滅法による自爆相殺を狙いますので、後の事は――」

自分の全存在をかけて、少しでもカザリームの力を削ぐ。

その後の事は、レオンとベニマル達に任せよう、そう考えてのミザリーの言葉だった。

だが――

「ミザリーっつったか? あのオカマ野郎の言う通り、難しく考え過ぎだろ。

お前は応援を呼び、そして俺達は間に合った。

それが全て、だろ?」

倒れ伏すミザリーの横を通り抜け、ベニマルが前に出る。

そして、

「ソウエイ、そっちの 道化 ( ピエロ ) の相手をしてろ。このオカマは俺が殺すから」

何でもない事であるという風に、軽く宣言した。

「まあいいだろう。譲ってやるが、確実に仕留めろよ。

そいつはリムル様を侮辱したのだから」

「わかってるさ。別に知りたい情報も無いし、生かす理由もねーんだろ?」

「そうだな。

お前の事だから忘れてるかも知れないが、そいつはクレイマンの主らしい。

つまり――」

「ゲルミュッドの野郎をけしかけた大元、って事だろ? わかってる」

そんな感じに、軽く遣り取りするベニマルとソウエイ。

「あ、貴方方は何を言って――」

「おいお前達、まさか自分達だけで、あの 化物 ( カザリーム ) と戦う気か!?」

ミザリーとレオンが同時に問うた。

ミザリーは急速回復により戦闘態勢へと回帰し、再び挑む構えを見せる。

レオンもまた、魔王としての誇りにかけて、カザリームへ一矢報いるつもりであった。

それなのに、ベニマルとソウエイは自分達だけで相手すると言わんばかりの態度なのだ。

「ああん? さっき言っただろ。『殺す』って。

あの糞オカマは今から俺が殺すから、怪我人は大人しく見てな」

「そうだな。そちらのピエロは、俺が相手しよう。

レオン殿とミザリー殿は、そこの死にかけのデブと、生き残りの 道化少女 ( ティアドロップ ) を抑えておいてくれ」

「しかし……」

「くどい。邪魔だって言われねーと理解出来ねーのか?」

そのベニマルの言葉が決め手となった。

お前は口が悪すぎる、というソウエイの忠言を無視し、ベニマルは刀を抜いた。

真紅の刀身を持つベニマルの愛刀"紅蓮"は、クロベエの鍛えし最高傑作のひと振りである。

何度も鍛え直された事で、元の鋼は全て変質してしまっていた。

ベニマルの一部とも言える程に馴染むその刀は、今では 神話級 ( ゴッズ ) に相当する業物となっている。

ベニマルの 覇気 ( オーラ ) は見事に洗練され、刀を薄く覆っていた。

その結果、輝く真紅の刀身を、美しく飾っているのだ。

カザリームは嗤う。

「雑魚が。武器に頼らねば何も出来ねーのか?

いいぜ。

どうせそんな鈍らじゃあ、ワタクシに傷一つ付けられないでしょうしね!」

「ふーーーん」

一瞬。

ベニマルが赤く煌めいたように霞む。

刹那の閃光を残し、カザリームの後方に出現するベニマル。

霞む身体はそのまま消失し、移動したのだ、と皆が理解したのはその時だった。

「ほらよ、返すぜ。次は落とすなよ」

そう言って、ベニマルがカザリームに何かを放り投げた。

それは腕。

肘から先の女性の腕だった。

「ギャィイイ!!」

絶叫を放つカザリーム。

自身の腕が切られた事に、ようやく気付いたのだ。

「き、キサマ、貴様ぁああ!! 何故だ、何故、痛みが!?」

カザリームはベニマルに問う。

敵に質問するのはどうかと思いはしたが、どうしても納得いかなかったのだ。

精神生命体であるカザリームが、痛みを感じる事など無い筈なのだから。

「ッチ。そこからか?

理解してないようだから教えてやるが、痛みとは危険信号だ。

精神生命体と言ってもそれは同じ。

お前に危険だと感じたから、お前の肉体が警鐘を鳴らしたんだろうさ。

そんなもん、戦闘に入る前にきちんと制御しとけよ」

馬鹿にするように丁寧に説明するベニマル。

実は、迷宮内でディアブロ相手に訓練した時、同じ事を嫌味ったらしく説明されたのだ。

武闘大会でベニマルに負けた腹いせだろうと、ベニマルは勝手に納得していた。

だが、それは今は関係ない話だった。

決して自分がされて悔しかったから、鬱憤を晴らした訳では無いのだという事にしておく。

「はあ? 危険信号だと? 何を馬鹿な。

貴様如きに、このワタクシが危険を感じる事などないわ!」

腕をエネルギーに変えて吸収し、再び肘先から再生するカザリーム。

傷一つ付けられないとベニマルに言い放った事など、当の昔に忘れていた。

「殺す。貴様は絶対に殺す!」

叫び、迸る超高密度のエネルギー塊となり、ベニマルに襲いかかるカザリーム。

ベニマルはそれを受け流しつつ、同様に炎を纏うエネルギー塊へとその身を変える。

そして、超越者同士の戦闘が開始した。

何度も言いますが、数字はあくまでも目安です。

都合により、勝手に変更する可能性がある事をご了承下さい。