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217話 vsダグリュール その6

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217話 vsダグリュール その6

シオンの内心では、激情が渦巻いていた。

ダグリュールにいい様にあしらわれ、まるで歯が立たなかった事への怒り。

自分の配下、親衛隊の者共が倒されゆく事への怒り。

不甲斐なさと悔しさ、そして強者への羨望。

それら全てを飲み込み、膨れ上がった嫉妬の感情を除いて、残りの感情が抑え込まれる。

以前のように暴走する事なく、人を敵を、ただ憎しみだけで相対するのではなく、その魂で観察するのだ。

善か悪か。それ自体には、意味がない。

制圧可能か、不可能か。それが重要なのだ。

渦巻く感情は、シオンにとっては邪魔でしかなかった。

だが、消えたハズの嫉妬が棘のように心に突き刺さり、どうしても思考の邪魔をするのだ。

魔王リムルにとって、シオンが一番大切な存在であると思って貰いたい。だが、それは自惚れである。その事を良く理解出来るからこそ、自分よりも強い者や役立つ者達への嫉妬の心を消し去る事は難しかった。

それでも――

あるがままに受け入れる事を、シオンは実践していたのだ。

リムルの言葉のままに、物事の本質を見るように魂において思考する事によって。

結果、劇的な変化は生じなかったものの、シオンはその本質を緩やかに変質させていた。

感情に左右される事なく、在るがままの在り様として、力を把握する。

心に刺さった棘のような嫉妬を除き、澄み渡るように心意の統一を行うシオン。

肉体ではなく、その精神から。

シオンの進化は目に見えぬ形で進行していたのだ。

ダグリュールとの戦闘が開始した。

直後に魂で理解する。ダグリュールの、底の見えぬ程の圧倒的な凄み、を。

以前出会った時には気付く事も出来なかった、その穏やかな見た目に隠された、荒ぶる魂。

或いは、自分が目指す究極の完成形とも言えるその姿に、シオンは戦慄する。

冷静に考えるなら、ダグリュールと自分の力の差は歴然としており、勝負になるならないの次元の話では無いのは明らかだった。

だが、それでも。

シオンに撤退の二文字は無いのだ。

リムルの作戦は完璧である。そう在らねばならぬのだ。

であるならば、命令が無い限り、自分がここで撤退をする理由がない。それが、シオンの考えであった。

純粋にリムルを信じ、愚直に命令を遂行する。

ある意味、思考放棄である。だが、シオンにとっては、リムルの命令が至上であり全てなのだ。

(あの方が、何らかの手を打たずに命令を行う訳がない。ならば、新たな命令が下されるまでは、私はただ従うのみ)

故に、シオンは死を恐れず、不退転の決意で以って戦線を維持する。

ルミナスの協力は意外だった。

高貴なる吸血姫は、その身が穢れる事を非常に嫌っている。

その賢しさにより、この戦いに勝利の可能性が無い事も十分に理解出来ているハズ。

であるならば、ルミナスがさっさとこの戦域から逃げ出すだろうと、シオンは思っていたのだ。

(意外だったな。私一人ならば、当の昔に倒されていた。

魔王ルミナス、私の思っていた人物像は間違っていたのか……

いや、或いはそれも――)

そんな雑念が生じたが、シオンはその考えを振り払った。

そんな思考をする余裕などない、シオンはその事を十分に理解出来ていた。

何しろ、剣を交えてみて確信出来たのだが、ダグリュールは未だにその力を隠しているのだ。

彼が本気になったなら、自分はアッサリとその力に飲み込まれるだろうとシオンは実感していた。

ならば、少しでも抵抗出来るように、その本質を見極めるのみ。

その決意の下、シオンの無謀とも呼べる挑戦が繰り返されたのである。

自らの本質に酷似する、ダグリュールに対して。

目指すべき姿とも言えるダグリュールを、シオンは己の魂に刻み込むように、剣を振るった。

そして、ルミナスの補助による死と再生を繰り返し――

――世界の時が停止した――

シオンの認識の外で、色の消えた世界が広がっている。

まだだ! まだ終わりでは無い!!

咆哮を上げるつもりで口を開こうとするが、シオンの身体は反応を示さなかった。

停止したまま、立ち上がる事も出来ないのだ。それどころか、口を開く事さえも出来なかった。

意識だけが、戸惑う思考を続けている。

そんな中、常にシオンの邪魔をし続けた感情の棘である『嫉妬』が、魂に突き刺さり 心核 ( ココロ ) を掻き乱していた元凶が、綺麗に消失したのを感じた。

同時刻、"白氷竜"ヴェルザードが 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 嫉妬之王 ( レヴィアタン ) 』に覚醒したのだが、それはシオンの知る所ではないし、知った事でもない。

重要なのは、邪魔な感情が消えた、それだけである。

(流石はリムル様。こうなる事まで見通されておいでだったのですね!)

それはシオンの思い込みによる穿ちすぎた思考であったのだが、シオンにとってはそれが真実である。

歓喜と羨望がシオンの心を満たし、在り得ぬような膨大な力が湧き出て来るのを感じていた。

純粋な暴力。

破壊の力。

善も悪も関係のない、暴虐の力。

《個体名:シオンが能力進化を行い、 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 暴虐之王 ( スサノオ ) 』を獲得しました》

世界の言葉が響いた。

直後、シオンの視界が開ける。

色彩の無い世界ではあるが、認識に不都合は無い。

音の代わりに、意志がそのまま伝わる。故に、言葉は不要。

特殊なルールに支配された、停止世界において、シオンは即座に順応してみせた。

究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 暴虐之王 ( スサノオ ) 』が、それを可能にする。

能力進化の下地は出来ていたのだ。

(感謝します、リムル様!)

それは、シオンの進化の先を見据えた、シエルの仕業である。

獲得したばかりの 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 暴虐之王 ( スサノオ ) 』は、最適化された状態ですんなりと、シオンに定着したのだった。

精神より進化を続けていたシオンにとって、暴れ狂うエネルギーを制御する事など造作もない事である。

寧ろ、それが可能であるからこそ、この能力に目覚めたのだから。

精神は肉体を凌駕する。

故に、精神の進化は、シオンの種族的覚醒をも促した。

肉体による物理攻撃を主とする、闘霊鬼(上位聖魔霊)へと。

魔素による無限再生を可能とする肉体を持つ、精神生命体。しかし、その攻撃は精神をも破壊する。

精神生命体 ( エネルギークリーチャー ) の天敵とも呼べる存在へと、シオンは進化したのだ。

ヴェルドラから借り受けていたエネルギーにて、不足分を補う。

そして、 もう一度 ( ・・・・・・ ) 、シオンは己の肉体を創り変えた。より最適化された戦闘特化の身体へと。

無意識下にてヴェルドラから力を借り受けていたのだと、その時に気付いた。

半ば本能に従い霧の中を彷徨うようだった意識が、晴れ渡る青空になったかの如く清々しく明瞭になる。

完全に覚醒したのだと悟るシオン。

シオンはその手に持つ、愛刀"真・剛力丸"を構える。

「待たせてしまいました。ですが、ご期待通り、少しは楽しませて差し上げましょう」

丁寧な口調で、ダグリュールに話しかける。

停止した世界の中で、ダグリュールとシオンの本当の戦いが始まる。

剣閃が煌く。

それは比喩であり、光の無い世界では刀に輝きなど生じない。

しかし、そう表現するしかない鋭さで以って、シオンの剣撃はダグリュールを襲った。

身体を金剛石よりも硬く硬化させ、ダグリュールは両腕でその一撃を受け止める。

しかし、上段から振り下ろされたその刀の威力を受け止める為に、ダグリュールは両膝まで地面にめり込ませる事となった。

目を見開くダグリュール。

停止世界の中では、空気の振動は発生しない。

繋がりがなくなっている為に、エネルギーの伝達が生じないのだ。

肉体により分子を掻き分けるような状態となる訳である。

故に、大地を蹴って推進力を得る事も出来ない。力の衝撃はそのまま大地を抉り、今のダグリュールのようにその足を捉える事になるからである。

停止世界の中では物理法則は成立しない。

魔法法則に至っては、ほぼ全てが発動する事すら不可能なのだ。

そんな特殊な条件下での戦闘は、通常の様相と異なるのは当然の話。

ダグリュールは舌打ちすると、有り余る力を噴出させて、シオンの刀を弾き返した。今度は逆に、シオンがその両足を地面に取られる事になる。

そんな剣と拳の交差が数合続くと、両者は自然な流れで戦えるようになっていた。

ダグリュールは勘を取り戻し、シオンは状況により学習したのだ。

戦いは激しさを増す。

それは見た目の激しさだけではなく、能力による攻防も含まれる。

ダグリュールは、 究極能力 ( アルティメットスキル ) を持っていない。

その存在そのものが究極であり、竜種に近しい存在であるからだ。

その拳はそれだけで物理法則を上書きする破壊の力を現出させ、その特殊な波動は大地と大気に干渉し、局地的な破壊を巻き起こす。

だが、それらの超能力は、こと停止世界においては意味が無かった。

「シオン、我が姉がいつまで時を止めているか判らん。

だが一つ確かなのは、貴様に勝機があるとすれば停止世界の中だけ、だという事だ。

時の流れの中ならば、ダグリュールの能力制限は解除されるぞ。心せよ」

ヴェルドラの言葉が、音を介せず思念のままに、シオンに伝達される。

「忠告、有難く。ヴェルドラ様」

シオンは礼を言うが、その意味を本質的には理解出来ていない。

だが、本能レベルでは危険であるという事だけは認識出来ていた。

今現在、ダグリュールの拳に込められた破壊衝動は、触れる部位にのみ影響を与えている。だからこそ、シオンはそれに対応し、渡り合えているのだ。

だが、恐らくだがヴェルドラの言葉の意味は、通常空間ならば全方位から攻撃が可能となるのだという意味であると予想する。

いざ受けてみなければ断言出来ないだろうが、その危険性は想像出来た。

決して試したいと思える類のものではない。

シオンは短期決戦を狙い、刀を振るう速度を一段高める。

硬質な身体となったダグリュールは、素手でありながらシオンの刀を全て弾いた。

「ほう、これだけ打ち合って尚、刃毀れせぬのか」

逆に、刃毀れしないシオンの刀を褒めるダグリュール。

その賛辞には心がこもっており、本気で賞賛しているのだとシオンにも伝わってくる。

「当然よ。私の愛刀は、リムル様より賜ったものですもの。

毎日の様に愛情を注ぎ、今では私の身体の一部のようなものよ」

その言葉通り、シオンは毎日刀を磨き、自分の妖気と馴染ませていた。

まさに身体の一部と言っても過言ではなく、シオンの進化と同時に"真・剛力丸"も 神話級 ( ゴッズ ) にまで進化していたのである。

だからこそダグリュールの武器破壊能力を前にしても無事だったのだが、シオンにとっての幸運だったと言える。

そして、本当に幸運だったのは、その能力の相似性であろう。

シオンの能力は、精神生命体の天敵とも呼べる、 相殺能力 ( マイナスブレイク ) である。

通常攻撃である剣撃にもその効果は発揮され、対象のエネルギーを奪う。受けただけでもその影響を受けるのだ。

また、ヴェルドラのエネルギーを取り込めた事からも判明している通り、奪ったエネルギーを自分のものに流用可能である。

その上限に限界はあるものの、対象からエネルギーを奪って自分の損失分を補う事も可能なのだ。

シオンの不死性が強く現れた能力であると言えた。

そして、暴虐の名の通り、荒れ狂うエネルギーを制御する事こそが、シオンの能力の真骨頂であると言えるだろう。

エネルギーの塊であるダグリュールを前にしてもシオンが存在し得るのは、正に覚醒した『 暴虐之王 ( スサノオ ) 』のお陰であったのだ。

対してダグリュールは、その在り様そのものが現象であると言える。

硬質防御・武器破壊・存在破壊・魔法無効・属性中和・防御無視――

その他、様々な効果と特性を持つ究極生命体。

本来であれば、そんなダグリュールを前にしての格闘戦など自殺行為。

物理も魔法も超越した、破壊神のような存在。それが、ダグリュールなのだから。

だが、覚醒したシオンの能力『 暴虐之王 ( スサノオ ) 』は、そんなダグリュールに対抗する力をシオンに与えている。

つまりは、同種の能力であると言う事。

ユニークスキル『料理人』の、"確定された自分の望む結果を出すという能力"をより進化させた――完全なる因果律操作。

それは、魔人ラプラスの『未来予測』の比ではない、絶対能力である。

予測だけではなく、意図した通りに結果を操作出来るのだ。

覚醒前のシオンが、曲がりなりにも止まった時の中で動けたのも、ユニークスキル『料理人』のお陰であろう。

因果律操作とは、時の止まった世界においては、無敵。

原因も結果も、時の流れの向こう側に存在する以上、この世界ではシオンの意志が全てに優先されるのだから。

「――信じられぬ、な……。ワシの能力の上をいっておる――」

最大存在値 ( マックスエネルギー ) では、シオンの数倍はあろうかというダグリュールに対し、シオンが互角に戦えていた理由がこれであった。

だが、そんなシオンの能力を以ってしても、ダグリュールを上回る事は出来ないでいる。

それこそが、シオンとダグリュールの相似性を証明するのだ。

能力だけを比べるなら、シオンが上。しかし、総合力では互角であった。

更なる攻防を経て、ダグリュールもその事に気付いていた。

苦々しい顔になり、シオンを睨め付ける。

自分の能力を完全に無効化されている事に、ダグリュールは気付いていた。それは、ダグリュールの持つ本質に近しい能力。

故に反発し合い、互いの力を無効とする。

天変地異を操作する超能力を封じられた『停止世界』においては、シオンとダグリュールは互いに決定力の無い千日手の様相を呈していたのだ。

防御を無視して与えるハズのダメージは、完全なる回避により致命打とならない。

互いが互いの攻撃を無効化し、エネルギーを貪り喰らう。

このままでは、停止した時の中、永劫の戦いを繰り返す事になるかと思える光景であった。

だがそんな均衡は、一瞬にして崩れる事になる。

そう、時が動き出したのだ。

その瞬間、ダグリュールは勝利を確信した。

制限を受けていた超能力が開放される。それはつまり、" 大地の怒り ( アースクエイク ) "の二つ名に相応しい超能力を駆使出来るという事。

ダグリュールは、シオンに対する全方位からの攻撃を仕掛けた。

停止世界の中では互角であった能力も、通常の物理法則の中では状況が異なる。

支配すべき 法則 ( ルール ) が多様化し、因果律は多岐に渡り影響を及ぼすのだ。

完全なる先読みや、法則支配は困難となる。まして、互角の相手ならば尚更であった。

ヴェルドラの忠告の通り、シオンの勝機は停止世界の中だけの話だったのだ。

大地が激震し、立つ事すら儘ならぬ揺れを発生させる。同時に、大気が咆哮するかの如く渦を巻き、雷鳴を轟かせた。

その全てが、シオン個人に対する攻撃となって、同時に襲い掛かった。

防御無効という絶対能力を付与されて、シオンの命を奪う事を目的として――。

究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 暴虐之王 ( スサノオ ) 』を以ってしても、その全てを無効化する事は不可能。

(圧倒的な 存在値 ( エネルギー ) の差が、 貴様 ( シオン ) とワシの超える事の出来ぬ壁なのだ!)

ダグリュールの内心の叫びは、シオンには届かない。

その全ての攻撃に必殺の意志を込めた。

そして、ダグリュールは勝利を確信し――

「 真・天地活殺崩誕 ( カオティックフェイト ) !!」

驚愕に目を見開いた。

シオンが、反撃に転じたからである。

どうせ完全なる防御は出来ないと割り切ったシオンが、防御を一切捨てて、攻撃に全力を注いだのだ。

(馬鹿なっ! 死ぬ気か!?)

下から斬り上げるように迫る刃を、ダグリュールは無効化しようと左手を突き出し――霞むように消えた刃に戸惑いの表情を見せた。

直後、焼け付くような痛み――そう、それこそ数千年以来の痛み――が脳天より生じる。

シオンの必殺の一撃は、ダグリュールの意識の狭間を抜けて、その身体に到達したのだ。

ただし――

シオンの身体にも、ダグリュールの超能力により生み出された数多の攻撃が突き刺さっている。

いかに覚醒進化したシオンと言えど、即死――に、なる筈だった。

「 再誕 ( リ・バース ) !!」

涼やかな声が、戦闘領域に響き渡る。

死ぬ定めにあったシオンは、魔王ルミナスの 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 色欲之王 ( アスモデウス ) 』によって、死の淵から救い上げられた。

時が流れているのなら、そこはルミナスの援護が期待出来る。そう判断した、シオンの作戦勝ちであった。

シオンは、ルミナスが逃げる事なく、自分の蘇生を行うだろう事に賭けたのだ。

「ふふふ、有難う御座います、魔王ルミナス」

「たわけ者め……。貴様、妾が助ける事を見越していたな?」

「ええ、信じていましたよ。魔王ルミナス」

「ルミナス、と呼ぶが良い。今日より、妾もそなたをシオンと呼ぶ。不満か?」

「いいえ……。いいえ、ルミナス。今日より、私も貴女を友と思う事にする」

「フンッ! 好きにするが良い!」

そう言うルミナスの顔は、真っ赤に染まっている。それはシオンも同様で――

二人は顔を見合わせて、照れたようにそっぽを向くのだった。

戦場に局所的な緊張の緩みが生じていた。

各地での戦闘は継続中であったが、大将が倒れた事は、即座に士気に影響を与える。

巨人軍は浮き足立ち、戦線は防衛軍が有利に傾こうとしていた。

グラソードとアルベルト、フェンとアダルマンの一騎討ちは再開しているものの、先程までの勢いは喪失している。

長兄であるダグリュールの敗北は、二人にも影響を与えているのだろう。

そんな中、

「クアーーーッハッハッハ!」

と、空気を読まずに笑い出す者が居る。

ヴェルドラだ。

「見事! 見事だぞ、シオン。良くやった。我の予想を上回ってみせたな!」

愉快そうに笑うヴェルドラ。

ルミナスはそんなヴェルドラを睨み、

「なんじゃ、居たのか? 邪竜 ( トカゲ ) め!」

と吐き捨てる。

ヴェルドラは一瞬怯んだものの、気を取り直したように胸を張った。

「無論だとも。貴様等が心配だった故、見守っておったのよ!」

感謝して欲しそうにそう言ったのだが、ルミナスの冷たい態度に変化は無い。

いや、本当は影で色々頑張っていたのは事実なのだ。

実の所、『停止世界』の中で、グラソードとフェンを抑えていた――フェンの相手をしていた分身体からは、複数回に渡る救援信号が発せられていたのだが無視していた。何しろ、シオンに大半のエネルギーを奪われたせいで、余裕が無かったのだ――のは、ヴェルドラの並列存在なのだから。

それなのに、今更自慢気に言い出せる雰囲気でも無く、ヴェルドラは言葉に詰まる。

冷や汗が出るものの、ルミナスの冷たい 金銀妖瞳 ( ヘテロクロミア ) を前に、言葉が出ないのだ。

(ぐ、ぐぬう……何故、我が悪者のような扱いに――)

ちょっと涙目になるのも仕方のない話である。

「で、何をしに来たのだ? もう全て終わったぞ?」

そんな冷たいルミナスの言葉に、逃げ出したい気持ちになってしまうヴェルドラ。

だが、そんなヴェルドラを救ったのは、今シオンが倒した筈のダグリュールであった。

「っふ、ふはははははは! 千数百年ぶりだぞ、地に膝をついたのは。

まして、ワシから血を流させる事が出来たのは、ヴェルダナーヴァ以降誰もおらぬ。

誇るが良いぞ、シオン、よ!」

そう言いながら、倒れた身体を起こすダグリュール。

頭から流れ出る血は、シオンの能力の効果により止まる気配は無い。

それなのに、ダグリュールの 覇気 ( オーラ ) はその勢いを増している。

「ふむん。やはり、流石はダグリュールよ。

シオンよ、そこで休んでいるが良い。

やはり、コヤツの相手は我以外には出来ぬようだ」

ダグリュールの前に、ヴェルドラが進み出る。

そして――

「本来の姿に戻るが良い。全力で、決着を着けようではないか!」

高らかに、言い放った。

ダグリュールは頷き、

「ふっふっふ。竜と巨人、どちらが上か判らせてやろう。

手加減は無しだぞ、ヴェルドラ!

グラソード、フェン、来るのだ。

今こそ、我等の力を見せる時である!!」

ヴェルドラに応じ、叫んだ。

その身体から放たれる圧倒的な 覇気 ( オーラ ) 。そして、異様な雰囲気。

その場の威圧感に圧されて、言葉を発する事も出来ないシオン達一同。

そんなシオン達を、ヴェルドラは一瞥する。

「シオンよ、戦いが始まったら、全力で防御を行うが良い。

アダルマンにアルベルトも、皆で結界維持に全力を注ぐのだ。

手を抜くと、全員巻き込まれて消し飛ぶ事になるぞ――」

当然の事のように、決定事項として話すヴェルドラ。

だが、その真面目な雰囲気に、シオン達はもとよりルミナスも異を唱えない。

ヴェルドラは言葉を続ける。

「ダグラ、リューラ、デブラよ――これより起こる事に刮目せよ。

我は、そなた達の父を殺す。その戦いぶりを、目に焼きつけよ。

今より起るは、神話級の戦い。その目撃者となるのだ――」

静かに、ヴェルドラは言い終えた。

「「「――ッ!?」」」

その普段と異なる姿に言葉が出ない三兄弟。

だが、只ならぬ事が起きようとしている事だけは理解出来たようである。

「「「心得ました、ヴェルドラ様!」」」

一斉に頷き、了承の意を示す。

ヴェルドラはそれを満足そうに眺めると、ダグリュールに向き直った。

そこでは、ダグリュール達の準備も終わろうとしていた。

「開封、 三位一体 ( トリニティ ) !!」

ダグリュールの叫びにより、古の封印が解除された。

ダグリュール、グラソード、フェンの三兄弟が、眩い光に包まれる。

それは、神話の時代の破壊神の再来。

想像を絶する 存在値 ( エネルギー ) を内包する、三面六臂の巨神が顕現したのだ。

その巨神は、一目見ただけで手に負える存在では無いと、シオン達に理解出来る。

そう、目の前に立つ、最強たる竜種を除いて。

「クアハハハハ! その姿、それが本性か? ダグリュールよ!

良かろう! 我も全力で相手をしてやろう!!」

竜形態 ( ドラゴンモード ) へと変身するヴェルドラ。

そして、超常能力を有する者同士の、神話級の戦いが開始する。

そんな中。

(ああ良かった! 我の出番が無いのでは? と心配したわい――)

という、ヴェルドラの本心に気付く者など、誰一人としていなかったのである。