LNCrawler

219話 vsダグリュール その8 -決着-

転生したらスライムだった件 — ncode.syosetu.com · All chapters

219話 vsダグリュール その8 -決着-

ヴェルドラとダグリュールの戦いは、周囲に絶大なる破壊を巻き起こしていた。

それを苦々しく思う者がいる。

そう、ルミナスだ。

(くそ! あのトカゲ! ほんとに、本当にもう!! どうしてくれようか――)

激怒の余り、プルプルと身体が小刻みに震える。

それを止めるのに苦労しつつ、ルミナスは考える。

大地には、数多の稲妻の柱が乱立し、触れる者を炭化せしめている。

被害が都心部にまで及ぶのが時間の問題なのは、誰の目にも明白だったのだ。

聖都を守護する三重結界は、既にその用を為していない。

国境線を遮断する大規模防魔障壁は、最初にダグリュールとヴェルドラが衝突した際の干渉波を受けて、消し飛んでいる。

一瞬も耐える事が出来ずに吹き飛んだ様は、いっそ潔い程であった。

聖都周辺の生活圏を守護する対魔侵入防止障壁も同様であった。

所詮、一定レベル以下の魔物の侵入を防ぐ目的で設置された結界であり、超生命体とも呼べる"竜種"や"巨神"の攻撃に耐え得る性能を期待するのが酷であった。

これもまた、面白いようにアッサリと消し飛ばされている。

これで残るは、破邪聖浄化結界のみ。

結界を維持する者達は、血の涙を流しつつ、怨嗟の声を上げていた。

誰か一人でも気を抜くと、一気に結界が崩壊する事は間違いないであろう。

それは、結界維持を指揮する"七曜の老師"達も例外ではない。

それこそ、ルミナスの命令を遵守すべく、命を賭して結界維持に全力を尽くしている。

天使の侵入を防ぐべく、聖魔反転の秘法により対聖属性に変更していたのが幸運であったのだ。

ヴェルドラはともかく、ダグリュールの属性は『聖』である。

故に、何とか結界の維持に成功したのだった。

もっとも、対ヴェルドラを想定した結界だったのだが、そちらの方は無駄となってしまったようであったが……。

ルミナスは、上空で繰り広げられる戦闘を鋭く見つめ、溜息を吐く。

ルミナスの想像すらも上回る、超絶能力の戦闘であった。

当然だが、例えルミナスであっても、その戦闘に参加するのは自殺行為である。

文句を言いたくても、それを伝える手段などない。

故に、歯噛みしながら見守るしかないのが現状だったのだ。

そして、その戦闘は更なる激しさを増していく……。

ルミナスの隣では、シオンが食い入るように戦いに魅入っている。

それも当然だとルミナスは思った。何しろ、このような神話級の戦いなど、千年に一度あるか無いかという貴重なものであったから。

強者の戦いは、見るだけでも経験となる。

まして、この様な超越者同士の戦いなど、滅多に見られるものではないのだ。

また一つ、ダグリュールによって弾かれた 雷嵐咆哮 ( サンダーストーム ) によるプラズマ塊が飛来し、都心部に直撃して穴をあけている。

(あのクソトカゲ! また妾の国を滅ぼすつもりか!? 周囲の事も考えるが良い!!)

そんな無茶な事を考えるルミナス。

無理な事は百も承知なのだが、思わずにはいられなかったのだ。

そして、ヴェルドラとダグリュールの戦いは、人化による近接格闘戦へと移ってゆく。

目を離す事など出来ない。

そんな超級の戦闘も、終わりの時を迎える事になる。

ヴェルドラが小さく何かを呟くと同時、虹色の闇が生まれた。

(なんじゃ!?)

それは周囲を包み込むように凄まじい速度で拡散し――

ルミナスが危険を察知した時には、既に遅かったようだ。

慌てて強化した、ルミナスの防御結界も意味を為す事は無かった。

抵抗空しく、ルミナスの意識も虹色の闇に飲み込まれていく。

ルミナスに仕える七大貴族の一人であり、筆頭である大公爵ギュンター・シュトラウスは、大いなる脅威に立ち向かっていた。

懲罰の七天使 ( エクスキューショナーズ ) の一人を相手にしていたのだ。

弓張月 ( クレセントボウ ) を操る、 古城舞衣 ( マイ・フルキ ) 。

外見16歳程度の高校生にしか見えないマイだったが、その戦闘力は筆舌に尽くしがたいものがあった。

ギュンターとて、大公爵と呼ばれる古代より生きる 吸血鬼 ( ヴァンパイア ) の真祖である。

単なる魔王を凌ぐ強者なのだ。

その実力は、旧魔王であるカリオンに匹敵する。

それなのに、マイの前で出来るのは、その身を守る事のみであった。

七大貴族とその直属の配下の者達は、遊撃軍としてダグリュール軍を横から強襲するのが役割であった。

だがその作戦は、マイ一人によって阻まれた。

何しろ、ギュンター以外の者達は、マイの 星屑の流星雨 ( スターダストレイン ) によりほぼ全滅してしまったのである。

人ならざる 吸血鬼 ( ヴァンパイア ) の超再生能力すら追いつけぬ、恐るべき流星矢によって。

辛うじて生きているのは、普段はいがみ合う事もある他の大貴族達のみ。

何とか連携しつつ、マイの攻撃を防いでいたのだが……

それも、先程までの話であった。

矢の直撃を喰らった者は再生不能状態となり、継戦能力を失ったのだ。

最早、この場で動けるのはギュンターのみとなっていた。

「あら、しぶといですね。早く倒れた方が楽になりますよ?」

「抜かすが良い、人間風情が! その首筋に牙を立て、一滴残さず血を吸ってやるわ!!」

ギュンターは生命活動の低下を受けて、生存本能が刺激されていた。

本来、血など吸う必要は無いのだ。

古の昔は、吸血行為により血液から 精気 ( マナ ) を吸い取ってもいたのだが、進化した今ならば 生気 ( プラーナ ) より直接、 精気 ( マナ ) を摂取可能である。

だが今は、目の色が血色に変色し、マイを獲物として捉えていた。

追い詰められた獣のように、ギュンターは己の肉体制限を解除したのだ。

大公爵の誇りにかけて。

たかが小娘に負ける訳にはいかないという思いが、ギュンターの禁忌を解き放つ。

古き血が命ずるままに、その本来の姿へと戻るギュンター。

身体中を駆け巡る魔力が、ギュンターの肉体を作り変え、夜の帝王の姿を取り戻していく。

魔王ルミナスに従属する以前の、自身が魔王であった頃の姿へと。

だがそれでも――

「だから言いましたよ? 早く倒れた方が楽になれる、と」

マイには届かない。

熾天使 ( セラフィム ) の力を得て、 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 武器之王 ( マスターウェポン ) 』に覚醒したマイは、 覚醒魔王級 ( ミリオンクラス ) の戦闘能力を有しているのだから。

懲罰の七天使 ( エクスキューショナーズ ) の中でも、特に――剣、盾、弓の三名は、ユウキの配下の中でも上位者であった。

片手剣 ( バスタードソード ) を操る、アリオス。

星王盾 ( スターシールド ) にて鉄壁の防御を行う、ゼロ。

そして、 弓張月 ( クレセントボウ ) を操る、マイ。

この三人は、別格であった。

アリオスは一度、ダムラダに敗北している。

その苦い経験が、彼の成長を促進したようだ。

慢心を捨て、敵を見下す事なく冷徹に戦いを進めるようになっていた。

今のアリオスは、以前とは別人のようである。

ゼロは一言で言うと、寡黙な男だった。

だが、与えられた役割は確実に全うする。

ユニークスキル『 不動者 ( ユルガザルモノ ) 』による防御力は元々特筆すべきものであったのだが、 星王盾 ( スターシールド ) に覚醒して以降、ゼロの守りはより鉄壁に完璧なものとなっていた。

そしてマイは――

流れるような所作で、弓を構え、矢を放つ。

一つの動作より生み出される矢は、流星となって数多に分離する。

個人対軍隊 ( ワンマンアーミー ) 。

まさに、その言葉が適切な存在となっていた。

両手両足を射抜かれて、ギュンターは無様に地面に転がる。

「下等な人間の分際でっ――!!」

ギュンターの喉に矢が刺さり、叫ぶ事すら封じられた。

為す術なしである。

マイの強さは、余りにも圧倒的過ぎた。

「さて、と。では、そろそろ楽にして差し上げます。ユウキ君の邪魔をする者は生かしてはおけません」

マイは淡々と弓に矢をつがえる。

ギュンターにトドメを刺そうとして――

「撤退するぞ、ここは危険だ」

巨体が出現し、マイの動きを止めた。

マイは驚きつつも、それが良く知る人物であると悟り安心する。

「ゼロ、どういう事?」

「詳しく話す余裕はない。オレが危険だと感じた。そう言えばわかるだろう?」

それだけを告げると、マイの返事を待たずに転移術式を起動させる。

「ちょ、ちょっと!? 貴方、この方面の司令官でしょう? 何故そんな――

まさか……天使達は残していくというの!?」

マイの驚愕の声に、ゼロは答えない。

そして――

「 帰還 ( リターン ) !」

有無を言わせず、マイを連れて帰還して行ったのだった。

ギュンターは悪運強く、九死に一生を得たのである。

ギュンターはそのまま意識を手放したお陰で、気付く事は無かった。

その直後に、周囲に虹色の闇が溢れた事を……。

アルノーは直前まで戦っていた敵の司令官が去ったのを、呆然としつつ確認していた。

当初、アルノー率いる聖騎士団は、天使軍の迎撃に当たっていた。

同様に、貴族連率いる 血紅騎士団 ( ブラッディーナイツ ) も、天使軍の主力を迎撃して回っていたのである。

数で負けているものの、属性の反転した破邪聖浄化結界は、天使の侵入を防いでいる。

結界の綻びからの侵入の迎撃ならば、数の上での不利を無くす事が出来ていたのだ。

だがしかし、天使軍の司令官が前線に出て来た時、天使の動きが見違えるようになったのだ。

天使達は、司令官の命令に忠実に従う。

自己犠牲をも厭わぬ攻撃は、結界の綻びを加速させていく。

中には、自爆攻撃を行う天使もおり、戦況は一気に悪化していった。

ならば、司令官を倒すのみ!

そう考えての聖騎士隊長格による強襲であったのだが、作戦は失敗した。

ゼロと名乗ったその男は、圧倒的な強さだったのだ。

一切攻撃を仕掛けて来なかったが、アルノーの攻撃を全て、巨大な盾で防いで見せたのだ。

アルノーも、迷宮での修行の成果が出て、今では聖人級に片足を突っ込んだ強さとなっている。

そんなアルノーの攻撃は全て、完全に見切られているかの如くに防がれたのだ。

いや、一手も二手も先を読んだように迷いなく流されてしまったのである。

格の違いをまざまざと感じさせられる相手であった。

天使達の指揮を執りつつ、アルノーを相手取る。

舐められていると激昂しかけたアルノーであったが、結局はその男の実力を認めざるを得なかった。

魔法は全て 抵抗 ( レジスト ) され、剣撃は盾により受け流される。

不動なる山を相手にしている気分にさせられたのである。

アルベルト直伝の閃光剣すらも、大きな盾に阻まれて通用しなかった。

また、その盾には『武器破壊』と『攻撃反射』効果もあるらしく、一方的に攻撃している筈のアルノーの方がダメージを負う始末。

剣に 闘気 ( オーラ ) を纏わせて強化していた分、ダメージはより一層大きなものとなっていた。

剣そのものが無事だっただけマシである。

このままでは、何も出来ずに敗北する――そう判断し、一時撤退を決意したアルノー。

号令を出そうとした時、ゼロが天使達の指揮を中止した。

突然の事にアルノーが戸惑うのを尻目に、ゼロは天使達を残して去って行ったのである。

指揮官が消え、動きを止めた天使達。

自動攻撃は行っているものの、統率を無くした天使は烏合の衆に過ぎない。

ゼロの意図が読めずに混乱しつつも、天使迎撃の命令を出そうとして――

アルノーもまた、虹色の闇に捕われる事になる。

何が何だか理解出来ぬままに、アルノーも意識を手放すのだった。

ヴェルドラは、虹色の闇の中心に佇んでいる。

目の前には、ダグリュール。

「――貴様、ワシを苗代として、世界を改変したのか?」

「ふむん。改変というより、元に戻したというのが正解だな。

豊穣なる神秘の波動 ( ファータイルパラドックス ) は、厳密に言えば攻撃では無いからな。

この地に、我の加護を与えたのよ。生命無き者を糧として、自然の成長を促すのだ。

嘗て、魔法災害が生じたこの地を正常に修復し、豊穣なる大地へと戻す為にな。

ちなみに、お前の身体を核としてある。

この効能の解除は不可能だぞ――何しろ、これは回復能力だからな」

「気付いておるわ。忌々しい程に狡猾な事よ――」

「クアーーーッハッハッハ! 褒め言葉として受け取っておこう。

何、安心するが良い。早ければ数百年、遅くとも千年も経てば、貴様の聖気も元通りになるだろうさ。

今の状態に完全に再生され、自然に生み出される事になる。

その頃には、この地の正常化も完了しておるだろうよ」

「クッククク。貴様、ワシの国の現状に気付いておったのか?」

「ふむ。現状というのは、後数百年程で水が枯渇し、巨人の生命力を以ってしても生存不可能な土地になってしまう事か?」

「やはり、気付いていたのか。ワシが縛鎖巨神団を動かしてまで、ルミナスの領土に侵攻した真の目的に――」

「いや……そんな事は知らぬ。我には関係ない事であるしな。

だから、貴様の部下に若年兵や女子供がおらず、死兵のみである事もどうでも良い事なのだ」

「ふ、ふはははは! とぼけるかよ。

ヴェルダナーヴァ様の命令は、かの地に在る天空門を守護する事。

我等巨人は、その命令を忠実に守ってきた。

そして、このままでは命令に従い、朽ちる事になると理解していたのだ。

それでも良かった。ワシだけならば、な。

だが、かの方が去った後に生まれた者達までも、同じ運命を押し付けるのは忍びなかったのだ。

ルミナスには悪いが、チャンスだと思ったよ――」

「ふむ。所詮この世は弱肉強食。誰も責めはしないだろうさ」

「――何故、何故この地を蘇らせる? 我等を助ける為、か?」

「クアハハハハ! 勘違いするな! 我は、我がお前より強いと証明してみせたまで。

ついでに、ルミナスのヤツの機嫌を直す為にも、この地を豊かにしてやろうと思ってな。

まさか、死の砂漠地帯までも効果範囲に入るなど――誤算であったわ!」

「ふふっ、ふははははは! あくまでも白を切るか。

良かろう、恩になど感じぬぞ、ヴェルドラよ!」

「当然である。友の間に、貸し借りなど不要! また、戦おうぞ。まあ、次ぎも我が勝つがな!」

「抜かせ、トカゲに何度も負ける程、ワシは甘くないわ!」

ヴェルドラとダグリュールは、顔を見合わせて大笑する。

そこには一片のわだかまりもなく、お互いに清々しい表情であった。

「さて、そろそろ 豊穣なる神秘の波動 ( ファータイルパラドックス ) の効果が行き渡る頃だな」

「で? 足りない分のエネルギーはどうやって調達したのだ?

ワシの残存エネルギーだけでは賄えぬだろうが」

「ああ、上空に天使共がうようよおったから、それを流用しておる。

本来は、全員を対象にする技なのだが、確率変動により敵対者のみに適用させたのよ。

クックック、便利であろう? チマチマと選別する必要すらないのだ」

「…………理不尽なヤツだな、貴様は。まさか、ワシの生き残りの部下共までも――!?」

「ん? ああ、そっちは残してある。現状を見て、敵意があるようなら始末するがな。

天使は自由意志を持たぬ故、今回は"敵対意志を持つ者"と"意志無きモノ"という条件を対象にしてあるのだ。ま、後は適当にだな」

なるほど……と納得するダグリュール。

ヴェルドラならば、何でも有りだろう、と。

(しかし、意志無きモノ? それは、構造物も全て破壊してしまうのではないのか?)

ふと、そうした心配が脳裏を過ぎった。

天空門自体には、実は意志がある。

だから、門自体の心配をした訳では無いのだが、一瞬確認した虹色の闇の効果範囲の広さから考えるならば、自分の領土が全て含まれているのは明白。

いや、含まれているからこそ、この地の再生が目的だと悟った訳だ。

(まあ良い。建造物など、また建て直せば良いのだ。ワシが心配する事でもない――)

気持ちを切り替えるダグリュール。

だが最後に、

「ヴェルドラよ、頼みがあるのだが良いか?」

「む、何だ?」

「ワシの部下共と、息子達に、伝言を頼みたいのだ」

とヴェルドラに言った。

対するヴェルドラは、

「クアハハハハ! それは自分の口で伝えるが良い。

貸し借りはなしだと言ったであろう?

その程度の時間ならば、何とかなるだろうさ。

そろそろ、闇が晴れるしな」

そう答えて、ニヤリと笑うのだった。

虹色の闇が晴れた。

荒野が広がり、それに連なる死の砂漠地帯だった場所。

その地が今、緑が一面に広がる大地へと変貌していた。

凄まじい勢いで草木が生え、肥沃な土壌を生み出していく。

瞬く間に、ジュラの大森林にも劣らぬ程の、広大な森林地帯が形成されていた。

「ちょ、ちょっと張り切りすぎちゃった、かな?」

ヴェルドラが小さく呟く。

どうやら、意図していた以上の凄まじい変貌ぶりだったようだ。

ヴェルドラが不安そうに顔を顰める横で、ダグリュールは最後の演説を行っていた。

「聞けい! ワシの後継は、ダグラに譲る。

リューラ、デブラよ! ダグラを助け、巨人族の繁栄の為に力を尽くすのだ!

そして、巨人族の戦士達よ! ダグラを王として、その命に従うが良い。

ワシは、ヴェルダナーヴァ様に忠誠を誓っていたが、ダグラに強制するものではない。

新たな王は、自身の判断にて、何が正しいのか見極めよ。

貴様の判断に、巨人族の命運が握られるのだ。

逃げる事は許さん。ワシが戻った暁に、巨人族が滅んでいたならば――

わかっておるだろうな?」

「は、はいぃ!! 父上、当然であります! 身命を賭して、王たる責務を果たします!!」

「我等も、兄上を助け、父上の期待に応えると約束いたします!」

「当然でやんす!」

ヴェルドラとダグリュールの戦いを最後まで見届けていた三兄弟は、闇が消えると同時に目覚めていた。

そして、目覚めると同時に宣言された内容を吟味する間もなく、誓いの言葉を陳べたのだ。

ここで躊躇う事など許さない、そういう空気をダグリュールが発していたからである。

そして――

『我等一同、新たな王に従い、国の為に尽くします!!』

ダグリュールの敗北と、ヴェルドラの救済を理解する縛鎖巨神団の精鋭達は、異を唱える事なく従ったのだった。

それを見届け、満足そうに頷くダグリュール。

「この大戦を見届ける事が出来ぬのは残念だが、もう時間が無いようだ。

貴様らならば、ワシと違い正しい道を選択出来ると信じておるぞ。

ワシの留守は任せた! では、さらばだ――」

その言葉を最後に、ダグリュールは地面に吸い込まれて消えていった。

この地と、自身の肉体の再生を行う為に、長き眠りにつく為に。

こうして、ダグリュール軍の侵攻は失敗に終わった。

天使達は、一匹残らずに生贄となっている。

リムルとルミナスの連合軍は、この地の防衛に成功したのであった。

もっとも――

この地の防衛には成功したが、都市は跡形も無く消滅していた。

ダグリュールの予想通り、無機物である都市そのものは、綺麗さっぱり破壊されていたのである。

しかも、大森林が生まれた事で、都市の再生を行うのも簡単ではないと思われる。

当然、その事に激怒する人物もいる訳で……。

「で、ヴェルドラよ。どういう事なのか、妾に説明してくれるのだろうな?」

美しい銀髪で隠れている額に、くっきりとした青筋を浮かべて、ルミナスがヴェルドラに問い掛ける。

顔は美しい笑顔であるものの、その目は全く笑っていない。

ヴェルドラは一気に、自分が危険な状態に追い込まれたような錯覚に陥った。

(そ、そんな馬鹿な! 汚名を返上する完璧なまでの作戦が!?)

ルミナスの危機を救い、その上、ルミナスの領土を豊穣な大地へと創り換える。

完璧な作戦のハズだった。

それなのに、どうやら怪しげな流れになっているとしか思えない。

「え、っとだな……。これには海よりも深い訳があるのだ……。

説明してやりたいのだが、我も忙しい。話はまた後ほど!」

そう言うなり、ヴェルドラは空に舞い上がる。

そして、ダグリュールと戦っていた時を上回る速度で、この地を後にしたのだった。

「くそ、また逃げおった! 許さんぞ、アホトカゲめが!!」

残されたルミナスの怒りの言葉が、ヴェルドラに届く事は無かったのである。