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226話 迷宮への侵食 その1

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226話 迷宮への侵食 その1

ヴェルドラが何度もこちらを振り返りつつ、未練がましく去って行くのを見送る。

諦めの悪いヤツだ。余程嫌みたいだが、俺から大量に魔素を奪ったんだから、仲裁ぐらいは頑張って貰いたい。

それに竜種同士の喧嘩の仲裁なんて、他の者には出来ないだろう。

俺だって嫌だし。

そんな訳で、妥協する事なくヴェルドラを送り出したのだった。

ヴェルダの戦力も、残り少ないと思われる。

ディーノのヤツに聞き出した所、ヴェルダの幹部は十四柱だったようだ。

ダグリュールの敗北を聞いて「げ、マジかよ!? あのおっさんが負けるとは……」と驚愕してから、話してくれた。

嘘か本当かは知らないが、ヴェルダにこれ以上の隠し戦力は無いのではないかと思っている。だって、少年漫画でもあるまいし、劣勢になってまで隠す意味が無いしね。

四凶天将と 懲罰の七天使 ( エクスキューショナーズ ) が、最高戦力としてのヴェルダの腹心だったようだ。

後は、ディーノに従う堕天使のピコとガラシャ。

そして、ルシア。

四凶天将で残るはディーノだけだし、 懲罰の七天使 ( エクスキューショナーズ ) 四柱もテスタロッサ達が始末した。

それにイングラシア王国にて、子供達やヴェノム、クマラのトドメによって 懲罰の七天使 ( エクスキューショナーズ ) を一人倒している。

さて誰が動くものやら、などと考えていると……。

丁度、各国にて動きがあったようだ。

カリオン達に最後の抵抗を見せていた天使達が、 瞬間移動 ( テレポート ) にて忽然と消え去った。

" 黄金郷 ( エル・ドラド ) "を攻めあぐねていた天使軍も、時を同じくして消失している。

どうやら世界各地に散っていた天使達も同様に、一斉に消えたようだ。

そして、 魔物の国 ( テンペスト ) に全ての戦力が統合されて出現する。

その数、凡そ六十万。

百万の大軍から四割も減少したにも関わらず、未だ圧倒的な威容を誇っていた。

ヴェルダが持つ残り全ての戦力にて、 魔物の国 ( テンペスト ) を叩き潰そうと襲って来たのである。

シエル先生の予想通りに。

こうして見ると、各地で勝利を治めたにも関わらず、天使軍の脅威度は高いままだ。

まともに戦争を行うならば、俺達も無事には済まないだろう。

だが、こちらには迷宮がある。

ゲルドとガビルを地上に配備し、ディーノのヤツと遊ばせていたけれど、その目的は一種の陽動だった。

戦争してますよ、とヴェルダに思わせるのが目的である。

最悪の場合は迷宮に撤退する。それで、天使軍は軍としての行動を取る事が出来なくなるのだ。

帝国が攻めて来た時と同様、各個撃破にて対応出来るのだから。

当然問題はある。

ラミリスの能力にも限界があり、入り口を作る事が可能な範囲が限定される事だ。

好き放題どこにでも出入り口を作るという事は出来ないのである。

正確に言うと、百階層の先の精霊の棲家へはどこからでも繋がるようだったが、出るのは入った所からしか無理なのだそうだ。

魔物の国 ( テンペスト ) から入ってウルグレイシア共和国のウルグ自然公園に出るとかは出来ないという事である。

この事が問題になるのは、避難させている冒険者達や 魔物の国 ( テンペスト ) の住民達にとってなのだ。

出入り口が限定される以上、そこを封鎖されると詰みである。

上位者ならば転移があるが、一般人で転移可能な者は少ない。

転移魔法は転送先の問題もあるので論外だった。

何より、転移魔法は複雑な法則が絡むようで、普通の者が迷宮内から行うのは危険らしいのだ。

俺や幹部達ならば気軽に何処へでも転移可能なのだが……。

迷宮内部でも生活は出来るのだが、一生外に出る事が出来なくなるのは辛いだろう。

そんな理由もあって、一応は入り口を死守してますよとアピールさせていたのである。

だが、それももう終わりだ。

ヴェルダが想定通りに俺を誘き寄せる作戦に出たのなら、それを撃ち破るまで。

入り口を封鎖されるのは痛いが、後から封鎖を破ればすむ話である。

ここは策に嵌ったフリをしつつ、上手く対応するとしよう。

全てはこちらの想定通り。

既に次なる作戦は命令済みである。

相手の戦力がこちらの想定を上回らない限りは大丈夫なのだが、さてどうなるか。

ベニマルも今はまだ 魔素量 ( エネルギー ) が回復していない。

戦力としては心許ないし、少し心配ではある。

だが、

「ここはお任せを! リムル様は安心して、迷宮の防衛力を御覧になって下さい」

というベニマルの言葉を信じる事にする。

ま、最悪はディアブロに出て貰えば良いし、何とかなるだろう。

不安が解消された訳ではないが、迷宮に残った者達を信じるしかないのだ。

今回の作戦は、迷宮を危険に晒す事になる。

だからなるべく不安を取り除きたかったのだが、敵は待ってはくれない。

こうして俺が悩んでいる間に、 魔物の国 ( テンペスト ) に対する全面攻撃が開始されたのだった。

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ゼロはヴェルダに能力を与えられた後、各地に残った天使を全て呼び集めた。

そして、 魔物の国 ( テンペスト ) に対する全面攻撃に向けて出陣する。

ゼロは寡黙な男だ。

そして、その正体は人間ではない。

懲罰の七天使 ( エクスキューショナーズ ) 筆頭はアリオスだったが、最強はゼロである。

それも当然の事。

何しろ、ゼロはユウキが作製した、人造人間だったのだから。

広義の解釈をするなら、ヴェガの兄弟であるとも言える。

ヴェガが擬似的に攻撃的な性格に調整されたのに対し、ゼロからは一切の感情を削ぎ落とされている。

高い演算能力と感情に左右される事のない冷静な判断力を兼ね備えた、戦闘人形としてこの世に生み出されたのである。

何百体も生産されたユウキの手作りの人形達の中で、ゼロが唯一にして完全なる成功例と言える。

類稀なる戦闘センスと、完成された 戦闘粘生物 ( バトルクリーチャー ) としての肉体。

与えられた 熾天使 ( セラフィム ) の能力を完全に掌握し、精神生命体としても進化している。

そして、今。

ヴェルダにより与えられた完成した 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 邪龍之王 ( アジ・ダハーカ ) 』を得て、ゼロは一つの壁を超えようとしていた。

ゼロの身体と『 邪龍之王 ( アジ・ダハーカ ) 』が混じりあい、特異的な変化が生じたのである。

それはヴェルダでさえも予想し得ない変異。

誰にも気付かれる事なく、ゼロの中で変異は進行する。

天使軍六十万の編成を終え、ゼロ、マイ、ディーノ、ピコ、ガラシャの五名が顔を合わせた。

最後の打ち合わせを行う為である。

到着した途端、ゼロにより全員が集められたのだ。

ゼロに与えられた天軍総司令官の肩書きを見せられて、ディーノ達に拒否権は無い。

何よりも、先日会った時と比べる事も出来ない程に、ゼロの 覇気 ( オーラ ) が圧倒的な威圧を放っていた事も理由であろう。

面倒な事になったとは思ったものの、ディーノには従うしか選択肢が無かったのだ。

「で、どういう作戦でいくつもりだ?」

「ディーノさん、貴方のように消極的に戦っていても勝てませんよ?

叩くなら、一気に叩く。戦力を集中させ、敵に休む暇など与えるべきではありません」

「馬鹿にすんなよ。

アイツ等に迷宮に引き篭もられたら面倒だからこそ、コツコツ叩いていたんだぜ?

作戦なんだよ、作戦」

マイの突っ込みに対し、既に考えてあった言い訳を堂々と言い放つディーノ。

ここで言い淀んだりしないのがディーノの凄い点である。

本当はサボっていただけなのだが、堂々とする事で作戦に見えなくもないから不思議なものだ。

「ぐ……減らず口を……」

真面目な優等生タイプであるマイからしたら、ディーノは苦手な相手であった。

マイを言い負かせた事で気を良くし、ディーノは更なる追撃を行おうとしたのだが。

「言い争う時間も惜しい。さっさと作戦を開始したい。

オレが受けた命令は、総攻撃による迷宮破壊だ。

故に、ヤツ等が迷宮に立て篭もるなら、それも良し。

どうせ迷宮を破壊するのだ、何も問題ないだろう。

さっさと地上部隊を掃討し、迷宮への侵攻を開始するぞ」

ゼロがディーノを止め、ヴェルダからの命令を伝える。

その命令に顔色を変えるディーノ達。

「おいおい、無茶言うなよ! あの迷宮は難攻不落だぞ。

一度失敗してるから言う訳じゃないが、マジであの中は不利なんだって。

相手は完全なる不死で、損害を無視出来る。

軍隊で攻めても、分断された上に各個撃破されるだけだっての」

「そうよ! それにね、地上部隊の中にも強いヤツがいるんだって。

冗談みたいに硬くて、ソイツのせいで、攻撃が通用し難いのよ」

「そうだぞ。このガラシャと一騎討ち出来る猛者もいる。

数で押しただけで簡単に排除出来るようなヤツ等ではないのだ」

ディーノに続き、ピコとガラシャも文句を言う。

事実、ここ数日の攻防にて、彼女達はゲルドとガビルを攻めあぐねていたのだから。

全力解放して戦っていればわからないが、普通に戦っているだけでは一進一退のまま勝負はつきそうになかったのである。

そんな彼女達だからこそ、簡単に地上部隊を掃討するというゼロの言葉に反発したのである。

ディーノにしても迷宮の難易度が高いのは理解しているので、これは本心からの忠告であった。

もう一度迷宮に入りたくは無いというのが本音だったりもするのだが、それは言わぬが花であろう。

だが、ディーノが心配した最悪の方向に話は進んだ。

つまりは――

「問題ないと言った。マイ、君に天使達の指揮権を譲渡する。

全軍を指揮し、地上部隊を掃討してくれ。

君なら、遠距離攻撃に補正がある。

上空から天使達による神聖光弾の一斉射撃を行い、地上の敵を殲滅するのだ」

「わかったわ。私の能力による『命中率上昇』と『遠距離威力上昇』にもってこいの舞台ね。

天使達を『 思念連結 ( コネクト ) 』させ、私と同調させるけどいいわね?」

「問題ない。地上は君に任せる事になるが、構わないか?」

「ええ。それで、貴方はどうするの?」

「オレとディーノ達で、迷宮に侵攻する」

簡潔にゼロが決定した内容が、ディーノの不安の的中を物語る。

(な、何でコイツ、相談もなく……)

叫び出したい心境になるディーノだったが、残念な事に権限で言えばゼロが上だった。

「おいおい……迷宮内だと、相手は何度でも復活するって――」

「問題ない。オレが迷宮そのものを侵食する。

ヴェルダ様に授けられた真なる『 邪竜之王 ( アジ・ダハーカ ) 』の能力を用いて、な」

ディーノの言葉を遮るように、表情を変える事なくゼロが断じる。

それ以上の議論は不要といったゼロの態度に、ディーノも言い返しても無駄だと諦めた。

それは既に決定事項であり、ゼロがヴェルダの命令だと言う以上、ディーノの言葉で変更など出来ないだろうから。

「わかったよ、従えばいいんだろうが。で、迷宮に入るのは俺とお前だけか?」

「迷宮には、オレとお前達三人で入る。

そしてお前達三人には、オレが迷宮を侵食する時間稼ぎを任せるぞ」

「……わかったよ」

ディーノが応じた事で、ピコとガラシャも覚悟を決める。

こうして、ラミリスの迷宮を攻略するメンバーが決定したのだった。

「いつ作戦開始するよ?」

というディーノの質問に、

「今からだ」

と、短く返答するゼロ。

そして――

ゼロの言葉を合図として、 魔物の国 ( テンペスト ) に対する過去最大級の大規模攻撃が開始されたのである。

煌く閃光。

目視不可能な程の、天使達による一斉攻撃。

地上を熱波が薙ぎ払い、リムル達が創り上げた町を蒸発させる。

" 守征王 ( バリアロード ) "ゲルドと" 天龍王 ( ドラグロード ) "ガビルが率いる部隊も、天空より降り注ぐ単なる結界では防御すら出来ない光の雨を前にして、撤退を選択する事になる。

ゲルドの能力により、守りに対する補正がかかっていなかったならば、その攻撃により全滅していたであろう激しさであった。

マイの 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 武器之王 ( ボウウェポン ) 』の能力補正は、精密射撃を可能とする。

マイにより意志統一された天使達は、マイの目線によりターゲットを捕捉し、一点集中による攻撃を行うのだ。

六十万もの天使達の一点集中攻撃は、凄まじい。

その焦点温度は計測不能となる程だ。ゲルドの防御結界によって反射拡散させていなければ、抵抗すら許されなかったであろう。

一瞬とは言え耐えて見せた、ゲルドを褒めるべきであった。

町があった部分が、僅かな時間にて何も存在しない更地へと変貌する。

ディーノの指揮により統率されていなかった時と異なり、一つの意志の下に動く天使達。

一個の生き物であるが如くに、一糸乱れぬ動きを見せる。

それは最早、先程までと同等に考える事の出来ない、 魔物の国 ( テンペスト ) にとっての脅威となっていた。

地上部隊が迷宮に逃げ込んだ事を確認し、ゼロは頷く。

出口と思わしき場所――地上に口を開ける入り口と、似たような波動を放つ空間の歪が数箇所――を確認する。

マイもその場所を目視し、天使の軍勢のターゲットとして目標固定を完了させた。

「逃げ出す者に容赦するなよ」

「わかったわ」

短く意思疎通を行うと、ディーノ達を引き連れ迷宮へと動き出すゼロ。

ディーノ達を嘲笑うように、ピコやガラシャが認めた者達を一蹴して見せたマイ。

それは認めるしかないと思うものの、面白くないとピコは思った。

(それに、何だかアッサリと退いたように見えるのよね……)

そんな事を言えば負け惜しみに聞こえてしまうだろうと思い口には出さないものの、ピコにはその思いが拭えない。

何しろ自分が戦っていた時は、余りにも高い防御力を誇るゲルドに苦渋を舐めさせられたのだから。

それをアッサリと撃退してのけたマイは凄いと思うものの、どこか釈然としない思いがあったのだ。

(まあいいわ。迷宮内に逃げたのなら、戦う機会はあるだろうし。

でも、あの防御力で不死身とか、マジで洒落になってないんだけど……)

その時はその時と割り切って、ピコもディーノ達に続いて迷宮へと向う。

四人が迷宮に入った時――それが、ゼロによる迷宮侵食作戦が開始された瞬間だった。

書籍化決定いたしました。

多分、『なろうコン』を辞退した時点でお気付きの方も多かった事とは思いますが、正式にご報告させて頂きます!

詳しくは活動報告に記載しますので、良ければ御覧になって下さい。