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233話 迷宮への侵食 その8 -終息-

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233話 迷宮への侵食 その8 -終息-

ディーノには、隠された能力が一つあった。

究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 堕天之王 ( ルシフェル ) 』という、最古の究極能力の一つである。

ギィの『 傲慢之王 ( ルシファー ) 』とミリムの『 憤怒之王 ( サタナエル ) 』を合わせたような権能を持つ。

ただし、ギィやミリムの能力に比べると、その性能は劣るものであった。

故に、ギィやミリムの前では『 堕天之王 ( ルシフェル ) 』が意味を為さない事を、ディーノは深く理解していたのである。

"星王竜"ヴェルダナーヴァの腹心であったディーノ。

常に傍に控え、ヴェルダナーヴァの剣となって戦場を駆けた。

最強の剣士としての地位は、その時に確立されたものである。

そして世界は平定され、地上から争いは消え去った。

その後、ヴェルダナーヴァより地上の監視者という任務を授けられ、世界を旅するようになる。

だが――

ディーノが不在の時を狙ったかのように、彼の主君であるヴェルダナーヴァはこの世を去った。

その最愛の奥方であるルシアと共に。

ディーノは激怒し、愚かな国を滅ぼした。

その時に獲得したのが、 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 堕天之王 ( ルシフェル ) 』であった。

元よりヴェルダナーヴァに与えられていた 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 天空之王 ( ルシフェル ) 』が変質したのだ。

苛烈な怒りと憎悪を以って、ディーノは破壊の限りを尽くしたのだった。

魔王ギィ・クリムゾンに悟られる事もなく、速やかに復讐は為されたのである。

だが、そんな事ではディーノの気が晴れる事はない。

世界そのものを滅ぼそうかとも思ったが、ミリムというヴェルダナーヴァとルシアの忘れ形見が居る事を思い出し、荒ぶる心を静めた。

それから数千年。

生きる意味を見失ったまま、ディーノは地上の監視者としての任務を続けていた。

自身は怠惰に生き、部下二人の報告を聞くだけであったけれども。

魔王となったのは情報を得る為だ。

ミリムという存在を影から守る事が、ディーノの生きる意味であったから。

もっとも、直接接触する事はなかったし、ミリムを主と認めるつもりもなかったのだが……。

そんなミリムをクレイマン如き小者が殴りつけた事で、ディーノの中で何かが変化した。

知らぬ間に獲得していたユニークスキル『 怠惰者 ( ナマケモノ ) 』が、 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 怠惰之王 ( ベルフェゴール ) 』へと進化したのだ。

怠惰な生活を続けていたディーノが獲得したユニークスキル『 怠惰者 ( ナマケモノ ) 』は、対象を堕落させる能力だった。

せっかく手に入れたのだから、使ってみようと考えたディーノ。

暇つぶしで、ダグリュールをからかい半分に、ユニークスキル『 怠惰者 ( ナマケモノ ) 』にて堕落させようと遊んでいたのだ。

ディーノと同じく亡き主へと忠誠を捧げるダグリュールが哀れで、その心を解き放とうと考えたというのも理由であった。

そんな目的で使っていただけの能力が究極進化したのは、ディーノにとってはまったく意図せぬ出来事だったのである。

だが、しかし。

この能力の獲得こそが、ディーノの運命を変える事になった。

――それは偶然だったのか、或いは、運命だったのか――

天使系の能力を持つ者は、 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 正義之王 ( ミカエル ) 』の隠し能力である、 天使之支配者 ( マスタープログラム ) に 抵抗 ( レジスト ) 出来ない。

唯一それに抵抗出来る可能性は、悪魔系の能力にて天使系の能力を相殺する事のみだったのだ。

変質したとはいえ『 堕天之王 ( ルシフェル ) 』は天使系の能力であり、『 正義之王 ( ミカエル ) 』の絶対支配からは逃れられなかった。

しかし、この時。

この、ラミリスの生み出した迷宮の中で。

長き間封印していた、 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 堕天之王 ( ルシフェル ) 』を発動させた瞬間に。

ディーノは悟ったのだ。

(ああ、そうか。天使系の能力こそが、思考誘導の 徴 ( マーカー ) となってやがったのか――)

悪魔系が自由能力であるのに対し、天使系は系統能力である。

上位存在の命令に従うように、 命令組込 ( プログラム ) されていたのだ。

堕天した事で最初から抵抗力が増していたディーノだったが、亜空間に隔離された事で、支配の呪縛から解き放たれる事になったのだ。

そして、一度脱してしまえば、二度と囚われる事はない。

ディーノは『 怠惰之王 ( ベルフェゴール ) 』にて『 堕天之王 ( ルシフェル ) 』を相殺し、完全に支配下に置いたのだった。

◇◇◇

ディーノは迷宮外壁まで貫通した穴を抜けて、亜空間へと飛び出した。

その時は既に、『 堕天之王 ( ルシフェル ) 』に対する『 正義之王 ( ミカエル ) 』からの思念干渉波の痕跡を感知し、『 怠惰之王 ( ベルフェゴール ) 』にて対策を完了させている。

腐ってもディーノ。仕事は早いのだ。

仕事が出来ないのではなく、したくないだけ。

それがディーノという男であり、必要に迫られたならば速攻で終わらせる事を良しとするのであった。

言うまでもないが、最善は『働かない』事である。

だが、ディーノにとって残念な事に、既に彼は色々と仕事を押し付けられる運命が待っているようだった。

『よくやったわ! さあ、もう一仕事残っているわよ!』

ゼギオンと離れたのにラミリスの思念が届く。

つまりは、完全にゼロの体内からの脱出に成功したという事だった。

既に二人が待機しているらしく、速やかにゼギオンは所定の位置へと向かっている。

気配を探れば、覚醒魔王級を軽く超える 魔素量 ( エネルギー ) を有する者が二人。

ゼギオンを含めて三名が、正三角形を描くように配置していた。

(ディアブロと、ベニマルか。

――コイツ等、また 魔素量 ( エネルギー ) が増大してるんじゃね?)

と思ったものの、突っ込む元気もない。

ディーノは速やかに作戦の意図を理解し、自身の役割を理解した。

最高戦力を有する者により、ゼロを殲滅する。

竜種を滅ぼすのは簡単ではない以上、本気で消滅させる事など不可能と思っていたが……どうやら彼等は本気なのだ、と悟ったのだ。

ディーノも辺の長さが均等となるように亜空間の中を移動し、所定の位置へ到達した。

それは、四名以上の者が必要となる儀式。

二人で、点と点を結ぶ一次元。

三人で、面を描く二次元。

四人ならば、空間を形成する三次元となる。

つまりは、積層型魔法陣をはるかに凌ぐ、空間型魔法陣が形成されるという事で……。

そして、"狂邪竜"ゼロを囲い込むように、正四面体が完成した。

各人を頂点として、『絶界』にて閉じ込めたのだ。

「クフフフフ、流石は魔王ディーノ様。察しがよくて、助かります」

「ああ、気色悪い。敬語はいらねーよ、ディアブロ」

「そうですか? 敬う心は欠片も込めていないので、気にしなくても良いのですが?」

「ふざけんな! 余計駄目だろ!? 嫌味でしかねーじゃねーか……」

「そんな事はいいだろ。さっさと終わらせようぜ?」

「その通りだ。戯言は後で言え」

え、俺が悪いの? という言葉を飲み込むディーノ。

言っても無駄だし、下手すれば、ゼギオンから余計な怒りを買いそうだったから。

ディーノは既に、ゼギオンに対して苦手意識を植え付けられているのであった。

「では、ディーノ殿。主技は貴方に。我等はタイミングを合わせますよ」

ディアブロが言う。

ベニマルにゼギオンも異論はない。

三人だけならば完璧にタイミングを合わせる事が可能だが、ディーノにそれを求めるのは酷と言うもの。

そこで、ディーノが技を放つと同時に、三人が追従する形を取る。

ディーノにも文句はない。

寧ろ、タイミングを合わせろと無茶を言われずに済んで胸を撫で下ろしている。

「わかった。全力でいくぜ!」

そう叫ぶなり、精神を研ぎ澄まし、最高の一撃を放つべく、意識を集中させていく。

六対十二枚の白と黒の翼を輝かせて、双剣へと周囲の魔素と霊子を収束させて――

「 天魔双撃覇 ( フォールンクルセイド ) !!」

そして放たれた、白光刃と黒影刃。

それは見事に正四面体の中心にて交差した。

色無き極光が『絶界』内部を満たす。

しかし、"狂邪竜"ゼロへの攻撃はそれだけでは終っていない。

白光刃と黒影刃が交差する瞬間――

「 世界の崩壊 ( エンド・オブ・ワールド ) !!」

「 幻想次元波動嵐 ( ディメンションストーム ) !!」

「 陽光黒炎覇加速励起 ( プロミネンスアクセラレーション ) !!」

放たれる超絶技。

正しく絶妙なるタイミングにて、ディーノの放った技に被せるように正四面体の中心部に到達する。

それは宇宙開闢以来で最大となる、絶禍の破壊力を生じさせた。

威力を逃さぬように構築された『絶界』を、破壊の災禍が埋め尽くす。

―――― 四重複合絶技 ( カルテットスキル ) : 絶撃追憶滅光崩 ( ブレイクダウンノスタルジア ) ――――

四名の力が一つに合わさり、究極の破壊を生み出したのだ。

この場が亜空間であった事は、幸いであったと言える。

例え『絶界』にて閉じていたとしても、洩れ出た余波だけで地上を蹂躙する程の破滅的な力だったのだから。

この世界における上位者四名による 四重複合絶技 ( カルテットスキル ) は、相乗効果により想像を絶する結果を生み出したのだった。

◇◇◇

その光景を目撃した者は、皆一様に押し黙った。

ただ一人を除いて。

「クフフ、クハ、クハハハハハ! 素晴らしい、本当に素晴らしい力です!!

だが、何より素晴らしいのは、"竜種"という存在ですね。

これ程の破壊の力を浴びて尚、その存在を消滅させていないのですから――」

ディアブロが哄笑を放ちながら、冷静に分析する。

その言葉通り、正四面体の中心部に"竜核"だけが消滅せずに残っている。

無色だが、鈍い煌きを放つ不思議な珠が。

皆、その珠に心を奪われたように見惚れていたのだ。

だが、それが油断へと繋がった。

"狂邪竜"ゼロは、滅び行く我が身を省みず、せめてもの抵抗として誰か一人でも巻き添えにしようと最後の足掻きを試みた。

四面体の一角でも崩せば、『絶界』にて閉じ込めている暴威が解き放たれて、ここにいる者達を全て巻き込めると計算したのだ。

ゼロの本能には認識出来ていなかったが、もしそれに成功したならば、ラミリスの迷宮本体へも甚大なる被害を与える事となっただろう。

邪悪なる本能が命ずるままに、ゼロは最後の力を振り絞り触手を伸ばした。

その触手の先にいたのはディーノ達だ。

「あっ――」

真っ先に反応したガラシャが、ピコを引き寄せディーノに向けて投げる。

触手からその身でピコを庇ったのだが、それが限界であった。

触手はガラシャを掴み取ると、『絶界』へと引きずり込む。

バランスを崩したピコの腕の中から、ガイアが「キュィーー!!」と叫びながらガラシャに飛び付いた。

それはまさに、一瞬の出来事であった。

「ガラシャ!」

叫ぶが、ディーノは動けない。

今動けば、『絶界』が崩れる事になると理解していたからだ。

「ウチがっ!」

「やめろ! あの中に入ったら消滅する――」

飛び込もうとするピコをディーノは止めた。

試すまでもなく、耐えられる威力ではない。

そんな事をしても、ピコまで失うだけだと分かっていたのだ。

(クソっ! 俺が油断しなければ……)

悔やむが、どうする事も出来なかった。

諦めるしかないのだ。

「でも、それじゃあ、ガラシャが……それに、ミリム様の ペット ( ガイア ) も……」

ピコが相方の身を想いディーノに訴える。

しかし、ピコにも分かっているのだ。

どうしようもないのだ、と。

「こんなの、こんなの嫌だよ……。ディーノ――!!」

一つだけ。

一つだけ可能性があるとすれば――

「いいか、お前に力を与える。俺の能力ごと譲るから、それで『絶界』を維持しろ。

ガラシャが中心に引きずり込まれてしまったら長くは持たない。

なに、安心しろよ。俺が行って、ささっと助けて来るからさ!

「でも、そんな――」

「俺を信じろ。時間がないからすぐやるぞ」

ディーノは有無を言わせずに、行動を開始しようとした。

触手そのものは既に消滅してしまっているのだが、ガラシャの力ではディーノ達の下まで戻る事は不可能だろう。

何しろ、 四重複合絶技 ( カルテットスキル ) で生み出された破壊の力は『絶界』にて阻まれ、中心へと収束していく事になる。

それは中心部へと向う強力な引力を生み出し、万物を"事象の地平線"の彼方へと葬り去るのだから。

そこから脱出する為には光速を超える必要があり、それは事実上、不可能なのだ。

これだけ空間が歪んでしまっている以上、安定した空間でしか発動出来ない『転移』なども論外なのである。

最早、猶予は残されていなかった。

中心部へと近づく程に、ガラシャへかかる負担はかなりのものとなっていた。

覚醒魔王級である上に防御特化のガラシャだからこそ、何とか結界を維持出来ているに過ぎないのだ。

「じゃあ、気をしっかり持てよ。譲渡を開始――」

「その必要はない」

ディーノがピコへと力を移そうとした瞬間、ディーノの懐から声が聞こえた。

そして輝きを放つ、小さな丸い珠。

それは、作戦開始前にゼギオンから受け取った、リムルが遊びで使っていた 宝珠 ( ギジコン ) だった。

漂うように亜空間へ 宝珠 ( ギジコン ) が浮かび、一瞬だけ強烈な光を放った。

そして出現する、少女のような人影。

青みがかる銀髪を靡かせて、突如ディーノの前に顕われたのだ。

そしてその人物は、「んじゃあ、ちょっと行ってくるわ」と気軽に言いながらディーノの肩を軽く叩き、暴威が荒れ狂う『絶界』へと飛翔して行ったのだった。

◇◇◇

ガラシャは走馬灯のように過去を思い出す。

ピコを庇い、触手に捕まった。

その時点で、自身の生存を諦めている。

"竜種"すらも滅ぼそうかという超々高密度の破壊のエネルギーの渦に、覚醒魔王級とはいえ、一介の堕天使が耐えられるとは思えなかったから。

中心に近づくにつれ、ガラシャの身体にかかる負荷が増大していく。

それでも自己を保っていられるのは、ガラシャに抱きついている小さな竜、ガイアのお陰であった。

ガイアがその身を削るようにガラシャの防御結界を補助し、辛うじて破壊エネルギーの中和に成功しているのだ。

だが、それも時間の問題である。

この世界の最高位者四名による、 四重複合絶技 ( カルテットスキル ) 。

それは、嘗てこの世界が経験した事もないほどの、想像を絶する破壊力を生み出しているのだから。

ガラシャの感覚では、その大きさを理解する事も出来ない程の。

「馬鹿だね、お前は。私に付き合う必要なんてなかったのに……。

可哀相だけど、もう助けてあげられないわよ――」

「キュィ?」

ガラシャはそう呟き、自分の胸に抱きつくガイアを優しく撫でる。

そして、直ぐにでも訪れるであろう最後の時を、諦めの心境で穏やかに待つ……。

だが、その時が訪れる事はない。

何故ならば――

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

間一髪だった。

シエルが新たなる能力を生み出すのがもう少し遅れていれば、ガイアを失う事になっていた。

そうなっていれば、ミリムがどれほどに怒る事か。

考えただけでもぞっとする。

まして、ディーノが助けに飛び込もうとしていたが、無茶も良い所だ。

覚醒魔王級が二人いた所で、光速度には到達し得ない。

光すら脱出出来ない 暗黒地獄 ( ブラックホール ) なのだから、光速の九十九%に到達しても意味がない訳で……。

中心部に到達する前ならば、もしかしたら脱出可能かも知れないが、分の悪い賭けだろう。

気合で何とかなるというものではないのだ。

では、俺ならば何とかなるのか?

当然だが、俺も光速を超えた動きなど出来はしない。

それでも大丈夫と言い切れる理由は簡単だった。

時間を止めてしまえば、速度なんて考える必要もない。

それこそ、光速を超えた動きも自由自在なのである。

だが今回は、その必要もないだろう。

俺の『虚無崩壊』による『虚無結界』ならば、ある程度の中和が可能だからだ。

結界に触れるモノを虚無のエネルギーへと変えて取り込む。

それが、『虚無結界』の特性だった。

脱出するのではなく、耐え切る。これしかないだろう。

まあ万が一失敗しても、俺自身は絶対に無事なのだ。

何しろ、シエルが新たに創作した能力、『多重存在』が 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 虚空之神 ( アザトース ) 』へと組み込まれたのだから。

シエルが 究極能力 ( アルティメットスキル ) 『 邪龍之王 ( アジ・ダハーカ ) 』を解析して完成させた能力なのだが、これによって、俺は全て繋がった分身を生み出す事が出来るようになった。

この能力のお陰で、俺はヴェルダを警戒する必要がなくなったのだ。

こうして姿を現したが、この亜空間ではヴェルダにも感知出来ないだろうと思う。

だが、万が一の場合を想定すると油断は出来ないと考えていた。

しかし、今となっては問題ない。

もしも感知されてラミリスの迷宮が隔離されたとしても、俺の本体とも言える分身は相変わらず虚数空間に存在するのだから。

隔離された場合、本体との繋がりが断ち切られる可能性はあるけれども、両方から探知しあったならば発見は容易だろう。

何しろ、同一人物な訳だし。

不思議な感覚だが、並列思考も難なく出来るようになっていて、別行動しても問題ないのだ。

ヴェガが使っていたような半端なものではなく、シエルが完成させた『多重存在』という能力がある以上、俺を滅ぼす事は非常に困難となったと言える。

"魂の回廊"を通して、俺の『多重存在』は全て繋がっていると言えるのだ。

とは言っても、まだ練習段階であり、今はまだ遊びで使っていた 宝珠 ( ギジコン ) を核にしないと存在出来ない段階なのだが。

まあ、練習していけばその内簡単に出来るようになるだろう。

という訳で、万が一の場合でも俺が死ぬ事はなく、 宝珠 ( ギジコン ) が壊れるだけで済む。

その場合でもミリムの機嫌をどう宥めるかが問題になるのだろうが、それはまた別の話であった。

「あ、貴方は……!?」

ガイアのついでに助けたガラシャというディーノの仲間が、俺を驚愕の瞳で見つめつつ問うてきた。

顔は知ってると思ったのだけど、会ったのは初めてだったかな。

「ん、ああ。初めまして? 俺が魔王リムルだ」

結界の中で挨拶する。

ガラシャは絶句したような顔をして、上手く言葉を話せなくなっていた。

緊張しているのだろうか? まあいいけど。

こうして無事にガイアとガラシャを回収出来たし、後は嵐が治まるのを待つだけなのだ。

そう思って一息ついたとき、ふと正四面体の中心部に在る"竜核"が目に付いた。

「あれがあれば、お前も本当の"竜種"になれるかもな」

何の気なしに、ガラシャに抱かれているガイアにそう言ってしまったのが失敗だった。

別に実行させるつもりなんてなかったのだ。

それなのに――

「キュィーー!!」

とやる気に満ちた叫びを上げて、ガイアが俺の張っている『虚無結界』から飛び出したのだ。

「ちょ、お前!」

声を掛けるが、既に後の祭りであった。

俺の制止の声が届く頃には、既にガイアは結界の外。

そして、結界の外の超々高密度のエネルギーに晒されて、一瞬にして分解されてしまう。

ガイアの依代となっていた 宝珠 ( ギジコン ) が砕けて消えた。

それは、ガイアが消滅した事を意味する。

《流石は 主様 ( マスター ) です。私と同じ事を考えておられたのですね》

ミリムになんて言って謝れば――そんな事を咄嗟に考えていた俺に、シエルの冷静な声が聞こえた。

は? 何を言っているんだ、シエルは?

そんな疑問を俺は抱いたのだが、仕方ない話だろう。

ガイアを俺が自殺に導いたようなものだし、決して意図的ではなかったにしても許されない話だろうから。

まさか本当に"竜種"になれる訳でもあるまいし……。

って、まさか!?

その可能性に俺が思い立ったのと同時、正四面体の中心にて輝く"竜核"が一際輝きを放って明滅した。

《竜種が消滅しないことはご存知でしょう?

狂った破壊の意志である"狂邪竜"となってしまったゼロも、それは同様です。

地上のどこかに再び転生し、ヴェルダにより与えられた"狂邪竜"として狂った使命を遂行しようとするだけの事。

それこそが、『 邪竜之王 ( アジ・ダハーカ ) 』という擬似的な"竜核"をヴェルダが創造した理由なのですから。

ですが、その"竜核"に新たなる 心核 ( ココロ ) が生じれば、話は別です。

竜の因子の欠片を持つガイアならば、その資格を十分に有していると言えるでしょう》

シエルの説明が終る頃、その正しさを証明するかの如く、結界の外で奇跡が起きようとしていた。

簡潔に言うと、ガイアが"竜種"になったのだ。

俺は冗談のつもりだったのだが、現実とは怖ろしいものである。

"嘘から出た真実"という言葉があるように、俺の言った言葉は本当に実現してしまったのだった。

ガイアは一瞬で分解されたけれども、その 心核 ( ココロ ) は意志を持ったまま"竜核"へと辿り付いた。

そして、そのまま定着に成功したらしい。

後は、シエルによる狂った因子の除去にて終了である。

荒れ狂っていたエネルギーは全て制御され、一体の美しい蒼い竜が顕現していた。

俺を除外して、五番目の"竜種"とでも言うべきか。何しろ、俺は厳密には"竜種"ではなさそうだし。

蒼く煌く体躯。

それは、宝石よりも美しい輝きを放っていた。

ヴェルドラ達と違い、東洋の竜のような細長い形状をしている。

果たして、ヴェルドラの弟なのか妹なのか。

どっちにしろ、兄弟が出来る事はヤツにとっては喜ばしい事だろう。

「キュィーー!!」

ガイアは嬉しそうに、喜びの叫びを上げている。

まだ言葉は話せないようだ。

知恵や知識もあっという間に蓄えるだろうが、今はまだ生まれたばかりという事か。

「はは、本当に成功させたか。良くやったな、ガイア!

そうだな、せっかくだしお前にも何か"二つ名"を考えてやるよ」

ヴェルドラは"暴風竜"だし、ヴェルグリンドは"灼熱竜"だった。

その弟か妹となるなら、ガイアも正式名称があった方が良いだろう。

そうだな――

「良し、決めた。お前は今日から、"地帝竜"だ!

ヴェルドラの兄弟だし、"地帝竜"ヴェルガイアが良いんじゃないか?」

閃くままに、気軽に名付けた俺。

それが、この世に生まれた 五番目の竜 ( フィフスドラゴン ) 、"地帝竜"ヴェルガイア誕生の瞬間であった。

周囲の暴威は消え去り、『絶界』も消滅した。

美しい竜が生まれ、脅威は去った。

ディアブロ、ベニマル、ゼギオン、そしてディーノ達。

皆が俺に向かって飛んで来るのが見える。

しかし。

名付けによって大量の魔素を奪われた俺は、存在を維持する事が困難となり――

(ていうかさ、これも名付けになるんだな……)

《――当たり前ですよ……》

シエルの呆れたような声を最後に、 宝珠 ( ギジコン ) との接続が切れたのを確認したのだった。