24話 追想~葬送曲~
24話 追想~葬送曲~
明日から3日程は、更新出来ないと思います。
土曜には再開しますので、お待ちください!
覚えている光景は、降り注ぐ炎。
掴んでいた母親の手は、余りにも軽く。
その先を見るのが、怖かった。
近くで焼夷弾が炸裂し、辺りを火の海に変えている。
どこへ逃げればいいのか?
周囲を炎に囲まれて・・・。
井沢静江は、絶望と共に途方に暮れる。
その時、強烈な光が自分を包むのを感じた。
ああ・・・、自分はここで死ぬのか・・・・・・。
幼い彼女でも、理解出来た。
当時、4歳。
頼るべき親戚も無く、母親と二人暮らし。
父親は戦争へ駆り出され、顔も覚えていなかった。
幸せだとも、不幸だとも感じない。日々それが日常であり、そういうモノと受け止めるしか無かったのだから・・・。
炎に包まれ死にゆく運命であった彼女に・・・、
"生きたいか? 生を望むならば、我が声に応えよ!"
頭に声が響いた。
生きたいか? だって? そんなの判らない。
その問に応えるには、彼女は幼すぎた。
だが、それでも・・・、自分を庇って手だけになってしまった母親を見て・・・・・・、生きたい! そう、思った。
《確認しました。召喚者の求めに応えます・・・成功しました》
そして、炎に怯える事なく、生きたい!
《確認しました。エクストラスキル『炎熱操作』を獲得・・・成功しました》
次に目覚めたのは、魔物の巣窟。
目の前には、美しき"魔王"。
長い 金髪 ( プラチナブロンド ) に、青い瞳。整った顔立ちに、切れ長の眼。
透き通るように白い肌。
それは、女性と見紛うばかりに美しい、美丈夫。
レオン・クロムウェル。
それは、人間の"魔王"。その二つ名は、"金髪の悪魔"。
「ああ・・・、また、失敗だ。」
彼は、そう呟き、彼女への興味を失った。
だからこそ、全身に大火傷を負い死にかけている彼女を殺す事はしなかった。
どうでもいい存在であったから。
彼女は、それが悔しかった。
今でも思い出す。あの美しい、顔。そして、興味無さげに、見下された絶望を。
あの時の彼女には、彼に縋るしか生きる術は無かったというのに。
結局、彼女を助けたのは、魔王の気まぐれ。
「まて・・・」
何かを思いだし、魔王は呟いた。
彼女にはそれが不気味で・・・、
「た、助けて・・・」
縋るように、魔王に手を伸ばす。
彼なら、天使の様に美しい、彼なら、自分の苦しみを癒してくれるのでは? そう思えたのに・・・
「ゴミかと思ったが、コレは炎への適正がありそうだ。」
そう言って、召喚術式"炎の 巨人 ( イフリート ) "を起動する。詠唱も行わず、容易く。
召喚した炎の 巨人 ( イフリート ) に、無造作に命じる。
「お前に、肉体を授けよう。使いこなせ!」
それは、彼女の事を、人間として見ていない証拠。
悔しさは、憎しみへと転じた。
これが、彼女の心に刻まれた、 呪縛 ( トラウマ ) 。
だが、この憑依により、彼女が死から逃れる事が出来たのも、また真実なのだ。
それから、どれ程の時が経ったのか・・・。
彼女は、炎の魔人として、魔王の城に君臨する。魔王の側近の、上位魔人として。
コツンコツンコツン・・・。
城に、静かな音が木霊した。
既に魔王は、逃げている。この城は、放棄されたのだ。
彼女は殿軍。捨石にされた。
魔王は、最後まで彼女を道具として扱った。そこに一切の感情を挟む事なく。
やって来たのは、"勇者"。
長い黒髪を後頭部で一纏めにし、身を包むのは、濃黒に統一された軽装備。
魔王に劣らぬ、美しい美貌。違う点は、"勇者"が少女であった事。
見た瞬間に、直感した。
勝てない! と。
その心理が、炎の 巨人 ( イフリート ) の意識を抑えたのか、ほんの少し自我が戻る。
勇者と、目が合った。
「た・・・、たすけ・・・」
虫のいい話だろう。こんな、魔人となった自分の言葉を、信じてくれる訳などないのに・・・。
なのに、
「もう、大丈夫だよ。頑張ったね!」
その言葉で、彼女の目に涙が溢れて来た。
この世界に来て初めて、彼女は、安堵と共に、勇者に縋って泣いたのだ。
それから、彼女は勇者に保護される事となった。
"抗魔の仮面"で炎の 巨人 ( イフリート ) を押さえ込み、同時に、火傷の跡を隠す。
全身をローブで隠し、勇者に付き従う。
いつしか、"爆炎の支配者"の二つ名で呼ばれるようになっていた。
だが、勇者は旅立った。彼女を残して・・・。
その理由は判らない。おそらくは、勇者には勇者の、譲れぬ思いがあったのだろう。
彼女にある、ソレと同様の。いつかは、彼女も旅立つつもりだ。
魔王を、殺す為に。
彼女を生かし、そして捨てた。
その目的が殺す為であるとはいえ、"魔王"レオン・クロムウェルは、今や彼女の生きる目標となっていた。
だから、彼女には勇者の行動を咎める資格は、ない。
ただ、勇者の笑顔を見た事が無かった点が、唯一の心残りであった。
それからも彼女は、英雄として幅広く活躍した。
現在の自由組合の前身とも言える、冒険者互助組合の組織に協力し、その発展に務めた。
冒険者の教導を行い、後進の育成にも携わった。
ある時、優秀な生徒を得る機会があった。
純真な目をした、少年。 神楽坂優樹 ( ユウキ カグラザカ )
絶望に彩られた目をした、少女。 坂口日向 ( ヒナタ サカグチ )
二人の、優秀で同郷でもある、"異世界人"の少年少女。
二人は、実に対照的だった。
前向きで明るい性格のユウキに、常に世界の闇を抱えたような性格の、ヒナタ。
ヒナタがこの世界に来た時、野党に襲われていたそうだ。だからだろう。
そう、静江は考えていた。
野党は無残に何者かに殺害されて、ヒナタは無事だったそうだが、怖い思いをしたのだろう。
自分と、どこか似ているようなヒナタに、親近感が湧いた。
ただし、それは間違いであった。
「先生。お世話になりました。もう、貴方から学ぶ事はありません。お会いする事もないでしょう。」
そう言って、振り向きもせず、ヒナタは去って行ったのだ。
彼女は、一月も経たずに、静江の強さを上回った。その、圧倒的な物覚えの良さで・・・。
それから数年で、彼女が教会の重要な地位に付いたと聞いた時も、素直に納得出来たのだ。
薄ら寒さを覚えはしたのだけれど・・・。
それに比べ、ユウキは優しい少年だった。
冒険者互助組合を自由組合と名を変えて、今のシステムを築いたのはユウキだ。
魔物に対抗する、ランク評価を取り入れた事により、死亡率は大幅に減少した。
それから、今日まで。
静江は、裏方として、ユウキを支えて生きて来た。
最も、静江に出来るのは、後進の教導だけであったのだけれど。
そして、最近。
昔、魔人であった頃の事を良く夢で見るようになった。
自分の寿命が残り少ないのか、炎の 巨人 ( イフリート ) の意識を抑え込めなくなって来ているようだ。
"抗魔の仮面"の能力は、未だ失われてはいないのだから。
彼女は、自分は長くないのだ! と、悟る。
ならばせめて、魔王に一矢報いたい。
そして、旅立つ事を決意した。
その事を告げようと、ユウキを訪ねた。
ユウキは何も言わず、了承してくれた。本当は、止めたかったのかもしれないけども・・・。
そんな時、ファルムス王国の自由組合支部より連絡が来た。
ヴェルドラの消失を確認。引き続き、調査を行う! と。
何かの天啓だろうか?
どちらにせよ、森を突き抜ける必要はあった。
3人の冒険者に、上手く潜り込む。
特徴は、ユウキに聞いて知っていた。聞いていた通り、明るく気のいいチームだった。
最後の旅に、いい仲間に出会えた事に感謝した。
不思議な町。
魔物に助けられて、連れて来られた町。
とは言っても、まだテントが建っているだけで、建物は一つしかない。それも仮設である。
だが、活気があり、魔物なのに、楽しそうに働いている。異質な町。
そもそも、魔物に助けられるとは、思ってもいなかった。
炎の力を使えば、 巨大蟻 ( ジャイアントアント ) を焼き尽くす事も出来たが、止めた方が良いと感じた。
自らの力が衰えると同時に、炎の 巨人 ( イフリート ) の意識が暴れだす。
油断すると、暴走の危険があった。
変な魔物が、王様の様にふんぞり返って、偉そうにしていた。
面白い。
言葉を話したのには、吹き出してしまった。
魔物なのに、自分の事を悪いスライムじゃない! だなどと!
町で話しても、誰も信じないだろう。
楽しい時間は、唐突に終わりを告げた。
まだ、私は目的を果たしていない・・・
寿命が尽きようとするその瞬間を狙い、炎の 巨人 ( イフリート ) の意識が自分を乗っ取るのを感じた。
まだ・・・、ここでは迷惑に・・・
そんな意識を嘲笑うかのように、魔人は顕現する。
彼女の意識は暗転した。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
彼女の様子を伺う。
もう、幾ばくも持たないだろう。
意識が戻る事も、無いかもしれない。
それでも、同郷の身として、最後まで面倒をみよう。そう思う。
負傷した3人の冒険者は、元気だった。
こんな大怪我するなんて、危険手当では納得出来ない! と喚いていたが、
「これ、どういう事ですか? 全く火傷の痕が残ってないんですけど…
というか、お肌つるつるのすべすべなんですけど!!!」
「すげーな…、あの怪我じゃ、一週間は動けないかと思っていたんだが…」
「驚きやした…。こいつは、すごい回復薬もあったもんでやす。」
と、渡した回復薬で元通りである。
しかし、
「でもぅ、これじゃ、危険手当、貰えなくないですか?」
「だな…。誰も信じちゃくれねーな…。」
「そうでやすね…、でもま、怪我が残るよりいいって事でやすよ!」
なんとも、現金な悩み事で口論を始めていた。
本当に、能天気な奴らである。
今度、町へ遊びに行きたいと告げると、
「何だったら、ギルドマスターに伝言してやろうか?」
そう言ってくれた。
その言葉に、俺は喜んで伝言を頼む。
冒険者に憧れはある。身元確認なんて面倒な話は勘弁してもらいたいし、魔物で冒険者登録出来るか怪しい。
カバルが、リムルという名前を出せばギルドマスターへ話しが行くように、取りはかってくれると約束してくれた。
やはり、いいヤツだ。
俺は気をよくし、餞別として出来立ての、
粘鋼糸衣 ( スパイダーローブ ) 、
甲殻鱗鎧 ( スケイルメイル ) 、
硬革鎧 ( ハードレザーアーマー ) 、
といった装備品や、回復薬を10個と食料を用意し、渡してやった。
「ちょ!!! このローブ、何なんですか!!! 軽い上に頑丈! ていうか、めっちゃ丈夫!」
「うぉーーー!!! 憧れの 甲殻鱗鎧 ( スケイルメイル ) !!! ガ、ガルム師の作品じゃねーか!家宝にします!!!」
「うぇ! いいですかい! あっしには勿体無いような作品。牙狼の毛皮まで使用されてやすね!」
なんというか、大はしゃぎだった。
そりゃ、炎で装備は破損しまくりの上、報酬で買い替え出来ないと喚いていたのだ。
俺のせいではないが、少しだけ同情してしまったというのはある。
渡したのは、試しに作ったヤツだったのだが…
それ、試作品なんだけど…、とは言い出せなかった。
あんなに喜んでいるのだ。水を差す事もないだろう。
問題ない。彼らには、言わないほうが良い。
試作品でも、性能はいいのだから!
まあ、これだけ喜んでくれているのだ。忘れずに伝言してくれるだろう。
最後には、3人とも、俺の事を旦那! と呼んで懐いてくれていたしな!
最後までシズさんの事を気にしていたが、3日程滞在して旅立った。
一週間が経過した。
シズさんが目覚めた。
「ここは…、そうか……、迷惑をかけた。」
意識はハッキリとしているようだ。
魔人化しても、記憶は鮮明なようである。
「夢を、見ていたよ……。
懐かしい夢。もう戻れない…、町の。」
日本の事か?
「なあ、スライムさん。君の名前は、なんていうの?」
リムルだと、名乗ったハズだが…ボケたか?
「リムルだ。」
目を瞑り、何か考えて、
「本当の名前は、教えてくれないのかい?」
そう、問いかけて来た。
気付いていたのか? 一瞬躊躇ったが、
「ふん。どうせ、貴方は長くない。教えよう、三上悟だ。」
本当の名前。もう二度と、名乗る事は無いと思っていたのだが…。
「やはり、日本人だったのか…。そうじゃないかと、思ったんだよ。雰囲気が…ね。」
沈黙。そして、
「わたしの弟子達にも、聞いたんだ。綺麗な町になったんだって? あの、周りを見回しても、火の海だった、町が…?」
「ああ。何なら、見せてやるよ。」
そう言って、『思念伝達』で、俺の記憶を伝える。
こういう時、本当に便利だと実感する。
「ああ……」
シズさんは、涙を流した。そして、
「ねえ、スライムさん…いや、悟さん。お願いがあるんだが、聞いてくれないかい?」
「なんだ?」
どうせ、碌でもない願いだろう。
だが、最後まで面倒を見る、そう決めたのだ。願いくらい、聞いてやる。
「私を、食べておくれ…!」
何だって? この婆さん。何いってんの?
「私にかけられた、呪いを、喰ってくれただろ…。嬉しかったよ。私に呪いをかけたヤツをぶん殴りたかったけど…
どちらにせよ、私には無理だっただろうし…、ね。
最後の願いだ。私を君の中で眠らせてくれないかい?
私はね…、この世界が、嫌いなんだ。それでも、この世界が憎めない…。まるで、あの男の様だよ…。
この世界に、あの男を重ねて、見ているのかも、知れないね…。
だから、この世界に還元されたく、無いんだ。
お願いだ。どうか、私を、食べておくれ…!」
ふん。
何ていう事のない願い。俺にとっては、容易い事だ。
俺を縛る、呪縛となる願い。俺は、彼女の憎しみを受け継ぐ事になる。
迷う事はあるか? 彼女に安心して、逝って貰う事が出来るようにするには…、答えは、決まっている。
「いいよ。お前の憎しみは、俺が引き継ぐ。お前を苦しめた、男の名前は?」
俺の言葉に目を見開き、火傷の痕の残る顔を引き攣らせ、そして涙を流し…、
「レオン・クロムウェル。最強の"魔王"の一人…。」
祈るように、俺を見つめる。
「約束しよう! 三上悟…いや、リムル=テンペストの名に於いて!
レオン・クロムウェルにきっちりと、貴方の憎しみをぶつけて、後悔させてやるよ。」
ありがとう…。彼女はそう、呟いた。
そして、目を瞑る。眠るように、息を引き取ろうとし、
《ユニークスキル『捕食者』を使用しますか?YES/NO 》
安らかに眠れ、俺の中で!
YES! と念じる。彼女の安らぎを祈るように…
俺の中で、永遠に覚める事の無い、幸せな夢を見れるように…と。
ステータス
名前:リムル=テンペスト
種族:スライム
加護:暴風の紋章
称号:"魔物を統べる者"
魔法:なし
技能:ユニークスキル『大賢者』
ユニークスキル『捕食者』
ユニークスキル『変質者』
スライム固有スキル『溶解,吸収,自己再生』
エクストラスキル『水操作』
エクストラスキル『炎熱操作』
エクストラスキル『魔力感知』
獲得スキル…黒蛇『熱源感知,毒霧吐息』,ムカデ『麻痺吐息』,
蜘蛛『粘糸,鋼糸』,蝙蝠『超音波』,トカゲ『身体装甲』
黒狼『超嗅覚,思念伝達,威圧,影移動,黒稲妻』
炎巨人『分身体,炎化,範囲結界』
耐性:熱変動耐性ex
物理攻撃耐性
痛覚無効,熱攻撃無効
電流耐性
麻痺耐性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
コツンコツンコツン・・・。
彼女は、顔を上げる。
幼く、可愛らしい、顔立ち。
そして、安堵し、微笑みを浮かべた。
ここに、いたんですね! もう、私を置いていかないで!
だが、その人影は首を振り、ある一点を指し示す。
少女は、悲しげな顔を浮かべ、指差す方へ顔を向ける…。
そこには、
お母さん!!!
身体中で、喜びを顕わにし、母親へと駆け出す少女。
人影は、それを確認すると、消えた。まるで、最初から存在していないかの如く。
あるいは、それは少女の思いの生み出した、幻なのかもしれないが…。
こうして、少女は母親と再会する。
少女の長い旅は、今、終わりを迎えた。
ふはははは! 人間の身体を手にいれたぞ!
という場面で、ちょっとだけ区切り良かったでしょうか?
土曜には…頑張ります。