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番外編 -未知への訪問- 02 最初の接触

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番外編 -未知への訪問- 02 最初の接触

毎回感想ありがとうございます!

返事は出来ないかも知れませんが、全て読ませてもらっています。

ザザは舌打ちして、戦闘領域からの撤退を試みる。

連れて来た部下五名の反応は消え、既に始末されたのは明白だ。

作戦は失敗した。

かくなる上は、これ以上の損失――つまり、自分の死――を出さないように、速やかに帰還を目指すべきであった。

ザザは 機械化人間 ( サイボーグ ) だ。

レジスタンス組織――黎明の光――の、地上世界で活動可能な貴重な戦力なのである。

地上世界は毒で汚染されている。

それ故に、ザザの意思とは関係なく、第一優先命令として"生存して帰還する"ように設定されていたのだ。

ザザは組織の忠実なる戦士として、その命令に従った。

当然だが、死への恐怖もある。

しかし何よりも、生きていれば次の機会があると、ザザは経験から学んでいたのだった。

「クソッタレが、小型核を躊躇いなく使いやがって! 覚えてやがれ、俺の部下達を殺してくれた恨み、今度キッチリと返してやるぜ!」

吐き捨てるようにそう言い残し、その場から移動を開始するザザ。

戦闘――というよりは、一方的に蹂躙された――により、生き残ったのはザザ一人だった。

せっかく率いていた部下五名と、 遠隔機動兵器群 ( リモートロボット ) 。

それらの戦力は、敵方が使用した小型核によって、あっさりと分断されてしまっていた。

電磁パルスにより、破壊を免れた 遠隔機動兵器群 ( リモートロボット ) も使用不可能となっている。

この時点で作戦は失敗だった。

輸送手段を失った今、物資の略奪など不可能なのだ。

視界は悪い。

大規模な爆発により、粉塵が巻き上げられていたからだ。

こうなっては仕方ない。

ザザはこの悪条件を利用し、敵の追跡を掻い潜るべく逃走を開始したのだった。

それに、早くしなければザザ自身も、炎に巻かれて倒れてしまうだろう。

爆炎に巻き込まれぬように細心の注意を払いつつ、体内に内蔵された酸素供給装置の有効時間を確認する。

大気成分からを酸素を抽出して保存可能なこの装置だが、地上世界では放射能や有毒ガスが蔓延する上に、そもそもの酸素濃度が低すぎて当てにならない。

その為に、貯蓄された酸素を消耗する前に、最寄の基地へと戻る必要があるのだ。

それが叶わぬならば、比較的汚染度の低い地下世界へと潜るしかない。

生態系の狂いによって生じた奇形種が生息する、危険な地下世界へ潜るのは、出来れば避けたい最後の手段である。

「残り、十三時間か。十分だな」

ザザは、思ったよりも余裕があった事に安堵した。

機械化された 身体 ( ボディ ) は、ほとんど酸素を必要としない。

人工筋肉としてだけではなく、各部位を繋ぐ役割も持つ化学繊維などは、内蔵された動力炉から得られる電力によって伸縮する。

酸素を必要とするのは、頭部に収納された唯一の生身部位である"脳"だけなのだ。

脳を満たす生体溶液格納筒に、薄めて投入するだけで事足りる。

少量の酸素で長時間の活動が可能なのは、これが理由であった。

移動を開始したザザだったが、爆心地を離れて一息吐いた。

「ふう、追撃はナシ、か。どうにか逃げられたようだな……」

ザザが安堵したその時――

脳内に警報が鳴り響く。

「――ッ!?」

慌ててその場から跳躍するザザ。

その直後、ザザが隠れていた岩場に、灼熱の雨が降り注いだ。

熱線砲 ( ブラスター ) だ。

音もなく、気配もせず――ザザに接近していた殺人機械。

それは、 軍用犬 ( ドーベルマン ) の姿に酷似していた。しかし、そんな可愛い存在ではなく、恐るべき殺人機械である。

俊敏な機動性と隠密性に加え、各種探知機による高い追跡探査能力を有する、対人殺戮兵器。

通称――" 殺人機犬 ( マーダードッグ ) "と言う。

音速の三倍で大地を疾走し、短時間なら飛行も可能なのだ。

主武装は、今降り注いでいる 熱線砲 ( ブラスター ) 。

口腔の奥で生成される熱線は、数千度から数万度に達する高温で対象を穿つ。

装甲の薄いザザのような 型 ( タイプ ) の 機械化人間 ( サイボーグ ) では、それこそ一瞬で蒸発するだろう。

熱線を放つ前に懐に潜り込むというのが有効な策となるが、それも現実的ではなかった。

その牙もまた、脅威なのだ。

タイタニウム合金製の牙には特殊な電流が流れており、喰らい付いた対象の電磁バランスを破壊する。

電気信号により身体を制御している以上、装甲で牙を弾けぬ限りは対処が不可能な相手なのだ。

殺人機犬 ( マーダードッグ ) とは、 機械化人間 ( サイボーグ ) の天敵とも呼べる兵器なのである。

「ちきしょう! 殺人機犬 ( マーダードッグ ) が三匹だとっ!?」

ザザは絶望で顔を歪めた。

たまたまセンサーが、燃え盛る炎によって熱せられた 殺人機犬 ( マーダードッグ ) の体表温度を感知したお陰で初撃を回避出来たが、捕捉されてしまった以上逃亡は不可能だ。

そもそも、ザザは戦闘特化型という訳ではない。

殺人機犬 ( マーダードッグ ) の相手をするなど、もとより無茶な話だったのである。

「すまん――どうやら俺は、ここで死ぬ運命だったようだ……」

ザザは逃亡を諦めて、力なく項垂れる。

死んでいった部下達、そして基地にてザザの帰りを待つ仲間達に謝罪の言葉を残し、ザザは最期の時を待った。

そんなザザに三匹の 殺人機犬 ( マーダードッグ ) が襲い掛かるまで、残された時間は僅かであった。

◆◆◆

疾走するヴェルドラ。

その肩にはラミリスが座る。

それに並走するのはベレッタだ。

三人は疲れもみせず、爆心地を目指して突き進む。

そんな中、座っているだけのラミリスが、能天気な事を言い出した。

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「一つ言っておくわ! アタシ、魔法がほとんど使えないみたいだから、どっちか一人はアタシを守るようにしてよね!」

と。

本人からすれば重要な話なので、能天気は言い過ぎかも知れない。

しかし、魔法使いが魔法を使えないというのは、自分が完全なる戦力外だという宣言に等しい。それを 他人事のようにサラッと言うラミリスは、やはり能天気だと思われても仕方のない話であった。

だが、ラミリスがわざわざそれを言い出したのには、勿論だが理由があった。

守護者であるベレッタは、常にラミリスの身を守るように行動する。

それに関して不安はないのだが、問題はヴェルドラだ。

ラミリスが魔法防御する前提で、大規模な範囲攻撃を行う事も考えられる。

それはどう考えても危険だ。

先に釘を刺しておかないと、被害を被るのはラミリスやベレッタであると判断したのだった。

「ふむ、確かにな。我の攻撃手段は多様だが、範囲攻撃が多い。結界も張れないのか、ラミリスよ?」

「いいえ、弱い威力の結界は張ってるんだけどね。魔素がまったくないから、どこまでの威力に耐えられるか不安なのよね……」

「相変わらず貧弱なヤツだな」

「貧弱ちゃうわ! 師匠やベレッタが異常に頑丈で、強すぎるだけよ!」

「クアーーーハッハッハ。まあ、我は最強であるから当然だな」

「ふ、ふーん。師匠が凄いのは認めるけど、最強かどうかは議論の余地があるわね。アタシが本気だせば大したものだしね。なんなら、アタシの四十八の必殺技を御見舞いしてあげてもいいんだけど?」

「ほほう? 面白い。その力、どこまで通用するか見せてもらおうではないか!」

それが、ラミリスの言葉に対するヴェルドラの反応だ。

ラミリスも今は大言壮語している場合ではないのだが、負けず嫌いなその性格が災いして、いらぬ事を口走ってしまっている。

そもそも、どれだけ本気を出そうともラミリスがヴェルドラに勝てるハズもないというのは、議論の余地などない。

流石にラミリスもそれは理解しているようで、目を泳がせつつベレッタに救いを求めていた。

「ラミリス様。ラミリス様の、その素晴らしい技の数々は、秘密兵器、という事で温存しておきましょう」

とても冷静に、ベレッタはラミリスを宥めた。

その素晴らしい技の数々――などと口にしているが、実際にそんなものを目にした事がないなどとは決して言わない。

ベレッタは空気が読めるのだ。

「え、ああ、うん。そうね、そうよね! こんなところで見せるには、アタシの必殺技はもったいないかもね!」

ラミリスは単純だった。

なので簡単に機嫌を直し、ベレッタの言葉に頷く。

それを優しく見守りつつ、ベレッタはヴェルドラに向けて言葉を続ける。

「ヴェルドラ様も、御戯れはその程度でお願いします」

「お、おう。しかしベレッタよ、お主、ラミリスに甘すぎるのではないか? お主が甘やかすから、どんどん増長しているような気がするのだが……」

「それは気のせいでは?」

「そうよ! アタシが増長なんて、するハズないじゃんよ!」

なーんか我には冷たいよな、ベレッタのヤツ……と、ヴェルドラは思った。

しかしここで口論しても二対一なので分が悪い。

それはともかくとして、未知なるこの世界にて安全対策を考えるのは確かに重要であった。

ヴェルドラもそれに関しては異論がないらしく、フムと頷いて考え込み、言う。

「わかった、わかった。それでは、我がラミリスを守るとしよう。その必殺技とやらは、最後の最後までとっておくがいい」

「わ、わかった。確かにこの技はちょっとヤバイから、そういう事にしておくわ。それじゃあアタシを守ってよね、師匠!」

「では、ラミリス様の守護はヴェルドラ様にお任せして、私が攻撃に専念するとしましょう」

「うむ。魔素が感じられぬせいか、『万能感知』も精度が低い。ベレッタよ、貴様も油断はするなよ?」

「承知」

なんのかんのと言って、ヴェルドラもラミリスには甘いのだ。

こうして、危険があった場合にはヴェルドラがラミリスを守るという事で話はまとまったのである。

そして――

そんな三人の前方に、戦う者達の姿が見えてきたのだった。

◆◆◆

死んだ! と、迫りくる 殺人機犬 ( マーダードッグ ) の牙を前に、ザザは目を閉じ諦めた。

が、しかし――その時は訪れる事なく、鳴り響いたのは硬質なもの同士がぶつかり合う耳障りな音色であった。

(ん? なんだ、何が起きた?)

ザザが恐る恐る目を開けて見ると、そこには見慣れぬ一体の人影が立っていた。

(なんだ、コイツ……? 見慣れぬ形式だが、 人造人間 ( オートマータ ) 、それも、戦闘特化の 機械人形 ( マシンドール ) なのか? それとも……俺と同じ 機械化人間 ( サイボーグ ) ――?)

言うまでもないが、ベレッタである。

ザザが一見しただけでは判断がつかないのも当然だ。

何しろベレッタは、この世界には存在しない 聖魔金属体 ( カオスメタロイド ) であり、球体関節を持つ人形のような外見をしているからだ。

もっとも、その身体を構成する 生体魔鋼 ( アダマンタイト ) は、ベレッタの意思によって自在に変形する。流体金属のような特質を持ち、人間と変わらぬ姿をとる事も可能なのだ。

だが、そんな事情を知らぬザザからすれば、目の前に立つベレッタが敵か味方かすらも判別がつかないでいた。

しかし咄嗟の判断で、 少なくとも敵ではなさそうだと判断する。

何しろザザを、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) の牙から庇ってくれたのだから。

「おい、何者か知らんが、助かったぜ。だが、そいつの牙には特殊な電磁波が流れて――」

そこまで言いかけて、ザザは違和感に気付いた。

ザザの目の前に立つベレッタの腕に、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) の牙が突き刺さっていなかったのだ。

否。

一度突き刺さった牙が、ゆっくりと押し出されていた。

その美しい芸術品のような人形の腕は、装甲が波打つ湖面であるかのように波紋を描き、自然と牙を排出する。

そしてその跡には、一切の傷が残ってはいない。

(嘘だろおいっ!? あんな装甲、見た事も聞いた事もないぞ? どこの研究室で開発したんだよ!?)

驚愕するザザ。

そして、ザザの驚愕はそれで終わりではない。

ベレッタは 殺人機犬 ( マーダードッグ ) を前にして、落ち着いた様子でザザに話しかけてきたのである。

「――言語パターンの解析完了。精神波を直接読み取れば、魔素がなくとも『思念伝達』は問題ないようだ。それと――確かに、未知なる波長の電磁波を感知した。ワレが勝手に戦闘に介入した訳だが、果てさて……人と動物、どちらに加勢するか……。一旦戦闘を中止して、話し合いを行いたいのだが、如何に?」

ザザからすれば聞き取れぬ言語を話していたベレッタが、突然流暢に言葉を話始めたのだ。

それは確かな意思を感じさせるものであり、どう見てもロボットというよりは人類であると、ザザには感じられた。

ベレッタは自分の腕を見て、そこになんの不具合も発生していない事を確認する。

殺人機犬 ( マーダードッグ ) の牙は、確かにベレッタの装甲を穿った。だが、それに意味はない。

衝撃を逃がす為に、ベレッタが敵の攻撃にあわせて形状変化させただけなのだ。

そして電磁波だが……別に精密機械ではないベレッタには、なんの影響も与えない。

無意味な攻撃だったのである。

「おい、アンタ! そんな悠長な事を言ってる場合じゃねーよ!! ソイツは 殺人機犬 ( マーダードッグ ) と言って、対人最強の殺人兵器なんだ。そいつの各種センサーからは逃げられねーんだ。倒すしかないんだよォ!!」

絶叫するザザを、ベレッタは片手を上げて宥めた。そして言う。

「落ち着くといい。とりあえずは、ワレが貴様の安全を保障してやろう。その見返りとして、詳しい話が聞きたい」

「わかったから。なんでも話してやるから、とりあえずは、さっさと逃げ――――はあっ!?」

ザザの了承を得たベレッタは、ザザの言葉が終わるよりも早く、動いた。

あまりにも速く、ザザの認識を超える動きで。

そしてそれは、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) 達にとっても同様であった。

ザザとベレッタの会話を待つでもなく、目に映る動く者共を殺戮しようと行動に移った 殺人機犬 ( マーダードッグ ) 達。

だがしかし、ベレッタはそれを予想していたように反応して見せたのだ。

ベレッタに対して、牙の攻撃は通用しなかった。

高い人工知能を持つ 殺人機犬 ( マーダードッグ ) は、その原因を分析する。しかし、そう簡単に答えは出ない。

いや、以前に……。

殺人機犬 ( マーダードッグ ) は、正しく状況を判断する暇も与えられずに破壊される事になった。

――そしてそれは、この戦闘を監視する者達がベレッタを脅威と認定するのに、十分すぎる理由となったのである。

◆◆◆

殺人機犬 ( マーダードッグ ) の主――機械化帝国アルムスバインの南部方面治安維持軍所属ヒイラギ中尉は、突然の事態に動揺していた。

ここ最近、というよりは記憶にある限りで、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) に対峙しえた地上兵器は皆無なのだ。

地上で音速の三倍もの速度を出せる四足歩行の機動兵器を前にしては、一昔前の最強兵器だった四十メートル級 多目的戦車 ( モンスタータンク ) :マンモスですらも敵ではなかった。

主砲である200mm 電磁加速砲 ( レールガン ) は脅威だが、体長1.5m程度の小型の 殺人機犬 ( マーダードッグ ) に照準を合わせるのは困難だったからだ。

仮に、兵器とするには高価過ぎる超電子演算装置を装備して自動予測照準で対応しても、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) はマッハ7で飛来する砲弾を回避して見せた。

類希なる反応速度と、各種探査能力の凄まじさを見せ付けるだけの結果となったのである。

――それに、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) の真価はそれだけではなかった。

継続戦闘能力だけは及ばぬものの、その他の性能では 多目的戦車 ( モンスタータンク ) を大きく引き離すのだ。

搭載されている 熱線砲 ( ブラスター ) は 多目的戦車 ( モンスタータンク ) の装甲を軽く突き破る。

一度接近を許せば、戦車を守る 機械化人間 ( サイボーグ ) 兵士達では対処は不可能だ。

何しろその牙で切り裂かれるだけで、体内の精密機器の動作を狂わされて行動不能となるからだ。

殺人機犬 ( マーダードッグ ) はエンジンを搭載せず、充電式となっている。その点だけが弱点と言えたが、それは戦闘能力には影響しない。

超小型の出力増幅炉のみを搭載し、一度の充電で七十二時間――ただし、全力戦闘を行えばこの限りではない――の活動を可能とするからだ。

資源が貴重な今、小型ながら恐るべき性能を発揮する兵器の開発こそが、新時代の覇権を握る鍵であると皆に認識されたのだった。

熱核融合エンジンで半永久的に動く無敵の 地上の覇者 ( モンスタータンク ) ――マンモス十両が、たった一匹の 殺人機犬 ( マーダードッグ ) に壊滅させられた時、この世界の兵器の概念が塗り替えられた。

時代は小型化である、と。

そして、ここ十数年、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) は最強の座を欲しいままにしていたのだ。

対人だけではなく地上戦における最強の兵器として、運用されていたのである。

それなのに……。

そんな超高性能の 殺人機犬 ( マーダードッグ ) 三匹を前にして立つ 人型 ( モノ ) ――敵性体と判断――は、恐れるでもなく飄々と、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) を無視するように、獲物であった男と会話している。

そのことはヒイラギ中尉のプライドを刺激するが、今はそれどころではなかった。

「おい! 今の戦闘情報の解析結果は出たのか? 殺人機犬 ( マーダードッグ ) がヤツの腕を噛んだのは間違いないのか?」

「はい。間違いありません! しかし、敵性体への影響は確認出来ませんでした――」

「こちらの分析も完了。 殺人機犬 ( マーダードッグ ) の機能に、異常は感知出来ません。システムは正常です!」

ううむ、とヒイラギ中尉は唸る。

こちらのシステムが正常である以上、答えは一つ。

――敵性体は、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) の牙による 電子破壊 ( ウェーブブラスト ) を無効化したのだ。

(信じられん。が、そもそも……ヤツの正体はなんなのだ? まさか――噂に聞く、生体利用に重きを置く、 生体改造人間 ( バイオノイド ) だとでも? あの技術はまだ、本国でも一握りの者しか知らぬハズ。それ以前に成功したという話など、噂でも流れていないのだが……)

ヒイラギ中尉は悩む。

もしも彼の想像が当っており、敵性体の正体が 生体改造人間 ( バイオノイド ) なのだとすれば、 電子破壊 ( ウェーブブラスト ) が通用しなかった理由はつく。

何しろ 生体改造人間 ( バイオノイド ) とは、人間を素体として細胞の力を極限まで高める改造技術なのだから。

全身細胞を同一のものに変換し、どの部位が壊されようとも復元を可能とする新技術。

あらゆる環境下において適応し、活動を可能とする、進化する細胞を持つ新人類。

その細胞に各々の役割を与え独立した演算素子とする事で、多大な情報量の処理をも可能とする。

その性能は凄まじく高い。

人の脳と同じ容量で、百メートル級の戦艦に艦載する量子コンピューター並みの演算速度を叩き出す。逆に言えば、量子コンピューターの性能を維持する為には、それだけのサイズの戦艦が必要となる、という事なのだ。

そんな演算能力に加え、未だ末端には秘匿されている空間拡張技術を駆使し、超小型化した熱核融合心臓炉を取り込む事で、高出力の生体兵器が完成する。

そんな、夢の様な噂話。

――言うまでもなく、 生体改造人間 ( バイオノイド ) は本国においても 最高機密 ( トップシークレット ) なのである。

ヒイラギ中尉は、頭を振ってその想像を打ち消した。

生体改造人間 ( バイオノイド ) などあくまでも噂であり、そもそも、こんな場所にいるハズのない存在なのだ。

とすれば、あの敵性体は――

「ヒイラギ中尉! 敵性体の解析結果が出ました! ですが、これは……」

「どうした? さっさと答えろ!」

「ハハッ!! 敵性体のエネルギー量に、変動を確認いたしました。通常は熱量が低いようですが、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) と交戦した一瞬のみ、急激に熱量が増大しております。これは、既存の熱核融合炉の常識からは考えられません!!」

「そ、それで、どの程度の出力だったのだ?」

「グラフに測定された限りでは、出力十万キロワットを超えています……」

「馬鹿なっ!!」

ありえん、とヒイラギ中尉は驚愕する。

殺人機犬 ( マーダードッグ ) の二百倍以上の出力――信じ難い数字である。

それにそもそも、動力炉が熱核融合ならば、熱量が変動するというのが理解出来なかった。

理屈に合わない。

敵性体は、未知なる技術を有している超兵器である――そう考えるのが自然だった。

ヒイラギ中尉はそこまで考え、部下に向けて指示を出す。

「謎の敵性体の性能を調べるのを優先しよう。ゴミのような反抗分子の粛清などいつでも出来る。それよりも、我等の知らぬ技術を持っていそうなアレを捕獲し、それを奪うのだ!」

「「「了解!!」」」

命令は速やかに実行に移される。

こうして、ヒイラギ中尉の言う謎の敵性体――すなわちベレッタに向けて、三匹の 殺人機犬 ( マーダードッグ ) が再度攻撃を開始したのだった。

この場で答えが出なくとも、戦闘状況をモニターする事で数多くの戦闘情報を得ようというのである。

その為には、 殺人機犬 ( マーダードッグ ) 三匹を失っても惜しくない、という判断だった。

そして、ベレッタと 殺人機犬 ( マーダードッグ ) は本格的な交戦状態に突入したのである。

そしてその結果が、ベレッタによる三匹の瞬殺劇だったのだ。

◆◆◆

同時に迫る三匹に対し、ベレッタは両腕を前に突き出す構えを取った。

その直後、地面から生えた先端の尖った鉱石塊により、一匹が貫かれた。

と同時に、触手のように伸びたベレッタの手が、鋭い槍と化して残った二匹を刺し貫く。

ベレッタの 究極贈与 ( アルティメットギフト ) 『 機人形之王 《 デウス・エクス・マキナ 》 』による『鉱物操作』と、 聖魔金属体 ( カオスメタロイド ) の特性としての、『流体金属化』による攻撃だった。

この世界の最強の地上兵器として恐れられていた 殺人機犬 ( マーダードッグ ) だったが、ベレッタの敵とは成り得なかったのである。

こうして、勝手に訪問した先の世界での、 最初の戦闘 ( ファーストコンタクト ) が終了したのだった。

五巻の著者校が終了!!

六巻の執筆にとりかかる前に、この番外編を終わらせたい……。

※挿絵のラミリスは、四巻で使われています。多分。

許可をもらって公開しました!