虚無の魔法 前篇
虚無の魔法 前篇
冒険世界 始まりの街
未だジンリの目に怯えてはいるが、少なくとも現状に限りその心配は不要だ。
なんせ共に居るのは、この世界で最高の存在である『騎士王』なのだから。
「やはり、ここの店主が作る串焼きは絶品だな……決め手は何だろうか」
「単純に技量……と言いたいところだが、信念的なものじゃないか? 高級料理を作る連中より、こと串焼きに対する情熱なら負けないだろうし」
「なるほど……想いの強さというヤツか。なかなか侮れんからな、それは」
想いとはすなわち無意識の発露。
その発露は抑制の解放となり、制限している力を発揮するトリガーとなる。
よく知られている例は戦闘なのだが、もちろんそれ以外でだって意味を成すことだ。
今回のケースのように、無意識の内に料理が旨くなるアクセントになる……なんてな。
「だってさ、店主。こりゃあ、もっと旨くしないとケチ付けられるんじゃないか?」
「ったく、アンタらには勝てねぇな。よし、なら俺の情熱ってヤツを見せてやるよ!」
「……そうそう、新作もあるんだ。良ければ試してみてくれ」
「何、まだ隠していたのか!?」
タレを受け取り再び焼き始める店主。
驚いた様子だった『騎士王』も、漂ってくる香りに意識を奪われていた。
「これは……どこかで嗅いだことのある気がするものだな」
「ベースは今までの物と同じだ。けど、少しだけ粘度が変わっている。タレそのものもそうだが、果汁とかもな」
「それだけでここまで変わるものなのか?」
「あえて匂いを散布しやすい、客寄せ用のタレってわけだ。もちろん、味も損なわないようにしてあるから安心してくれ」
なんて串焼きトークをしていれば、店主が焼き上がった物を運んでくる。
それを無言で完食し、感想を語り合ってから──本題に移った。
「アレからしばらくあったが、『生者』に何者からか接触はあったが?」
「いや? 可能な限り隠れていたし、少なくとも助けを求めたくなるレベルの問題は特に無かったと思う」
「そうか……単刀直入に言ってしまうと、例の魔法について聞きたいと魔法世界から厄介な者が来たんだ」
「…………例の魔法?」
魔法世界、俺が行くことのできなかった、休人たちが選ぶ初期地点の一つ。
何よりも魔法を尊び──『騎士王』を除いて──もっとも魔法に長けた者が集う地。
だからこそ、彼らは魔法に対して貪欲。
そのため一部の者が強引に魔法を求め、他世界に向かう……なんてこともあるそうだ。
そして、俺の見せた魔法の中に彼らの琴線に引っかかるものがあったわけか。
まあ、そこまで言われれば大よその察しは付くが……非常に面倒だな。