脱獄計画 その29
脱獄計画 その29
時は遡る。
五十層についての考察を一人済ませ、その奥へと向かった俺。
「……定番な気はしますが」
そこにはまず巨大な珠が一つ。
おそらく、というか間違いなくこの迷宮の核となる代物。
破壊すれば即脱獄可能だろうし、そうでなくとも管理してしまえば思うが儘。
だがそうなると、間違いなく立ちはだかるであろう存在──守護者。
迷宮からの寵愛を一心に受け、チート級のスペックを得るであろう存在。
しかもこの迷宮、星敵を収監する前提なので相応に強さも引き上げているはず。
「勝ち目はありませんよね──こんなにも可愛らしい見た目であっても」
そんな珠のすぐ傍ら、眠っているというか静止しているような少女が一人。
こんな場所に居て、ただの一般人なわけがない……死亡レーダーが激しく鳴っている。
《旦那様……》
「ええ。それでも、始めるとしましょう」
一歩、足を前に踏み出す。
それがトリガーとなったのだろう、息もせず微動だにしなかった少女の瞳がゆっくりと開かれる。
無機質、ガラス玉のように曇りなき眼がこちらをじっと見つめていた。
悪意も殺意も、興味すらない……時間だけがただ過ぎていく。
「…………」
「────」
それでも俺は動かなかった。
必要であれば『SEBAS』が無理やり動かすだろうが、それより何よりその必要を感じなかったから。
やがて少女は立ち上がり、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
警戒度を上げる、武器は取り出さないがそれでも姿勢を幾ばくか前傾に。
「──」
「……」
「──あなたは、【救星者】、であっていますか?」
「…………ええ、そうですよ」
俺の職業である【救星者】……現実だったら絶対に肯定しないが、ここはEHOだ。
アイスプルでのあれやこれを経て、冒険世界で正式に解放された超特殊な職業。
星を救う、あるいは救った者。
そんな存在に贈られる祝福にして呪い。
職業は役割、あるいは運命──ならばこの【救星者】とは何を背負うモノなのか。
…………まあ、俺としては大変便利なチート職業という認識しかないけど。
というか、普通の職業だとうちの家族に並び立てないからな!
「申し遅れました、私はツクル。ご存じかもしれませんが、アイスプルの【救星者】にして冒険世界の『超越者:生者』。今はもっとも新しき星敵でもあります」
「──」
「お嬢さん、よろしければ貴女のお名前を聞かせていただけますか?」
「──無いです、ううん。 ナ ・ くなりました」
それだけで、答え合わせは済んだ。
少女はいったい何者で、どういった存在であるか。
《旦那様、ご提案がございます》
そして、ここで『SEBAS』から囁きが一つ。
その内容に何故は問わず、さも自分で考えたかのように少女の目を見て話す。
「……少し、お話をしませんか?」
「──お話?」
「はい。ここに来るまで、いろんなことがありました。お嫌でなければ、少しばかり昔話に付き合っていただきたく……美味しいお菓子と飲み物も用意しますよ?」
「──分かり、ました」
それからまあ、いろいろと話をすることになったわけだ。
……ただ、俺としてもどうしてあそこまで話を求められたかは正直さっぱりである。