脱獄開始 その17
脱獄開始 その17
邪悪深殿 四十九層
混沌の使徒に由来した力まで使い、足止めしてきた『霧疫』。
だが俺をさして相手にはせず、周囲に海を広げて転移──その場から逃げ出す。
「……ふぅ、上手くいって良かった」
当然、今回用いたのは『真海の主』の権能である海の変質。
魔導世界で見せてくれた、海を媒介とした強制転移を再現してみた。
必要となる海は“真海支配”で人工海水を創ればいくらでも用意できるし、権能の方も『魔王の取腕』で拝借したものを使えるようにしてある。
なお、魔導世界から帰ってきていろいろと試しておいたのだが、海の方のイメージはともかくとして、先ほどの『回帰の海』然り無制限に使えるわけではなかった。
ある程度の条件やらを満たすことで、成立するシビアな権能。
あの時、『覆魔殿』を強制転移できたのは『真海の主』だからこそだったといえる。
なので今回、『霧疫』ではなく俺自身が転移したのもそれが原因。
……アイツ、疫病ばら撒いているだけあって、かなりレベルが高いからな。
「さて、すぐに上に行かないと」
守護者が待つ階層、いわゆるボス部屋には直接向かうことができない。
本来であれば待機部屋に転移で迎えるのだが、この迷宮は五十層が特殊なので無理。
なのでその手前、四十九層を指定して俺は転移を行った。
普段なら出迎えに来てくれる魔物たちも。星敵たちが掃討したのか何も出てこない。
「……おっと、そうだった。いちおう来ないかもだけど念のため──『SEBAS』」
《混沌の使徒の加護を持つ者に対して発動する罠、でよろしいでしょうか?》
「それでいい。最悪、休人の抜け殻を飛ばしてくるかもしれないけど、それはそれで魔物たちが処理するだろうからいいや。今はまだ居るかもしれない関係者を拒む方を優先だ」
《畏まりました》
すぐさまこの場にドローンと人形が配置され、罠の製作に掛かる。
人形の幾体かは『プログレス』付きで、そういう足止め用の能力を持っていた。
「相手がやるぐらいなんだから、こっちがやろうとしたって何もおかしくはないよな」
リポップ時間の関係で、余裕があると言ってもまったりしてはいられない。
配備を済ませた俺はすぐに迷宮の移動、転移陣のある場所へ向けて歩き出す。
「……前と変わってるな。[マップ]も更新されてて分からん──ドローン」
四方八方に飛ばしたドローンにより、消えた地形の情報を再び取り戻していく。
どうやら本当にリセットしていたらしい、が問題はそれがなぜ今かという点。
「まあ、十中八九防衛だとは思うが……急ぐ理由が増えたな」
そうして転移陣を確認後、すぐに俺はその先へ向かうのだった。