脱獄実行 その29
脱獄実行 その29
邪悪深殿 七十一層
アイスプル世界に住まう魔物たちにより、不動だった大樹はへし折られた。
切り倒すことでようやく展開された転送陣に乗り、俺は次の階層へと降り立つ。
「……何もないな、いや本当に」
文字通りの意味では無く、あくまで比喩。
階層そのものはこれまで同様、神殿風の作りをしている。
問題はこの場の生体反応。
魔物は発生しているのだが、そこにこれまで現れていた侵略者ことバシビウスやら名状しがたい異形混じりが存在していない。
完全に、本来想定されていた『邪悪深殿』の有り様と言えよう。
……だからこそ、この非常時にそんな状態であることに違和感を覚えた。
「表と裏、上りと下りを間違えたってわけではないはずだが……どういうことだ?」
下から挑んでいたこの迷宮だが、上から挑む場合には少々勝手が違う。
その特徴の一つが、同位相にありながら異なる場所として出力される点。
まあ、ゲームで言うとサーバーが別だから同じ場所に居ても違和感が無いようなもの。
なので今回も、本来居るべき七十層(上り用)から外れたのではと考えた。
《おそらく、それらも含め八十、九十、百層に仕込みを行っているのかと》
「…………えー、絶対面倒だろう」
《旦那様のこれまでの行動は、あちらも観測しているでしょう。なればこそ、それぐらいしなければ止めることができない、そういった認識となります》
「要は自業自得ってことか……とほほ、仕方ないこととはいえ、やり過ぎ…………なわけないか」
どいつもこいつも厄介極まりない連中だからこそ、俺も手段を択ばず容赦なく手札を切り続けてきた──この選択に間違いはない。
「とりあえず、八十層に行くか……」
《すでにドローンから情報が入っておりますので、地形をご確認ください》
「おっ、助かるな。[マップ]確認っと」
これまでと特に変化は無い、原付を地図頼りに進めて転送陣を跨いでいくだけ。
七十二層、三層と重ねていっても魔物しか現れず特別なことは何も起きなかった。
「なあ、『SEBAS』。これって八十層と九十層でもそれ以外の場所は、こうやって何もない時間になるのか?」
《少なくとも、八十一層から八十九層に関してましてはそうなるかと。九十一層以降ですと、本来の迷宮でも少し特殊な場所が多いため何とも言えません》
「ああ、その前の階層のボスだけを詰め込むとことか定番だよな。うちもそれ、実際導入しているし」
他愛無い会話が、変化しない迷宮の攻略に色を付けてくれる。
七十四層、五層と着々と上へと向かっていくのだった。