脱獄遂行 その14
脱獄遂行 その14
水責めをした後、氷漬けにした迷路。
その中で暴れる逸脱した連中を避けつつ、鍬を片手に掘り進めている。
はっきり言おう、無意味だと。
俺のやっていることもそうだが、相手方がやっていることも。
《『激流の死水』、『凍死の氷晶』。共に準備は万端です》
「反応を確認したらすぐに……いえ、確認が無くとも継ぎ足してください」
《仰せのままに》
自他共に迷路の中に封じ、着実に俺だけが歩を進めていく。
時折氷漬けにされては、死に戻りして周囲ごと強制的に粒子へ還元して自由を得る。
他の連中も、権能やら遺製具やら職業能力やらで氷そのものはどうにかしているはず。
それでも俺の下まで辿り着けないのは、それだけのことを俺がやっているから。
「念には念を。相手は理不尽、そのうえ更に上位がまだ居るんですから……油断なんてしませんよ──“神持祈祷:ポイントシャッフル”。おまけで“トラップシャッフル”を発動し、“高速設置”をしましょうか」
女神プログレスの恩恵により、新たなに異なる『プログレス』を借用。
そのうえで、座標を入れ替える罠を職業能力ですぐさまこの場に設置する。
空間を入れ替える、なんて厄介な能力には本来制限が掛かっているのだ。
だがそれはある程度、緩和できる形で存在している。
「その辺もまた、『プログレス』……そして願望機の不思議な点ですね」
どうして互換性があるのか、たしかに俺や『SEBAS』がそう作ったのもそうだが。
──元より願望機自体が、ある程度柔軟に世界の理に対応できるよう設計されていた。
「…………うん、厄介なことは考えないのが一番ですね! それよりも、この先に一人いるはずですが……おっと、居ましたね」
鍬で氷を掘り進めた先、そこには外套でその身を隠していた原人が一人。
それは俺が見たことの無い、だが情報だけは得ていた人物。
「──『隠者』、それが『超越者』である貴方の肩書で間違いありませんね……危ないところでした。貴方に本気で隠れられては、私では見つけられませんでしたので」
『…………』
前回は自衛ができる者を守護者にし、結局俺に排除されてしまった。
ならば今回は? その結果がこれ──逃げることに特化した人材を配置したのだ。
俺も見たことの無かった『隠者』、その権能は名前の通り隠れることに特化したもの。
単純な隠蔽だけでなく偽装も含め、本気で姿を隠せば星ですら見つけるのは困難。
だからこそ、想定できないやり方──初手での水責め&氷漬けを選んだのだ。
唯一、死亡レーダーが反応しない場所に居た存在──それが『隠者』だった。
「とはいえ、このままではどうにもならないのもまた事実──さて、いっしょに向かいましょうか」
展開するのは小さな世界。
氷から抜け出せない『隠者』共々、俺は一時的にこの場から消えていく。