アンヤク 中篇(13)
アンヤク 中篇(13)
──【傾界魔王】。
その名の通り、世界を傾けるナニカを秘めた存在はかつて多くの世界を巡った。
冒険世界では『モルガン』を名乗り、当時の『円卓の騎士』を壊滅に追い詰めている。
また、その他の世界でも似たような出来事が何度も起きた。
その都度、彼女は星敵として認定され──異常事態が発生する。
「懐かしいですわね……そう、アレはたしか今はもう無くなった世界でしたか。ふらりと立ち寄ったその世界が、ちょうどたった一人の願いで滅んだ後のことですわね」
「……それが願望機か」
「ええ、とても可愛らしい仔犬でしたわ。すべてが崩れた都市の中で、寂しそうに吠えておりました」
「それで、貴女は何かしたのか?」
「いいえ、何も。アレが私を害する気があれば、こうして顔を合わせることもできなかったかもしれませんわ。それだけの願い、力があの仔にはございましたの」
その言葉に内心、『騎士王』は驚く。
自身の実力は冒険世界でも最上位だ、そのうえで【傾界魔王】とやり合おうものならただでは済まない。
そんな彼女であっても、手を出してはいけないと認識する願望機。
それがどれだけ危険なものなのか、改めて警戒を強めた。
「──この機械、部分的にとはいえそんな願望機の機構が組み込まれた装置。ねえ、当代の『騎士王』。貴女はこれからの世界、どうなると思いますの?」
「……すでに休人という外来の存在により、世界は大きく揺れ動いている。『生者』だけではない、正負に問わず我らもまた変容を求められることだろう」
「ふふふっ、貴女なら──『騎士王』ならばそう答えざるを得ませんわね。ええ、ええ、良くも悪くも刺激的な方たちですものね。ただ──今のままではいけませんわよ」
「……分かっている」
休人たちは死ななない、死んでも蘇りどこにでも行ける。
彼らの協力もあって、世界から未知はどんどん消え既知へと化していく。
だが、彼らは集団であり個の塊。
野心を抱くだけでなく、犯罪に手を染める者も居る──彼女たちが居る監獄もまた、そういった者たちのために造られた場所だ。
問題はそんな彼らの探求心、死してなお先へと手を伸ばす彼らを止めることはできず、その数の暴力がやがて隠されていたものを暴き出す。
「星が眠らせるモノはたくさんありますわ。毒でも薬でもあるそれら、その処理をするために私たちはこうして起こされている。天秤に掛けた結果がこれですもの、出番が無ければいいですわね」
「冒険世界に貴女がたは不要だ」
「ええ、でしょうね。ですけども、他の世界はどうかしら? 済し崩しにでも危機が起きれば──自由が得られるかもしれませんわ」
星敵と星との取引、それは『生者』であるツクルの討滅以外にも存在した。
その一つが星が危機に瀕した際の救済、その対価は恩赦──つまりは合法的な脱獄。
休人が危機を生み出し、世界を破滅に追い込めば追い込むほど星敵の活躍は増える。
星は自らを守るため、自らに住まう者をも犠牲にする取引を選んだ。