小さな幸せ 後篇
小さな幸せ 後篇
神聖術式の性能を確かめるべく、我々が向かったのは歓声賑わう街の中。
無防備であることを強要する発動条件により──街そのものにリスキルされている。
「……とりあえず、『超越生者』の効果発動自体は問題無かったか。まあ、これっていちおうパッシブ扱いだしな」
そんな状態を脱することができたのは、星敵の権能である死亡時限定の無敵化。
延命系の職業能力が死後発動している間だけだが、無限リスキルから脱出できる。
その後効果が切れると同時に肉体が再構築され、再び死んで無敵化。
この繰り返しではあるが、とりあえず死ぬ頻度は少しだけ下げられた。
「どうせリキャストタイムの関係で永遠にできるわけじゃないけど。まあともあれ、ようやく散策ができる」
ぶらぶらと街の中を移動してみる。
神聖術式“小幸”はあくまでもランダム性のある事象において、プラスな結果がより良くなるというもの。
つまり、そもそもとして何かプラスとなる事態が起きなければ補正も機能しない。
何かないかと彷徨い続け……一時間ほどが経過した。
「おかしい、何も起きない。いやでも、何かなぁ……」
《どうなさいましたか?》
「知人と誰とも会わない。アイツも焼き串屋に居なかったし、突然『超越者』が絡んでくるわけでもない。となると……納品も今日の内に済ませておこうか」
というわけで、予定には無かったが生産ギルドに向かい──特筆すべきこともなく、納品を終えてギルドを後にする。
「…………嗚呼、そういうことか」
《これは……》
「ある意味、これも幸福ってことになるのかもしれないな──何も起きない些細な日々、何でもないような時間こそが、かけがえのないものだった……みたいな」
たしかにまあ、犬も歩けば棒に当たるではないが、少しふらつくだけで厄介ごとに巻き込まれる……なんてパターンはよくあった。
それこそ、創作物の主人公のように事あるごとに何かイベントを発生させる感じで。
……だがそういった者たちでも、本編外で何気ない日常を過ごせていたはず。
揉め事の無い退屈な日々、しかしそれは誰も傷つかない時間とも捉えられるわけで。
それはある種、幸福なのではないか……俺の場合は死に続けているがそれはともかく。
「まあつまり、フラグを一時的に立たなくする……みたいな効果になっているのか?」
《フラグ、つまりは運命の変化点への干渉ですか。失名神話の神々は、各々が単一の概念に特化している存在。であればこそ、それほどのことができるのかもしれません》
「刺激を求めている連中ならともかく、はっきり言ってありがたいな……あくまで、無い物を生み出しているわけでも無いし、強制的に起こしているわけでもないから、成立させるためのコストが軽いのかもしれないな」
言うなれば、フラグ無効化。
これを使っている限り、俺は揉め事に巻き込まれることなく行動することができる……よし、後でお礼の手紙を書いておこう。