錬金チャレンジ その19
錬金チャレンジ その19
生産世界で俺を歓迎してくれたのは、殺意と物欲だった。
星敵である俺が来訪することは知られており、討滅報酬を狙ってのことだ。
予め想定はしていたのでそれはスルー、隠形しつつ人造人間の揉め事の舞台となっているS1へと向かった。
「──やあ、おそらくそこに居るであろう私のパトロン。久しぶりだね」
「……どうやって」
そんな俺を迎え入れたのは、白衣に身を包む科学者然とした女性。
姿を隠している俺の方をしっかりと見て、笑みを浮かべて手を振っている。
「なに、簡単なことさ。君たちの世界には、『シュレディンガーの猫』という法則があるだろう? 居るか居ないか、観測するまで分からない。それを当て嵌めれば、君の今もまた同様だ」
「……観測されていないということは、私はここに居ないということになる」
「だが、君は居る。それは他ならぬ君自身が主張を続ける限り変わらない。ならば、間違いなのはこの世界であり観測者だ──そう、ならば見えていることこそが正しい」
「ッ……隠形の完全無効化!?」
「ははっ、そんな大層なものじゃない。観測したことのある存在で、かつ他の存在から観測されていない者にしか使うことができない限定的な理さ」
彼女──『忌創展概』の権能は、自らが生み出すあらゆる禁忌のペナルティを消す。
それは人造人間云々であっても同様だろうし、今回の謎原理もそうなのだろう。
見てはいけない、知ってはいけないものを観測しても、彼女だけは平気でいられる。
無論、その権能を持つに値するだけのナニカが備わってこそなんだろうけどさ。
「ハァ……それで、どうして貴女がここに居るのですか?」
「この世界の逸脱者は、誰も彼も自由奔放でね。こうしてマトモな僕が、君といっしょに解説を行うことになったわけだ」
「…………そうですか」
「ん? なんだい、その妙な間は」
生産世界の逸脱者──『星宝級職人』を俺はまだ二人しか知らないものの、どちらも共にイカれていると俺は思っているんだがな。
まあ、俺自身の認識が家族が思う俺の在りようと違っているのと同じく、自覚がないということか……人の振り見て我が振り直せ、とはこのことか……いや、俺は大丈夫だ!
「まあいい、君が着いた以上開催時間を待つ必要も無くなった──さっそく始めよう」
そう言った『忌創展概』は、自らの指に嵌めた輪っかを撫でる。
すると、その背後に現れた亜空間──そして巨大な砲身が姿を出した。
「……これが、【超科学者】の?」
「ああ、まさに突き抜けた科学技術が示す新たな武器さ。どうやらまだまだ普及を広めないと、扱うための資格は得ることができないようだけど……僕はその例外だからね」
未来技術の塊、それゆえに何かしらの使用制限が掛かっているとはすでに聞いていた。
──そのすべてを、禁忌と定義することで無視できるという理不尽さも含めて。
「『アストロ』シリーズ、というレシピにある対星海兵装の一つ、『アストロキャノン』さ。これでも初期も初期、弱い方だよ?」
「…………凄く、大きいですね」
「持ち運びなどできず、星海船に取りつけるような代物だからね。だが、それゆえに派手さだけは保証できるよ──それっ」
言葉の軽さとは裏腹に、放たれたソレは雷鳴を凌駕する大音量を轟かせる。
フィールド中の者がいっせいにこちらを向き、俺は──静かに息を引き取った。