アンヤク 前篇(17)
アンヤク 前篇(17)
武闘世界 ???
「──元我が端末よ」
「ふっ……なんだ、ふっ。来たのか、ふっ。我が半身よ」
「『伝道師』、そう呼ぶように。それで、経過のほどは?」
そこは休人たちが足を踏み入れることのない、何も無い白い空間。
我が端末、そう呼ばれたその者は、その場所でひたすらに武の鍛錬を続けている。
「ふっ、見ての通りだ……ふっ、まだ武の極意は、はっ! 遠いようだ」
「いい加減それを止めなさい……これでもまだ、遠いと言いますか」
ソレの挙動一つ一つが、空間を壊し周囲を破壊している。
その場の機能がすぐに時を巻き戻すが、それもまた壊され直しての繰り返し。
「むぅ……まあいい。何でも、冒険世界には地を裂き空を薙ぐ武仙が居ると聞く。我もその境地に辿り着きたいものだ」
「──『闘仙』の権能は、仙術を含んだものです。貴方のように、技量のみでそれを成すのは異常です」
「ふははっ、異常と言うか。それを求めたのは、他ならぬ我が半身であろうに」
「『伝道師』、です。元【星賢者】、武に狂いし異常端末……貴方にソレを渡したのは、いづれ来る時に備えるためですよ」
ソレの四肢には、それぞれ輪が取り付けられている。
周囲を破壊する余波にも負けない強度を持つそれは──武闘世界の神代魔道具。
「『無導苦輪』、貴方の求める武を武闘世界全体で支えます。対価として、完成した技を貴方は提供する」
「それは構わんが、我は教えることはできぬぞ。自らの武を極めるのみ」
「構いません。それは『老師』の候補者が務めます……不服ではありますが、それに適した擬似権能を保有しています」
「ふむ、話に聞く異物か……まあ、使えるならば何でもよい。我の武道に果ては無い、利用させてもらうぞ」
ソレ──元【星賢者】でありながら、武に傾倒した古き端末は再び稽古に戻る。
武を振るえば火が、氷が、闇が……様々な現象が起きては消えていく。
魔法のような事象、しかしそこに魔技は関与していない。
──具体的な理想も無く、ソレの求道は終わることなく続いていく。
◆ □ ◆ □ ◆
魔導世界 ???
そこには何も無い。
人も足場も空間も無い、世界の裏側に存在する何所でも無い何所か。
──術式構築完了。
──神代魔道具『統魔の叡典』展開、記録開始。
ただ一つ、一冊の本が浮いている。
表紙の存在しない紙の束、今もまたどこからともなく紙が飛んできて、本に組み込まれ一頁となった。
──要請、受諾。
──術式改変術式発動、『統魔の叡典』とのリンク……該当術式を提示。
魔導世界が誇る理の一つ、術式の創造。
その原理は明かされていない……ただ一つ言えるのは、ソレの存在はその理の中核を成していることだろう。
今この瞬間、誰かが新たな術式の創造を目指し、【式魔師】を介しアクセスしてきた。
ソレはただ、自らの行動原理に従い、膨大な情報からその一助を行うのみ。
《おい、“■■■■■■”!》
──術式編纂完了。
──新術式“■■■■”、類似例無し、新規登録……記録開始。
《おい、聞いてるのか“■■■■■■”! またか……異界召喚の再調整をする。掠め取られた補填もまだ終わっていないんだ、少しぐらい手伝ってもらいたいんだが!?》
──異界接続術式……拒否。
──仮称『ムー世界太陽恩恵術式』の再検証を開始……以降の接続を自動拒否。
そう、たとえ魔導世界における最高戦力が呼び掛けていようとも。
ソレにとって、何よりも重要なのは術式の存在のみ。
自らの領域に踏み込まれようとも、ソレの根幹は変わらない。
究極の『魔』を──魔道の探求に終わりなど無いのだから。