残街鎮静 その03
残街鎮静 その03
迷宮にテコ入れをした。
本来は個人向けコンテンツだった部分、開放報酬云々をアイスプルの理で改竄することで、擬似的に共有することができるように。
……なお、俺という管理者を介してのルールなので、裁量は基本俺に委ねられている。
「全部を……というわけにはいかないか。承諾と権利、そしてその共有。何かしらの準備が必要となるわけだ」
《強引に割り込んだ形となるため、このようなルールで無ければ無効化されていました》
「まあでも、それもまた一種の先行者特典みたいなものか。うん、似たような仕組みはすでにあるわけだし、納得してもらおう」
新ルール、それは俺のように残影を出せない者に対する救済措置。
出現しない残影関連のコンテンツを、対価で解放できるようにしたのだ。
ただし、解放された直後ではない。
それを決めるのは解放者……無制限とはいかないが、それでも誰よりも速くそして自分だけでそのコンテンツを独占できる。
何というか、欲望を煽っている気がしないでもないが、もともとの仕様だと選ばれた者だけが使えるシステム……みたいな形になっていたわけだし、それよりはいいだろう。
「『SEBAS』、俺に何かできることはあるか? 今ここで何かやっていれば、何かしらの泡沫世界の残影が出てくれるかもしれないし……」
《……そう、ですね。では、お疲れになって戻って来られる皆様に、労いの食事を用意するというのはいかがでしょうか?》
「…………そ、そうだな! ああ、頑張ったらご褒美は当たり前だよな! あはは、あははははっ!」
Q.何か自分にやれることはありますか?
A.無いです。
分かっていても頭で理解したくない現実、人の心を介する『SEBAS』だからこそそれを突き付けることなく、オブラートに包んで俺の提案をやんわりと断った。
才能の有る無しはデカい……本来、タクマから聞きかじったその差を埋めるシステムとやらも、俺には使えない。
そういった諸々含め、:DIY:という超とんでもチートが占領している場所に本来は収められているから。
「──スキルがあっても、強い自分がイメージできないからいいんだけどさ」
鑑定スキルが見ただけで知り得ない情報を得られるのと同様、スキルとは人の可能性を拡張し得るものでもある。
そも、剣術スキルがあるからといって素人が達人級の剣技を振るえるわけじゃない。
今語った通り、剣術はあくまで剣を扱う術であって、技を扱うスキルではないのだ。
また、数値としてスキルが強化されていっても、補助輪の性能が上がっていくのみ。
──俺の低スペックな体で、最上位のスキルで補助を受けても自壊するわけだな。
「……みんな、どんな世界の残影と遭遇するのかは気になるな。そういう要素もあるわけだし…………ハァ」
たしかに職業やスキルの保有によって、出現条件は緩和される。
しかしながら、適性自体は何も持たずとも存在自体はしているわけで。
「──まっ、いっか」
《……よろしいのですか?》
あっけらかんと、何一つ思うことの無い俺の一言に『SEBAS』がそう問うてくる。
それが意味することは……言うまでもないだろう、だがそれでも──
「波乱万丈の人生がしたかったわけでも、大活躍して尊敬される父親…………にはなりたかった気がしないでもない。けど、最高の奥さんと最高の子供たちが楽しめる場所作り、これで充分に満足しているからな」
《なるほど……》
「あとは、才能があるからっていいことばかりじゃないのは身を以って学んだってのもあるぞ。何気ない日常、家族にとって俺がそれになれれば……いいのかもな」
口にすれば意識もできる。
俺という存在の役割がこれだ、というわけでもないが……そうなれたらいいな、と思えることが大切なんだろうな。