563話 生徒の頼み事
563話 生徒の頼み事
ベルは聖女一行と別れた後、ハデスと合流した
「聖女とその護衛、合わせて5人を城に泊めることにしたから、手配よろしく」
「どんな話になるのかと思っていましたが、そうなりましたか。承知しました」
「聖女が来た日、あったじゃん?」
「ええ、ちょうど職業体験中で帰ってもらいましたね」
「その日に俺、聖女に会ってるんだよね」
「そうだったのですか?」
「うん。その時にいい宿を聞かれたから、冗談のつもりでスターライトを教えたんだ。そしたら本当に泊まっててさ。俺のせいで路銀が尽きそうって言われちゃった」
「なるほど。それでお詫びというわけですね」
「そんな感じ。まあ聖女も真面目にやってるし、それくらいの恩返しはいいかなって」
「かしこまりました。それと、宿泊に関して何か注意点は?」
「5人に専属をつけて、世話係と監視を兼ねてもらって」
「かしこまりました。特に注視すべき人物は?」
「赤髪のやつ。あいつには、とびきり強い子をつけといて」
「……まさか襲うつもりでは?」
「ハデスも報告受けてるでしょ?被害女性が証言してた相手、あいつだよ」
「やはり……もし本当なら、聖女の護衛としては失格ですね」
「まあ、聖女にこっぴどく怒られるだろうけど」
「でしょうね。では、赤髪には特に強い者をつけ、他の4人にも戦えて監視のできる者を配置しておきます」
「うん、頼むよ。一応、警告として俺の冒険者カードは見せておいたし、そう簡単に変なことはしない……と思うけどね」
「最大限の警告ですね。それなら、大人しくしているでしょう」
「ここには子供たちもいるから、このくらいやらないとね」
「はい、もし子供たちに危害を加えられた場合、ベル様が暴走してしまいますからね」
「そ、そこまではしないよ、やっても追い出すくらいだよ」
「ベル様ならやりかねないのでお気をつけて、では私は手配に向かいます」
「さすがにやらないよ。お願いね」
「はい」
そう言って、ハデスは静かに頭を下げると専属の手配に向かっていった
(俺は……とりあえず学園へ戻ろうかな。一応先生なのに学園にいないのは困ると思うし)
『学園へ 転移』
そうしてベルは学園へ転移したが、すでに放課後になっていた
「意外と時間経ってたか……見送りだけでもしよ」
そう言って、学園の入口へと向かった
寮に戻る子、馬車に乗って帰る子たちを見送りながら、ふと視線を感じて視線だけ向けた
(あの子……もう10分以上、あそこに立ってる……ちょっと気になるな)
校門の横で見送っていたベルの視線の先。
少し離れた植え込みの影から、こちらをそわそわと伺っている1年生のレストくんの姿があった。
小さく口を開きかけては閉じ、ベルに向かおうとしては立ち止まり、なかなか踏み出せない様子だ
「どうしたの?」
「え……えっと……」
レストくんが、そっと背を向けて歩き出そうとしたその瞬間。
諦めたような小さな背中に気づいたベルは、軽く駆け寄って声をかけた
「ずっとこっち見てたよね。話したいことが、あるんじゃない?」
「……」
「ここだと話しにくい?」
「……うん」
「じゃあ、先生の準備室に行こうか。大丈夫、ゆっくりでいいよ」
レストくんは小さくうなずいて、ベルのあとについて歩き出した
準備室の扉を閉めると、ベルは椅子をすすめて静かに問いかけた
「ここなら誰にも聞かれないから安心して……レストくん、何があったの?」
「……お母さんが、帰ってこないんです……」
「……お母さん?」
「うん……3日前に、隣の街に用事があるって出かけて……それから、ずっと帰ってこないの。手紙も……何にもなくて……」
ベルは一瞬、言葉を探すように視線を落とした
「……それは心配だね……お父さんは?」
「いないの……ずっと前に、死んじゃって……」
「……そっか……」
ベルはそっと声を落とす
「お家には誰かいる?」
「…ううん、僕1人」
レストくんは、寂しそうに首を振った
「じゃあご飯は大丈夫?」
「大丈夫…学園でご飯食べられるから」
「朝と夜は食べてないの?」
「…うん、お昼にいっぱい食べてるから平気」
(それはダメでしょ、子供は沢山食べないと!)
「そっか…」
そう言ってベルは、空間収納から簡単な籠を取り出し、それへ空間収納を付与し、籠の中へ何種類もの子供が大好きな料理を入れていった。
この料理はベルが何かあった時に配ったりするために、あらかじめたくさんの料理を空間収納に入れている。空間収納は内部の時間が入れた時のまま停止するため、取り出すと出来立てホヤホヤの料理が出てくる
「お母さん、優しくて、僕が学園に入れるようにいっぱい頑張ってくれて……僕、ちゃんと勉強して、いい子にするからって言ったのに……僕のこと、嫌いになったのかな……」
声が震えて、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた
ベルは静かにレストの目の前に来て、優しく頭に手を置いた
「……レストくん、大丈夫。お母さんがレストくんのことを嫌いになったりしないよ、多分どこかで困ってるんじゃないかな。だから先生が探してみるよ。君のお母さんのこと、必ず見つけるからね」
「……でも……先生、忙しいのに……」
「俺が君の先生である前に……困ってる子がいたら、助けるんだよ。だから大丈夫、信じて、任せてくれる?」
「……うん」
「えらいね、ちゃんと話してくれてありがとう。今日はもう家に戻って休もう……きっとお母さんも、レストくんに心配かけたくないはずだから」
「……うん……ありがとう、先生……」
「あ、帰る前にお母さんの名前と特徴、それからどの街へ行ったか教えてくれる?」
「えっと、名前がミセスです……僕と同じ髪の色で、肩くらいの長さです。場所は……分かりません」
レストくんの髪の色は綺麗な翡翠色だった
(場所は分からないのか……)
「ありがとう、探してみるね」
「お願いします」
「うん。じゃあはい、これ」
先程用意した籠を手渡した
「…先生、これは?」
「お家に誰もいなくて朝ご飯と夜ご飯が食べられないんでしょ?」
「うん…」
「だから準備したの、その中にいっぱい食べ物を入れたから、お腹がすいたらそこから好きなのを出して好きなだけ食べてね」
「…いいの?」
「もちろん、レストくんのために準備したからね。帰って1人は寂しいかもしれないけど、先生が絶対にお母さんを見つけてきてあげるから、お利口さんで待っててね」
「うん…!」
レストくんはベルに手渡された籠を受け取った
「じゃあ、校門まで一緒に行こうか」
そう言って2人は校門へと移動した
「じゃあ気をつけて帰るんだよ?」
「うん!」
校門まで移動し、ベルはレストくんを見送りながら、そっと心に誓いを立てた
(絶対に、君のお母さんを見つけ出すから……考えたくないけど、もし見つからなかったら、俺が何とかしてあげる)
そのまま、夜の街へと静かに歩き出した