570話 指名依頼の話を聞く
570話 指名依頼の話を聞く
昨日、ハデスに冒険者ギルドから便りが届いたことを聞いたベルは、その内容が気になりつつも、まずは学園の授業を終わらせることにした。
そして授業後、急ぎ足でギルドに向かった
「遅れてごめんね。それで、指名依頼ってどういうこと?」
「期限はまだ先だから問題ない。とりあえず、これを見てみろ」
そう言って、ドルナード帝国の冒険者ギルドマスター、グラウスは机の上から1枚の依頼書を手に取り、ベルに渡した
「なになに……12月10日から12月20日まで、とある人物の護衛をしてほしい。詳細は現地で伝える……か、これは?」
「依頼人、書いてるだろ。それ見ろ」
「ルーカス・テンド・カールン……」
(なんか測ったようなタイミングだね)
「……これは?」
「名前見てわかるだろ? カールン王国の国王からの指名依頼だ。お前宛てのな」
「俺、指名依頼は断ってるはずなんだけど?」
「そんなのわかってるよ。でも今回は相手が相手だから、さすがに断れなくてな」
「そう。カールン王国に行かないといけなくなったから、ちょうどいいよ」
「何かあったのか?」
「これ」
何も言わず、あの短剣を見せた
「……これがどうしたんだ? 無駄に装飾されてるな。実用性はなさそうだ」
「あ、これが何か知らない?」
「いや、見覚えはないな」
短剣を一目見て真っ先に実用性を語った時点で、これが何か知らないのは明らかだった
「ふーん……王位継承のときって何するか、わかる?」
「王位継承か……確か、王の証みたいなのを正式な場で後継者に渡すんだったよな?」
「そう、それがこれ」
「……?」
グラウスは首をかしげた
「これは“国王の短剣”って言って、王位継承のときに使われる特別なものなの。それが意味すること、わかる?」
「お前、帝王やめるのか?」
「はぁ……」
ベルは呆れたようにため息をついた
「これはドルナードのじゃないよ。ここ、見て」
ベルはそう言って、短剣に刻まれた紋章を指さした
「……おいおい!? これ、カールンの紋章じゃねぇか!」
「意味、わかった?」
「あぁ、わからん。なんで持ってるんだ?」
「拾ったの。盗賊のアジトでね」
「じゃあ、盗品なのか」
「そういうことになるね。だから返しに行くの」
「ってことは、この依頼は受けるってことでいいんだな?」
「うん。前日の昼以降に行くって伝えといて」
「わかった」
グラウスはそう返事をし、手元の書類に何かを書き始めた
「帝王として行くのか? それとも冒険者か?」
「冒険者に決まってるでしょ。依頼を受けるんだから、それ以外ない」
「それもそうだな。じゃあ依頼人に、“12月9日の昼以降に伺う”って送っておくな」
「そうして。じゃあ俺は帰るから、何かあればまた城に送って」
「わかった。まぁ、当分何もないだろうな。あるとすれば、返信くらいだ」
「はーい」
そう言って、ベルは冒険者ギルドを後にし、学園へと転移してシスティーナの元へと向かった
「学園長、お話があります」
「なにかしら? あなたから話を持ちかけてくるなんて珍しいわね」
「はい。俺が冒険者として活動しているのはご存知ですよね?」
「もちろん。それがどうかしたの?」
「少し先になりますが、12月10日から20日までの間、依頼でカールン王国に行くことになりました。なので、その間は授業ができません」
「10日から20日って、ちょうど冬休み前ね……まぁ、大丈夫よ」
「先生になってから、度々お休みをいただいてすみません」
ベルはそう言いながら頭を下げていた
「気にしないで。そもそもベルくんは帝王や冒険者で忙しいのに、それでも先生を引き受けてくれてるんだから。こっちこそ感謝してるくらいよ」
「でも、一応先生ですから、ちゃんと伝えておきたくて」
「たった10日間でしょ?」
「はい。出発は9日の昼以降なので、戻ってくるのは21日頃になると思います。なので、ちょうど10日間くらいですね」
「なら、なおさら問題ないわ。学園の先生たちって、ほとんどが自分の研究を持ってるの。研究が盛り上がってくると、1ヶ月くらい平気で休むこともあるし、10日程度なら全然気にしなくていいのよ」
「そうなんですね。研究してるようには見えませんけど」
「みんなちゃんと、研究と授業をうまく切り替えてるのよ。だから見た目だけじゃ分からないわね」
「なるほど。俺は詳しくないんですけど、先生って研究者が多いんですか?」
「そうね。たぶんどこの学園も似たようなものだけど、先生って基本的に志願者が少ないの。だから普段から研究してる頭のいい人たちに教壇に立ってもらうために、“先生をしてくれたら研究資金を出しますよ”って制度があるのよ。だから、先生は研究者が多いの」
「そんなのがあるんですね」
「こうでもしないと先生が集まらないのよ」
「なるほど、そういう事情があるんですね。じゃあ、10日間空けますが、よろしくお願いします」
「えぇ、事前に伝えてくれてありがとう」
そうして、ベルは学園長の元を後にし、自分の準備室へと戻った
(この後は特に予定はないね……あ、そうだ。次の4年生の授業で魔道具の授業をやるって言っちゃったから、準備しておこ)
ベルは椅子に腰掛け、のんびりとしながら、どの魔道具を授業で使おうかと考え始めた