573話 魔道具の授業③
573話 魔道具の授業③
魔剣を後回しにされたことで場に少し残念そうな空気が流れていたが、ベルはそれを気にする様子もなく、新しい魔道具を取り出した
「じゃあこのメガネを全員に配ります。受け取ったらかけてみてください。普段からメガネをかけている人は、その上からでも大丈夫です」
『みんなの前へ メガネを 転移』
生徒たちが戸惑いながらメガネを受け取ると、ベルは意味ありげに笑った
「このメガネをかけると……“あるもの”が見えるようになります。わかった人は、手を挙げて答えてね」
その言葉を聞くや否や、生徒たちは一斉にメガネをかけた
「なにこれ……?」
「体からモヤモヤ出てるんだけど」
「うわ、外すと消える……!」
友達の体から出ているモヤのようなものを、不思議そうに見つめる子たち。中には、驚いたように何度もメガネをかけたり外したりする子もいた
「みんな、モヤモヤは見えたかな? じゃあ問題。このモヤモヤ、いったい何でしょう?」
「なにこれ……?」
「ほんとに分からない」
「見たことないよ、こんなの」
生徒たちは、普段見ることのないものに頭を悩ませながらも興味津々といった様子だった
「私は答えていいの?」
「ん〜……今回はテレスはなしで。1回見たことあるもんね?」
「うん」
「だからなし。ミーファとレミアもその時に関わってたから、今回は見守り組でお願い」
「わかったわ」
「はーい」
3人は、それぞれのテンポで返事をしていた
「分からないか……ここにいる全員の体がモヤモヤしているのがどうしてなのか、分かるかな?」
「全員? ……約4名、何も出てないんですけど」
ベルの何気ないヒントに、小さなツッコミが入った
「誰かわかった?」
「……じゃあ、はい」
自信なさげに、控えめに手を挙げた生徒。周りの視線を感じながら、少し緊張した様子で答えを口にしようとした
「はい、カガリくん」
「強さ、とかですか?」
「一応関係するね。でも残念、不正解だよ」
「やっぱりそうですか……」
「強さだったら、その3人が何も出てないのがおかしいよね?」
「確かに、このモヤモヤが強さならもっとモヤモヤしてるはずですもんね」
「そういうこと。じゃあ誰かいる?」
ベルの言葉に、クラスの空気がピリっと締まった。だが、誰も手を挙げようとしない
「じゃあ大きなヒント、今から先生のやることを見ておいて」
ベルは先程の魔剣を再び取り出し、魔力を込め、軽く振って発動した
ドン!
「っ……! はい!!」
「はい!はい!」
「はい!」
ベルの動作を見て、数人の生徒が一斉に手を挙げた
「さすがにわかったかな? じゃあ、アリシくん」
「はい! このモヤモヤは魔力です!」
自信満々にそう答えたアリシくん
「魔力だと思った理由は?」
「さっき魔剣に魔力を込めることで魔法が発動するって言ってました。なので魔法を飛ばす前に先生の手元にモヤモヤが出ていたのでそう思います」
「正解! そのメガネはかけることで魔力を可視化できる魔法道具だよ」
クラスの中で何人かの生徒が「なるほど!」と小さくつぶやきながら頷き、他の生徒は驚きの表情でアリシくんを見つめた
「魔力が見えるんだ……すごい!」
「これなら魔法使いの魔力も見分けられるんですね!」
「でも、すごいモヤモヤ出てる人もいるな……」
ベルは軽く笑いながら言った
「そうだね。このメガネを使えば、魔力の量や強さもわかるから、魔法使いの力量が一目でわかるんだよ」
アリシくんはにっこりと笑った。クラスの中はざわめき、みんながその発見に目を輝かせていた
「じゃあここでさらに問題。先生、テレス、ミーファ、レミアの4人の体からは、どうして魔力が出ていないんでしょう。みんなより明らかに魔力が多いはずだよね。何故かな?」
「え、なんで?」
「むしろ強いからじゃないの?」
「逆に隠してる?」
生徒たちは首をかしげたり、思い思いに意見を交わし始めた。
中には「まさか透明の魔力?」と呟く子もいた
ベルは微笑を浮かべながら、次の答えを待っていた
「はい」
1人の生徒が手を挙げた
「バーナくん、どうぞ」
「はい。みんな魔力運用が上手いだけで、そんなに魔力総量は多くない、とかですか?」
「残念。3人はともかく、先生は既に魔力が100万以上あることを見せたよね」
「あ、確かに。100万あるなら俺たちより沢山モヤモヤしてるはずですもんね」
「そういうこと。じゃあ今度は、先生と3人をよく見比べてみて。モヤモヤの“質”とか“出方”に注目すると、違いが見えてくるかもよ?」
そう言われて、生徒たちは、ベルとテレスたちを交互に見つめて、その違いを探り始めた
そこから数分、何が違うのかを考えながら交互に見つめていた
「あっ! 今一瞬レミアさんの魔力が動いた!」
「そんなにじっと見つめられたら恥ずかしいよ……」
「ちょっとだけ我慢してね」
ベルは苦笑しながらそう言い、生徒に問いかけた
「じゃあ、どういうことかわかる?」
「分かりません」
「そっか。じゃあ、みんな魔力感知はできるよね? 試してみて」
「わかりました」
言われた通りに、生徒たちは魔力感知を発動した
「テレスさんとミーファさんとレミアさんの3人は、何とか探知できますが……先生だけ反応がありません」
「え? 先生いない」
「そこにいるはずなのに、魔力探知に引っかからないっておかしくない?」
ベルはにこりと微笑んで言った
「どうして先生が魔力探知に反応しないのか、ちゃんと授業を受けていた子なら分かるはずだよ?」
「授業?」
「そう。魔力探知を習ったときに、必ず教えてもらってることだよ」
「必ず習ってること……」
生徒たちは顔を見合わせ、さらに深く考え込み始めた
「合ってるか分かりませんが」
か細い声で手を挙げた
「はい、アルアちゃん」
「はい。魔力探知を習った時に、強い魔法使いとかは探知しにくいから気をつけて、みたいなことを言われた気がします。それですか?」
「そうそれ、なぜ探知しにくいと思う?」
「ん〜……相手にバレないように抑えてるとか?」
「正解!」
「え、正解なんですか?」
予想外とでも言うように驚いていた
「そうだよ。テレス、10秒だけ魔力の制御をやめてみて」
「いいの?」
「うん」
「そのまま解放されちゃうけどいいの?」
「いいよ」
「じゃあ」
そう言ってテレスが魔力の制御を解いた。
その瞬間、教室の空気が震え、生徒たちの全身が柔らかくも圧倒的な何かに包み込まれるような感覚に襲われた。
まるで目に見えない波が押し寄せてきたかのように、誰もが息を呑み、身動きを止めた