577話 拾った子犬のその後
577話 拾った子犬のその後
ベルとテレス、ミーファ、レミア、それからミラくんとヘングルくんの6人で楽しくお昼ご飯を食べたあと、みんなと別れて――ベルは一人、静かに城へと戻ってきていた
目的はただひとつ。あの拾った子犬の様子を見に行くためだった
「どんな感じ?」
「全然……今日も起きる気配なし」
「そっか。もう4日だよ? そろそろ起きてくれないと、心配でしかないんだけど」
盗賊のアジトで保護してからすでに4日が経過したが、子犬はピクリとも動かず、今も丸くなったまま眠り続けていた
「……たくさん寝るってことは、それだけたくさん消耗してたってことだろうな。これだけ寝ないと回復できないくらいに」
「そうだろうね、捕まってたんだし……ねぇキミ、そろそろ起きてくれないかな?」
エイルの隣で眠る子犬の横にしゃがみ込み、ベルは小声でそっと問いかけた
ちなみに、拾った翌日にはこの場所に寝かせていた
くぅ〜
「やべ……起こしちゃった?」
「何やってんだよ」
子犬は小さく鳴き声を上げると、その小さな足でふらりと立ち上がった
「4日も寝続けてたら、さすがに心配になるでしょ?」
「まぁ、それは俺も同じだけどさ」
くぅ〜?
周囲を一通り見回したあと、子犬はベルの顔をじっと見つめながら、首をかしげて小さく鳴いた
「お手」
ベルはそう言って手を差し出した
「いやいや、まだ早いだろ。躾もされてないのに、できるわけないって」
「わかんないよ?」
真剣な表情で向き合うベルに、子犬は困ったように顔を傾けるだけだった
「ふっ……なんでもいいけど、野生に返すなら早めにな。懐かれたら返せなくなるぞ?」
「それもそっか。お前はどうしたい? 俺たちで世話してあげることもできるし、元の場所に帰すこともできる。好きな方を選びな?」
くぅ?
「……わかんないか。お前のお母さんはどうしたの?」
くぅ〜〜
子犬の返事は、どこか寂しげな鳴き声だった
「……お前の記憶、見ちゃうね」
ベルはそっと手を伸ばし、子犬の記憶を読み取った
「……なるほどね」
「どうだった?」
「この子、生まれたときにはもう母親が死んでたみたい。一週間、必死で一人で生きて……でも運悪く盗賊に捕まって。それでも何とか生き延びて、俺に拾われて、今に至るって感じ」
「じゃあ、飼えばいいじゃん。親が生きてたなら返すのが一番だけど、もういないなら……お前が親になってやれば?」
「それはこの子がどう感じるかによるけど……」
「問題ないだろ。そいつの毛の感じ、白くてふさふさしてるし。お前、親に見えるぞ?」
「……お前には俺が犬に見えるの?」
「ふさふさしてんだから、犬みたいなもんだろ」
「酷っ!?」
ベルは思わず眉をひそめて抗議しながらも、口元には苦笑が浮かんでいた。まったくもう、というように肩をすくめた
「まぁ、よく言うじゃん。子どもが産まれたら犬を飼えって。ここにも子どもたちがいるし、きっといい影響あると思うよ」
ベルは小さくため息をつきながらも、子犬の頭をそっと撫でた。ふんわりとした毛の感触に、自然と目元が優しくなる
「飼うなら名前をつけてあげないとね」
「飼うのか?」
「エイルが飼えって言ったじゃん」
「俺は“飼えば?”って言っただけで、“飼え”とは言ってないぞ」
「そう。まぁ、このまま野生に返しても一日と経たずに食われたりしたら嫌だし……君を、俺の家族に加えます」
ワウ!
嬉しかったのか、子犬は元気よく鳴いたかと思うと、その場でぐるぐると回り始めた
「嬉しいのか? ちょっと待ってね、すぐ名前つけてあげるから」
《ちなみにこいつってどのくらいでかくなるの? 成長後も考慮して名前決めないとね》
《その個体ですと、だいたい5メートルほどにはなるかと》
《え!? こいつが!?》
今の体長は、せいぜい30センチもないくらいの小さな子犬だった
《はい》
《……こいつ、そんなでかくなるのか》
《なりますね》
《そっか。まぁ、いいか》
(名前か……白っぽい毛だから……なんとなく、シルバとか?)
「そういえばお前って男の子? 女の子?」
くぅ?
「そっか」
《ピクシー》
《その子はメス、女の子です》
(女の子……か)
その後も少し、ベルは子犬と見つめ合いながら、静かに考え込む
「リリィ。君の名前は、今日からリリィだよ」
ワウ!
子犬――改め、リリィは名前を付けてもらい、嬉しそうに元気よく吠えていた