582話 犯人探し②
582話 犯人探し②
女性の護衛が来るのを待っていると、数分と経たずに部屋へとやってきた
「お待たせしました」
「着替え終わってるよ」
扉が開き、そこには聖女の服を着たベルが立っていた。身体のラインに合うよう少し手が加えられ、違和感がなくなっていた
「……すごく、お似合いです。正直、驚きました」
「ありがとう。まだ服を着ただけだけど、聖女に見える?」
「どうでしょう……聖女様の髪は綺麗な金色、それに対して帝王様は混じりけのない純白、今のままでは変装と言うには違和感があります」
「髪の色以外は大丈夫そ?」
「はい。聖女様と帝王様の身長はほぼ同じか聖女様の方が高い程度、体型も帝王様と同じなので髪の色以外は完璧と言えるでしょう」
「服だけでもそれっぽくなれたなら、第一段階はクリアかな」
ベルはふわりとスカートを持ち上げるようにして軽く回ってみせた
「あ、もう1つ違いがありました」
「なに?」
「瞳の色です。帝王様は紅と翠色ですが、聖女様は両目とも輝く美しい金色の瞳をしておられます」
「確かに……忘れてた」
「どう致しましょうか?」
「うーん……これでいいかな?」
《ピクシー、お願いね》
ベルが目を瞑ったと思うと、すぐにゆっくりと目を開けた。
すると、紅と翠だったその瞳は――眩い金色へと変化していた
「……目の色が、変わった……」
女性の護衛は、思わず息をのんでベルの瞳を見つめていた
「どう? これで聖女と同じ色かな?」
「……はい」
驚きながら、ベルの問いに答えていた
「次は髪か……」
《ピクシー、お願い》
《わかりました》
ピクシーにそう合図を出すと、ベルはそっと頭を揺らした
すると、まるで淡い光に包まれるように、純白の髪が少しずつ変化し始めた。
根元から金色の光がにじみ出すように広がり、色がゆっくりと染まっていく
やがて毛先に至るまで、純白だった髪は美しい金色へと変わり――そこには、まるで聖女そのもののような姿が現れていた
「……聖女様みたいです」
「護衛の人にそう見えるなら、変装は完璧だね」
「はい。一目見ただけなら、私にも帝王様だとは思えないほど、聖女様そっくりです」
「でも、よく見たら違う?」
「ええ。じっと見れば、やはり違いはあります。目元の印象はよく似ていますが……鼻の形や口元が、少しだけ違いますね」
「そっか、その辺はメイクで何とかしようか。じゃあ、聖女の決まった髪型とかはある?」
「いえ、毎朝聖女様の要望にお答えしてセットしていますので、特に決まったものはありません」
「そうなんだ、じゃあ……もし、お願いしたらやってくれる?」
「私は構いませんが、帝王様の専属の方がいるのでは?」
「俺はいつもこのままだからセットとかしない、だからそんな人いないよ」
「そうなのですね」
「……それに、聖女が毎日セットしているのなら、セットしてないのも変だと思うしね」
「わかりました。お任せ下さい」
「聖女の好みとかわかると思うから、あの人がいつもお願いしてる感じでお願いね……道具は好きなの使って」
ベルはそう言いながら、髪のセットに使う道具を一通り目の前にある机へと並べた
「使わせていただきます」
そう言って女性の護衛は道具を手に取り、ベルの髪をセットし始めた
慣れた手つきで作業を進めていき、あっという間に髪のセットが終わっていた。
ベルは鏡に映る自分を見て、思わず小さく呟いた
「……ほんとに、聖女みたい」
護衛の女性は、微笑んで静かに一礼する
「ご希望通り、聖女様が好まれる形に仕上げました」
「ありがとう」
「メイクの方はどうしましょうか、私がやりますか?」
「メイクは自分でやるよ、ありがとう」
「わかりました」
「じゃあ、この後のことを伝えるね。俺のメイクが終わったら、俺と護衛のみんなで王都を歩くよ。回る場所は、そっちの好きなところでいいから。買い出しの途中で襲われて、中断しちゃったんだよね? だったら今日は、その続きをしようよ。その過程で聖女を襲った犯人が現れたら、俺が捕まえに向かうから。護衛チームは城へ帰るなり、そのまま買い物の続きをするなりしていいからね」
「私たちは加勢しなくてもよろしいのですか?」
「……じゃあ、ひとつだけ聞くね。聖女が襲われた時――護衛として、すぐに反応できた?」
「それは……」
ベルにそう言われて、彼女は俯いてしまった
「そういうこと。だから犯人が現れたら、俺が捕まえに行く。そのあとは自由に行動していいよ」
「はい」
「じゃあ先に戻って残りの護衛メンバーに伝えておいて、俺はメイクしたらすぐ行くから」
「わかりました」
扉が閉まる音を聞いてから、ベルは静かに息を吐き、鏡の前へと向かった。そして、手慣れた様子でメイクを始めた