583話 おとり捜査へ
583話 おとり捜査へ
久々に投稿日を忘れてしまいました、ごめんなさい
という訳で、2日遅れて今日投稿しました。
次の投稿は予定通り24日になります
女性の護衛に言伝を頼んだあと、ベルは静かにメイクを始めた。
慣れた手つきであっという間に仕上げを終えると、鏡に映る自分の姿を軽く確認する
「うん、これで大丈夫かな……ついでに、これも変えておこう」
そう呟いて立ち上がると、ベルは聖女の眠る部屋へと向かった。
――その姿は、誰がどう見ても、まさに“聖女”そのものだった
「お待たせ。話は聞いてると思うから、早速行こっか」
聖女の姿、そして聖女の声へと変装したベルが、にこやかに笑いながらそう誘った
「え……?」
「……え?」
「……え?」
「声まで……」
聖女の姿へと変わったベルを見て、護衛の4人は困惑の表情を浮かべる
「どうしたの? 行きましょ?」
どうやら、ベルはすでに話し方まで聖女へ寄せていたようだった
「……帝王様……ですよね?」
2人いる緑髪の護衛のうちのひとりが、恐る恐るそう問いかける
「んんっ……うん、これでいいかな。そうだよ。見た目、声、話し方――そういうのも真似しておいた方が、変装は有利だからね」
「髪の色や目の色まで変えてこられるとは思わず驚きました……聖女様がまだ眠ったままなのが幻で、何事もなかったかのように帰ってきたのかと思いました……」
「常に一緒にいる護衛を騙せるくらいなら完璧、ってことだよね。――あ、それより先に、みんなの名前を教えて。まだ聞いてなかったし」
「わかりました。僕はアスヒの双子の兄、アルヒと申します。以後お見知りおきを」
「私はアルヒの双子の妹、アスヒと言います。よろしくお願いします」
「俺はアサルト、よろしく頼む」
「俺はケイル。よろしく」
上から順に、緑髪の護衛、緑髪の護衛、青髪の護衛、そして赤髪の問題児護衛だ
「了解。このあとはすぐ街に出るけど、みんなはいつも通り護衛してね。俺はみんなの予定に付き添う形になるから」
「そのことなんですが……本当に僕たちの買い出しの続きを?」
「うん。時間は有効活用しなきゃ。前に襲われて中断しちゃったんでしょ? 浄化作業でいろいろ回ると思うから、今のうちに必要な物は揃えとこ」
「……わかりました。買い出しの続きへ行きましょう」
「よし、じゃあ――しゅっぱーつ!」
そう言って、ベルは聖女の護衛メンバーを連れ、街へと繰り出した
「まずはどこ行くの?」
(帝王様は聖女様を知らないはずなのに、どうしてこんなに性格を似せることが出来ているのでしょうか?)
「食料などは、聖女様が目覚めてから買い出しをするとして……まずは使用期限などの無いものから買いに行きましょう」
「例えば?」
「例えば……そうですね、武器の手入れに使う研磨剤などでしょうか」
「そっか……武器が使えない私には関係ないね。研磨剤ってことは武器屋?」
「ですね。武器屋を探しましょうか」
「だね」
アルヒと聖女に変装中のベルがそんなことを話しつつ、武器屋を探して歩き始めた
道中――さすがは聖女と言うべきか、通りすがりの人々から何度も声をかけられ、そのたびにベルは笑顔で手を振ったりと、目的地へ向かうだけでもかなりの時間がかかっていた
「ここがそうみたいですね……聞いた限りでは、ここがこの王都一の武器屋と聞きました」
「そうなの? じゃあ行こう!」
「あっ! 待ってください!」
店へと入ろうとすると、アスヒに手を掴まれて止められてしまった
「どうして?」
「ここは聖女様のような高貴なお方が入るような場所ではありません。聖女様はアスヒと共に外でお待ちください」
アルヒは冷静に説得しようとしていた
「やだ……私も行くの」
「ですが……」
「私が行けば安くなるかもしれないよ?」
まるでそれが当然のことのように、聖女に変装中のベルは小さな得を狙うような笑みを浮かべた――それは、普段から周囲を振り回す“本物の聖女”にそっくりな仕草だった
「少しお待ちください、考えます」
「行けー!」
「あっ!」
アルヒが考え込むのを見て、変装中のベルはアスヒの手をふいに振りほどき、勢いよく武器屋の扉を開いた
「こんにちはー!」
軽やかで透き通る声が店内に響き渡った瞬間、空気がふっと止まり――そして、全員の視線がベルに集まった
それはまるで、何の違和感もなく“聖女”がそこにいると、誰もが信じて疑わないかのように
「せ、聖女様! よ、よくぞいらっしゃいました! 本日はどのようなご要件でしょうか!」
慌てた様子で店員の1人が駆けつけ、そう聞いてきた
「急にごめんなさい。要件なんだけど、私の護衛たちの武器の手入れと、旅先で使える研磨剤が欲しいの」
「護衛の方は何人いらっしゃいますか?」
「4人よ。1人が片手剣、1人が剣と盾、1人が槍で、もう1人が杖よ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員はそう伝えると、階段を上がって2階へと姿を消した
「待っていましょうか」
「こちらをどうぞ、聖女様」
ベルが護衛たちにそう伝えた直後、店員の1人が気を利かせて椅子を持ってきてくれた
「あら、いいの?」
「聖女様を立たせておくわけにはいきませんので」
「そう? なら、ありがたく座らせてもらうわね。ありがとう」
にっこりとお礼を伝えると、ベルは丁寧に椅子に腰を下ろした。
その瞬間、まるで自然な流れのように護衛たちが周囲を囲み、彼女を守る体制を整えた