589話 これからのこと
589話 これからのこと
「《ねぇ……私たち、また前みたいに一緒にいられる方法って、ないのかな……?》」
それは、彼女がずっと心の奥にしまっていた――小さいけれど、切実な願いだった
「それは……君たちがどうなりたいかによるよ」
「《……前みたいに、心の中で影とお話することはできる?》」
「うん、もちろんできるよ」
「《……そっか。なら……それでいいや》」
そう言う彼女の声には、ほんの少しだけ寂しさがにじんでいた、それでもどこか安心したような響きも混じっていた
「もし、望みがあるなら言ってごらん。言葉にしないと、叶うかもしれないことも叶わないよ」
ベルがそっと促す
「《じゃあ……心の中じゃなくて、影と直接お話がしたい》」
「直接……って?」
ベルはあえてとぼけるように聞き返す。言いたいことを、彼女自身の言葉で話させるために
「《……今の私は、幽霊みたいなものだから。だから……ちゃんと“体”が欲しい。私だけの、私の体が》」
別人格の女の子は、小さな勇気を振り絞って、自分の本当の願いを口にした
「2人の同意が必要にはなるけど、君の体を作ってあげることはできるよ」
「《お願いしたけど……ほんとに、そんなことできるの?》」
「私だよ? 当然できる。ただし……今までみたいに、何もかも自由にとはいかなくなると思うよ」
「《なにか……変わっちゃうの?》」
「たとえば、君が“影”って呼ぶ方が持ってた魔銃生成や短距離転移のスキル。あれは“魔力無限”の効果で魔力を気にせず自由に使えてた。でも――体を分けるってことは、共有していたそのスキルが分かれちゃうってこと。つまり、今みたいには使えなくなる」
「《じゃあ……影は、今までみたいに銃を出したりできなくなるの?》」
「完全に無理、ってわけじゃないよ。体に触れてる間だけなら、一時的にスキルを共有できるようにできる。手を繋いだりね」
「《……それじゃダメだよ!》」
女の子は、悔しそうに唇を噛んだあと、再びベルに向き直る
「《もっと……もっとなにかないの? 私たちが別々の体を持って、それでも、今みたいに一緒にいられる方法!》」
ベルが言ってくれた――「言わなきゃ叶わない」って
だから、彼女は迷わず“最大限の願い”を口にした
「……一応、抜け道はあるよ。でも、私はあまりおすすめしない」
「《教えて、聞きたい》」
ベルは一度だけ深く息を吐くと、静かに答えた
「影の本来の魂と、君のために作る“疑似魂”を、特殊なパスで繋ぐ。そうすれば、スキルも共有できるし、心の声だって届くようになる」
「《すごいじゃん! それでいい! ……ううん、それがいい!》」
「……だけど、ものすごく大きなリスクがあるの」
「《リスク……なに?》」
「どちらかが死ねば――もう一方も、必ず死ぬ」
「《……え?》」
「魂を繋げば、運命も繋がる。パスが切れた瞬間、魂も壊れる。たとえ離れていても、一方が死ねば、もう一方も……一緒に終わる」
「《じゃあ……もし私が死んだら、影も……》」
「そう。その逆も当然、同じ。だから私は――おすすめしない」
「《……えっと……》」
大きなデメリットを聞いた女の子は、一瞬言葉を失い、そのまま小さく俯いた
ひとり静かに、考え込む
ベルはそんな彼女に、そっと言葉を添える
「デメリットなしで、“触れた時だけ”スキルを共有できる1番……それとも、大きなリスクと引き換えに、常時共有できる2番……」
「《…………》」
「命に関わる選択だから、2人でよく考えて決めなよ」
「《……うん》」
小さくうなずいたあと、彼女は影の元へ行き、静かに相談を始めた
それから、およそ10分後――
「決まった?」
ベルの問いかけに、別人格の女の子はまっすぐ歩いてきて、真剣な顔で頷いた
「《うん。……2番にする》」
「一応聞くけど、理由は?」
「《……だってさ、片方が死んだらもう片方も死ぬって、それ……今と変わらないんだよ? だったら――》」
少し笑みを浮かべて、言葉を続ける
「《今と変わらないのに、影と私の体が別々にできるなら、メリットしかないでしょ?》」
「……そうだね。でも、1番を選べば――どちらかが死んだとしても、もう片方は寿命まで生きられる……本当に、それでいいの?」
ベルは改めて、真剣な表情で問いかけた
「《うん。それも考えた。でも……私たちは“ふたりでひとつ”。片方だけ生き残っても――意味ないんだよ》」
少女の声には、迷いのない決意がこもっていた
「そっか……2人で、ちゃんと決めたんだよね?」
「《うん。影もいいって》」
「……わかった。じゃあ君の望む、“この姿になりたい”って体を思い浮かべて」
「《どんなのでもいいの?》」
「いいよ……ただし、今後“死ぬまで共にする体”だから――よく考えてね」
「《じゃあ、これで》」
女の子は一瞬の迷いもなく、そのままイメージを思い浮かべてそう言った
「……早いね」
「《ちゃんと考えたことはないけど……なんとなく、前から“こうなんだろうな”って思ってた感じがするの》」
「そう。じゃあ、そのイメージ通りに体を作るね」
ベルは静かに目を閉じ、彼女の思い描いた姿をもとに、丁寧に体を形づくっていった
やがて――ベルの目の前に、彼女の“これからの本当の体”が現れる
「一応確認して。どこか変とか、直したいところがあったら言ってね」
「《……なんか……すごく、恥ずかしい……》」
彼女は頬を赤くしながら、少し身を縮めるように呟いた
身の前にあるその体が“ただの人形”ではなく、これから自分が生きていく“本物の自分”になるものだからだ
「《だって……これから自分になる体が、ドンって人前に出されるのって、なんか……丸裸で心の中まで見られてるみたいで……》」
「仕方ないでしょ。細かい調整もあるんだから、ちゃんと見てもらわないと困るよ」
ベルはそう言いながらも、彼女の気持ちを察して、そっと視線を外していた
「《影は……見ないでね》」
「う、うん」
恥ずかしそうにそっと影に視線を向けると――
彼はすでに気を利かせて、静かに背を向けていた
「恥ずかしいなら、さっさと終わらせちゃお。ほら、早く確認して」
「《うんっ!》」
ベルにそう促され、彼女は照れをこらえつつも素早く全身をチェックし、必要な調整をささっと済ませていった