590話 初めて知る、女の子の体
590話 初めて知る、女の子の体
ベルと、影の別人格である女の子は、彼女のイメージをもとに作り上げた新しい体の最終チェックを、手早く終えた
「これでいいの?」
「《うん。問題ないよ》」
「了解。じゃあ、最後に伝えておきたいことがあるから、ちょっとこっち来て」
『防音結界』
ベルは自分たちの周囲に、音を遮る結界を展開する
「《え、なに? なになに?》」
女の子は興味津々といった様子で、すぐにベルのそばへ駆け寄った
「これから話すことを影くんに伝えるかどうかは……君が決めて」
「《わかった》」
ベルの真剣な表情を見て、彼女も自然と表情を引き締める
「この体の見た目は、君のイメージ通りに作ってるから――影くんのお姉さんっぽい姿だけど、血のつながりは一切ないよ」
「《そうなの?》」
「うん。本当に“弟”にしたいなら、血をもらう方法もあるけど」
「《……いいよ。そんなことしなくても、私は影のこと弟みたいに思ってるから》」
少しだけ迷ったあと、彼女はきっぱりと首を振った
「そう。なら、それでいいよ。あと、この体は私が作ったけど、身体機能は普通の人間と変わらないから、今まで通りちゃんと生活すること。わかった?」
「《うん、それはもちろん》」
「それと……女の子としての身体機能もちゃんとあるから、子供が欲しければ、そういうことをすればできるからね」
「《……う、うん》」
顔を赤くしながら、小さな声で返事をした
「血のつながりはないから、影くんと子供を作っても問題ないよ。そのへんは自由にね」
「《弟みたいな子と、そんなことするわけないでしょ!》」
真っ赤な顔で怒りながらも、どこか照れたように反論していた
「……一応ね! 一応の話だから、あんまり気にしないでね」
「《それでも、恥ずかしいから……!》」
そう言って、彼女は両手で顔を隠してしまった
「それと……今までは男の子の体だったから無かったけど、これからは“女の子の体”になるから……“女の子の日”があるのは、わかるよね?」
「《……?》」
彼女は小さく首を傾げた
「あ、知らないんだ?」
「《うん、わかんない……》」
(俺が体を作ってあげるんだから、お母さんの立場としてちゃんと説明するのも責任だよね)
「女の子の日っていうのはね、月に1回くらいあって、だいたい1週間くらい続くの。簡単に言うと、体が赤ちゃんを作る準備をしてる状態。で、そのときに――お股から血が出てくるんだよ」
「《ち、血が出るの!?》」
驚きで目を丸くする彼女に、ベルは軽く頷いた
「うん。でも、それは病気とかじゃなくて、女の子の体にとっては普通のことなんだよ。そういう仕組みになってるからね」
「《そ、そうなんだ……》」
「その間はね、お腹が痛くなったり、気分が落ち込んだりすることもあるんだけど、ちゃんと対策もあるよ。ナプキンっていうものを下着にあてたりして、服が汚れないようにするんだよ」
「《……うぅ、なんか怖いかも……》」
「大丈夫。初めてはびっくりするかもしれないけど、ちゃんと慣れていけるし――君が今まで出会ってきた女性たちも、みんな同じ経験をしてきてるんだよ。だから安心して。必要なことは全部教えてあげるからね」
「《うん……うん、ありがとう。あなたが言うなら、頑張ってみる……!》」
恥ずかしさと不安が混じった顔で、でも最後にはぎこちない笑みを浮かべてうなずいた
(まぁ俺もわかんないんだけど)
《性別を女性にすれば、マスターでも体験できますよ?》
《俺はいいよ》
《他にも、今作ったようにマスターも体を作ってその中に意識を入れてやれば、同じように体験できますよ?》
《……もしかしてピクシーは、俺を女の子にしたいの?》
《いえ、説明してあげるなら、1度は実際に経験した方がいいかと思いまして》
《俺はいいよ、ピクシーが教えてくれるし》
《では私は少々家出しようと思います》
ピクシーは、全力でベルを女の子にしようとしていた
《それは俺が許さないよ? 逃がさないから》
《失礼しました》
さっきまでの強気が嘘みたいに、あっさり謝っていた
《よろしい。ちゃんと教えてくれればそれでいい》
《では早速……この世界には“ナプキン”という便利なものは存在しません》
《え!? じゃあ世の女性はどうしてるの?》
《幸いにも、この世界ではセントたち――初代勇者パーティのおかげで、下着関係はけっこう進化しています。なので、現在は布を折りたたんで下着に挟むなどしています》
《それってそれ用の布があるんだよね?》
《布が手に入らない家庭では、古着を裂いて使ったり……最悪、草や、なんでも血を受け止められるものを使う、という状況です》
《そ、それはちょっと……過酷すぎる……》
《ひどい場合は、垂れ流し状態だったり、期間中は家から一歩も出ない人もいるようです》
《そっか……もし俺が現代のナプキンをこの世界に普及させるってなると、どう?》
《確かにこの世界にとってはオーバーテクノロジーですが、ナプキンを作って普及させたところで、世界のバランスが崩れたり、重大な問題が起こることは考えにくいです。だから、全然問題ありませんよ》
(完全に普及するまでは、軽い戦争のようなものになるとは思いますが、その程度ならまぁいいでしょう)
《じゃあ普及させようかな。今のうちから始めておけば、将来的にテレスたちや子供たちの役にも立つしね》
《はい。ただ、衛生面が大きく改善されることで病気のリスクが減り、その結果人口が少し増える可能性があることはお伝えしておきます》
《了解……ピクシー、エイルに伝えて。生産所と販売所、それから生成魔道具、各所の商人の手配も頼む。1ヶ月分を鉄貨1枚で、1人何個でも購入可能にしておいて。お金がない人には無償配布でもいいし、等価交換でもなんでも構わない。パン1個なら50ヶ月分とかね》
《本当にそれでよろしいのですか? マスターに利益が出ないのは……》
《いいの、いいの。同じ人間なのに女性だけが月に1回苦労するのはおかしい。俺の利益なんてどうでもいい、とにかく女性が快適になればそれでいい》
《承知しました。私がサポートして準備を進めます》
《お願いね。この子が体に適応して、“女の子の日”が始まる前には必ず販売を始めて》
《了解です》
《それから、転売が発覚した場合……その家族には一切販売しないように。その後、その家族に泣き付かれた場合は今後一切やらないことを誓う誓約書を書かせて、売ってあげて》
(相変わらずマスターはお優しいですね、一生売らなくてもいいと言うのに、誓約書書かせただけで売るのですから)
《かしこまりました》
その後、準備はすぐに進められた
「私は教えられないから、ちゃんと教えられる人を連れてくるね。だから、少しの間だけでいいからこの国にいて」
「《え? あなたが教えてくれるんじゃないの?》」
「うーん、知識としては教えられるんだけど、実際に見せるってことはできないんだよね」
「《どうして?》」
「私、今は聖女の格好してるけど――本当は女の子じゃないんだ」
「《えっ、そうなの!?》」
「うん……もう変装してる意味もないし、戻るね」
そう言って、ベルは聖女の姿を解除し、いつもの自分の姿へと戻ってみせた
「これが俺の、本来の姿だよ」
「《……本当に、女の子じゃないの?》」
「違うよ。れっきとした“男”です」
「《そうなんだ……》」
(どう見ても女の子でしょ……)
彼女は明らかに信じていなかったが、それでも一応、そう返事をしていた
ベルはその返事を聞き、伝えたいことを伝え終えたので、防音結界を解除し、そのまま影の元へと戻った
その後を、女の子はベルの外見をじっくり観察しながらついて行った
「それじゃあ、君の意識をこの新しい体に移します」
「《お願いします》」
「影くん、目を閉じたまま、こっちに来て」
「は、はい」
影は目を閉じたまま、ゆっくりとベルの元へ歩いてきた
「それじゃあ、始めるよ」
「はい」
「《うん!》」
ベルがそう言うと、2人はぴったり同時に返事をした
《ピクシー、補助をお願いね》
《わかりました》
そしてベルは影の頭にそっと手を当て、意識の分離を開始した
女の子の人格だけを選び取り、先ほど作った新しい体へと、丁寧に移し始めた――