592話 もう一度、生まれる
592話 もう一度、生まれる
影の別人格だった女の子にドレスを着せ、彼女が落ち着くのをゆっくりと待ったあと
「そろそろいいかな?」
「あ、ごめんね。もう大丈夫」
「わかった。じゃあ君たちのこの後のことについて話すね、だから2人ともよく聞いて」
「はい」
「うん」
2人は真剣な表情で返事をした
「まず、君の名前を決めないといけない」
「名前? ……あ、私のか」
思い出したように、口に手を当てていた
「そう。男の子の方がダウトくんかな? だけど君の名前がないよね」
「俺はダウトって実感はないんだけど」
「ないね」
「それか、男の子の方がエイくん、女の子の方がダウトちゃんってことでもいいけど」
「俺は構わないけど、君はもっと可愛い名前がいいんじゃない?」
「……ごめんね、私さ、日本にいた時に“エイ”って呼ばれてたし、こっちでは“ダウト”って呼ばれてたから……突然呼ばれると、どっちも反応しちゃうかも」
少し困ったように笑いながら、視線を伏せてそう呟いた
「じゃあ俺の方が変える? 俺ならどっちもあまり呼ばれ慣れてないから、変えても大丈夫だよ」
「でも、影ってのは影の名前なのに、私が貰う訳には……」
「別にいいよ、俺が影って呼ばれてたのは短期間だし、俺は気にしないよ」
「でも……」
2人がそう言い争っているのを見て、ベルが一言助言を出した
「別に今の名前を絶対残さないといけないってルールはないんだから、2人とも新しい名前に変えてもいいんだよ?」
「いいの?」
「名前ってステータスにも刻まれてるから、変えられないんじゃないの?」
「ステータスに名前があっても、見られなきゃバレないし、好きな名前で名乗ればいいじゃん? 検問とかで本名が必要なら、そのときだけそう言えばいいだけだしさ――それに、ステータスの名前くらいなら、俺がちゃちゃっと書き換えてあげるよ」
「それでいいの?」
「ステータスって、干渉できるの?」
「俺を誰だと思ってるの? 俺はこの世界の神になった男だぞ?」
少し得意げに胸を張るベルに、女の子はじと目を向けて言った
「何それ、なにかのアニメのセリフ?」
「も〜、ちょっと遊んだだけじゃん」
女の子のツッコミに、ベルは肩をすくめながら軽く返した
「でも、神になったとか、自分で言わない方がいいよ? ただの痛いヤツに見えるから」
軽く返すベルに、女の子は真剣な表情で諭した
(ホントなんだけどな……)
「それもそっか……とりあえず、名前どうするか決めな」
「そうだね、そうしよう!」
女の子はそう言って、影くんと向き合った
「どうする?」
「俺はなんでもいいよ」
「も〜、自分の名前なんだから、ちゃんと考えなきゃダメだよ?」
「でも、俺はどの名前もあんまり長く呼ばれたことないし……」
「はぁ〜……じゃあさ、あなた的にはどれがおすすめ?」
影くんの言葉に、女の子は軽くため息をついてから、ベルに助けを求めた
「2人が今ここから新しい人生を始めるって考えるなら――新しく名前をつけたらいいんじゃない?」
「それいいじゃん! 影くんは今日、自分の体に戻れた。私は新しい体をもらえた。だから――今ここから、私たちの新しい人生を始めよう!」
女の子はそう言って、両手を広げながら影くんに笑顔でアピールした
「君がそれでいいなら、いいよ」
「いいよ! だから、私たちの新しい名前を決めよ!」
「わかった」
「じゃあ、私が影の名前を考えるから、影は私の名前を考えてね」
「うん」
そう言って、2人は静かに考え始めた
「ねぇ、紙ちょうだい?」
「はいはい、仕方ないなぁ〜」
女の子がそうベルにお願いすると、ベルは軽く笑いながらも、しっかりと机と椅子、それから紙と筆記具を用意してあげた
「はい、日が暮れるまでには考えてね」
「ありがとう!」
「ありがとう」
用意された机に向かい、2人は並んで座り、真剣な表情で名前を考え始めた