596話 謝罪と赦し
596話 謝罪と赦し
みつきにカナエの女の子の先生になって欲しいとお願いしたあと、ベルは聖女の護衛4人組が帰ってくるのを待っていた
「おかえり。必要なものは揃った?」
「帝王様! ご無事ですか!」
ベルの声を聞いたアルヒが、真っ先に駆け寄ってきた
「大丈夫だよ〜」
「なら良かったです。……それで、襲った犯人はどうなりましたか?」
「今、城の中を探索してるよ」
「っ!! どうしてそんなに自由にさせてるんですか! 聖女様を襲った犯人なんですよ!? 牢屋に入れるか殺すかするのが妥当ですよね!」
アルヒは怒鳴るようにベルへ詰め寄った
「この後の計画があるから、気にしないで」
ベルは落ち着いた口調でそう返したが、アルヒは首を横に振る
「できませんよ! 聖女様を襲った犯人が近くにいて、気にしないなんて無理です!」
「……俺はね、その子に“どうして聖女を襲ったのか”ちゃんと聞いたんだ」
「それで?」
「依頼されただけなんだってさ。つまり――その子を牢屋に入れても、殺したとしても、また別の誰かが依頼を受けて同じことを繰り返すかもしれない」
ベルの声は静かだったが、芯が通っていた
「だから俺は“依頼を出している犯人”を捕らえる。……そのために、自由にさせてる。もちろん、今は常に位置がわかる魔法をかけてるから、心配しなくても大丈夫だよ」
「ですが……」
「この城に入った時点で、もう何もできないよ。だから安心して」
「……わかりました。僕たちは聖女様のもとへ戻ります」
不服そうにそう言い残し、護衛4人組は聖女の眠る部屋へと戻っていった
(まぁ、そうだよね。聖女を襲った犯人が、何食わぬ顔でここにいるんだから。怒るのも仕方ない)
その後、ベルは連れてきたカナエとナギのもとへ向かい、城の中を軽く案内していた。 そして夕方までのあいだ、雑談を交えながらのんびりと城内を探索して過ごした
もうすぐ夕食の時間になろうかという頃―― ベルのもとに、ハデスから念話が届いた
〔ベル様、聖女が目を覚まされたようです〕
〔あ、起きた?〕
〔はい。世話をしていたメイドから私に連絡が入り、それをすぐベル様にお伝えしました〕
〔了解〕
「ナギ。君が襲った聖女が、目を覚ましたらしいよ。どうする?」
「……叶うなら、謝りたいです」
「いいよ。だけど、襲った時に一緒にいた護衛の4人も一緒にいる、だから何を言われるか分からないけど、ほんとにいい?」
「……うん。俺がやっちゃったことだから、何を言われても謝るだけ謝りたいと思います」
「よし。じゃあ行こうか」
『転移』
聖女が目覚めたと知ったベルは、カナエとナギを連れその場から転移し、聖女のもとへと向かった
「2人はここで待ってて、先に俺だけ会ってくるよ」
「うん」
「はい」
2人の返事を聞いたベルは、静かに聖女の眠る部屋へと入っていっ
「おはよう。よく眠ってたね」
「おはようございます……えっと、これはどういう状況なんですか?」
「まだ誰にも話を聞いてない?」
「はい。起きたらみんな“よかった、よかった”って……それだけで、詳しいことは何も」
ベッドの左右には、護衛の4人がそれぞれ立っていた。 誰もが無事を喜んでいて、涙を流す者もいれば、それをこらえて微笑んでいる者もいた
「あなたは29日に襲われてから、今日までの3日間――ずっと眠ったままだったんだよ」
「そうだったんですね……ご迷惑をおかけしました」
聖女は座ったまま、きちんと頭を下げた
「別に気にしなくていいよ」
「……ひとつ、聞いてもいいですか?」
「なにか気になることがある?」
「はい」
「なに?」
「どうして帝王様は……私の服を着ているのですか?」
聖女は、目覚めてからずっと気になっていた疑問を、遠慮がちにたずねた
「……あ、忘れてた」
『即着』
ベルの服装は、聖女に変装していたときのまま――ワンピース姿のままだったのだ。 そのため、ベルはすぐに即着を発動して、いつもの服に戻した
(……今の姿、みつきにも見られてたのか。なんか言えよな)
「見苦しいものを見せたね。これは犯人を捕まえる囮のために着てたんだ。この服は複製したやつだから、あなたの物じゃないから安心して」
(私が着るよりも似合っていたように見えますが……)
「それは別に構いませんが……帝王という立場で、相手の実力も分からないうちからよくそんなことできますね」
「まぁね。――それから、襲った本人に聞いてみたよ。“依頼されてやった”って」
「そうですか……」
「それで今、その犯人は捕らえずに自由にさせてる。真の依頼主を見つけるためにね」
「なるほど……」
「で、その子に君が目を覚ましたって伝えたら、“謝りたい”って言っててさ……どうする?」
「わたし――」
「おい!!」
聖女の言葉を遮るように、赤髪の護衛・ゲイルが怒鳴った
「いくら帝王だからって、なんでも勝手にやっていいと思ってんのか!? 真犯人を捕まえるために自由にさせてるのは……まぁ百歩譲って理解してやるよ。だがな、“謝りたい”だ? ――謝ったところで、許されるような問題じゃねぇんだよ!!」
「……誰もお前の意見なんて聞いてないよ。今聞いてるのは、“聖女本人の言葉”なの。護衛という立場で、聖女の言葉を遮っていいと思ってるの?」
ベルはピシャリと鋭く言い放ち、睨みつけた
「……あ、えっと……」
あまりの剣幕に、ゲイルは一気に言葉を詰まらせる
「どうする?」
「帝王様、あなたはどうするおつもりですか?」
「真犯人を捕まえる協力をするならお咎めなしで自由の身にする予定、もし逃げようとすれば捕らえて死刑になるかもね」
「……わかりました。連れてきてください」
「ありがとう」
そう言って、ベルは外で待機させていた2人を部屋へと招き入れた
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
カナエとナギが部屋に入ってきて、聖女の座るベッドの正面まで来ると、2人は同時に膝をつき、頭を下げて土下座の体勢で謝った
「依頼されたとは言え、許されないことをしました。本当にごめんなさい」
ナギは土下座のまま、心の底から謝った
「私は、帝王様の決定に従うつもりなので、私があなたをとやかく言うつもりはありません。1つだけ聞かせてください」
「はい……」
「あなたが私を襲った人物なのはわかりました……ですが、隣の女性の方は誰ですか?」
「この子は、俺の大切な人です」
「そうですか……それなら、あなたに依頼を出したという真犯人を、必ず捕まえると約束してください。さもなければ、ここにいる私の護衛の誰かがその子の命を狙うとお考え下さい」
「っ! ……はい、必ず捕まえます」
ナギは、その言葉を受け止めて、力強く頷いた
「一応聞いておきます、この方は直接関与していないんですね?」
「はい。全て俺です、この子は関係ありません」
「わかりました。もう下がってください」
「すいません」
「ありがとうございます」
ナギは謝り、カナエはお礼を言って部屋を出ていった
「帝王様、本当にあの人が犯人なんですか?」
「うん。一応そうだね。襲ったときとは少し性格が変わってるけど――あの子があなたを襲ったのは間違いない」
「……私は、あの人を許します。そう伝えてください」
「俺が聞くのも変だけど……そんなに簡単に許していいの?」
「構いません。私は顔を見れば、その人が何を思っているか、なんとなくわかるんです。――あの人は、私を狙ったはずなのに、私を見て“後悔”の感情を浮かべました。自分の過ちを理解しているなら、私が責めることはありません」
「そっか……ありがとね」
「私がそう感じたので許しました。深い意味はありません」
「それでも、ありがとう」
「いえいえ」
「許してくれたお礼に見合うかはわからないけど……言ってくれたら、俺が何でもひとつだけお願いを叶えてあげるよ。もちろん“可能な限り”だから、できないことはごめんね」
「わかりました。後で、護衛たちと話し合って決めておきます」
「うん。決まったら、いつでも言ってね。それじゃ」
「……あ、忘れていました。命を救っていただき、ありがとうございます」
聖女はそう言って静かに頭を下げた。 ベルはその言葉を背に受けながら、手だけを軽く振って部屋を後にした