597話 母に託すお願い
597話 母に託すお願い
目覚めた聖女と面会したあと、ベルはカナエとナギの2人に、追加で生活に必要な場所をいくつか教えた
その後――特に問題も起こることなく、次の日を迎えた
ベルはある人物を呼び出すため、学園へとやってきていた
「学園長、生徒を1人呼び出して欲しいんですけど、できます?」
「あら、放送で?」
「はい。俺の準備室に向かわせてください」
「……ベルくんなら簡単に探せると思うんだけど?」
学園長がやや呆れたような顔をするが、ベルはニコニコと笑って返した
「いいからいいから」
「……まったくもう。誰を呼ぶの?」
「1年生Sクラスのマミノさんを呼んでください」
「マミノさんね。今すぐ呼ぶの? それとも休み時間に?」
「今すぐで構いません。まだ授業は始まりませんし」
ベルは軽く時計を見やりながら答える。
授業開始は9時だが、今は朝の8時30分ごろ。まだ余裕がある時間だ
「朝だから、まだ来てない可能性もあるわよ?」
「大丈夫です。既に登校済みなのは確認してあります」
「……確認してるなら、直接行きなさいよ……」
「準備室で待ってるのでお願いしますね」
「はいはい、わかったわよ」
軽くため息をつきながらも、学園長はその場で放送を入れてくれた
「生徒の呼び出しです。1年Sクラスのマミノさん、ベルド先生がお呼びです。ベルド先生の準備室へと向かってください。繰り返します。1年Sクラスのマミノさん、ベルド先生がお呼びです。ベルド先生の準備室へと向かってください」
その放送は、学園内のすべての教室へと響いた――
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「マミノちゃん、ベルド先生に呼ばれてるみたいだけど……なにかしたの?」
同じクラスの女の子が、不安そうに問いかけてくる
「わかんない……怒られるのかな?」
(私……ベルに何かしたっけ?)
マミノは少し顔を曇らせながら、思い返そうとする
「もしかしたら、マミノちゃん魔法の成績いいから特別授業とかじゃない?」
「……どうなんだろうね」
まだ半信半疑なまま、マミノは席を立つ
「でも、遅くて怒られたらやだし……すぐ行ってくるね」
「うん。もし先生来て、マミノちゃんがいなかったら言っておくから」
「うん、お願い!」
マミノは軽く手を振ってそう言い残すと、少し早足でベルの準備室へと向かっていった
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コンコンコン
「失礼します」
マミノは準備室の扉をノックし、緊張した面持ちで中へと入ってきた
「よく来たね」
ベルは柔らかな笑みを浮かべて出迎える
「なんの御用でしょうか?」
「今はマミノに話すんじゃなくて、初代勇者メンバーの実里に話したい」
「……はいはい」
マミノは目を細め、どこか母親のような優しい雰囲気へと変わった
「ベルが呼ぶなんて珍しいね、どうしたの?」
「そうそう、それでいい。お願いがあるんだよね」
「お願い? ベルの方が強いんだから、お母さんにできることなんてないと思うんだけど?」
「あるんだよね」
ベルは椅子に座りながら、少し真剣な表情を浮かべて話し始める
「昨日から城でとある子を一時的に保護したの」
「そうなの。その子が問題?」
「そう。その子はね、二重人格で、前世と今世を合わせて30年くらい男の子として生活してたんだ。でも、体は男の子で、本人格も男の子……だけど、もう1つの人格が“女の子”だったんだよね」
「それはまた……かなり複雑なケースね」
実里は思わず眉をひそめつつも、興味深そうに耳を傾けた
「その子が望んだ通りに、体を女の子に作り直してあげたの」
「なるほど。じゃあ今は……見た目も中身も、どこから見ても女の子ってこと?」
「うん。だけど、生き方が完全に男の子だったから、女の子として必要な知識がないんだよね。特に“女の子の日”の話とか」
「そりゃあ、ベルじゃ教えられないわね」
実里は思わず吹き出しながら、肩をすくめて微笑んだ
「でしょ?」
ベルも小さく苦笑しながら返す
「一応、現勇者のみつきにもお願いしたけど……お母さんの方が女の子としては大先輩でしょ? だから、2人で協力して色々教えてあげて欲しいんだ」
「確かにそうね……まぁいいわよ」
実里はあっさりと頷いたあと、ふと思い出したように目を細める
「一応聞くけど、その“みつきちゃん”って何歳なの?」
「16歳だよ」
「そっか……なら、バランスも良さそうね。まぁ任せなさい」
頼もしく胸を張って見せる実里に、ベルもほっとした表情を浮かべた
「あと、ナプキンとかは俺の方でこの世界に普及させるつもりだから、現代の感覚で教えてくれて大丈夫だよ」
「――あらそうなの? それは助かるわね」
実里は目を丸くして感心したように頷く
「お母さんがこっちに来たときは、そういうものなくてほんっと大変だったんだから!」
「だよね。だから、先に用意しといたよ」
「気が利くじゃない、ありがと」
にこっと笑って、軽く頭を下げる実里
「で、いつから教えるの?」
「実里って、転移使える?」
「無理ね」
「あーやっぱり……」
あっさりと返されて、ベルは小さく頷いた
「そっか。なら、これ渡しておくよ」
そう言いながら、ベルは空間収納から赤い宝石のついた指輪を取り出した
「これは何?」
「それを持ってれば、どこからでも城の転移部屋に転移できる。帰りは王都にある俺の屋敷の転移部屋に戻るようになってるけどね」
「いいの? そんな貴重そうなもの……」
「うん。実里しか使えない仕様にしてあるし、仮になくしても問題ないよ」
「……ほんとありがとね、助かるわ」
嬉しそうに指輪を受け取る実里。その表情はどこか、昔の“母親としての顔”に戻っているようだった
「教えるのは、時間がある時でいいから。学園が終わった夕方以降で十分だよ」
「なら今日終わったら行くわ」
「わかった。伝えとくね」
「うん」
少しの沈黙のあと、ベルが一言
「要件はそれだけだから、もういいよ。ありがとう」
「そう? なら教室に戻るわね」
軽く手を振りながら、実里は扉へと向かい、いつもの穏やかな足取りで準備室を後にした
「要件も伝えられたし……よし、授業の準備しておこっか」
そうつぶやいて、ベルは簡単にこの後の授業で使う道具を取り出し始めた