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598話 剣と温度計

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598話 剣と温度計

マミノにお願いをした後、ベルは学園で授業をこなし、テレスたちと一緒にお昼ご飯を食べてから、城へと戻ってきた

「――あ、来てたの?」

転移してきた瞬間、見慣れた背中が視界に入った。

声をかけると、その男がくるりと振り返る

「ん? 今、ベルド様はいないって聞いたから帰ろうと思ったんだが……いたのか」

豪快な声で返してきたのは、武器屋ミレーユの工房長、バンカラだった

「今ちょうど帰ってきたの」

「そうか。……職業体験で作った剣、届けに来たんだ」

「えっ、もうできたの?」

ベルは目を見開いた

「おう。全部1級品に仕上げてやったからな。体験に来た生徒たちに届けてくれ」

「ありがとう。そんなに早く完成するとは思ってなかった……助かるよ」

「一つ一つに、生徒の名前を書いた札をかけてあるからな。間違えずに渡せるはずだ」

「それはありがたい。丁寧にしてくれて本当にありがとう」

「問題ない。それが俺の仕事だ」

バンカラはあっけらかんと笑うと、くるりと背を向けた

「それじゃあな」

「うん。忙しい中、ほんとありがとうね」

「大丈夫だ、その分、たんまり金もらってるからな!」

豪快に笑いながら、バンカラは手を振って歩き去っていった

ベルは、彼の後ろ姿を見送りながら、ふっと小さく笑う

「……お金もらってないとやらない、って言ってるようなものだよね」

そう呟くと、剣の入った木箱を手に取り、空間収納へとしまい込んだ

(思ったより早かったから、これなら次の授業のときに渡せるね)

軽く予定を立てていたところへ、ハデスからの念話が飛んできた

〔ベル様、武器屋のバンカラに会いましたよね?〕

〔うん、ちょうど目の前にいたよ〕

〔報告しようとしたのですが、ちょうど帰ってこられたので、伝える前に鉢合わせしてしまいました〕

〔全然いいよ。ちゃんと受け取ったし、木箱も回収済みだから〕

〔了解しました。続いて、魔道具店マグテルの店主――マグメルが訪ねてきています〕

〔あ、こっちも今日だったんだ? 応接室に通しておいて〕

〔かしこまりました〕

ハデスとのやり取りを終えると、ベルはそのまま応接室へと足を向けた

「お待たせしました」

「大丈夫よ。あなたも忙しいでしょうから、さっさと要件を話させてもらうわね」

「わかりました」

「はい。これが、あなたの言ってた温度計の試作品よ。確認して」

そう言って、マグメルは持ってきた木箱の中から温度計の試作品を取り出し、ベルへと手渡した

「確認してみますね」

ベルは温度計を受け取り、自分の腕に向けて試してみた

「……うん、ちゃんと機能してるね」

「でしょ? あと、見せてもらったやつは使用者の魔力を使って動くタイプだったけど、こっちは魔石の魔力で動くようにしておいたわ」

「あ、それ伝え忘れてたから……ありがたいです」

「魔石タイプのほうが、誰でも使えて汎用性が高いしね。問題なければ、このまま製品化するつもりだけど……何か変えたい部分はある?」

「見せたものそのままの仕上がりだから問題ないよ。このまま進めて」

「了解。じゃあ……次は価格設定ね。いくらにする?」

「これと同程度の手間がかかる魔道具って、どのくらいの価格?」

「同程度、ね……」

マグメルは腕を組んで、少し考え込む

「たぶん、私が作った魔道具の中でいちばん手間がかかったかもしれないわね」

「そんなに? じゃあ、値段は好きに決めていいよ」

「ふふ、いいの? じゃあ……今まで一番高く売ったもので金貨1枚だったから、これは金貨2枚にしたいんだけど」

「いいですよ、それで行きましょう」

「あ、いいの? めっちゃ適当に決めたけど」

「はい。作るのは俺じゃなくてマグメルさんやお店の人ですから、望む値段をつけてください」

「じゃあ、金貨二枚で売るね。今は試作品だから木の枠に何も色とか塗ってないけど……見た目はどうする?」

「測定部分がどこか分かれば、あとはシンプルなデザインで構いません」

「じゃあ、その測るところだけ目立たせて、全体は白でまとめる感じ?」

「それで十分です」

「じゃあ、何となく水色で塗っておくね。清潔感あるし」

「いいと思います。見た目も大事ですからね」

ベルがそう頷くと、マグメルは腕を組みながら、少し真剣な顔つきで続けた

「まずは、うちの店に並べて反応を見てから、評判がよければ他の都市の支店にも展開していこうと思うの」

「なるほど。サンプルを見た人の反応で方向を決める感じですね」

「そうそう。で、最初の一ヶ月は“特別価格”で金貨1枚にしてみるわ。手に取りやすくして、反応を見たいの」

「限定価格で注目を集めて、話題にしたいわけですね。理にかなってると思います」

「でしょ? あと、店頭に置くだけじゃなくて、治療院にも十個くらい寄付で配るつもり。宣伝にもなるし、民の健康にも役立てば一石二鳥でしょ?」

「……それは助かります。元々そのつもりでしたから。民間の医療現場での導入は、大きな意味がありますからね」

「それに、今まで温度なんて感覚でしか測れなかったから、“ちゃんと数値で測れる”ってだけで話題になると思うのよ。魔法調整や医療にも使えるし」

「確かに。広まれば、多くの人の助けになるでしょうね」

マグメルは満足げに笑い、指で机をトントンと叩いた

「あと数日で量産分の目処が立つから、並べ始めるのは来週かな。……そうだ、ベルの名前は、出してもいい?」

「いえ、俺の名前は出さずにお願いします。これは純粋に、マグメルさんのお店の製品ということで」

「了解……あ、そうだ。分け前はどうする?」

「うーん、じゃあ……売上の二割を俺、八割をマグメルさんの方で。どうですか?」

「ふふ、太っ腹ね。そんなにいいの?」

「構いません、俺はただアイディアを見せて作ってもらう形なので」

「ベルがそう言うならいいわ。私的には、製造も宣伝もこっちでやるし、ちょうどいいと思う」

マグメルはにっと笑って頷き、試作品の箱を抱えて席を立った

「それじゃあ、準備が整ったらまた連絡するわね」

「はい、よろしくお願いします」

「ふふ、任せなさい。うちの商品、失敗は少ないんだから」

そう言って、マグメルは試作品の箱を抱えて立ち上がり、にっこり笑った

手を軽く振って応接室を出ていく彼女の後ろ姿を、ベルは静かに見送った。

実は販売方針や金額の話し合いの最中、終始ピクシーのサポートが入っていたのは――内緒のお話