601話 白い依頼人を探して
601話 白い依頼人を探して
三限目で五年生に魔力付与を教えたあと――
四限目は特に面白みのない、地味でキツい基礎訓練が待っていた
まずはそれぞれの武器に魔力を纏わせたまま、淡々と素振り。
魔力の維持と動作の安定を高めるためだ
「魔力がぶれないように注意して、斬るたびに薄くなったり濃くなったりしてたら実戦で通用しないからね」
そう言うベルの指導のもと、生徒たちは黙々と振り続けた
素振りは体力と筋力の向上、自身の武器に慣れることを兼ねて、約30分間行われた。
魔力を纏ったままという負荷もあり、額にはしっかりと汗がにじんでいた
そして後半は、武器を持ったままの持久走。
剣士は剣を、槍使いは槍を、自分の得物を背負って訓練所内をひたすら走る
重さと身体強化による魔力制御の継続が同時に求められる訓練に、生徒たちは次第に言葉少なくなっていった
最後まで淡々と進んだ基礎訓練を終え――
「お疲れ様、みんなしっかりお昼ご飯食べて、しっかり栄養を取るんだよ、解散!」
「ありがとうございました!!」
ベルの言葉に、生徒たちは汗だくのまま元気よく返事をして、昼休みに向かっていった
その後、訓練所の片付けを終え、昼食を済ませたベルは学園を後にして城へと帰ってきていた
今日は、午後からナギと一緒に、彼に依頼を出したという“白い依頼人”を探す約束をしている
「準備できてる?」
「あ、うん。僕は大丈夫だけど、ほんとにカナエも連れてくの?」
(なんか一人称変わってる)
「俺はいいけど、心配?」
「うん、あなたが強いのは知ってるけど……僕が殺し屋を辞めるって知ったら、依頼人は関係なく僕を殺しにくると思う、だからカナエが襲われないか心配なんだ」
ナギの声はわずかに震えていた
「その辺は安心して、俺が絶対護ってあげるから」
「……それでも心配です」
真剣な眼差しでそう返すナギに、ベルは少し肩をすくめる
「ん〜……ナギくんはそう言ってるけど、カナエちゃんはどうなの?」
「私は絶対行く!」
カナエは即答だった
「優しいナギを犯罪者にしたやつでしょ? 私が絶対捕まえて、懲らしめてやるんだから!!」
目に炎が灯ったかのような気迫
その勢いに、場の空気が一気に熱を帯びた
「やれやれ……ナギくん、残念ながらこの子は俺には止められない」
「この世界に来て、記憶が共有されてたから僕にはわかります……こうなったカナエは、もう止まりません」
ナギは小さくため息をつき、目を伏せた。
その瞳には、諦めと――ほんの少しの哀しみがにじんでいた
「さぁ、いくよ二人とも!」
「ちょ、カナエ――!」
「あらま〜」
返事も待たず、カナエはベルとナギの手をぐいっと引っ張る
三人の足音が石畳の上で軽快に響きながら城下町まで駆け抜けていった
やがて、城門前へとたどり着く
目の前には、行商人や旅人、兵士たちが行き交う賑やかな通りが広がっている
荷車のきしむ音や、露店の呼び声が絶え間なく響いていた
「沢山人がいるね、これじゃ誰がその依頼人かわかんないじゃない!」
「ここは沢山人が通るからね、白い服は依頼を出す時だけで普段は普通の格好かもしれない」
「えぇ!? じゃあわかんないじゃん!」
「それを探すのが今日の目的です」
「そうだけど……」
カナエは肩を落としたが、すぐにベルが口を開いた
「まぁいいじゃん、何かあればナギくんに接触してくるはずだし、それまでは観光でもすればいいんじゃない? この国は初めてでしょ?」
「そんなのんびりしててもいいの?」
「そもそも、すぐ見つかるなんて思ってない、それにカナエちゃんはしばらくここに滞在するんだから旅立つまでに見つかればいい」
「そっか、じゃあ観光しよ!」
「ちょ、また!?」
言うが早いか、カナエはナギの手をがしっと掴み、人混みの中へ駆け出した
ベルは「やれやれ」と小さく笑いながら、その後をゆっくりと追いかけていった