602話 観光日和の裏で
602話 観光日和の裏で
3人で街中を歩き始めて少し経った頃――
「こら」
「いだっ?! 急に何すんのさ!」
ベルはカナエの頭を軽く叩いた。
叩かれたカナエは、両手で頭を押さえながら文句を言う
「すれ違う人みんなを睨むんじゃないよ。そんなことしたら、どっちが怪しいかわかんないでしょ? 今のままだと、カナエちゃんが不審者に見えるよ」
「あ、ごめんなさい……」
自分の過ちに気づき、しゅんと謝った
「まぁ大丈夫だけど、次からは気をつけてね」
「でも……どこに犯人がいるかわからないから、全員が敵に見えちゃって」
「初日から見つかるわけないんだし、今日は純粋に観光したらいいと思うよ。もし依頼人が現れたら俺もわかるし、なんならナギくんが一番先に気付くと思うからね」
「じゃあそうする……私はついて行くだけで、探さない」
「それがいいね。無駄に考えて楽しめないより、全部忘れて楽しむのが一番幸せだから」
「そうする……じゃああれ食べたい!」
そう言って指さす先へ、ナギの手を引いて屋台へ向かって行った
それから数時間、誰かが接触してくることもなく、カナエに振り回されながら街のあちこちを巡り、色々なものを食べたり、いろんな場所を見て回っていた
「いやー! 楽しかった!」
ドルナード帝都内を一通り回って城門前まで帰ってきた。
にっこにこで元気なカナエの後ろには、普段通りのベルと、今にも崩れそうなほど疲れきったナギの姿があった
「カナエ……すごい体力」
「いっぱい食べたからね! 元気いっぱい!」
「いっぱい食べてたけど、夜ご飯食べれる?」
「余裕!」
「そっか、なら時間も時間だし今日の観光はおしまい。また明日回ろっか」
「わかった、明日まだ行ってないところ行こ!」
「はいはい、とりあえずカナエちゃんは責任もってナギくんを休ませること、いい?」
ナギはいつの間にか地面にへたり込んでいた
「わかった。さ、帰るよ」
カナエが手を差し出すと――
「もう歩けない……」
完全に疲れきった声が返ってくる
「しょうがないな〜、お姉ちゃんがおんぶしてあげる」
「……ありがとう」
カナエが背を向けてしゃがむと、ナギはなんの躊躇いもなく、その背中に抱きついた。
そのままナギはおんぶされて、用意してもらった2人の部屋へと戻って行った
(……やっぱり、まだいるのね。一応確認、一応ね)
カナエが犯人探しから観光へと切り替えたあたりから、ベルはずっと気配を感じ取っていた
視界の端や魔力探知に、常に一定の距離を保ちながら物陰から覗く視線が引っかかっていた
一人きりになった今が好機――ベルは迷わず、気配の発信源へと足を向けた