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605話 秘密の作戦とおねだり

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605話 秘密の作戦とおねだり

聖女が出発した次の日、ベルはカナエとナギと共に街へ出る準備をしていた

「ナギくん、接触があるとしたら今日。だからあえて一人にして動いてもらう」

「いいけど……僕はどうしたらいいの?」

「特に何もしなくていいよ。ただ、合図だけちょうだい」

「合図?」

「うん。もしナギくんに依頼を出していた人なら――右の頬をかく。違うなら左の頬をかく」

「……それだけで?」

「うん。ナギくんは普段通りに振る舞って、そのあと俺とカナエちゃんで依頼人を押さえる。もし襲われそうになったら、すぐに拘束するから安心して」

「なるほど……わかった」

「ただ、この作戦はカナエちゃんには内緒でね。あの子の性格なら、知った瞬間に突っ込んでいきそうだから」

「……あぁ、確かに」

「色々言ったけど、まぁ、臨機応変に動いてくれればいいよ」

「うん」

そうこう話していると――

「おまたせ! さ、行こ!」

扉を勢いよく開けてカナエが入ってきた

「はいはい……その前に最後、一応だけ確認ね。出にくいとかそういうのはない?」

「あ、うん。小さい方も大きい方も、ちゃんとできるよ」

「そっか。なら大丈夫。これで排泄に関してはもう心配なしだね。観察はここで終了。今後は、もし違和感あったら教えてくれればいいよ」

「うん!」

ベルは小さく頷き、胸の内で安堵する。順調に“普通の体”として適応が進んでいる――そう確信できた

そして、元気いっぱいのカナエに手を引かれるようにして、城下町へと出てきた

「今日はどこ行く?」

「はい、地図ね!」

ベルから受け取ったドルナード帝都の地図を、カナエは嬉しそうに広げた

「全部で8区画に分けて探索したから、残りは5番、6番、7番、8番だね……ナギ、どこ行きたい?」

「カナエの好きなところでいいよ」

「じゃあ、5番行こっか!」

カナエは地図の真ん中をトンと指で押さえ、そこから外へ弧を描くようになぞった。

ドルナード帝都は円形の街で、外側と内側に二重に区分けされている。外側を四等分した左上から順に1〜4番、同じように内側を左上から順に5〜8番と割り振られていた

「おっけー、5番ならあっちだね」

「うん、あっちね! じゃあ行こう!!」

ベルが軽く地図を覗き込み、迷いなく方向を示すと、カナエはナギの手を引いて元気よく走り出した

人混みを抜けて進んでいくと、やがて通りの雰囲気が一変する。

軒を連ねる屋台からは香ばしい匂いが漂い、賑やかな呼び声が飛び交っていた

「わぁ、ここはお店がいっぱい!」

カナエの目線の先には、色とりどりの品が並ぶ屋台と、活気にあふれた人々の波が広がっていた

「ここは商業区、こんな感じで色んなお店が並ぶ場所だよ」

「……ベルお兄ちゃん、お金ちょうだい?」

カナエは最大限可愛く振る舞い、ベルにそうお願いをした

「ほ、ほらナギも!」

「えー、僕も?」

不意に巻き込まれたナギは眉をひそめるが、カナエはおかまいなし。彼の肩に腕を回すと、ベルに背を向けて秘密の作戦会議を始めた

「これだけお店があるなら、絶対美味しいものとかあるでしょ?」

「うん」

「でも私たち、お金そんなに持ってないし」

「カナエが無駄遣いするから確かにそうだけど……」

「だから、可愛くお願いしたら沢山くれるかもしれない」

「怒られない?」

「大丈夫大丈夫! ベルドさんは可愛かったら何でもしてくれるから」

ベルは少し離れたところで、ひそひそ話をしている2人を穏やかに見ていた

「ほんとに?」

「ナギもお城で見てたでしょ? みんなが可愛くお願いしたら、なんでもやってくれてたから」

「……わかったよ」

「じゃあ一緒にお願いしよ!」

作戦を終えた2人は勢いよく立ち上がり、ベルの前に並んだ

「ベルお兄ちゃん、お金ちょうだい?」

「ベルお兄さん、お金をください」

そろって手を合わせ、上目遣いで首をかしげる

その姿にベルは若干の苦笑いを浮かべ

「そんなのどこで覚えた」

「お城」

その返答に、ベルは優しく微笑み――

「はい、とりあえずこれだけね」

そう言って、2人に金貨を1枚ずつ手渡した。

この世界では、金貨1枚がおよそ日本円で1万円ほどの価値に相当する

「やったね!」

「ありがとう!」

2人は顔を見合わせ、嬉しそうに笑い合った。

その様子に、ベルも小さく微笑んだ

「ここなら物価も安いし、それだけあればちょっと贅沢できるはず。好きなように使って」

「わかった! ナギ、行こ!」

「うん!」

そう言ってカナエはナギの手を引き、屋台の並ぶ中へと飛び込んで行った